機動戦士ガンダムSEED ZIPANGU   作:後藤陸将

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PHASE-30 種子島奇襲

 C.E.71 6月12日 大日本帝国 鹿児島県 種子島沖合い

 

 ボズゴロフ級潜水艦ラッセンとレーニアから次々とMSが発進していく。イージス、バスター、デュエル、ブリッツ、そしてジンアサルトが8機だ。彼らはグゥルに乗って一路種子島のマスドライバー『息吹』を目指していく。

 

「アスラン!!いいな、お前は戦闘部隊に復帰したとはいえ、緑だ。お前は命令に従ってもらうぞ!!」

イザークの言葉を聞いたアスランは一言で返す。

「ああ」

「ああ、とはなんだ貴様!!」

感情の起伏も見せないアスランに腹がたったのかイザークが更に突っかかる。だが、それをハイネが諫めた。

「はいはい、もうそのへんでいいだろ?イザーク。いざとなればアラスカの時みたいにアスランに拾ってもらうことになるかもしれないんだからな。あんまり険悪にしてると拾ってもらえないぞ」

 

 オペレーション・スピットブレイクの際、ハイネたちはアークエンジェルの追撃任務についていた。しかし、結果は惨敗。何故かアークエンジェルを援護した日本のMSとストライクに撃墜され、彼らは全員海中に送りにされた。

救難信号を受信した哨戒部隊のアスラン達チャペック隊が迅速に救助し母艦まで搬送してくれなければ彼らはアラスカの地でホカホカに加熱されて死んでいたであろう。尤も、イザークはこれをアスランに助けられたとは断じて認めず、早期警戒仕様ディンにアンカーを設置するように立案した者に命を救われたのだと言い張っていた。

因みにこのアンカー、銛のような先端に特殊鋼でできたワイヤーがついた代物で、水中で行動不能となったMSの回収を迅速に行う手段としてスピットブレイクから試験導入されていた。そして、このアイデアを出したのがオーブ沖で水中に落下したG兵器の回収で手をやいた経験を持つアスランの上官、チャペックが提案したものだということをイザークは知らない。

自分達の失態から生まれたアイデアが自分達の失態をカバーしたことを知ったら気が短い彼は憤死してしまいそうだが。

 

「元隊員が戻ってきて嬉しいのは分かるが、おしゃべりはそのへんにしておきたまえよ、諸君」

仮面を被っていつも素顔を、その感情をかくしている男、ラウ・ル・クルーゼが隊員達を戒める。

「我々が強襲するのは日本の宇宙への玄関口だ。当然、先方もそれなりの対策を施しているはずだろう。そして、我々の任務は派手に暴れることにある」

「……となれば当然、相手にするMSの数も増えますね」

ハイネがニヤつきながら言った。

「今度こそ、やつらに雪辱をはらしますよ」

表情と裏腹に操縦桿を握る拳には強い力がかかっている。彼らはこれまで幾度も日本のせいで痛い目にあってきたこともあって士気は高い。

アスランは日本軍の軍艦を誤射したことで緑服に降格のうえでカーペンタリアに異動させられた。イザークとハイネはアラスカで日本のMSによってあっという間に無力化されて海に落された。その妨害のせいで足つきの撃沈にも失敗している。

彼らからすればこの闘いは雪辱戦。負けることはザフトのエリートの名をさらに汚すことになりかねない。

「君達は伊達に赤服を着てはいないはずだ。健闘を期待しよう……さて、来たぞ!!」

クルーゼの声で各MSは散開する。レーダーに反応がある。機影をライブラリで検索するまでもなく、彼らはそのMSの正体を知っている。大日本帝国の主力MS、撃震。その性能はシグーを凌駕するものと推測されている。それが4機、一個小隊の反応がある。

こちらの戦力は連合のGシリーズ4機、クルーゼとアスランの駆るYFX-600R火器運用試験型ゲイツ改2機、そしてクルーゼの部下の緑服が駆るYFX-200シグーディープアームズ2機だ。本来であればボスゴロフ級3隻で任務にあたる予定であったのだが、作戦期日までに日本の領海に侵入できたのはラッセンとレーニアの二隻だけであった。

だが、この作戦の成否は戦局を大きく変えるということを通知されていた彼らに撤退の2文字は無い。彼らはブースターを噴かして目の前の島に接近していく。撃震との距離が狭まると、バスターが散弾を発射した。これが戦闘を告げるゴングだった。

 

 

「いったいどういうことですか!?」

管制センターに急行した武達は『息吹』管制塔で係員に詰め寄っていた。

「ザフトによる強襲です!!MSがこちらに向かっているんですよ!!」

その事実に武達は驚きを隠せない。

「そんな!?日本とプラントは交戦状態にはない筈では!?」

マリューも驚愕する。

「しかし、来ているのです!!恐らく目標はこの『息吹』です!」

「……こちらの防衛戦力は!?」

武は頭を即座に切り替え、こちらの戦力についての情報を求めた。

「種子島に配備されているのはレーダーサイトとそれに連動した固定砲台、テロに備えた陸軍の歩兵、最終防衛線として配備している撃震1個小隊だけです。ですが、すでに空軍が新田原より戦闘機1個中隊をスクランブル発進させています」

