機動戦士ガンダムSEED ZIPANGU   作:後藤陸将

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……26日に収容所のような僻地についてから始めて半日以上の休み時間が取れました。およそ10日ぶりの休みです。かといって、僻地であるためにコンビニくらいしか娯楽は無いですから執筆に時間を当てました。本文の量はこれまでで最長となりました。何とか無線LANが使える場所も発見できましたし。

後書きにも目を通していただければ幸いです。


PHASE-49 雷轟VS正義

 ストライクを彷彿とさせるMSに狙われたアスランはミーティアの大出力で強引な加速、急カーブを繰り返すことで追撃をかわそうとしていたが、やはり小回りが利かないために振り切れない。敵MSが放つビームを紙一重で回避する中で対空ミサイルを放って牽制して距離を保とうとする。

放たれたミサイルを敵機は曲芸を思わせる動きでトリッキーに回避する。そして体勢を整えると肩部からミサイルを発射した。敵の放ったミサイルをビームサーベルでアスランは薙ぎ払ったが、これが失策だった。振りぬかれたビームサーベルを掠める軌道で敵MSが接近し、ミサイル弾薬庫目掛けてビームライフルを連射した。

ミサイル弾薬庫の被弾を確信したアスランは迷わずミーティアをパージして脱出した。一瞬ミサイル弾薬庫が肥大し、炸裂と共にミーティアは巨大な火球へと変貌した。

「ミーティアが……これでは対艦攻撃ができない!!」

アスランはミーティアを失ったことを惜しむが、すぐに頭を切り替えた。ミーティアを失ったアスランはジャスティスの右手にビームサーベルを握り、それを正面に突き出した。敵MSはそれをビームサーベルで受ける。

「はぁぁぁぁ!!」

ジャスティスは猛攻を仕掛ける。突き、斬りあげ、息もつかぬ勢いの連続攻撃を敵MSに浴びせる。しかし、敵もさるもの。全ての攻撃を絶妙な反応で回避する。さらに回避だけではない。こちらの斬撃を受け止めそこから猛然と斬り返す。

既に幾度も剣は交差し、そのたびに漆黒の宇宙に光の花が咲く。だが、その中でアスランは相手の戦い方にデジャヴを感じていた。そう、この動きは幾度も見たことがある。デブリベルトで、オーブ沖で、アラスカで。

そして、このストライクを彷彿とさせるMS。アスランは自身の中に生じた疑念を解消するためにオープンチャンネルを開いた。

「キラ・ヤマト……だな?」

アスランの機体のコックピットのモニターによく知った顔が映る。

「アスラン・ザラ……だね?」

二人はしばしモニター越しに視線を交錯させる。

「……何故お前が日本軍にいるのかは聞かない。だが、一つだけ確認させてくれ。キラは俺の敵なのか?」

一切の躊躇を見せずにキラは即答した。

「アスラン……君が立ちはだかるなら、君は僕の敵だよ。……僕は雷轟で君を討つ」

キラの答えを聞いたアスランは挑戦的な笑みを浮かべた。

「残念だな。だが、俺も手加減はしない。父上に任されたこのジャスティスでお前を討つ!!」

両者は再びビームサーベルを構える。そして、同時にフットバーを蹴り飛ばして斬りかかった。

 

「はぁぁぁぁ!!」

「へぁぁぁぁ!!」

ジャスティスの薙ぎを雷轟はバックステップで回避し、そのまま背部から展開した突撃砲で応戦する。

着弾した36mm弾はフェイズシフト装甲の表面で火花を散らして跳ね返されてしまう。しかし、それでよかった。いくらフェイズシフト装甲で機体が覆われていようと、着弾の衝撃まで無効化することはできず、アスランはジャスティスのコックピットで激しく揺さぶられる。

その隙にキラはビームサーベルを格納し、ライフルを雷轟に握らせる。幾度かの交錯で、ジャスティスのパワーが雷轟以上のものであると確信したキラは近接戦闘を避け、ひとまず距離をとって戦うことを選んだのである。

勿論アスランもそれぐらいは察している。アスランは急加速で雷轟のライフルの射線上から抜け出し、こちらも盾とライフルを構えた。確かにジャスティスは近接戦に秀でたMSだが、近接戦しかできないわけではない。中、遠距離戦闘から近接戦闘に持ち込むだけの性能を秘めているのだ。

