機動戦士ガンダムSEED ZIPANGU   作:後藤陸将

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PHASE-47 終末の序章

 大西洋連邦艦隊はヤキンドゥーエに最大加速で近づきつつあった。勿論それをザフトが探知していないはずがない。ヤキンドゥーエからは巣をつつかれた蜂のようにMSが矢継ぎ早に発進する。ヤキンドゥーエの防備に回されているエターナル級2隻からもMSが緊急発進(スクランブル)する。

「クソ!ナチュラルどもめ!!宇宙のデブリにしてやる!!」

そう息巻きながらハイネは自身に与えられたMS、ZGMF-X999Aザクに乗り込む。現在プラントが保有する核エネルギー搭載型MSは48機だ。そのうちの半数が計4隻のエターナル級に配備されている。このエターナル級一番艦エターナルには量産試作機のザクが計3機、正式量産仕様のフリーダム、ジャスティスが1機ずつ、そしてクルーゼが駆る新型試作機――ZGMF-X13Aプロヴィデンスが1機搭載されていた。

偶然に緊急発進(スクランブル)担当要員(アラート)についていたハイネはいの一番に発進準備を終える。僚機のアスランもジャスティスに乗り込んで発艦準備を終えているらしく、ハイネの次に発艦できるように既に機体のガントリーロックは解除されていた。

ハイネの機体はカタパルトに固定され、発艦体制に入る。

「ZGMF-X999Aザク、発進どうぞ!!」

「ハイネ・ヴェステンフルス、ザク、出るぞ!!」

ハイネの駆るオレンジのザクがエターナルから飛び出し、敵艦隊へと機首を向ける。

 

 

 

「我々の任務はやつらを釘付けにすることだ。……が、まぁ、脅威だと思ってくれなければこちらに喰いついてもくれんしなぁ。よろしい。全艦全砲門開け。目標、ヤキンドゥーエ要塞。初弾から斉射でいく。3分間全艦斉射を続行し、その後対空ミサイルを発射、目標は敵MS。こちらのMS隊はミサイルを潜り抜けてきた敵MS隊にぶつけろ」

大西洋連邦第一艦隊司令長官ヴァルター・エノク中将が命令する。

「了解。全砲門、目標、ヤキンドゥーエ!!砲撃開始(オープン・ファイアリング)!!!」

漆黒の海を幾百もの閃光が切り裂き、ヤキンドゥーエを揺さぶった。艦隊とヤキンドゥーエを結ぶ直線状にいたMSの中にも被弾したものが出る。そして、そこに追い討ちをかけるように対空ミサイルが放たれてザフトのMSを襲った。

普段ならばAMBAC制御ができるMSに乗りこむコーディネーターにとって対空ミサイルの迎撃も回避もお手の物であっただろう。だが、今回はそのミサイルの数が桁違いであった。

この大量のミサイルの種明かしをしよう。

海皇(ポセイドン)作戦で大戦果を挙げることで戦後の自国の国際的な地位を高める必要に迫られていた大西洋連邦は第一、第七艦隊の両艦隊の全艦に対してこの特殊な増槽を取り付けたのである。

本来の目的はガスの噴射による運動でザフトの哨戒エリアギリギリを機関を動かさずに哨戒ラインを抜けるために設置されたものだが、この増槽のいたるところには多連装ミサイル発射管が備え付けられていたのである。先ほどのミサイルの雨はこれによって生み出されたものである。そして、艦隊から切り離された増槽自体もミサイルの雨を潜り抜けて隊列を崩したMS隊へと叩きつけられ、至近距離での自爆で多くのMSに損傷を強いていた。

 

 

「何だ!?この数は!?クソ、連合め……」

ジャスティスのコックピットでアスランは悪態をつく。連合の艦隊から放たれたミサイルはまるで網を張るかのように面を形成し、ザフトMS部隊に襲い掛かった。これほどの数のミサイルを避けようとするのは厳しいものがある。僅かなミスが被弾につながり、そこから大破、撃墜につながることを理解していてもとても避けきれない。斉射から3分の時間で多数のMSが発艦し、連合の艦隊と距離を詰めていたことも災いした。迎撃に費やす時間もあまり与えられなかったためだ。

おそらく、これが今回連合が用意した作戦なのだろう。単純なものだが、それゆえに効果は大きい。対艦装備をしているために動きの鈍い機体が次々とミサイルの雨に絡み取られて爆散していく光景にアスランは歯噛みする。

対艦兵装を装備して鈍重となった対艦攻撃部隊を守るために護衛部隊を先行させて発進させていたのだが、先行した部隊の大半はこのミサイルの投網を必死になって回避するのに精一杯で、とてもミサイルの迎撃なんてやってられなかったのである。

