機動戦士ガンダムSEED ZIPANGU   作:後藤陸将

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PHASE-61 救出

 凄まじい轟音と共にシェルターが震える。シンはその振動に怯えている妹を庇うように抱きしめていた。

不発弾が埋没している可能性が高い道を通行することは危険であるとシンの父は判断した。そして、死の危険を冒して日本への脱出船団を目指すことよりもまず家族の命を守ることを優先し、最寄のシェルターに駆け込むことにしたのである。

だが、そのシェルターの内部は既に人で溢れかえっており、彼らはその一角、座るのがやっとのスペースしか得られなかった。しかも彼らがそこに駆け込んでからというものの、次第に爆発音と衝撃が大きくなっているように感じていた。

東アジア共和国の軍隊が近くまで迫っているのかもしれない――そう考えたシンは背筋を凍らせる。だが、不安をできるかぎり顔に出さないように彼は必死で耐えていた。

「お兄ちゃん、怖いよぉ……私達も死んじゃうのかなぁ?」

「大丈夫だって。オーブは東アジアの軍隊と違ってMSも実用化しているんだぜ?」

自身の腕の中で泣いている妹を少しでも安心させるためにシンは明るく振舞っている。だが、確実に戦火はこのシェルターに迫っていることはシンも理解している。今自分が妹に語りかけているのもただの慰めのようなものだ。

 

 シンの父親――ユウマ・アスカもこれまで家族の前で見せたことの無い苦悩の表情を浮かべていた。このままではいづれこのシェルターも持たなくなるやもしれない。そうなれば自分達は一体どうなるのだろうか。

日系人でコーディネーターとなれば自分と息子は一方的な言いがかりを付けられて殺されるか強制労働か――妻と娘は辱められる可能性がある。どちらにせよ、到底容認できるものではない。

故に、ふと考えてしまう。ルク港に向かっていたとき、あのまま危険を冒してでもあの道を進むべきではなかったのかと。確かに不発弾の爆発に巻き込まれる可能性はある。だが、逆に言えば巻き込まれない可能性だってあったはずだ。

家族の中から一人二人欠けたとしても、残りはルク港にたどり着いて日本に脱出できたかもしれないのだ。家族がバラバラに無残な死を遂げるか辱められるかという結末になるのであれば、その方がよかったのかもしれない。

横を見ると、妻も不安そうな顔を浮かべている。息子は妹を励まそうと必死で不安を押し殺しているのだろう。その様子を見てユウマは気持ちを切り替える。自分は一家の長として家族を守る責任があるのだ。過ちを悔いることは生きていればいつだってできる。今すべきことは後悔ではなく、これからどうすべきかだ。

 

 このシェルターが占領されたのち、子供達を守るにはどう振舞えばいいのだろうか、ユウマがそんなことを考え始めたときだった。突如シェルターにこれまでとは比べ物にならない巨大な衝撃と爆音が響いた。ユウマの娘――マユが叫び声をあげる。

どうやら、このシェルターにごく近いところに対して砲撃や爆撃がなされた可能性が高い。爆撃や砲撃の衝撃そのものであればこのシェルターならば耐えられるだけの強度があるだろう。しかしいくらシェルターとはいえ、直撃となればそう何度も攻撃に耐えられるだけの強度は備えていないはずだ。

最悪このシェルターも崩落する危険がある。万が一の場合は自分が子供達を守る盾になろうと子供達に近づいたとき、更なる衝撃がシェルターを揺さぶった。凄まじい轟音と共にシェルターが大きく揺れる。自身の子供達に歩み寄ろうとしていたユウマは立っていられず、体勢を崩して息子に向かって倒れこみ、偶然覆いかぶさる形となった。

「と、父さん!?」

突然自身に覆いかぶさった父の行動にシンは驚く。だが、ユウマはその場から動こうとはしなかった。

「シン、じっとしてろ!マユを守るんだ!」

幾度の攻撃でシェルターの内部に被害が及ぶのか分からない以上、いつ天井の崩落などが起きてもいいように子供達を守れる体勢を取ることが最上の手だとユウマは考えたのだ。

 

