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「うぉぉぉぉ!」
両手に太刀を構えたキラの雷轟がゲイツ2機の間をすり抜けながら斬りつける。的確に動力部を切り裂かれたゲイツは爆散し、物言わぬデブリへとその姿を変えた。そしてそのキラの雷轟の背後を狙おうとしているゲイツの小隊の上方から緑の閃光が放たれ、メインカメラを潰していく。彼らがメインカメラを潰された隙をついてコックピットを打ち抜かれたゲイツは沈黙する。
「キラ、焦るな。周りをよく見ておけ」
「はい!!」
エレメント兼指導者の劾に注意され、キラはそれを頭に刻み付ける。
『
しかも敵機はザフトの最新鋭機であるゲイツで固められている。キラたち
補給に戻る暇を惜しんでなるべく無駄のないエネルギー配分で戦っているものの、やはりそろそろバッテリーが危険域だ。劾はキラの雷轟のバッテリーも確認し、ここらが潮時であると判断した。
「キラ、アークエンジェルに帰艦しろ。このままじゃバッテリーが持たない」
「でも、劾さんだって!!」
「お前と入れ替わりに補給する!!急げ!!お前はストライカーパックを変えるだけだ。すぐ終わる!!」
劾の有無を言わさぬ言い方にキラは押し黙り、機首をアークエンジェルに向けた。キラは劾の力を信じていた。自分が抜けても彼ならば生き残れると。
「大和機、帰艦します。補給の要請あり」
「ハンガーに連絡、緊急着艦用意!!大和機を回収後に迅速にストライカーパックを換装、推進剤の補給を!!」
マリューは艦橋で矢継ぎ早に命令を下す。その姿に黒木は感嘆の思いを抱いていた。聞けば、彼女は元々一技術士官でしかなかったが、ザフトの精鋭による追撃戦を受けながら成長し、ついにはザフトの名だたる部隊を打ち破るほどに至ったのだという。
その戦略眼はまだ少々不安な面があるが、窮地に陥ったときの迅速な決断と適切な対応は高評価である。そしてその人格もクルーをよく纏める好ましい人柄だ。多少規律に甘かったりするが、個人の趣向で済まされる範囲内であろう。
黒木が教え子を評価する教官のような眼差しで自身を見ていることに気づかずにマリューは次々と指示を飛ばす。しかし、そんな中アークエンジェルの艦橋に凶報が飛び込んできた。
「艦長!!距離9000レッド34マーク99デルタに新たな部隊です。熱紋、艦影照合……該当あり!!安土を強襲したMSコンテナです!!そして3機のMSを確認しました。コンテナの中央に
マリューは即断した。
「艦首プラズマメーサーキャノン起動、目標、敵エターナル級!!」
安土を破壊したあのコンテナの破壊力は既に全艦のクルーが承知している。それが現れた場合、最優先で対処するように通達も受けている。マリューはパワーアップしたアークエンジェルの火力を見せつけることでコンテナをアークエンジェルに引き付け、第一戦隊から遠ざけようと考えたのである。
「ってーー!!」
艦首のカバーを展開して現れた巨大なパラボラメーサー砲が輝き、2条の閃光が漆黒の宇宙を切り裂いた。敵エターナル級はこれを何とか回避するが、まだ攻撃は終わらない。
「連続発射!!」
プラズマメーサーキャノンの最大の特徴はその驚異的な速射能力にあると言ってもいい。これまでに搭載していた陽電子砲のように直撃すれば一発轟沈を引き起こすほどの威力はないが、命中すれば無視できないだけの威力を誇る砲が立て続けに浴びせられるとなればかなりのプレッシャーを相手に与えることになる。事実、敵エターナル級は必死の操艦を余儀なくされている。
「続いて斉射!!エターナル級を遠ざけて!!」
全砲門がその砲口をエターナル級に向け、一斉に火を噴いた。
「敵艦発砲!!」
アスランの駆るミーティアに続いて戦場にその姿を見せたのはヤキンドゥーエから駆けつけたエターナル級2番艦トゥモローだった。その艦橋で艦長のシュライバーは冷や汗を浮かべている。敵艦はアークエンジェル級だったが、これまでのデータには無い武装を使ってくる。特に艦首砲は脅威の一言だ。
これまでアークエンジェル級が搭載していた陽電子砲も防ぎようが無い厄介な兵器であったが、この大口径レーザー砲も負けず劣らず、いや、陽電子砲以上に厄介な兵器である。威力そのものは陽電子砲には劣るようだが、直撃すればただではすまないことには変わりない。しかもその速射砲は陽電子砲を遥かに上回るものである。
艦橋に凄まじい衝撃が走り、シュライバーは艦長席から投げ出されそうになる。
「損害を報告しろ!!」
「左舷に被弾!!左舷ミサイル格納部分が誘爆!!」
「左舷機関停止しました!!」
「左舷より火災発生!!第9ブロック並びに第11ブロックの隔壁を下ろします」
「数撃ちゃ当たる」というのはこの世の真理である。トゥモローは艦首ミーティアを掠めて左舷に直撃を受けてダメージコントロールに躍起になっていた。しかも左舷ミーティアを失っているためにその攻撃力は半減していると言ってもいい。