アスランは背部ファトゥムを起動し、ファトゥムの二門のビーム砲をあわせて三門のビーム砲を連射する。核エネルギーを使用するジャスティスであればエネルギーの心配はいらない。後はともかく撃ちつづけるだけだ。

 

「お前は何故戦う!?」

アスランがモニター越しに叫ぶ。

「何故ナチュラルと……連合と組して戦うんだ!?」

たまたま近くにいたゲイツを瞬殺したキラはゲイツからシールドを奪い取り、ジャスティスの攻撃を防ぎながら叫んだ。

「守りたいものがあるから戦うんだ!!」

その答えを聞いたアスランは額に青筋を浮かべる。

「奪うものに与して何が守るだぁ!!」

アスランは背部のファトゥムを切り離し、雷轟の上部からビーム攻撃を加える。たまらずキラはゲイツのシールドは破棄し、機動力を生かした回避を試みた。そしてファトゥムが外れて機動力を低下させているであろうジャスティスに向かって急加速で突っ込んだ。

ジャスティスを掠めるような軌道でその脇を通り過ぎながら雷轟はビームを連射する。すさまじい移動速度で移動する射点から放たれるビームを全て回避することはできず、ジャスティスはビームライフルを失ってしまった。

 

「ザフトに入っている君がそれを言うのか!?エイプリルフールクライシスで10億の命を奪い、世界から豊かさを奪い、ヘリオポリスで暮らしていた一般人の平和を奪った君たちが!!どちらが奪うものだ!!ザフトの方がよっぱど略奪者らしいじゃないか!!」

キラも感情を顕にしてアスランを罵倒し、両者の感情は昂ぶるばかりだ。ジャスティスは再びビームサーベルを構え、雷轟に突撃する。

「先に奪ったのはどちらだ!!コーディネーターを迫害し、ユニウスセブンを奪い、俺達から食糧を奪い、母の意識を奪ったのは連合だ!!」

理事国(大家)からコロニー(借家)奪って国家(自宅)とか抜かしていたら制裁されて当たり前だろう!?」

ジャスティスの剣戟を雷轟は正面から受けることは無く、上手く捌いて押し込まれないようにする。

「……プラントを建設したのはシーゲル様や父上のような地球に居場所がないコーディネーター達だ!!」

次第にアスランの声は大きくなるが、キラもそれに負けてはいない。

「建物は大工のものじゃない!!出資者のものだろうに!!」

「それなら!!……それなら……」

キラに論破され、雷轟のコックピットのモニターに映るアスランは唇を噛みしめている。だが、その剣戟は衰えはしない。寧ろ、次第にキラに捌かれないように上手い角度からの薙ぎ、突きを織り交ぜたものに進化していく。

そして、その唇に血を滲ませながらアスランは叫んだ。

「なら俺達は何処へ行けばよかったというんだ!?」

同時に、アスランの中で何かがはじけた。全ての感覚がクリアになり、指の一本一本の神経の感覚さえもわかりそうなほどアスランの知覚は研ぎ澄まされている。そのハイライトが消えた瞳でアスランはキラを睨みつけた。

アスランは両手にビームサーベルを展開し、さらに激しい剣戟の雨をキラの雷轟に浴びせる。

 

「ナチュラルに俺達は迫害された!!」

ジャスティスの右手のビームサーベルが雷轟のビームサーベルを強引に押し戻す。

「俺達を生み出したナチュラルの勝手で!!俺達は社会で区別された!!」

左手のビームサーベルを振るうジャスティスに対し、雷轟も2本目のビームサーベルを展開、胴を狙うジャスティスの斬撃を防ぐ。

「より高い能力を持つ人間を生み出したやつらがその能力故に俺達(コーディネーター)を恐れた!!」

ジャスティスと雷轟が鍔迫り合いをする。

「忌避した!!」

ジャスティスはその隙を突き、雷轟の胴に思いっきり膝蹴りを喰らわせた。

「そして!!自分達の縄張りから追放した!!」

 

