機動戦士ガンダムSEED ZIPANGU   作:後藤陸将

74 / 87
遂にオーブのまともな描写が来た……長かったですねぇ。ここまでオーブほったらかしたSEEDのSS見たことないです。これも全て小生の構成力の未熟さ故……


PHASE-56 オーブ動乱

大日本帝国 内閣府

 

 誰もが沈黙している。

ここは大日本帝国の中枢たる内閣府で、今この席に座る人物は皆、この帝国の舵取りを担っている優秀な閣僚であった。普段ならば活発な意見交換が行われているこの場所が静寂に包まれているのは、彼らが待っているからであった。そう、宇宙で皇国の興廃をかけて戦っている皇軍からの吉報を。

皇国を、地球を焼き尽くすプラントのガンマ線レーザーを破壊すべく星の海にZを掲げて出撃した第一艦隊を信じ、彼らは山のように堂々と席に座っていた。

 

 その時、会議室の扉がノックされ、防衛省の幹部と思わしき男性が入室する。そして何やら封筒を吉岡防衛大臣に手渡した。そして彼はこの部屋を足早に後にする。吉岡は封筒を開封し、中から一枚の紙を取り出した。閣僚達の視線がその一枚の紙に集中する。吉岡は小さく咳払いをすると、その紙に書かれている内容を朗読した。

「発、大日本帝国宇宙軍聯合艦隊第一艦隊旗艦足柄。宛、大日本帝国防衛省。本日、我々3カ国連合艦隊は事前の協定に則りL5に存在する各目標を襲撃し、目標を撃破せり。我ら第一戦隊は敵守備隊と交戦し、大いにこれを破り敵高速戦闘艦少なくとも3隻を撃沈し、MS運用母艦2隻を撃破。敵MS隊にも多大なる損害を与えたり。我が艦隊は損害少なし。ジェネシスを崩壊せしめたるところにて敵軍総司令部よりプラント最高評議会議員、ギルバート・デュランダル氏とアイリーン・カナーバ女史の連名での一時停戦要請を受諾。戦闘行為を中止す」

会議室にほっとした空気が流れる。そう彼らは勝ったのである。これからは停戦を要請した二人の議員らを中心としたプラント側の担当者と外務省の担当者が戦後処理を巡って交渉を始める段階に入るだろう。

とはいっても、既にザフト軍は壊滅状態、一方プラントを消滅させられるほどの艦隊を目の前で展開している連合。これほどの力関係がある中でもはや条件付降伏という状態とは言えない。プラントは無条件降伏を承諾したようなものである。降伏文書の調印も近い。

 

「これで戦争も終わりますな。この国を守るための戦争だったとは言え、犠牲も大きかった」

吉岡がしみじみと呟く。

「大蔵省としても泣きたいところです。戦争をふっかけられていかほどの経済的な損失を被ったか。それも今のプラントから搾り取って補填できる額ではありません」

榊は怒り心頭に発するといった様子だ。この戦争が勃発したことで国防費が上がり、国家の資産であるマスドライバーが半壊。更に戦争そのものの影響で経済活動も鈍った。帝国の受けた被害の補填や予算割り当ての変更などなど最近の彼は激務に追われていたのである。

同情の視線が榊に集まっているとき、再度会議室扉がノックされ、先ほどの防衛省の幹部と思わしき男が息を切らしながら再入室し、今度は裸の用紙を一枚吉岡に手渡した。それを目にした吉岡は目を見開く。

「発、大日本帝国宇宙軍聯合艦隊第三艦隊旗艦愛宕。宛、大日本帝国防衛省。L5宙域に東アジア共和国艦隊現る。同艦隊はデブリベルト内に隠匿されていた今回第一艦隊が破壊した戦略敵目標である大量破壊兵器の予備と思われる建造物を核ミサイルと思しき兵器を用いて破壊し、停戦交渉に連合国の一国として関与すると発表せり!?」

吉岡の朗読した内容に閣僚達は唖然とする。これまで蚊帳の外だったはずの東アジア共和国がここにきて無視できない活躍をしたとなれば当然である。また、東アジア共和国は連合内でもめてはいたが一応名目上は地球連合の加盟国であり、この終戦協定に参加する権利も持っている。

東アジア共和国は連合の中で爪弾き者にされ、かつこれまでの大戦で全くと言っていいほどに手柄をあげておらず、味方の足を引っ張ったり自滅したりという良いとこなしのために別に連合から追放しなくても終戦協定で大きな顔ができるわけがないという理由で放置プレイ状態であった。