 不規則な間隔をあけてシェルターが轟音と共に揺さぶられる。天井から軋むような音も聞こえている。そして、シェルター内部の明かりが突然切れ、シェルター内は暗闇に包まれた。人々の恐怖と絶望の入り混じった叫びがシェルター内に満ちていく。

ユウマは持っている携帯端末を開いて灯を確保する。万が一の時にはその危機をいち早く察知するためにも、子供達の不安を軽減するためにも灯が必要だと考えたのである。

そんな状況下で、一方のシンはマユを一生懸命励まそうとしている。周りでは幼子のすすり泣く声も聞こえてくるが、未だにマユが泣き出していないのは偏に励まし続けている兄がいるおかげに違いない。

「お父さん……喉渇いたよぉ」

だが、恐怖は我慢できても、マユの体力は既に限界に近かった。ルク港手前から引き返してずっと何も彼らは口にしていなかった。10歳の体には無補給で走り続けたことは無視できない負担となっていたのだろう。

だが、持ち合わせだけを持って家をでた彼らにはクッキー一欠けらも無ければ、水一滴もない。このシェルター内部にも非常食の蓄えはあるかもしれないが、この状況下でそれを取りに行こうとすることは許されるはずがない。

苦しいだろうが、マユには我慢してもらうしかないのである。

 

「マユ、もう少しだけ我慢を」

「あの……よかったらこのお水を飲みませんか?」

マユを諫めようとしたその時、隣に座っていた妙齢の女性が水の入ったペットボトルを差し出した。マユは目の前に差し出された水に目を白黒させ、飲んでもいいかと確認するように父親の顔を見つめた。

「よろしいのですか?これからどれだけの間ここに閉じ込められるのかわからないのですよ?」

ユウマに訪ねられた女性は柔らかな微笑みを浮かべながらユウマに応える。

「大丈夫です。自分達はもう1本持っていますから。それに、子供達が苦しむ様子は見たくないんです。私も、そこの男の子と同じくらいの子供がいますから」

「……ありがとうございます。ほら、シン、マユも」

ユウマに促され、子供達も感謝の言葉を口にする。

「ありがとうございます!!」

「あの……その、ありがとうございました」

女性は気にすることはないと告げる。

 

「ご婦人……あ、ええと」

「私はカリダ・ヤマトと申します。こちらは夫のハルマです」

「これはご丁寧に。自分はユウマ・アスカと申します。こちらが妻のケイコで、息子のシン、娘のマユです」

マユとシンが父親に促されて会釈する。その様子をハルマは目を細めて見つめ、ユウマに声をかけた。

「いい、息子さんですね」

「はい。妹を必死に守ろうと体を張れる自慢の息子です」

父親にほめられたシンは顔を赤くする。ハルマはその様子を見ながらポツリと口を開く。

「自分の息子も同じ年頃なんですがね、色々とあって、今は日本にいるんです」

「日本ですか……それでしたら安心ですね」

その言葉のどこかにひっかかるところがあったのか、ハルマが複雑な表情を一瞬浮かべたことをユウマは見逃していなかった。だが、子供達を助けてくれた恩人に対してこの場で詳しく尋ねることは失礼にあたると考えたユウマは深くは追求しないことにした。

 

 そしてユウマが他愛のない話題を振ろうとしたその時であった。これまでとは比べ物にならないほどの凄まじい衝撃がシェルターを襲った。耳が一時的に聞こえなくなるほどの轟音がシェルター内に響き渡り、体勢を保てなくなった人々は耳を押さえながらその場で地に伏せる。

だが、その衝撃が収まる前に再度の衝撃がシェルターを揺るがす。同時に爆風と熱がシェルター内に流れ込み、ヤマト夫妻とアスカ一家は壁際まで吹き飛ばされる。そこでユウマの意識は途切れた。

 

 凄まじい衝撃を受けたが、コーディネーターであり、若いシンは再起までにさほど時間を有しなかった。すぐに体を起こして周りを見渡し、家族の安否を確かめようとした。しかし、起き上がろうと地についた右腕にシンは激痛を感じた。