 雷轟はジャスティスの膝蹴りを受けて後方に吹き飛ばされる。吹き飛ばされた雷轟は付近を漂っていたナスカ級巡洋艦のものと思われる外壁の残骸に激突した。だが、アスランはすかさず追撃をかけにくる。

「妬み、嫌い、迫害する存在を生み出したのは何故だ!?そして、生み出したやつらはのうのうと生き、生み出された側が虐げられるんだ!?」

アスラン自身、かつてコペルニクスに身分を隠して過ごしていた時期がある。身分を偽りナチュラルとしてヘリオポリスを訪れた彼はそこでナチュラルがどのように考え、どのように生きているのかを知った。ナチュラルのコーディネーターに対する嫉妬、嫌悪感を当時のアスランはその年齢ゆえに肌で感じてしまったのだろう。

そしてその頃から彼の頭の中にはナチュラルに対する根本的な不信感が芽吹いていた。ヘリオポリスを離れ、プラントにわたるとそれは所々で顕著なものになっていく。当時のプラントは理事国との関係が悪化しはじめ、市民の中にも反理事国、反ナチュラルの感情が強く現れていた。

そして、そのナチュラルへの不審が爆発したのが血のバレンタインである。アスラン自身、この事件で母親が植物人間となってしまった。病室で息をしながらもモノを言わぬ母の姿を見てアスランが抱いたのは喪失感とナチュラルへの憎悪だった。

生み出した側が偉いのか、故にこのようなことも許されるのか。プラントという隔離された環境で育った彼の価値観は、連合を、ナチュラルを悪としたのである。

 

「迫害される立場にあった俺達が反抗して何が悪い!!迫害したやつらに!生み出したやつらに!俺達は復讐する権利がある!!」

アスランはこれで決めようとビームサーベルを雷轟に向けて振り下ろした。しかし、その剣戟は雷轟が振り上げたビームサーベルに弾かれる。

「……ふざけるな!!」

キラは吼えた。それをモニター越しに見たアスランは目を見開く。コペルニクスにいた頃にも温厚なキラが怒鳴る姿を見たことは無かったため、アスランは驚いたのだ。

「コーディネーターは確かに差別される!区別される!虐げられていたこともある!でも!!」

雷轟はビームサーベルをかまえ、連続で突きをジャスティスに打ち込んだ。遠距離戦に徹しようにもジャスティスの推力の方が上では相対距離はアスランに選択権があるようなものである。態々ジャスティスで決め手にかける射撃戦をアスランが仕掛けてくるとは思えないと考えたキラは、とことんジャスティスが得意としている近接戦に挑み、自身の技量をもってジャスティスを捻じ伏せることを選択したのである。アスランには激昂しているように見えたキラだが、その内心は未だ冷静なままであった。

「交渉のテーブルにもつかないでいきなり矛をその手に取った君たちに大義なんてない!!」

ジャスティスは両手に持ったサーベルを薙ぐことで雷轟の刺突を逸らす。だがそこから反撃に転じたり距離を取る余裕は無く、すぐさま両方向からの横薙ぎに転じた雷轟の剣閃で右脚を斬り飛ばされる。目を見開いたアスランは即座に雷轟と距離を取らせる。

 

 機体の反応速度、動作速度に差があったとは考えにくい。しかし、今こうして自身の乗機であるジャスティスは右脚を失うという損傷を負わされている。そして今の攻撃も、目では理解していたが、機体がついてこなかった。同じ動作速度、反応速度でありながら上をいかれたということは、こと接近戦に関してキラの技能は自身のそれを上回っている。そうアスランは直感した。

アスランは知らないことであるが、キラは日本の富士教導隊と伏見宇宙軍大学校で効率的な戦闘について体に叩き込まれていた。元々白兵戦での精強さは世界最強クラスである大日本帝国陸軍の教官から教えを受けることで、キラの接近戦技能は飛躍的に上昇した。そしてキラはこれまでのケンカ拳法のような戦い方を改め、生身の近接戦闘での動き方をMSでの戦闘に応用することで飛躍的にMS戦闘技能も向上させていたのである。

少なくとも、アカデミーにて教導の経験の少ない元傭兵から、とにかく短期間で前線に送れる兵を育てるための即席教育を受けたアスランと、世界最強レベルの白兵戦能力を誇りとする軍隊で教練を取り続けてきた教官から骨の髄まで扱かれたキラの軍人としての差は共に短時間の教練といえども歴然であった。