足りない。武はそう直感していた。敵MS部隊についてのデータを見ると、連合から奪取されたG兵器もある。これだけの戦力に撃震1個小隊と空軍の邀撃戦闘機だけでは対処しきれないだろう。こちらにも敵に対抗しうるだけの性能を持ったMSが必要だ。

出撃した撃震1個小隊も交戦を開始したようだが、既に1機がシグナルロストしている。それに撃震では長時間の空中戦は不可能だ。このままではこの島はザフトにやられる。崩れ落ちるマスドライバーが脳裏に浮かぶ。その時、ラミアス大尉が声をあげた。

「白銀少尉!!MSならばあります!!」

「何処に!?この島に配備されているMSなんて無い……あっ」

その時、武は思い出した。この島から宇宙に届けられる物資の一つを。ラミアス大尉が宇宙に行く理由の一つもこいつにあった。

「『あれ』は今何処に!?」

「貨物の中にあるはずです!急ぎましょう!」

ラミアス大尉がそういい残して管制塔から駆け出した。武もそれに続いて管制塔を後にした。

 

 

 武は息を切らしながら軍用貨物倉庫に辿りつき、お目当ての荷物の入ったコンテナに駆け寄った。近くにいた作業員にコンテナを開けさせたころにマリュー達が到着する。

武はそれを横目に目の前に佇む灰色の巨人を見上げた。

「頼むぜ……ストライク……」

目の前に佇む灰色の巨人の名はGAT-X105ストライク。ザフトによるヘリオポリス襲撃時に唯一奪取を免れた試作MSである。この機体はラウ・ル・クルーゼ、アンドリュー・バルトフェルド、マルコ・モラシムというザフトの名将を退け続けた。

安土に運び込みストライカーパックの運用を含めた性能比較試験が行うためにこの種子島に送られていたのだ。

武はストライクのパイロットに潜り込み、OSを起動させる。どうやらバッテリーも十分残っているようだ。その時、マリューがコックピットに入ってきた。

「ラミアス大尉!?」

武は素っ頓狂な声をあげるが、マリューは気にもせずにコックピットに備え付けられたコンピューターを操作する。何かのデータを引っ張り出したようだが、その表情は強張っていた。

「白銀少尉……このMSのOSはヤマト少尉が使っていた時と同じ仕様のままです……」

マリューが告げた事実に武の表情も強張る。

このOSはキラが使い続けたOS……つまりはコーディネーター用のOS、しかもキラという特殊なレベルのコーディネーターの癖が入ったものである。メカニックとしてそのOSを検分したころもあるマリューはそのOSの扱いづらさを知っている。だが、ここで日本軍謹製OSをインストールする時間も(そもそも現物がないのだが)キラのようOSを再構築する化け物じみたスペックもマリューには無い。

一方で考えている暇もないのも事実だ。マリューは遠慮がちに続ける。

「白銀少尉は……コーディネーター用のOSの使用経験は……」

「……一度だけ、シミュレーターで、お遊びレベルで触れたことがあるぐらいです」

武ほどの腕前を持つパイロットであればコーディネーター用のOSに触れる機会もあったかもしれない……その時に操作方法を習得している可能性もある。マリューは一縷の希望を求めて武に尋ねたが、答えは絶望的なもの。

彼女は焦った。このままではストライクを出すことはできない。だが、武は諦めかけているマリューの肩に手を置き、彼女に顔を向けながら口を開いた。

「やってみますよ……やれるだけ。これでもMS撃墜スコアは日本一のパイロットなんです。自分にも、その矜持があります」

今まで戦場で見せていた凛々しい軍人の表情でも、キラにアドバイスした時のような穏やかな私人としての表情でもない。自分の意思を貫こうとする雄雄しい漢の眼に至近距離で見つめられたマリューは顔を赤らめた。

「大尉。最低限の調整だけ付き合って下さい。終わり次第出ます」

「了解しました!!」

 

 狭いコックピットで密着しながら作業していることを意識してしまい、マリューの顔は茹蛸のように赤くなっていたが、その手は休まない。数分でセッティングを終え、彼女はコックピットを後にする。そして武はコックピットを閉鎖し、OSを起動させる。

「うし……OS起動!……ってなんだこのふざけた仕様は!?」

文句を言っても仕方が無い。武は四苦八苦しながらストライクを操作する。そこにマリューからの通信が入る。

「少尉!!エールストライカーが隣のコンテナにあります!それを使用して下さい。機動戦に最適の装備です!!」

「了解……っと!?」

やはりOSに難があるために動きはぎこちない。だが、武はなんとか装備を付け、倉庫から抜け出す。

「やってやるよ……白銀武!ストライク、いくぜぇ!」

アークエンジェルクルーが見守る中、ザフトの仇敵となった機体を駆って最強のパイロットが戦場へと飛翔していった。


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