機動戦士ガンダムSEED ZIPANGU   作:後藤陸将

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一度はお気に入り数1700までいって、UAも200000超えていたのに……今度からは寝ぼけ眼の操作だけはやらないようにします。



PHASE-44 出港

 C.E.71 9月17日 L4 大日本帝国領 名古屋

 

 名古屋の湾港部に向けて歩く一組の男女の姿があった。男は大日本帝国宇宙軍の第一種礼装を着込み、女は美しい着物を着込んでいた。その容姿もあって二人の男女は多くの視線に曝されているが、彼らは気にした様子も見せない。

男の名は『銀の侍』の二つ名を持つ日本人最多の撃墜数(スコア)を誇る撃墜王、白銀武中尉。女の名は名門華族煌武院家の長女で大日本帝国貴族院議員、煌武院悠陽。

やがて二人は湾港の出港ゲートの前にたどり着く。ここから武が向かうのは軍港コロニーである安土だ。観艦式等の特別なイベントが無い限りは一般人の立ち入りは許されない。貴族院議員である悠陽であっても例外ではない。故に、見送りはここまでとなる。

 

 互いに見つめあうが、二人の間には言葉は無い。1分ほど時が進んだであろうか、武が口を開いた。

「じゃあ、行ってきます」

武はこれから皇国の未来をかけた激戦になるであろう戦場に向かう悲壮を全く感じさせない穏やかな口調で婚約者に出発を告げる。

「いってらっしゃいませ」

悠陽もまるで太陽のような暖かな微笑を浮かべて婚約者を送り出そうとする。彼女も武の向かう戦場が如何なるものか知っているが、武の真意を知ればこそ笑顔で送り出そうと決めたのである。

武が悠陽に背を向け、出港ゲートをくぐろうとする。

その背中を唇を噛みしめながら見送ろうとする悠陽であったが、我慢できずに駆け出し、武の背中に抱きついた。

「ゆっ悠陽!?」

困惑する武。自分の知る彼女はこの期に及んで婚約者を引きとめようとする女性ではないことを知っている武は困惑した。そして混乱している武の耳に背中から悠陽の声が届く。

「絶対に帰ってきてください……私を一人にすることも、我が子をその腕に抱くことも無く九段に行くことなど許しませんよ。『お父さん』」

その言葉に武は耳を疑い、後ろに振り返る。

「お……お父さん?ってことは」

驚いて目を丸くする武に対し、悠陽は悪戯が成功した少女のように笑い、自身の手を腹部にあてた。

「昨日検査薬を使いまして、陽性が出ました。病院でも診断を受けておりますわ」

「昨日言ってくれればよかったのに」

「……サプライズにしたかったのです。その方がおもしろいでしょう」

武は頭をかく。悠陽にこのような形で妊娠の告白をされたのも驚きだが、自身が父親になるという事実に困惑していた部分も大きかった。

 

「死ねないな。何が何でも」

「ええ、私を未婚の母にすることは許しません。お帰りになりましたらすぐに挙式です」

名門華族の長女が結婚前に出産というのも世間体が悪い。妊娠自体はお腹が大きくなるまで『気付かなかった』で隠せなくもないため、早急な挙式が必要だった。因みに現在、煌武院家の総力を挙げて挙式の準備と作戦終了後の武の休暇の獲得が行われていることを武は知らない。

そして武は悠陽のお腹に手を当てた。

「……行ってくる。元気に育てよ」

そして武は悠陽に向き直り、口を開いた。

「お腹の子供もだけど、悠陽も健康に気をつけて」

そして今度こそ振り返らずに出港ゲートを武は潜るのであった。

 

 

「おめでとうございます」 

安土に向かうコロニー間シャトルの中でキラが武に声をかけた。

「あぁ。でも何か自覚がわかないものなんだよなぁ……」

武は普段の彼と比べて少し上の空である。

「父親になった実感が湧かないってことですか?」

「まぁ、そんな感じだな」

武は恥ずかしそうに頬をかく。

「でも、元気に生まれれば実感できると思いますけど」

「……まぁ、そうだな」

結局、シャトルが安土に到着しても武は少し上の空であった。

 