 

「軍事力は外交上の最後の手段だ!!外交を前提に行使するものだ!!君たちはコーディネーターとしての地力にものを言わせて暴力での問題の解決に踏み切っただけだろう!!」

キラは追撃をかけようとブースターを噴射して距離を詰めていく。

「ぐ……!?だが、そこまで俺達(コーディネーター)を追い詰めたのは連合だ!!」

アスランはファトゥム00の推力でキラを引き離しにかかった。

「コーディネーターが宇宙に排斥される原因はコーディネーターになかったというのか!?」

コーディネーターが排斥される世論が形成される要因としてはやはり、コーディネーターによる犯罪が大きい。彼らによる犯罪の取り締まりは能力で劣るナチュラルにとって困難なものであった。更に、彼らの犯罪を弁護するのは同族意識の高く優秀なコーディネーターであり、彼らに有利なように判決を導く力を持っていた。

また、彼らは旧世紀から幾度も掲げられた人権、自由、平等という旗を掲げる彼らを政府も表立って冷遇することは難しかった。そこで各国は当時建造が進みつつあったL5の建設中コロニー郡に目をつけた。臭いものに蓋という理論からだろう。優秀なコーディネーターの技術者がコロニー建設には不可欠だと政府は声高に唱え、多くのコーディネーターを隔離させることに成功した。

しかし、ナチュラルと隔離された彼らは次第にコーディネーターとしての自尊心を肥大化させ、彼らが大多数がナチュラルが占める理事国が自分達の上の立場にあることに対して反感を持つようになった。そして自分達の待遇がその能力に比して低すぎると主張しだしたのだ。当然ながら作業に従事する工員の賃金についてはそれぞれの国の法律敵には問題の無い額を支給している理事国側が取り合うわけが無い。

このような傲慢な要求がコーディネーターの有能さから元々嫉妬感情を持っていたナチュラルたちの感情に油を注ぐ結果となったことは言うまでも無い。また、そんな時に発生したS2インフルエンザとそのワクチンの開発はナチュラルの大多数にコーディネーターに対する悪感情を持たせるのに十分だったと言えよう。

S2インフルエンザがコーディネーターによる生物兵器だったのか否か、その真相は歴史の闇の中であるが、それを抜きにしてもコーディネーターの増長はナチュラルにとって不愉快なものであった。しかし、ナチュラルから隔離されたプラントのコーディネーター達にその不快感が伝わるわけが無い。彼らの増長、そして突然の武力行使。

彼ら、プラントのコーディネーターの行いはコーディネーターという人種の行いとして大多数のナチュラルの目に映るものであったため、在地球のコーディネーターが地球に住む環境も苛烈となり、コーディネーターはますますプラントに移民するようになったという。

 

「そもそも最初に手を出したのはプラントだろう!!」

キラの口調も苛烈なものになっていく。彼自身もコーディネーターであったが、地球で多くの人と触れ合う仲でプラントのコーディネーターに対するイメージがコーディネーターに対する一般的なイメージとなっていることを肌で感じていた。幸いキラの周りで露骨に嫌悪の視線を送ってくる人物は少なかったが、プラントのコーディネーターに対する先入観で自分を見られることは彼にとってとても不快なものであった。

「連合の砲艦外交を打ち破るためだ!!」

アスランはスティックを捻り、ジャスティスを雷轟に相対する姿勢にすると一気に加速し、体当たりを仕掛けようとした。

「それじゃあただのテロじゃないか!!」

体勢を変えたジャスティスに対し、キラはビームサーベルを構えて迎え撃った。

衝撃で跳ね飛ばされた両機はすぐさま反転し、ブースターを噴射して体勢を整えた。二機のコックピットには二人の少年の荒い息遣いの音しか聞こえない。そして、無線を通して聞こえてくる互いの荒い息遣いから彼らは覚悟を決めた。

ここで勝負をかける――計らずともこれまで正面からぶつかり合ってきた二人の意思はここにきて初めて一致したのである。

 

