眼前に現れた撃震1個小隊に対して彼らは一斉射撃を開始した。咄嗟に4機の撃震は散開するが、アスラン達は最初の打ち合わせ通りに最も近い位置にいる1機に目標を集中させる。綿密な火箭に絡み取られて1機の撃震が火球となった。
残った3機の撃震のパイロットはこの短時間で1機が撃墜されたことに動揺したのか、距離をとって射撃を開始した。だが、それは下策だった。撃震よりも長射程を誇るバスターが対装甲散弾砲を発射し、直撃を受けた2機が爆散する。残った1機は恐怖に駆られたのだろうか、ビームサーベルを展開して急加速してアスランの試作ゲイツに斬りかかった。
アスランはそれに合わせてクスィフィアス・レール砲を放ち、撃震のコックピットユニットに大穴を穿った。
撃震4機を打破するのにかかった時間は1分。ザフトMS部隊は速度を落すことなく種子島へと飛行していく。
目の前に見える島はとても平坦であるとアスランは感じていた。見たところその島には山は存在しないらしく、まるでギガフロートのようだ。
その時、機体の警報装置が鳴り響いた。同時にライブラリーが該当機体を示す。
「ストライク!?」
アスランは目を見開いた。目の前の機体は自分達がヘリオポリスで奪取しそこね、ザフトの同胞を多数葬り、幾度も自分達に土をつけてきた機体――ストライクだった。
何故ストライクが日本軍の領土に存在するのか、パイロットはキラであろうか。様々な疑問が彼の中に生起する。しかし、彼は頭を振って自分の意識を切り替えた。例え敵のMSがなんであろうとも、そのパイロットが誰であろうとも自分の役割は変わらない。
「出てきたなぁ、ストライク!!今日こそ貴様を討つ!!」
「待て!あいつの相手は俺がする」
威勢よく飛び掛ろうとしたイザークをアスランが止める。
「邪魔をするな!!一般兵は引っ込んでいろ!!」
「作戦を忘れたのか?敵防衛部隊の相手をするのは俺達だと決まっているはずだ」
イザークは怨敵の姿を前にして冷静さを保てていない。そう判断したアスランは今作戦の指揮官であるクルーゼに通信を繋いだ。
「クルーゼ隊長。イザーク・ジュールはまともな判断ができない精神状態にあります。このまま彼の暴走が作戦目的の遂行に支障をきたす事も考えられます。故に、彼を母艦に下がらせることを提案します」
アスランの提案を聞いたイザークは憤った。
「ふざけるなよアスラン!!俺はあいつを切り捨てた上で作戦を遂行」
「そこまでにしたまえ」
イザークが最後まで言い切る前にクルーゼが口を開いた。
「イザーク、今回の君に与えられた役目は敵施設の破壊だ。敵の防衛戦力の相手はアスラン達がすると話は済んでいる。これ以上君が作戦を乱す行動を取るのであれば、君を下がらせる必要が出てくる。頭を冷やしたまえ」
流石にクルーゼに言われてはイザークも反論できない。その顔面は紅潮していたが、彼は喉元までこみ上げた言葉を飲み込み、機首を変えた。
「アスラン、君も、あまりチームの和を乱すような口調をすることは控えたまえ。それも、作戦に支障をきたす要因となりうるからな」
「……了解しました」
アスランは通信を切り、僚機と共にストライクのほうに機体を向けた。
アスランは試験型ゲイツ改にP.S装甲を展開させる。この機体はバッテリー駆動の上、P.S装甲実装機のテスト機であったために元々P.S装甲の燃費が非常に悪い機体だ。故に、P.S装甲を展開していられる時間は5分。バックパックに内蔵している予備バッテリーを合わせても10分という駄作機だ。
今回はグウルにも予備バッテリーを搭載することで戦闘時間は5分延長することが可能となってはいるが、レール砲やビーム砲を多用すればあっというまにバッテリーが尽きることも事実である。実働時間は10分を切る可能性が高い。
その限界活動時間のために今回のアスランの任務はマスドライバー防衛部隊の無力化となっていた。
アスランはフットバーを蹴ってストライクに突進した。
一方、武は焦っていた。敵機の技量は高いうえにこちらの手勢は自分ひとりだ。管制からの報告によれば新田原の空軍部隊が到着するまでには後5分はかかかるとのことだ。
自分の役割はこの300秒の間マスドライバーを死守すること、つまりこのMS部隊を足止めすることだが、流石に1対8となると厳しいものがある。
だが、ここでやつらを素通りさせるということは基地にいる人々の命を危険にさらすことと同意義だ。しかも、マスドライバーの陥落を許せば2億を超える皇国の臣民の命を脅かしかねない。