 

 安土に到着した武はシャトルから降り、これから配属となる白亜の巨艦が停泊している場所へと向かう。彼が配属されたのは海皇(ポセイドン)作戦の中核となる第一艦隊、その中でも最重要任務にあたる長門・陸奥を擁する第一戦隊を護衛する第二航宙艦隊のアークエンジェル級強襲機動特装艦一番艦アークエンジェルである。

敵核動力MSの駆逐を任務とするアークエンジェルに配属される人員は大日本帝国宇宙軍の誇る撃墜王や最強の傭兵など、どこのプロ野球球団かといいたいぐらいのドリームチームとなっている。

その構成は、『最強の傭兵』叢雲劾特務少尉、『白の鬼神』大和キラ曹長、『山吹の姫武将』篁唯依中尉を擁し、そして『銀の侍』白銀武中尉が率いる『銀の銃弾(シルバーブレット)』小隊、そして、安土防衛線において小隊合計の最多撃墜数(スコア)を記録した『烈士』沙霧尚哉中尉(安土攻防戦時は少尉。後にこの時の戦績で昇進した)が率いる『ガーディアン』小隊となっていた。アークエンジェルのMS隊の最高指揮権は沙霧中尉に与えられている。これは、武の指揮能力が彼に比べて圧倒的に劣るもので、彼では小隊単位の指揮能力しかなかったためである。

そして、劾には三友重工の新型MSであるXFJ-Type5が、キラには富士山重工の新型MSであるXFJ-Type3が、武と唯依には香月夕呼首席研究員監修の元、大日本帝国特殊技術研究開発本部(ヨコハマ)が送り出した自信作、XFJ-Type4が与えられている。

 

 武は小隊のメンバーと格納庫で合流し、その足で艦橋に向かい配属の挨拶に向かった。アークエンジェルの艦内は以前アラスカで乗ったときに比べ、いたるところで日本の軍艦らしい改装が施されていた。壁面などの様々な部分に書かれている表記が日本語に変わっていたりする。

そんなことを感じながら艦橋へと続くラッタルを駆け上がる。別にエレベーターを使ってもいいのだが、別段急ぐことではないし、パイロットとして普段から体を鍛える癖がついているために疲れも感じない。

 

「失礼します。白銀武中尉以下4名、『銀の銃弾(シルバーブレット)』小隊本艦に着任の挨拶に参りました」

そう一声かけ、了承を得ると、4人は艦橋へと入り、艦長席から起立した女性に向けて敬礼した。女性もきびきびとした動作で答礼する。

「本官がアークエンジェル艦長のマリュー・ラミアス中佐です」

「副長の小室文彦少佐です」

本来、大日本帝国宇宙軍では伝統的に大佐以上の階級でなければ空母や戦艦といった大型艦の艦長に就任できなかったが、ラミアス中佐のこれまでの戦績とアークエンジェルの特殊性を鑑みれば、このままラミアス中佐に艦を任せる方が効率的であると判断した軍令部はラミアス中佐(当時宇宙軍大学で特別教育を受けており、少佐待遇であった)を艦長に任命、その他の元アークエンジェル乗組員の大半をそのままアークエンジェルに留任させた。

アークエンジェルが改装を終えてドッグから出てきたのが7月のはじめであり、9月に実施予定の海皇(ポセイドン)作戦まで慣熟訓練を終了させて戦力化することが不可能だと判断した軍令部だったが、これまでの戦績を見るに、アークエンジェルを皇国の運命を左右する激戦になるであろう海皇(ポセイドン)作戦に参加させないのは惜しいと考えたのである。

結果、アークエンジェルのもと乗員の大半が留任し、副長などの補充要員を早急に手配するも僅か2ヶ月の慣熟訓練となったため、その錬度には不安が残る状態となった。

 