しかし、地球を滅亡させる大量破壊兵器を破壊したとなればこれまでの悪行と相殺、いや、それ以上の成果をあげたことになる。そうなれば論功行賞に従って終戦協定では東アジア共和国にかなり配慮する必要が出てくるのである。

終戦協定のビジョンが思わぬところから湧いて出た強盗共のせいで完全に破壊された千葉外務大臣が頭を抱えている。

 

「私の描いていた戦後処理構想が……既にユーラシア連邦のレザノフ外相と大西洋連邦のアムール外務次官と調整をしていたのだが……」

先ほどまで榊大蔵大臣に集まっていた同情の視線が今度は自然と千葉外務大臣に集まる。だが、彼の苦悩はこれだけでは終わらないようだった。

またまた会議室のドアが開かれ、今度は女性の防衛省幹部職員が入室する。息を切らしたまま彼女は吉岡に駆け寄り、一枚の紙を手渡すとそのまま足早に会議室を後にした。渡された紙に目を通した吉岡は先ほどの報告を上回る驚きを顕にする。その紙を掴んでいる腕は小刻みに震えている。

「……南方海域を哨戒飛行中の帝国海軍第5航空群第502飛行隊に所属するP-70から緊急の報告が入りました」

プラントとの開戦までは連合、プラント両陣営の傭兵崩れや脱走兵による、対プラント開戦後はザフトにシーレーンを脅かされ続けていた日本は赤道連合などの中立国と海上護衛で連携するために哨戒機や艦隊を南方の海域に派遣し、シーレーンの防御に努めていた。今回報告を寄越したP-70もその海域で海上警備をしていた哨戒機である。

南方海域に海軍を派遣していることは当然閣僚達も承知していた。故に彼らはまず海賊による船舶の占拠やザフトによる攻撃ではないかと吉岡の態度から想像した。だが、事態は彼らの予想の斜め上をいくことになる。奇しくも先ほど同じような予想の斜め上の事態を造りだした国と同じ国によって。

 

「カーペンタリア攻撃を名目に海南島から出港した東アジア共和国艦隊がオーブ領オノゴロ島東の排他的経済水域を航行中、駆逐艦一隻が轟沈!!これをオーブ軍潜水艦による攻撃と断定した同艦隊がオーブ領海に展開していたオーブ艦隊と戦闘状態に入りました!!情報局からは既にセイロン島に展開中のカーペンタリア攻撃の別働隊も出港し、オーブ領海に進行中との情報届けられています!!」

閣僚らは再度絶句した。宇宙での戦いに決着がついても、今度は地上で新たな戦いの狼煙が上がっていたのである。その舞台はこの大戦の間一度も本土に戦火が及んでいなかった表向きは平和な南国の楽園、オーブ連合首長国であった。

 

 

 

オーブ連合首長国 ヤラファス島 内閣府官邸

 

 会議室の扉が開き、首長の正装服を着た男がドカドカと乱暴な足取りで入室する。

「一体どうなっておるのだ!?」

この髭爺こそがこのオーブ連合首長国前代表首長――つまりは前最高権力者であるウズミ・ナラ・アスハである。だが、前代表というのは肩書きのみの話で、代表の座を退いた今でもオーブの実質的な最高権力者である。

彼は本日赤道連合で開かれたマルキオ導師仲介によるジャンク屋連合との会談に出席していたが、オーブで武力衝突が発生したという緊急事態を受けて会談を中止し、オーブに帰国していた。

そして彼の弟であり、肩書き上はオーブ連合首長国代表首長――つまりは現最高権力者であるホムラが険しい表情を浮かべながら口を開く。

 

「……本日17時48分、ヤラファト島から西に50kmの我が国の排他的経済水域を航行中の東アジア共和国艦隊の駆逐艦『寧波』が突如爆発炎上。『寧波』は2分後に沈没。東アジア共和国海軍はこの攻撃を我が軍の潜水艦による魚雷攻撃であると断定、警戒のために領海に展開していた我が軍の第二護衛艦軍に攻撃を開始しました」

「……まさかとは思うが、海軍の潜水艦は本当に手を出していないだろうな」

ウズミは偽証を許さない鋭い目つきでホムラを睨む。基本的に小心者のホムラはその眼光に怯えて慌てて首を横に振った。

「そっ……そんなはずはありません。我が国は他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しないという理念を持っています。その理念を理解している国防軍がそんな蛮行にでるはずは」