血はでていないようだが、瓦礫か何かで強く打ち付けたらしい。骨折している可能性も考えてしまう。そしてその時違和感に彼は気づく。先ほどまでとは異なり、この真っ暗だったシェルターに光が差し込んでいる。

そして何が起こったのかに察しをつけた。先ほどの攻撃でシェルターの外壁が破壊され、シェルターの一部がその衝撃で崩落したのだ。自分達は運よくシェルターの外壁が破壊されたときの衝撃でシェルターの崩壊した区画の外まで飛ばされたらしい。

光が差し込んでくる方向に目を向けたシンは目を見開く。そこにはシェルターの外壁は無く、爆撃の焦げ目を地面に残した外の世界があった。その奥には鋼の巨人の姿が見える。そしてその更に奥に見えるのは戦車の群れであった。

MSは戦車隊に立ち向かっているように見える。シェルターを背に戦っているということは、このMSは味方だろう。そして、それに相対している相手はおそらく東アジア共和国軍だ。

 

「シン!!早く来て!!お父さんが!!」

シェルターの方から母の泣きそうな叫びを聞いてシンは慌てて母の声がした方向に走り出した。幸いにも家族は皆離れたところに飛ばされてはいなかったらしい。マユのそばには世話になったヤマト夫妻もいる。彼らも無事だったようだ。

「東アジアの戦車が近くにまで来てるんだ!このままじゃ……!?」

シンは自らの目で見てきた現状を簡潔に伝えようとして、目の前の惨状に目を見張る。

大きな瓦礫が父とマユの上に落下していた。そして、その瓦礫の下からは血が染み出し、大きな血だまりをつくっていた。これが父の血か、マユの血かは分からない。だが、このままでは二人とも命が危ないということに気がつく。

「シン君!こっちに来てくれ!これで瓦礫をどかす!」

振り返ると、ハルマさんが手に鉄パイプらしきものを2本持っていた。そしてその一本をシンに渡し、自身が持つもう一本のパイプを瓦礫の下に差し込んだ。そしてパイプの下に支点となる瓦礫を置く。

梃子の原理を使って瓦礫を取り除くということに気がついたシンもハルマに習い、パイプを瓦礫の下に差し込んだ。

「いいか!?いくぞ!!せーの!!」

シンは全力で鉄パイプを下ろそうとするが、瓦礫はびくともしない。だが、諦めるわけにはいかない。母やカリダさんもパイプを手にもった。

「もう一回だ!!せーの!!」

再度瓦礫の撤去を試みるが、瓦礫はびくともしなかった。

ハルマは周りを振り返り、助けを呼ぼうとする。

「すみません!!誰か力を」

だが、救援を求める言葉を最後まで口にする前に、半壊したシェルター内に絶叫が響き、彼の声を掻き消してしまった。

 

「東アジアが来るぞ!!」

「逃げろ!!逃げるんだ!!」

「急ぐんだ!!このままだと殺される!!」

人々はまるで蜘蛛の子を散らすように半壊のシェルターから逃げ出してゆく。半壊したシェルターには未だに瓦礫の下敷きになっている人や爆風で怪我をして動けない人など、自力ではここから脱出できない人が多数いるのに関わらず、五体満足な人間が我先にとこの場を後にしていくのだ。

「助けてくれ!!父さんが瓦礫の下敷きになってるんだ!!」

シンは逃げようとする人を呼び止めようとするが、彼らの答えは非情だった。

「うるせぇ!!俺は逃げるんだ!!人のこと助ける暇なんてあるか!!」

シンたちは必死に助けを求めるが、誰も聞こうとはしない。だれもが我が身可愛さに人を見捨てて逃げていく。その身勝手さにシンは怒りを覚え、殴りかかろうかとまで考えてしまうが、父親とマユの容態は一分一秒を争うものだ。喧嘩をしている場合ではないと考えたシンは何とか自分達だけでマユと父を助け出そうとパイプに力をこめる。