「お久しぶりです、艦長」

武が敬礼をやめ、砕けた口調で話しかける。

「ええ、久しぶりね。今回の作戦では頼りにしているわ」

「帝国最強の機動戦力です。心配は御無用」

マリューもその自身に満ちた肯定を聞き、笑みを浮かべる。

「出港は4時間後と聞いているわ。それまでに各自艦内を見て回ってください。大和曹長であれば案内できるでしょう。艦内の構造はあまり変わっていませんから」

「わかりました。それでは、失礼します」

武たちは再び惚れ惚れするような敬礼をしてこの場を後にした。

 

 

 

 そしておよそ4時間後、第一艦隊の各艦が就航していく中でついにアークエンジェルが出港する順番が来た。

「全火器異常なし。レーダー、熱源センサーも正常に稼動。艦内隔壁、問題無し」

「システムオールグリーン」

「マキシマオーバードライブを始動します」

「アームロックを解除」

船体を固定していたアームが解除され、艦尾に設置されたマキシマオーバードライブが耳障りな駆動開始音をあげる。

「マキシマオーバードライブの出力95%で安定」

「総員に告ぐ、本艦は間もなく発進する。各員は定位置につけ」

艦橋ではせわしなく出港の準備が続く。

「艦長、出港の準備が完了しました。いつでも行けます」

副長の小室少佐が言った。マリューが頷く。

「アークエンジェル、発進します」

大天使はその所属を日出づる国に変え、再び戦乱の中にある漆黒の大宇宙に飛び立った。

 

 

 

 

 

 同刻 プラント マイウス7 大型船舶用ドッグ

 

 その艦隊を非常に目立つ桃色で染め上げた奇抜なデザインの高速戦艦が今ドッグから出ようとしていた。この艦の名前はエターナル。核エネルギー搭載型MS専用高速航宙母艦のネームシップである。

先の安土攻防戦の折、エターナルは長門型戦艦の主砲と思われる一発を左舷に被弾し、後に大破と判定されるほどの損傷を負い、なんとかプラントに帰還した。エターナルはマイウス市のドッグで数ヶ月の修理を終えてようやくドッグから出たところであったが、即現場に復帰するように通達されていた。

そのエターナルの艦橋にて一人の男が不機嫌そうな顔をしていた。

「…………」

不機嫌なオーラを隠そうともしない男に対し、この空気を何とかしてくれという懇願の目を周りから向けられた副官はその視線と至近距離から浴びせられる不機嫌オーラに耐えかねて男に声をかける。

「ハガス隊長、機嫌直して下さいよ。もう決まったことなんですから」

この艦を任されているハガス隊隊長、ヘンリー・ハガスは眉間の皺を解すことなく副官に顔を向けた。

「ふん、戦力を分散する策なんぞとって敵以外の誰が得をするというんだ。わしらが戦力を集めるべき場所など一つだろうに」

「そうは言っても、他をがら空きにするなんてことはできないでしょう」

「本当に守るべきものは一つに決まっている。それなのに上層部の連中は……アンディも立場上強く言えない事があることはわかるが、あそこでもう少し粘るべきだろうに。民心の安心のためにザフトも尽力しなければならないということも理解できるが、本来なら最高評議会が解決すべき問題で、その尻拭いをザフトに押し付けるべきではないぞ」

 

 彼が愚痴っているのは先日行われた作戦会議での一幕が原因であった。

ザフトは中立国の大使館経由の情報や、月周辺の偵察で連合が近いうちに大規模な作戦を行うことは察知していた。既に連合のプトレマイオス基地から艦隊が出撃したことという情報も掴んでいる。

そこで問題となったのが彼らの目的が奈辺にあるかである。

国防委員会はこれがプラントを狙った直接侵攻である可能性が高いと判断し、第一次防衛線をボアズ、第二次防衛線をヤキンドゥーエに敷くという作戦を立てる。敵が複数の基地から時間をずらして出港していることも分かっており、いくつかの航路から分散して襲撃を企てている確立が高い以上、複数個所に防衛線を設置して敵戦力が出現した場所に迅速に応援を派遣できるような体制を整えるべきであるという考えだ。

だが、ハガスやバルトフェルド等のザフトの一部の将軍の意見は異なった。この期に彼らが狙うものはジェネシス一つ。ジェネシスを守り抜くことこそが最重要であるとしたのだ。