「クルーゼに繋げ!!」
このままでは発艦も危険だと判断したシュライバーはクルーゼに回線を繋ぐ。
「シュライバー、酷くやられたようだな」
ややあって艦橋のモニターに珍しくパイロットスーツを着込んだクルーゼの姿が映し出される。
「場の空気を和らげる強がりの一つでも言ってやりたいが、そんな余裕も無い。これ以上攻撃を喰らい続けるとこちらも不味いから足つきの相手を任したい。君自身、あの船には因縁があるのだろう?」
シュライバーの言葉にクルーゼは笑みを浮かべる。
「ふむ、君からの要請とあれば無碍に断るのは難しいな。だが、我々はナガトタイプへの攻撃命令を受けている。足つきには因縁もあるが、優先するのは難しいぞ」
「ナガトタイプの相手にはこちらの艦載機を当てる。ミーティアは一機だが、それでもこちらにはフリーダムとジャスティスが6機ある。パイロットは君の知る彼女達だ。彼女達の総掛かりでいけばナガトタイプの牙を抜くぐらいならば不可能ではない」
クルーゼは一瞬思案した。確かに彼の戦術は理に適っている。ここに現れたということは、日本軍の目的はジェネシスの破壊で間違いないだろう。それを妨害するためには敵の主戦力であるナガトタイプを戦闘不能にする必要がある。
元々対艦攻撃であればクルーゼの駆るプロヴィデンスよりもフリーダムの方が向いていることもある。
「……分かった。私達は足つきを叩く。ナガトタイプの相手は任せた」
そう言い残すとクルーゼは回線を切断し、足つきへと機首を変えた。それを察知したのか、足つきは艦首砲を格納し、対空ミサイルで迎え撃つ。
「クルーゼは行ったか……こちらも出すぞ!!発艦準備急げ!!」
「全艦載機、発進準備!!」
「フリーダム、カタパルト接続」
「フリーダム、発進します!!」
カタパルトから蒼い翼を翻してフリーダムが宙にあがる。その光景を艦橋で見ながらシュライバーは獰猛な笑みを浮かべた。
「ビャーチェノワの初陣だ……見てろよ日本人。チィトゥィリと同じだと思ったら大間違いだ」
その声はダメージコントロールに追われる艦橋の喧騒に掻き消され、クルーの耳に入ることは無かった。
アークエンジェルからキラが再出撃したタイミングと敵ミーティア部隊が変針したのは同じタイミングだった。アークエンジェルが狙われていることに気がついた劾は真っ先にコンテナを狙ってビームを放つが、アスランの駆るミーティアは急加速でそれを回避する。小回りが利かないことは彼も百も承知だった。
「推進剤の残量が心もとないが……やるしかないな」
劾が乗機であるXFJ-Type5陽炎の両手に突撃砲を展開する。その時、劾は背中に走る寒気に反応して咄嗟に機体を後ろに下がらせた。機体があった場所を緑の閃光が幾条も走りぬける。
「これは……ガンバレルか!?ザフトもあれを……いや、違う!!」
劾がその視界の端に捉えたのはガンバレルよりも小さな三角錐型のユニットだった。おそらく、これが先ほどの攻撃を放ったのだろう。だが、それにはガンバレルについている有線がついてはいなかった。つまり、あれは無線で動いているということになる。無線で動く小型砲台ということは、ガンバレル以上に自由に動き回ることができるだろう。
小型砲台に包囲されながら敵の巨大コンテナを相手にすることなど不可能であるが、ここで引くことができない。
「分の悪い戦いは好きではないが……これも契約の内か」
劾は周囲の小型砲台の張り巡らす砲火の網を潜り抜けながらコンテナに接近する。数発が陽炎の装甲を掠めるが、致命的な損傷には至ってはいないことを理解している劾はスピードを緩めない。
そして、ついにコンテナをその射程に収める。突撃砲を構え、動力部を狙う。しかし、標的のコンテナの装甲部分が開放されて一斉に対空ミサイルを放ち、劾の攻撃を妨害する。掃射でミサイルを薙ぎ払うも、その爆炎に隠れて接近してきた敵のオレンジのMSへの対応に劾は遅れてしまった。
そこで劾は悟った。先ほどの小型砲台の砲火で自分をミサイル発射管の前まで誘導し、そこで討ち取るという作戦だったのであろうことを。
敵MSが突き出すビームサーベルを目にした劾は腕一本を犠牲にする覚悟をする。しかし、後方からビームが飛来して敵MSを退かせた。劾が援護してくれた機体を探すと、すぐにそれを見つけることができた。救援に駆けつけたのは特徴的なパールホワイトのMS――XFJ-Type4不知火。それを駆るのは大日本帝国の誇るエースパイロット、白銀武中尉だ。
『苦戦してるじゃないか、劾』
武の機体から通信が繋がれる。その得意そうな顔を見て劾はムッとした表情を見せる。
「3対1だ。苦戦して当たり前だろうに。それに――気をつけろ、あの小型砲台は危険だ。後、こちらの弾薬は限界に近い。早急な補給が必要だ。」