ウズミは未だ額に皺を寄せているが、今すべきことは真実の追求ではないと姿勢を正す。

「分かった。私も国防海軍を信じよう……だが、現在の戦況はどうなっている?」

ウズミの問いかけを受けてこの場に立ち合わせている武官がモニターの前に立つ。モニターにはオーブ西側の海域の地図が映し出され、双方の艦隊の位置を示すマーキングがされている。そしてスクリーンを背に武官は現状説明を始めた。

「17時50分、東アジア共和国艦隊は沈没した駆逐艦『寧波』の溺者救助をする数隻の駆逐艦を残してオーブ領海に向けて前進。同時に艦対艦ミサイルを発射しました。我が艦隊はこれを迎撃するも、そもそもの艦艇の数、艦艇一隻あたりの搭載ミサイル数で勝る敵艦隊のミサイルを全て迎撃することはできず、撃ち漏らしが当方の艦隊に着弾しました。第二護衛艦群の護衛艦タケフツが弾薬庫の誘爆で轟沈、トヨフツが喫水線を破られ1時間後に沈没。その他3隻が被弾して小破しております。また、イージス艦ソコツツノヲが前部甲板に被弾し、速射砲を損傷し中破しました」

自軍の損害を聞いたウズミは渋い顔をする。

「……敵艦対艦ミサイルを凌いだ第二護衛艦群は反撃に転じ、艦対艦ミサイルにて敵駆逐艦3隻と巡洋艦1隻を撃沈、駆逐艦2隻と巡洋艦1隻を撃破しました。しかし、その後敵艦隊の航空母艦『幽州』から発艦した攻撃機が攻撃を開始し、この空襲で更に護衛艦2隻が大破しております。国防空軍の戦闘機、清風が現場海域に緊急発進し敵艦上機部隊を撃滅することには成功しましたが、清風も2機が撃墜される被害が報告されております」

そこまで言うと、武官はコンソールを操作する。すると、海域図に映っていた東アジア共和国艦隊を示すマークが遠方に移動した。

「そして敵艦隊は上空を戦闘機で護衛しながら西方に転舵して離脱しました。現在はヤラファト島から西に150km先の海上を西進中です」

徹底的な専守防衛を謳うオーブは本土や領海が狭いことを理由にあまり航続距離の長い攻撃機を得てはいなかった。爆撃機も侵攻はオーブの理念に反するというウズミの考えによりオーブ国防軍は採用していない。幾度も国防軍は防備のために必要であるとウズミを説得しようと試みたのだが、ウズミは頑として首を縦に振らなかった。そしてそのツケは今払われているのである。

当然のことであるが、このような馬鹿げた理由で国防軍に口出しを事あるごとにしてくるウズミの軍内での評判はすこぶる悪い。

 

 事態の説明を聞いたウズミは重苦しい表情を浮かべる。宇宙では2極化した世界で他方を――自身の認められない存在を滅ぼすべく凄惨な戦いが繰り広げられている。どちらが勝ってもその後に残るのはコーディネーター優良人種論を唱えるパトリック・ザラかコーディネーター絶滅を唱えるムルタ・アズラエルのイデオロギーにそまった世界だ。

そのような世界は彼にとって許容できるものではなかった。世界を一つの色で染め上げようとする行為は彼にとっては到底許しがたいものであった。それゆえに彼は首長時代にオーブの厳正中立化という立場を明確にしたのである。

だが、今この国が、自由の国が攻められている。この国の理念を心無い輩に冒涜されるわけにはいかない。理念を守るためであれば我々は躊躇せず敵を斬り払うために剣を抜く。とは言えど、最後まで外交努力は続けなければならない。

東アジア共和国大使を召喚すべきではないかとウズミが思案していたその時だった会議室に備え付けられていた緊急用回線に通信が入った。ホムラが受話器を取ってそれに応対するが、応対している彼の顔は次第に青ざめていった。

ややあって受話器を置いたホムラは消沈した声で報告した。

「つい先ほど、大日本帝国からの緊急連絡が入りました。インド洋を南下中の東アジア共和国主力艦隊が転進し、東進をはじめたとのことです。そして、在オーブ東アジア共和国大使館の華大使が先ほど外務省を訪れ、今回の武力衝突におけるオーブ側の非を認めて謝罪と賠償をするように要求したという報告が入りました」

 