だが、やはり瓦礫はびくともしない。父親を見ると、既に意識もないようだ。その時、目の前で奮戦していたMSの胴体が爆ぜた。同時に戦車隊がシェルターに向けて距離を詰めてくる。随伴している車両には多数の歩兵が乗っていることも確認できる。

もはや一刻の猶予もないシンたちは焦りながらも必死にパイプに力を籠める。いくら力を籠めてもびくともしない鉄パイプに必死になってくらいついていたシンだが、勢いあまって体勢を崩して転んでしまう。

そして彼は起き上がるときに外を見て絶望した。戦車に随伴していた歩兵が車両から降りてこちらに向けてバズーカのようなものを構える様子が見えてしまったのだ。ヤマト夫妻も母さんも気づいてしまったらしい。パイプに籠める力を緩めて呆然としている。

ここで死ぬのかという思いがシンの胸中に溢れる。妹も両親もここで死ぬ。親切なヤマト夫妻もここで死んでしまう。何故、どうしてこんなことになったのかは分からない。だが、避けることのできない運命というものを目の当たりにした彼は脱力して膝をついてしまう。

 

 その時だった。天から火箭が降り注ぎ、戦車隊は火の雨に貫かれて次々と爆発炎上していく。何事かと空を仰ぎ見たシンの目に映ったのは、肩に日本の国籍を示す日の丸のペイントが入ったトリコロールのMSだった。そして目の前のMSの外部スピーカーから若い男の声が発せられた。

『父さん!!母さん!!』

その声を耳にしたヤマト夫妻は目を丸くしていた。

 

 

 

 

 目の前の光景にキラは驚きを隠せなかった。戦闘機隊を追い回しているうちに発見した崩落した山中のシェルターの中に、彼のよく知る人の姿が映っていたのである。

血だまりの上の瓦礫に取り付いている中年の夫婦は彼の両親だった。一先ず彼は両親のいるシェルターに近づきつつあった東アジアの地上部隊を36mm弾で掃討する。次いで上空で援護をしていた戦闘ヘリコプター部隊を次々と狙い撃ち、撃墜した。

周囲の敵を掃討したことを確認したキラはスピーカーで両親に呼びかける。

「父さん!!母さん!!」

両親はキラの声に反応してくれた。だが、その表情は必死だった。

「キラ!?キラなの!?」

「キラ!!そのMSに乗っているなら、この瓦礫をどかしてくれ!!女の子が下敷きになっているんだ!!」

両親の必死さから事態は切迫していることを察したキラは急いで近寄り、瓦礫を雷轟の右腕で掴みあげた。同時に瓦礫の下に少年が潜り込み、横たわっていた少女を抱きかかえる。少女の両足は血で真っ赤に染まっていた。その隣で横たわっている男性は胴から下が血に染まっている。こちらは一刻を争うほど危険な容態に見えた。

 

 敵兵の排除を確認したキラは雷轟をシェルターに向けようとして迷った。

ここで彼らを救助すれば、自分は一度アークエンジェルに帰還しなくてはならない。だが、私情を挟んで身内を救助したとなれば、それは軍令違反となる。ここには先ほど助けた少女たち以外にも負傷者が多数いるのだ。その中で身内だけ助けたとなれば身内を贔屓して助けたととられても仕方が無い。

軍人でなければ迷わず目の前の少女を助けられたが、今のキラは軍人だ。自身の行動の責任を自覚している。

その時、機体が警戒を知らせるアラートを発する。同時に目の前の林から歩兵用ミサイルと思わしきミサイルが雷轟を目掛けて飛んでくる。一瞬避けようとしたキラだが、後ろに両親がいることを思い出して迎撃に切り替える。

彼の放った36mm弾は違わずミサイルを撃墜する。だが、キラが報復にでる前にミサイルの第2射が彼を襲った。キラは背後を気にして迎撃しかできず、防戦一方だ。目の前の林から攻撃しているらしく、こちらからは目標を視認できないために反撃ができないのである。