劾の口調からその脅威度を推し量った武も得意そうな表情を収め、真剣な表情をする。
『お前がそこまで言うってことは相当ヤバイな……でも、お前がやれたことを隊長の俺がやれないってわけにもいかねぇよ。あいつらの相手は俺がする。劾は補』
武がそこまで言いかけたとき、機体のレーダーがこちらに接近する機影を捉えた。そして、接近する機体から通信が届く。
『劾さん!!』
『隊長!!』
駆けつけたのはキラの駆る雷轟と唯依の駆る不知火だ。どちらも補給を終えた後すぐに駆けつけてくれたらしい。
『キラと唯依も来たか!!よし……、劾は一端下がれ。唯依はあのオレンジのやつを、キラはコンテナ付きをやるんだ。俺はあの大仏っぽい何かを背負ってるのを相手する』
『『了解』』
そう告げると彼らはそれぞれの相手と対峙した。そして劾は一路母艦へと機首を向ける。
「……あの相手を譲ることは少し惜しかったかもしれないな」
今、この戦場はまさに世界最高峰のパイロットが最高峰のMSに登場して互いに血を流す頂上決戦の舞台と化している。勝者も敗者も一つの時代にピリオドを打つことになるだろう。これほどの戦いで好敵手と戦える機会を逃したことを劾は気にせずにはいられなかった。
『アークエンジェル』級強襲機動特装艦
竣工:C.E.71 1月25日
同型艦:『ドミニオン』
全長 422.5m
マキシマオーバードライブ搭載
兵装
71式速射光線砲「プラズマメーサーキャノン」2門
245cmエネルギー収束火線連装砲2基4門
45口径41cm電磁単装砲8基8門
75mm対空自動バルカン砲塔システム「イーゲルシュテルン」16門(CIWS)
両弦VLS(16セル)
艦尾大型ミサイル発射2連装6基
日本にクルーが亡命したことを受け、日本軍仕様に
まず、その機関をこれまでのレーザー核融合炉からマキシマオーバードライブに換装し、長門、陸奥に次ぐ快速性能を得た。当初からマキシマを搭載する前提として設計されていたわけでもないために機関部そのものに大規模な改造を実施。その結果、以前よりも機関部が巨大化している。これはただでさえ巨大化した機関部に新たに装甲を装備したためである。
艦首ローエングリン砲は環境への影響や、周囲の艦に及ぼす影響、軌道上での戦闘では放射性物質をばら撒く可能性があるとして撤廃された。その代わりとして採用されたのが71式速射光線砲、通称「プラズマメーサーキャノン」である。この砲はマキシマオーバードライブが生み出す莫大なエネルギーを用いた大出力砲で、その破壊力そのものはローエングリンに劣るものの、その速射性能はかつてアークエンジェルに副砲として搭載されていたバリアントをも上回るほどである。反面、構造上収納部の艦首は脆い構造になるが、その部分のみはダイヤモンドコーティングを施しているために対ビーム防御は問題ない。
主砲の225cm2連装高エネルギー収束火線砲「ゴットフリートMk.71」は長門型戦艦にも採用されている245cmエネルギー収束火線連装砲に換装されたが、これまでのような兵装格納能力は失った。しかし、宇宙軍に配属された以上主戦場は宇宙であると考えられたため、あまりデメリットはない。寧ろ、格納式からより簡略的な固定式に変えたために整備は楽になっている。
副砲のバリアントは射角が艦の側面に取れないつくりをしているために撤去され、代わりに長門型戦艦への搭載で実績を挙げている45口径41cm電磁単装砲を砲廓式に搭載し、副砲としている。砲廓は上下左右に射角が取れるように設置されている。
主砲、副砲に長門型戦艦の装備を流用したのは予算の壁があったためと言われている。当初は艦主砲もローエングリンを残す予定であったが、どうしても艦首にプラズマメーサーキャノンが積みたかった技術陣がこれに反発。他の武装で節約をすることで設置を承諾させたという裏話がある。
因みに、この時没にされた案は主砲に開発中の次世代砲、仮称『メガバスター』を設置、副砲に同じく開発中の試作超電磁砲『デキサス砲』、CIWSに省電力メーサーバルカン砲等、夢とロマンあふれるものだったらしい。
艦橋後方ミサイル発射機は撤去され、艦の両弦のこれまでCIWSが設置されていた部分に移された。これは艦橋付近への被弾で搭載しているミサイルが誘爆し、指揮系統を乱すことが考えられたためである。これまで艦橋後方ミサイル発射機があったところには入れ替わりにイーゲルシュテルンが装備されている。
両弦VLS(16セル)と艦尾大型ミサイル発射2連装6基は共に日本軍規格のミサイルを運用できるように改造がなされている。
因みに、この艦を見せられた元クルーは顔を引きつらせていたらしい。特に元艦長の女性士官は立ちくらみを起こし、その場に座り込んでしまうほどのショックを受けたそうだ。
次回から本格的なガンダム的な一騎打ち……が書けたらいいなぁと思います。