 ホムラの報告を聞き、会議室に揃ったメンバーは皆悲痛な表情を浮かべている。東アジア共和国は現在地球上で四番目の国力を誇る大国だ。オーブの30倍以上の人口を抱え、GDPは世界第四位という国力に支えられた軍隊はともかく異常なほど数が多いことで知られている。

東アジア共和国軍といえば今回の大戦では新星攻防戦でぼろ糞に負け、地上でもザフト侵攻部隊に蹴散らされと全くといっていいほど戦果がなく、雑魚との印象をもたれてはいる。だが、圧倒的な国力差がある理事国をその技術力とナチュラルを凌駕する身体能力を持って退け続けてきたザフトを相手にしたためにここまでボロボロにやられたのであって、それほどに弱い軍隊であるというわけではない。

そもそも、建国以来実戦経験が無い戦闘処女を多く抱えるオーブよりは内乱鎮圧や侵略や海賊行為で実戦経験が豊富だ。そして、大戦開戦以後は同盟国となった大西洋連邦やユーラシア連邦から多くの兵器(まず例外なくダウングレード版である。各国がこの国を信頼しているはずがない)を購入しているために兵器の質も向上している。

問題はまだある。東アジア共和国の兵は昔からそのモラルの低さで多くの国を恐怖させてきたという事実がある。第三次世界大戦での捕虜虐待、占領地での過酷な搾取、宗教施設の破壊、婦女暴行、民間人の無差別虐殺、人攫いetc……と列挙すればことたりない蛮行はアジア各国の記憶に新しいことである。

つまり、彼らはそこそこに統率された賊なのである。そしてその強欲さは時に本家の賊をも凌駕する。国の誇る技術を、工業力を、財を略奪されるだけではすまない。国民を陵辱され、殺戮され、彼らの価値観にそぐわない文化財も繁栄する都市も全てを破壊されるのである。この国の為政者として、いや、一人の国民としてこのような蛮行は断じて認めることができないことであった。

 

そして最大の武器である数。先ほどの西方での武力衝突で東アジア共和国が海南島から派遣した艦隊ですら駆逐艦15隻、巡洋艦5隻、正規空母1隻を揃えた侮れない艦隊であった。だが、これにセイロン島から合流する主力艦隊が合流すれば、正規空母3隻、巡洋艦25隻、駆逐艦80隻、強襲揚陸艦3隻からなる大艦隊となる。

おそらくはこれに軌道降下部隊や空軍の爆撃機が加わる可能性が高い。これほどの数の暴力を前にどれほど奮闘できるかは怪しいものがある。武装中立を建国以来の国是としているこの国は何処の国とも軍事的な同盟もしくは協力関係になってはならない。それゆえに他国から侵攻されても敵侵攻部隊を独力で跳ね除けるしかないのだ。

 

 ウズミは真剣な表情でホムラに言った。

「……私から、東アジア共和国大使館に連絡しよう。事実関係を精査するので、明日朝9時に内閣府官邸を訪ねてほしいと」

「お願いします」

頭を下げたホムラを横目にウズミは足早に会議室を後にし、内閣府官邸の前に止めてあったエレカに乗り込んだ。

 

 それを窓から見送ったホムラは苦々しい顔をする。本来であればホムラが命ずる側であるのだが、実際はウズミが最高権力者であることに代わりが無い。だからついホムラは下手にでてしまう。そもそも、本当ならばホムラが代表首長になることなどはありえないはずであった。

それがヘリオポリスの件で突然代表を辞任したウズミの後任としての役がまわってきたのである。ホムラが人の上に立つような性格も適正もないことはウズミもわかっていたはずだ。だが、ウズミは慣例となりつつあるアスハ家の代表首長の世襲を守るべくホムラに役割を担わせたのである。おそらく、ゆくゆくは一人娘たるカガリに代表首長の座を手に入れさせるために。

しかし、ホムラは国政を自身の考えで食い物にするウズミに対する反発心は抱くものの、ウズミに逆らう気概は全く無い小心者であった。

アスハ家による事実上の最高権力の世襲とその独裁政治、ウズミの理念最優先の姿勢がもたらす害をオーブ国民はそう遠くないうちにその身を持って思い知ることになる。




ようやく登場ウズミさん。
やはり阿呆です。大事なことですから2回書きます。彼奴は阿呆です。

他の国の指導者はまともなのにこいつだけ救いようの無いバカということで自分ウズミの考え方を書いてて戸惑うことが幾度もありましたねぇ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。