 アスランがモニターに映るキラを見て、声をかける。

「もういい……どうやら俺達の間にある思想の隔たりは埋まるものじゃないことが分かった」

キラもモニターの中で肩を上下させているアスランを目にし、答える。

「そうだね。僕達は分かり合えないみたいだ」

 

 共にコーディネーターであり、同年代で、かつては親友であった間柄の二人――キラとアスランの間にはもはや埋めようの無い亀裂があることを彼らはそれぞれ理解していた。

「……父が導き、そして母が目指したであろうプラントの未来を果たすのは俺の悲願だ。たとえ幼馴染であろうと関係ない。悲願達成の邪魔をするのならば斬り捨てるだけだ」

アスランはハイライトは消えた瞳で雷轟を見つめ、その両手にビームサーベルを展開して構える。

「アスラン、君と僕の考えは相容れないみたいだ。こうして君と決裂したことは残念に思うよ。――でも」

キラは雷轟のビームサーベルを逆手に構え、独特の構えを取る。

「でも?」

アスランに問いかけられたキラは唇を吊り上げて好戦的な表情を見せながら口を開いた。

「ヘリオポリスからの決着を付けられるってのは悪くないと思わない?」

無邪気な笑みを浮かべながら告げられた言葉をモニター越しに聞いたアスランも好戦的な笑みを浮かべた。

「ああ……そうだな。ここらで決着をつけて再会とその後の戦いを清算しようか」

 

 互いのMSは構えを崩さず微動だにしない。コックピット内は静寂が支配し、微かに戦士達の息遣いが聞こえてくる。

その時、キラの駆る雷轟の肩部にデブリがぶつかった。恐らくはいづれかの陣営のMSのライフルの部品であろうか。だが、その衝撃で雷轟の姿勢が崩れる。そしてそれを見逃さずにアスランはフットバーを蹴り、ジャスティスの両手に展開されるビームサーベルを左右に広げた。

「サヨナラだ!キラ!!」

そのままジャスティスのビームサーベルはクワガタの顎が獲物を挟むような起動を描き、雷轟の胴に迫る。その光景は雷轟のコックピットにいるキラもモニター越しに捉えている。

負ける気は毛頭なかった。しかし、最後の最後でデブリに直撃されて致命的な隙を曝すとは。勝負は時の運とはよくいったものであるとキラは思う。思えばヘリオポリスを脱出してから戦い続けてきた。ヘリオポリスで幼馴染と再会することから始まった戦いが、幼馴染の手によってその幕を下ろされるとは人生というのはよくできているものだ。

これまでの出来事が一瞬の内に脳裏にフラッシュバックする。

 

 

 

――フレイの父親を守れなかったこと、自身を詰るフレイの泣き顔。

 

――地球降下中に撃墜されたシャトル、劫火の中に消えてゆく幼子の顔。

 

――砂漠で戦った砂漠の虎、最後まで戦いに正面から向き合った戦士の顔。

 

――アラスカで共に戦った銀のMS、絶望など感じさせない絶対的な技量を持つ侍の顔。

 

 全てが一瞬の内に脳裏に浮かび、消えてゆく。キラはこれが走馬灯かとおぼろげに察する。だが、走馬灯はまだ終わっていなかった。

 

 

――オノゴロ島のドッグの管制塔から自分を心配そうな表情で見送る夫婦、子を案ずる親の顔。

 

『帰ってきてくださいね……私のもとへ』

 

――今にも涙を零しそうな不安げな表情を隠そうと気丈に振る舞い、笑顔で自分を送り出そうとした乙女の僅かに紅潮した顔。

まだ待たせている人がいる。逢わなければ、言葉を伝えなければいけない人がいる。なら、ここで諦めるわけにはいかない。既にジャスティスの剣閃は目前に迫りつつあるが、それでも彼は諦めるという選択をしなかった。

 

 

 

「僕は……帰るんだぁぁ!!」

その時、彼の脳裏にはアメジスト色の種子が弾けるイメージが映った。そして彼自身は自覚していないが、その瞳からはハイライトが消えていた。

全てがスロー再生されたかのように感じられる。体感時間が圧縮された世界の中で、キラは操縦桿を握り、自身の目の前のコンソールのボタンを迷わず押した。

キラの指示通りに雷轟はバックパックユニットを自爆させ、その衝撃で雷轟はジャスティスの剣閃が描く死の軌跡を避けた。だが、同時にキラは雷轟の稼動する全てのブースターを噴射することでその場からさほど離れることなく踏みとどまった。そして雷轟は体勢を立て直すことなく機体に回転をかけ、そのままビームサーベルを振るった。