『アスラン!対艦攻撃部隊が大損害を受けている!!俺達で連中の指揮系統を潰して対艦攻撃部隊の再出撃までの時間を稼ぐぞ!!』

「了解した!援護射撃を頼む!!」

僚機のハイネと共にミサイルの雨を抜けた先にいる整然と隊列を整えた大艦隊へと突貫しようとしたその時だ。アスランはコックピットのモニターに映る小さな影を見逃さなかった。あれはかつてアークエンジェルの追撃戦で見たことがある。そう、あれは……

「ハイネ!!避けろ!連合のガンバレルだ!!」

ハイネの機体の周りに小さな砲台が囲むように布陣し、一斉に閃光を放った。何とかギリギリでハイネのザクが火箭の網を潜り抜けた。

「ハイネ!!っ!?」

ハイネに気を向けたその一瞬の隙を突いて放たれた鉄球をアスランのジャスティスは自身の持つ盾で受け止める。

目の前の機体に該当する機体はジャスティスのデータバンクにはないらしい。しかし、その容貌はどこかヘリオポリスで奪取した連合の試作MSを思わせる。機体が再度アラートを響かせ、アスランは再度機体を翻して背後からの砲撃を回避した。背後にいたのはこれまた前方の黒いMSと似通った鎌を構えたMSだ。アスランは2方向から挟まれる形となった。

「……前門の虎、後門の狼というやつか」

一騎当千の働きをすることで戦局を動かすことが核エネルギー搭載型MSに与えられたコンセプトである。故にアスランはここで僅か2機のMSに拘束されるわけにはいかなかった。母をいつ覚めるかも分からない長き夢に拘束する原因となった核に縋った以上、例え敵のMSが高性能であろうとも、パイロットが凄腕であろうともここで役目を果たさなければならないとアスランは心に決めていた。

「あまり長く相手にするわけにもいかないんだ……手加減は無しだ!!」

そういうとアスランは盾を投げ捨て、両手にビームサーベルを握って前方の黒い羽を持つMSへと突撃した。

 

 

 

「くそ!!ちょこまかと……」

ハイネは初めて相手をする連合のガンバレルに苦戦していた。連合のエースパイロットが使用する有線式ガンバレルの存在は知っていたが、彼にはそれとの交戦経験は無く、元から苦手な類の兵器だったのだろうか。上下左右、あらゆる方向から自身に向けられる閃光を回避するのでハイネは手一杯であった。

僚機のアスランが敵の新型MS2機を相手に大立ち回りしているというのに、彼の駆るザクはこれまでろくに攻勢に転じることができていない。話に聞いていた連合のガンバレルであればレール砲を搭載しているはずなので、フェイズシフト装甲を採用しているザクであればそこまでの苦戦をするはずはなかった。しかし、このガンバレルはビーム砲を搭載しているのだ。フェイズシフト装甲といえども耐えられない。

「畜生が……らぁ!!」

ハイネは背中のMMI-M15クスィフィアスレール砲を展開してそのまま機体を半回転させた。レールガンの連射で周りを薙ぐことでガンバレルの狙撃を試みたのだが、ガンバレルは容易くこれを回避する。ハイネの空間認識能力では振り向きざまにガンバレルを打ち抜くといった技を使うのは不可能だ。結局彼は逃げ回るほか無かった。

 

 

 

「しぶとい……さっさと墜ちろ、宙の化け物(コーディネーター)!!」

フレイは終始有利に立っていた。しかし、敵はともかく避ける。反撃は無いものの必死に避ける。その姿に哀れに逃げる小動物を幻視して悦に浸っていたが、流石にこれほど長いと飽きがくる。

フレイはガンバレルを操作し、常に射線の結界で彼の行動を制限しているが、これでは埒が明かない。フレイは勝負に出る。ガンバレルを呼び戻し、バックパックに戻した。

それを好機とみた敵機はビームサーベルを構え、急加速でダガーに迫る。フレイはその瞬間、引くわけでなく前に出ることを選んだ。

ダガーの両腕にビームサーベルを展開したフレイは2刀流でオレンジのザクに斬りかかった。フレイは師匠であるレナ・イメリア中尉から接近戦を、そして宇宙に上がった後はムウ・ラ・フラガ大尉から遠距離戦をそれぞれ学んでいるために死角はない。

ガンバレルのブースターを巧みに操ることで敵のザク以上の機動力を発揮し、フレイは敵機の下方のポジションをとった。そしてガンバレルによる一斉放火を浴びせようとした。しかし、ガンバレルのトリガーにかけられていたフレイの指は突然にコックピットから発せられたアラートによって剥がされた。咄嗟にフレイはフットバーを蹴り飛ばして自身を狙う火箭を回避する。

