機動戦士ガンダムSEED ZIPANGU   作:後藤陸将

53 / 87
PHASE-40 ギガフロート奪還作戦

 C.E.71 7月23日 太平洋

 

 

 11日にジャンク屋連合に送ったギガフロートの明け渡し勧告の期限は今日までとなっていた。しかしジャンク屋連合はこの施設は自分達のもので、戦争に明け暮れる連合に使わせる気は一切ないとして勧告を突っぱねた。

 これを受けて大西洋連邦と大日本帝国はマスドライバーの奪還作戦を発動した。事前に送った勧告には拒否する場合は3個艦隊を持って鎮圧する旨を書いていたため、絶望的な戦力差を知っている傭兵たちはジャンク屋連合の依頼にしり込みした。だが、懇意にしていることも事実であるために少数の傭兵が派遣されていた。

 

 

 

「大西洋連邦MS揚陸隊、所定の配置につきました」

「大日本帝国海軍第4航空群第403飛行隊所属P―70が目標地点の光学映像を入手、各艦にリンクします」

「第一次攻撃開始まで後200秒」

 今作戦における旗艦、タラワ級MS強襲揚陸艦パウエルのCICに次々と侵攻の準備が完了したとの知らせが届いていた。

「本当ならばミサイルを雨霰と撃って敵戦力を殲滅してから強襲するのが我が軍のやり方なのだがなぁ……」

 パウエル艦長であるダーレスのボヤキに今作戦の指揮をとるジョン・ポート少将が苦笑する。

「まぁ、そう言うな艦長。今回の任務は無傷で匪賊どもの手からマスドライバーを奪還することにある。いつもの我が軍のやり方では揚陸地点を確保する前に揚陸地点が沈んでしまうぞ」

「それは、まぁ、そうですが……正直、それで揚陸時に犠牲が増えることが気になってしまいます」

「大丈夫だ。なんせ、今回の作戦には日本軍の新型揚陸用MSが投入されると聞いている。我々の仕事は彼らが確保した橋頭堡にMS隊を送り出してマスドライバーを制圧することだけだ。大した犠牲は出ないだろうよ。安心したまえ」

 ポートのあっけらかんとした様子にダーレスは苦笑した。

 

 

 

「急げ!!見つかったぞ!!敵は海中から接近している!!」

「グーンかゾノを準備しろ!時間が無いぞ!!」

「非戦闘員は救命艇に急げ!!宇宙に上げる!!」

 

「畜生、連合め……この施設は戦争のために作ったわけじゃねぇんだぞ!!」

 ジャンク屋連合が実効支配しているギガフロートに緊急事態を知らせるサイレンが鳴り響いている。これは先ほど大日本帝国の偵察機にギガフロートを発見され、その位置が露見してしまったためである。こうなれば大日本帝国の部隊が侵攻してくるのは時間の問題だ。いや、大西洋連邦やユーラシア連邦の部隊もすぐに駆けつけるだろう。

 だが、このままギガフロートを明け渡す気はさらさらない。戦争に勝つために強引に自分達のものを奪おうとする大国に対してロウは嫌悪感を顕にする。マスドライバーを戦争の道具としか見ない大国の思想と自分の考え方は絶対に合わないとロウは考えていたのである。

 そして彼は愛機であるMBF―P02アストレイレッドフレームに乗り込んだ。

 

『ロウ、敵MSが海中から接近中だぞ』

「分かってる!!スーパーキャビテーティング魚雷を装備してやつらを追い返してやる!!こいつを奪われてたまるかよ!!」

 8からの警告を受けたロウは魚雷を海面に投射する。周囲のワークスジンも次々と魚雷を投射し、海面にいくつもの水飛沫があがった。数秒後、海面に一際大きな水柱が立て続けにあがった。

「どんなもんだ!!」

 ロウはコックピットの中でガッツポーズをした。通信機からも喝采の声が聞こえてくる。だが、その喝采はまだ早かった。

『敵機接近中』

 擬似人格コンピュータの8がアラームを鳴らしてロウに警告する。その直後、ジャンク屋のMS隊には海面から銃弾のシャワーが浴びせられた。被弾したワークスジンは次々と行動不能に陥る。作業用のMSであるワークスジンはフレームこそオリジナルのジンと同一であるが、戦闘用ではなく作業用MSという前提だったために装甲はより廉価なものに換装されていた。オリジナルの装甲であれば如何に36mm弾といえど一斉射で大破するということはないのだが、軽量化とコストダウンが裏目に出たかたちとなる。