突然目の前で自爆したバックパックの爆炎で視界を一時的に失っていたアスランは反応が遅れてしまう。咄嗟にブースターを噴射して離脱しようとするも、間に合わない。ジャスティスの左肩から左足がビームサーベルにより斬り飛ばされる。

だが、雷轟の振るうビームサーベルはもう一本ある。二本目のビームサーベルはコックピットをなぞる軌跡を辿るはずだったが、咄嗟の反応でブースターを噴射したジャスティスの機体は半回転し、ビームサーベルはファトゥム00を切り裂くにとどまった。

同時にファトゥム00に搭載されていた推進剤と機関砲の弾薬に引火し、大爆発を起こす。

 

 先ほどのバックパックの自爆に続き、2度の爆発を至近距離で受けた雷轟はフェイズシフトダウンを起こし、その機体色をメタリックグレーに変える。だが、爆発で吹き飛ばされた雷轟を駆るキラはそのことなど気にも留めずにビームサーベルを構えた。

だが、そこにジャスティスの姿は無い。先ほどの爆発で機体が爆発四散したとはキラは思えなかったために警戒を怠ってはいないのである。だが、その時雷轟は戦域から離脱しようとしている半壊状態のジャスティスの姿をメインカメラで捉えていた。

 

「バッテリー残量も推進剤残量も限界か……アスラン、この決着は次につけるよ」

自機の状態を確認したキラは追撃を断念し、補給と整備のために母艦であるアークエンジェルへと針路をとった。アスランを無効化したとはいえ戦いは終わったわけではない。まだ彼が戦うべき相手は山ほどいるのである。

まだ、彼の戦いは終わってはいなかった。

 

 

 

 

形式番号 XFJ-Type3

正式名称 試製三式戦術空間戦闘機『雷轟』

配備年数 C.E.71

設計   富士山重工業

機体全高 18.1m

使用武装 71式突撃砲

     71式支援突撃砲

     70式近接戦闘長刀

     70式片手盾

     71式ビーム砲

     71式ビームサーベル

     71式複合砲

     71式高周波振動短刀

     71式大口径電磁ライフル

 

備考:ほぼFRAME ASTRAYSに登場するライゴウガンダム。

 

富士山重工業が次期主力MSのプロトタイプとして製作していた新型MS。ストライクの技術解析によって得られた技術を余すところ無く投入した機体で、つまりは日本製ストライク。大西洋連邦への逆輸出も考えていたらしく、ストライカーパックも運用できる規格を採用している他、肩部にもウェポンラックを取り付けている。

運用するストライカーパックとして高速戦用のストライカーと射撃専用のストライカーパック、汎用のストライカーパックの三種が用意されている。

高速戦用はほぼストライクのエールと同じだが、パック自体に75mm機関砲を搭載している。高速戦に対応するため肩部ウェポンラックは空いている。

射撃戦用は背部に71式複合砲二門と特別に試作された大口径リニアライフルを背部に背負い、肩部にミサイルランチャーを装着する。肩部ランチャーパックそのものにも推進機が備え付けられているため、弾切れになればユニットそのものを大型弾等として分離、発射可能。

汎用は背部にウェポンラックを増やしたエールストライカーのようなものを背部に装着する。これは推進力はエールに劣るものの、エールと違い突撃砲などもパックにマウントできる機構を備えており、ある程度任務を選ばない性能を誇る。肩部ユニットもバッテリー増槽ユニットや推進補助ユニット、ミサイルランチャーユニットなど多彩なものを選択可能。

近接戦闘用も企画はされたのだが、近接戦闘専用となると不便ということでオミットされた。

背部ストライカーパックの換装と両肩部のウェポンラックの換装で様々な戦況に対応できるマルチロールMSの試作という側面が大きい機体でもある。




活動報告に相談事をあげました。『活動報告欄』か『メッセージ』で意見をいただければ幸いです。


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