フレイがモニターを切り替えると、そこに映るのはさきほどまで戦っていたオレンジのMSの同型機が2機、そして蒼い羽を持つMSだ。羽つきのほうはデータバンクに該当がある。安土攻防戦で現れた核動力搭載の疑いが強い砲撃型MS、コードネーム『蒼火竜(リオレウス)』だ。

フレイは新たなる乱入者にも心を乱すことなく整然と相対した。

 

 

『危なかったじゃないの、ハイネ!!』

ディアッカがハイネを茶化すが、ハイネは苦笑するしかない。

「すまなかったな、ガンバレルとかいうやつに翻弄された」

初めて目にする兵器についていけなかったなどという言い訳をすることはハイネのコーディネーターとしてのプライドが許さないのである。それを察したのであろう、ニコルが本題を切りだす。

『クルーゼ隊長からの命令です。アスランとハイネはフューチャーに戻って補給を受けてください。その後はアスランのジャスティスとドッキングしたミーティアに掴まってクルーゼ隊長といっしょにL5の閉鎖宙域に向かってください!!』

ハイネは一瞬眉を顰める。L5の閉鎖宙域といえば、何も無い宙域にも関わらず新型兵器の実験場という理由で立ち入りが制限されている宙域だったはずだ。何故にそこに向かわなければならないのだろうか。疑問はあるが、これが命令であるならば仕方がない。

「了解した。じゃあ、このガンバレルの相手は任せたぞ!!」

ハイネはフューチャーに機首を向けた。

 

 

『ニコル!!お前はこのガンバレル野郎を足止めしろ!!その間に俺達はアスランを梃子摺らせているやつらをアスランから引き剥がして殲滅する!!』

そういい残すとイザークの駆るフリーダムは最大加速でアスランの元に向かった。

『ニコル、無理すんなよ。俺達が戻ってくるまで足止めしとけば後は俺達がやってやる』

ディアッカもイザークに続く。しかし、ニコルはイザークたちの言い方に少々苛立っていた。確かに自分はクルーゼ隊のほかのメンバーに比べれば凡人なのかもしれない。腕だけで言えばタネガシマの戦いの時に増援に来た新任の赤服のシホとほぼ同等だったのだから。しかし、彼にも赤服を着るものとしての誇りがある。

いつもいつもイザークに格下に見られるのはもう沢山だ。こうなったらハイネを梃子摺らせたというガンバレル付きを自分の手で撃墜する。ニコルは覚悟を決めていた。

「エンデュミオンの鷹さんとやりあったことだってあるんです。ハイネのように上手く翻弄できると思わないで下さいよ!!」

ニコルの駆るザクは両手にトマホークを構え、フレイのダガーに突進した。

 

 

 

 先ほどまでの相手を逃がされたことにフレイは不愉快さを隠せなかった。あと少しで敵を撃墜できたところを妨害されれば気を悪くするのも無理は無いだろう。しかし、フレイは焦ってはいなかった。

「さっきのやつよりは弱いわね。これならさっさと片付けてさっきのオレンジのを追いかけることもできるわ」

そう呟くとフレイはガンバレルを展開、オールレンジ攻撃を仕掛けた。

先ほどのオレンジと違い、オールレンジ攻撃を受けた経験があるのだろう。四方八方からのビームは余裕をもって回避している。メビウスゼロ相手ならばこの相手でも有利に戦えたかもしれないが、生憎こちらはガンバレルダガーだ。メビウスゼロとは異なり、近接戦もできることを失念している。

フレイは両腕のビームサーベルを持って敵機に斬りかかる。同時に各方面から一斉に放火を浴びせる。ガンバレルの制御そのものの技量はフレイはベテランであるムウに遥かに及ばないが、ガンバレルの制御と近接戦を同時に行うその技量については既にムウをも凌駕するレベルだった。

彼女の戦い方はオールレンジ攻撃が可能なガンバレルを囮に行う接近戦が本領なのだ。

敵機はこの戦い方についていくことができないようだ。フレイの接近戦の技量は低くはない。彼女と近接戦をしながら周囲のガンバレルに気を配るという高度な技量を持ち合わせてはいない敵機は慌てて距離を取ろうとするが、その行動もフレイは予測済みだ。敵機の取るであろう未来位置に照準をあわせて見越し射撃を行う。

 

 

「ぐう!?」

ニコルのザクは逃げ道を塞ぐように浴びせられるビームの雨を小刻みなAMBAC制御で回避しようと試みるが、回避しきれずに左足と背部のMMI-M15クスィフィアスレール砲に被弾して動きが鈍る。