 そしてロウの駆るレッドフレームもこの攻撃で各部を損傷した。レッドフレームの装甲に使われている発砲金属はワークスジンの装甲ほどの脆さではないが、大した防御力を持つ素材ではない。結果、脚部の関節が動かない状態となってしまっていた。

 

 

「スティングレイ1よりHQ――上陸地点を確保。繰り返す、上陸地点を確保」

「HQ了解――スティングレイ隊はその場に留まり、機甲師団の上陸を援護せよ」

「スティングレイ1了解――スティングレイ隊各機、聞いたな。この場を守り抜くぞ」

 スティングレイ1――矢沢征二大尉はコックピットで淡々とHQと交信していた。正直、彼としては拍子抜けする戦いであった。最初から死肉を漁る禿鷹のような連中にそれほどの戦力を期待していたわけではなかったが、ここまで抵抗が緩いとは考えていなかったのである。

 本来ならば、自分達強襲部隊は味方の航空攻撃で消耗させられた敵戦力に切り込んで橋頭堡を確保することがセオリーのはずだ。だが、マスドライバーとそれを支える人工島(ギガフロート)は通常の島に比べれば遥かに脆いため、派手な攻撃をすれば崩壊の恐れがある。そのために強襲部隊が援護無しで敵戦力を排除する任務を課せられたのである。

 味方の支援無しで強襲する任務にこの機体以上に適任の機体は無いと断言できるが、正直なところこの機体まで引っ張ってくる必要などなかったのではないかと彼は考える。

 この機体――六式戦術空間攻撃機『海神』の誇る六連装36mmチェーンガンによる制圧射撃を受けた上陸地点の敵戦力は既に壊滅状態にある。考えてみれば元々が作業用MSに戦闘用装備を持たせただけである以上、強襲時の36mm弾の雨に耐えられるはずもない。内陸部からもジンを改造したと思われるモビルスーツがゾロゾロと出てくるが、それも36mm砲で一掃できる相手であった。

 その時、配下の海神の一機がビームを右脚に被弾して各坐した。それを見た矢沢はすぐさまレーダーでビームの射手を探す。敵はすぐに見つかった。ビームライフルを装備し、各部の形状が微妙にオリジナルとは異なった意匠を持つジンだ。おそらくはジャンク屋の手で改造された機体だろう。陣形を組んでビームの網を張るジンに鈍重な海神では近づけない。

 その時、レーダーがこちらに接近しつつある味方機のシグナルを捉えた。だが、モニターに表示された機体の名前は見慣れないものだった。

「XFJ―Type2……白鷺だと!?」

「こちらセイヴァー01、援護します!!」

 白鷺のパイロットの姿がモニターに映る。その姿はかなり若い。見たところ学生ぐらいだろうか。

 

 そんなことを考えているうちに白鷺は神業的な動きでジンの放つ緑の閃光を回避して肉薄する。そして両腕にビームサーベルを展開してジンを次々と屠っていく。その技術は凄まじいものであった。敵部隊の掃討をあっという間に完了させた白鷺はそのまま内陸部へと侵攻した。

 矢沢はしばし呆然としていたが、頭を振ると未だに呆然としている僚機に通信を繋いだ。

「野郎共!!まだ仕事は残ってるんだぞ!!呆然とすんな!!」

 その言葉で海神のパイロット達は我に帰り、索敵を続けた。

 海からもグーンやゾノが押し寄せるが、海中に待機していた海神が応戦して次々と敵MSを血祭りにあげていく。まさに蹂躙だ。そして矢沢は自機のレーダーサイトに映る機影を見てほくそ笑んだ。

「大西洋連邦御自慢の海兵隊のご登場か……生憎だがあんたらの獲物は殆ど残ってないぜ。障害は取り除いたんだ。あんたらは無傷でマスドライバーを確保してくれよ」

 

 

『脚部ダメージレベル大。関節がやられた』

 8から告げられた損傷レベルにロウは表情を険しくする。

「クソ!!ヤバイな……でも」

『ロウ!!逃げて!!』

 再度敵MSに攻撃を敢行しようとしたとき、樹里からの通信が届いた。

『レーダーが連合の艦隊から発艦したMSの大部隊を捉えたの!!後10分でこっちに来るんだよ!!早くマスドライバーまで来て!!』

 モニターに目を移すと、メインカメラが最大望遠で捉えた敵編隊の映像が映し出された。

『敵はGAT―01 STRIKEDAGGER 数は72』

「レッドフレームは足をやられて戦えねぇ……悔しいが、ここは引くしかねぇな」

 ロウはフットバーを蹴り、フライトユニットの最大速力でマスドライバーへと飛び立つ。それを察知したのか海神は36mm砲でレッドフレームを執拗に狙う。しかしロウはフライトユニットの燃料タンクをパージし、それを起爆させることで一時的に海神の視界を封じた。その間にレッドフレームは低空飛行で上手く建造物の合間を縫って戦場を離脱した。