しかし、国防委員会は彼らの申し出を却下する。ジェネシスに戦力を回した場合、連合軍がザフトの要塞を迂回して本国を侵攻するコースを取ればジェネシス防衛戦力は増援として派遣するには本国と距離がありすぎ、遊兵となる可能性が高いと判断したのだ。

また、本国をがら空きにすれば市民の間に不安を生じさせかねない。過去に一度とはいえプラント防空圏の突破を許し、ユニウス市の半数以上のコロニーを守れずに崩壊させてしまった先例がある以上、民心の安定のために常に一定の規模の部隊をプラントに目に見える形で貼り付けることを半ば義務づけられているザフトにはジェネシス防衛に回す十分な戦力は無かったのである。

 

「しかし、万が一に備えてジェネシスに最短の時間で増援に向かうことができるヤキンドゥーエの部隊に精鋭を集めることには成功したではありませんか。フリーダム、ジャスティス、テスタメントが配備された仮面のクルーゼの部隊に、アヅチで敵の新型相手に大立ち回りを演じたあのシュライバー隊が派遣されたとか」

「ふん。あの変態仮面か。俺は自分の素顔を隠して前線で指揮をする輩など信じることはできん性格でな。あの胡散臭いやつの配下になると考えるだけで寒気がする。シュライバーも信用できん。あいつの部隊はフリーダムとジャスティスを運用している以外のことは何もわかっていないだろうに。元々が軍人ではなく生物学や遺伝子工学系の科学者だということも聞く。そんなやつが精鋭?フン。一体どんな手を使ったのやら。知っただけで胸糞が悪くなりそうだ」

クルーゼ隊には核エネルギー搭載型MSが集中的に配備されており、その母艦もこれまでのヴェサリウスではなく、核動力MSを運用できるエターナル級3番艦フューチャーが与えられることになっている。ヤキンドゥーエに高速艦を集中配備することで穴が空く可能性が高い防衛線にいち早く部隊を展開させることを狙っているのである。

バルトフェルドも親友であるハガスと同じく、核動力MSやその専用運用艦たる高速艦を信頼のおけるヒルダ隊やミハエル隊に配備することを声高に主張したが、今回も前回の安土攻略戦と同様に最高評議会の圧力でクルーゼとシュライバーにもっていかれる形となったのである。

 

「……だが、愚痴を言っていてもしょうがないか。我々軍人は与えられた戦力でベストを尽くす……いや、任務を成功させる義務がある。国民に食わせてもらっている以上はな」

そう言うと、彼は懐から愛用しているピルケースを取り出し、中から取り出した白い錠剤を乱暴に口に放り込んでガリガリという音を響かせながら噛み砕いて飲み込んだ。ピルケースの中身はザフト七不思議のひとつに数えられているが、そのことを尋ねたものは誰一人の例外なくハガスの異常な迫力がこもった眼光を浴びせられて沈黙を余儀なくされるのだとか。因みに残りの七不思議の中にはクルーゼの仮面の下の素顔やザラ議長の使用している育毛剤など、ハガスのピルケースの中身と似たり寄ったりの非常にどうでもいいものが並んでいる。

 

 錠剤を飲み込んで多少は機嫌を良くしたハガスは命令する。

「後15分で出港だ。総員、配置につけ」

副長がそれを復唱する。

「総員、配置につけ!!」

その声を合図に艦橋が慌しくなる。

「執行プランCをロード」

「出港サブルーチン1920オンライン」

「セキュリティー解除確認、オールシステムズ、GO!!」

「アームロック解除、ドッグメインゲート開放。いつでもいけます」

 

 全ての準備が整ったことを確認した副官がハガスに向けて顔を向けて頷くと、ハガスは命令した。

「エターナル、発進する!!」

 

 最終決戦の部隊に役者が集いつつあった。




日本の科学者(へんたい)に犯されたアークエンジェルの姿は戦闘が始まってからお披露目する予定です。
ハガスはオリジナルキャラです。詳しい設定もその内にその必要が出てくれば書くかもしれません

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