「不味い!!これでは」

そこを敵機は見逃さない。急加速で敵機を掠めるような軌道を取り突進する。その腕にはビームサーベルが展開されている。避けられないことを理解したニコルは絶叫する。

「うっっ!?……うわぁぁぁぁ!!!!かっ母さ」

ニコルは桃色の光が自身に迫る中、本国で中睦まじく過ごしている家族の姿を幻視した。

そしてすれ違いざまに敵のダガーはその腕を振りぬき、ニコルの駆るザクを上下に両断した。数秒後、漆黒の宇宙に大輪の花火が上がった。

 

 

「随分とあっけなかったわね。でも……あちゃ~これは酷いわ」

敵機の大爆発の衝撃で吹き飛ばされることを恐れ、すれ違いざまに切り捨てた後も意識を捨てるほどの急加速で敵機と距離を取ったフレイはあっけらかんと呟いた。距離を取りきれなかったらしくかなりの衝撃を受け、ガンバレルを2機喪失していた。

また、セルフチェックだけでも機体のいくつかの場所に不具合が出ていることも確認済みだ。さきほどの急加速で推進剤の余裕も無い。先ほどのようなガンバレルを併用した近接戦闘でフレイ自身の体力も限界に近い。いくら得意な戦法とはいえ、人間である以上集中力の限界がある。フレイの場合、5分以上あのような戦いをするだけの体力は無いためにあの戦法の使用後はある程度の休息を必要とする。

「仕方ないわね。こちらフレイ、これより帰艦します。補給と整備の準備を」

フレイは傷ついた愛機をドミニオンの待つ方角に向けた。

 

 

形式番号 GAT-Y01A2

正式名称 ダガーMk.Ⅱ

配備年数 C.E.71

設計   PMP社

機体全高 18.0m

使用武装 40mm口径近接自動防御機関砲「イーゲルシュテルンII」

     M703 57mmビームライフル

     GAU8M2 52mm機関砲ポッド

     M703k ビームカービン

     ES01 ビームサーベル

     対ビームシールド

     ガンバレルストライカーVer2

 

 

 フレイが搭乗するダガー系列の機体で、105ダガーを基にした次世代機の量産試作機。105ダガーと異なり、全面にトランスフェイズシフト装甲を採用している。外見はダガー系列だが、中身はGAT-Xシリーズにも使用されている高級部品が数多く使用されており、スペック上は第二期GAT-Xシリーズと同等の能力を持つ。フレイのガンバレルはM16M―D4に換装されており、レールガンは試作の中口径ビーム砲に換装されている。また、4機のガンバレルの内の2機には試験的にビーム刃発生装置が組み込まれている。

ガンバレルとバックパックを繋ぐ有線部分もメビウスゼロのそれに比べて格段に強化された特別製である。

 

 また、フレイの機体のコックピットには精神操作システム――仮称『ゆりかご』が組み込まれている。精神操作システムというが、ようは催眠装置である。過去の統計データから、戦闘機に乗っているときの人間はそのGや集中力、四方に向ける注意力の関係上、判断能力が通常時の6割程度に低下するということを問題視した大西洋連邦が如何なるときも判断能力を低下させないために開発した。

パイロットに最大の判断力を発揮する精神状態を常に維持させることができるほか、出撃前にもモチベーションがあがる精神状態に調整することで士気を挙げることも可能。ただし、催眠によって特定の感情――特に負の感情を呼び起こしたり維持させる機会が多くなるために、元から抱える負の感情が肥大化する問題があると指摘されている。

 




ハイネVSフレイ
中の人的にはどちらも死亡確定のバトルでした。どちらが先に死亡するのか。微妙な争いですな。

ニコルVSフレイ
ニコルって雑魚でしょう。種リマスターでは自分からうっかり斬られちゃう阿呆ですし。

ゆりかご
エクステンデッドに使われたような記憶処理などの機能はついていません。あくまでパイロットの精神状態を操作するだけのユニットとして搭載されています。
フレイのテンションがPHASE-45で少しおかしかったのはこれの副作用で精神が負の方向に傾きがちになっていたためです。
戦闘中は冷静な判断力を発揮できる精神状態を維持しているために比較的冷静に描写しています。それでも根底には復讐という動機があるぶん、多少は感情的な台詞を口にしますが。
しかし、これも彼女の士気を上げるために『ゆりかご』が彼女の感情を誘導して口にさせていることなのです。
つまり、戦闘中は完全に催眠の影響下にあり、戦闘以外でも負の感情に引っ張られ続けるということですな。

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