 

 

「ナイヴズ1よりヘッドクォーター、マスドライバーの管制施設を占拠した。繰り返す、マスドライバーの管制施設を制御した」

 この知らせが旗艦パウエルに飛び込んできた時にはスティングレイ隊の上陸から未だに50分も経ってはいなかった。

「勝ちましたな。まぁ、元々消化試合のようなものでしたが」

 ダーレスは別に感慨も湧かないらしい。実際、CICの中でも歓喜が爆発したというような雰囲気はなかった。しいて例えるなら、業務終わりに互いの苦労を労っているような空気だ。これまでの間に死者が一人も出ていないし、大破したMSの報告も両手で数えられるほどであるため、楽勝であったと感じているのだろう。

「気を抜くんじゃない!!」

 そんな様子のCICでポートが一喝した。

「貴様ら、これまで我々連合軍がどれほどの出血をザフト相手に強いられてきたのか分かっているのか!?いいか、成功したときこそ謙虚になって今回のことについて検討しろ!いずれ足をすくわれかねんぞ!!」

 その言葉にCICには緊張感が戻った。ダーレスはポートの隣にいたために耳を押さえている。ポートは周りを見渡し、溜息をつくと司令席に着席した。

 

 こうして大西洋連邦と大日本帝国の合同作戦によりギガフロートはジャンク屋の手から取り戻された。早期に敵戦力を無力化することに成功したために危惧していたマスドライバーの損傷は無く、数日後にはマスドライバーを使用して連合は宇宙へと戦力を矢継ぎ早に送ることが可能になったのである。

 

 

 

「畜生……ギガフロートを奪われてしまったぜ……」

 マスドライバーを利用して宇宙へと逃げたロウはシャトルの窓から地球を見て唇を噛みしめていた。

「そうね……これで連合は宇宙に戦力を集めることが可能になったわ。そして今回の一件で連合から狙われたギルドは暫く地球での行動を停止するそうよ」

 プロフェッサーは腕を組みながら言った。

「ロウ、とりあえずはリーアムに任せておいた新しい母船を引き取りに行きましょう。まだ宇宙では私達が活動できる場が残されているしね」

「そうだな……でも、平和のために俺達が汗水垂らして作り上げたマスドライバーが戦争のために使われるってのはどうしても俺は納得できねぇし、いつかはまた地球ではたらきてぇなぁ」

 彼らを乗せたシャトルは一路デブリベルトへと舵を取る。だが、彼らはジャンク屋に押し寄せる時代の波の存在に未だ気づいてはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

形式番号 TSA-Type6A

正式名称 六式戦術空間攻撃機『海神』

配備年数 C.E.71

設計   三友重工業

機体全高 25.0m(可変)

使用武装 AIDS発射ユニット

     魚雷発射ユニット

     71式高周波振動短刀

     フォノンメーザー砲

     36mmチェーンガン

 

備考:Muv-Luvシリーズに登場する81式戦術歩行攻撃機『海神』そのもの。

 

大日本帝国海軍が運用する水陸両用MS。ザフトの水中用MSの存在を受けて海軍はこれらに対抗するためのMSの開発を開始した。しかし、開発開始時は日本の対潜哨戒網への自信から、上層部は「水中用MSなど開発せずとも対潜ミサイルでことが足りる」「ザフトの水中用MSの行動半径など知れている。その行動半径に我が国の領海が入る前に母艦を沈めることこそが最優先である」などと言った意見が多々あり、当時宇宙用、地上用のMSの開発にも多額の予算がかけられていたこともあり、この計画は歓迎されなかった。

そこで海軍は揚陸作戦において上陸地点を強襲し、橋頭堡を確保するという役割を兼ねた水陸両用MSの開発というコンセプトの元で再度開発計画を練り直した。

海中からの強襲揚陸を可能とするこのコンセプトは上層部の関心を引き、渋る大蔵省に対して海軍の幹部が粘りづよい交渉を続ける原動力となった。

目標地点までは海中をテールユニットを接続して移動する。これにより長距離の移動が可能となった。尚、海中で対潜魚雷による攻撃を受けた際にはこのテールユニットをデコイとして切り離すことが可能。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。