武は覚悟を決め、前方の敵機と対峙した。敵機をできるだけ多く足止めしなくてはいけないことは理解しているが、それが可能な状況だと判断できなかったためだ。敵機は大型のバックパックを背負ったシグーの面影を残す未知の新鋭機アンノウン。腰部とバックパックに設置された砲身を見る限り、遠距離型のMSだろう。エレメントを組んでいる青い機体も武装からして遠距離型だろう。
敵機が火力に重きを置く機体であれば、こちらにも打つ手がある。常に敵機から離れない超近接戦闘を強いればいい。あれほどの火力を有する機体だ。1機と超近接戦闘になれば僚機は援護射撃を戸惑うはずだ。フレンドリーファイアで敵機と調子近距離にいる味方に損傷を与えかねないためである。
ストライクがビームサーベルを構えたとき、敵機の色が変化した。灰色の装甲は鮮やかな山吹色に変化していく。
灰色の装甲から武も敵機はP.S装甲を採用したMSであると予想していたため、驚かない。だが、この後、敵機の行動に武は驚愕した。敵機の内の一機がは凄まじいスピードでストライクに接近してきたのである。ビームサーベルを展開した敵機に合わせて武もビームサーベルを振りかぶってこれを迎えうった。
「接近戦だと!?わざわざ有利になる距離を捨てたのか!?」
しかも敵の接近戦における技量はかなり高い。その連撃は正確且つ滑らかである。武は苦戦を余儀なくされていた。
「サイクル65、セット477」
「了解。発射準備、完了しました」
種子島の沿岸部に68式高射機関砲が展開される。管制塔からの操作で各機関砲はその砲身を接近しつつある敵MS部隊に向ける。
「撃てー!!」
多数の砲口が一斉に火を噴き、まるでスコールのような激しい銃撃がザフトMS部隊を襲う。だが、クルーゼ隊の猛者はその砲火に怯むことなく突っ込んでいく。そして管制室にいた指揮官は目を見開いた。バックパックを背負ったMSは銃弾のスコールを潜り抜けながら機関砲を狙撃してみせたのである。そして腰部の砲身から放たれた弾丸が機関砲を狙い撃ったのだ。
機関砲は次々と沈黙していく。そしてそれを尻目に後続機がマスドライバーに近づいていく光景を見て指揮官はマスドライバーが破壊されることを覚悟した。
その時管制室にいたレーダー管制官が歓喜の声をあげた。
「レーダーに感あり!北西より、味方機!!新田原の空軍機です!!」
「なんだ、随分と穴だらけの防衛線じゃないの」
ディアッカは嘲笑うかのように言った。実際、日本の抵抗は想定していたよりもあっけないものであった。だが、彼の余裕は突然機体が発した警報音によってどこかに吹き飛ばされた。
「敵機!?上か!!」
ディアッカはバスターのメインカメラを上方に向ける。モニターにうつる太陽には4つの黒点があった。
「MS……じゃない!?MAか!!」
ディアッカが敵機がMSでないと気づいたのとほぼ同時だった。太陽を背にして接近した戦闘機の機首から火箭が延び、バスターのグゥルを掠める。4機の戦闘機は速度を落さずにバスターの前を通り過ぎていく。
「くそったれ!!」
バスターがお返しとばかりにミサイルを発射するも、敵機は軽快な動きでミサイルを回避し、再び攻撃をしかける。バスターの危機に気がついた僚機のGが、牽制のためにビームライフルを放ち援護するが、4機の戦闘機は楽々と回避する。
尋常な敵では無い。クルーゼはそれを確信し、回線を開いた。
「ニコル、ハイネ、シホ。君たちと私であのMAを落す。イザーク、ディアッカはマスドライバーだ。時間が惜しい。急ぐぞ」
彼らは二手に分かれ、それぞれの目標に向かっていく。
「ファルコン1よりファルコンズ。敵さんは二手に分かれたようだ。まず、こっちに向かってくるほうを叩く。だが、撃墜を焦るな。マスドライバーに向かったやつらは後続のライトニング小隊が相手をする。我々の任務はやつらをここに釘付けにすることだ」
大日本帝国空軍第5航空団第204飛行隊ファルコン小隊隊長、米田達彦少佐は部下達に作戦目標を告げる。彼らは皆ベテランのパイロットだ。作戦の目標を理解すると即時行動に移す。エレメント単位で分かれ、決して各個で敵機と相対しないように上手く立ち回る。
米田もエレメントを組む林幸市中尉と共にバックパックを背負った機体に機首を向けた。ここの機体が最も脅威であると判断した米田はフリーハンドを与えることはできなかった。
「林、ポイント106に誘い込む。合わせろ」
「了解!!」
「さて……新人類さん、俺達戦闘機乗りのロートルに付き合ってもらおうか!!」
米田はほくそ笑んだ。