キラが唇を噛みながら耐え忍んでいるとき、上空から発せられた光の束がミサイルを放った歩兵が潜んでいると思われる林ごと焼き払った。

 

「キラ君!!何をしてるの!!」

「マリューさん!!」

上空に現れたのはアークエンジェルであった。マリューは苦戦しているキラを見て、主砲の大火力を使用して目の前の林を焼き払うように命じたのである。

「後ろに両親がいるんです!!それに怪我人も!!それで!!」

キラの必死な表情を見たマリューは険しい表情を浮かべる。確かに、自身の後ろに身内がいるとなれば決して無視はできない。キラが躊躇しているのはここでキラが両親が助けた場合、軍令違反になることを理解しているからであろう。

「なるほどね……分かったわ。アークエンジェル降下準備!あのシェルターに取り残された民間人(・・・・・・・・・)を救助する!!キラ君は周囲の敵兵を掃討して!!戦車一台、歩兵一人たりとも通さないこと!!いいわね!?」

キラは満面の笑みを浮かべて命令を受け入れる。

「艦長!!ありがとうございます!!蟻一匹たりとも通しません!!」

通信を切ると、キラの駆る雷轟は大地を蹴って走り出す。目標はアークエンジェルの砲撃を逃れた敵歩兵だ。

「守るって強い意思があれば……そうだ、僕は今度こそ、守るんだぁ!!」

キラの脳裏でアメジスト色の種子が弾けた。

 

「艦長!!」

チャンドラがストッパーに入ろうとする。だが、そこに小室が口を挟む。

「了解しました。本艦はこれより、戦火に巻き込まれて負傷した民間人を救出します!!」

「副長まで!!これは軍令に」

チャンドラは異議を唱えるが、小室は気にした様子を見せない。

「チャンドラ君、私達は表向きとはいえオーブで失われる民間人の命を減らすという大義名分を掲げた義勇軍だ。その大義名分とやらも本省(防衛省)側が考えたものだからね、我々がその大義名分に従ったとしても、よっぽどの被害をそれによって出さない限りは強く追求されはしないさ」

マリューも困ったように笑いながら口を開く。

「もし、問題にされたとしても、その責任は私が背負うわ。私達がこうしなかったら、あの子は結局ご両親を助けようと軍令違反をしたでしょうから。……私はね、かつて自分たちのエゴであの子を戦争に巻き込んで、ご両親と離れ離れにした張本人なのよ。少年を戦場に引っ張り込んで連れまわして行動を縛って……でも、あの子は私についてきてくれたわ。だから、今度は私があの子にできることをしてあげたくなったって思いもあるのよ。フフ、私こそ私情を優先して軍令違反をしているのかもしれないわね。余計にキラ君を責められないわ」

 

 白亜の大天使はその羽を下ろし、胴体にある貨物搬入口を開放する。そしてそこから下ろされたタラップから作業用ワークローダーが次々と降りていき、瓦礫をどかして下敷きになった怪我人を救い出し、自力では動けない怪我人を搬送を始めた。

「急げ!!出血がヤバイやつと意識がないやつから優先して医務室に運び込め!!時間がねぇぞ!!」

普段はMSの整備に活躍していたワークローダーであるが、開発時には災害時に重機の代用として使えるようにも考慮されていたためにこのような現場では大活躍するのである。

 

 シンは血まみれの妹を抱きかかえて治療室に先導する士官の後を必死でついていく。彼の父はハルマが背負ってそれに続く。そして彼らは応急治療室の前にたどり着く。壮年の男性と若い男性がその部屋の中から出てくる。壮年の男性は若い男性に彼らが抱える怪我人を寝台に移すように指示した。

「武山軍曹、彼女をそこの寝台に、男性はそこの寝台に寝かせてくれ。坊主、ここからは私が引き受けよう。よく頑張った」

「マユを……妹を、父さんを死なせないでくれ!お願いします!!」

シンは頭を思いっきり下げる。隣に立つ母も深々と頭を下げていた。

「全力を尽くそう」

そう言うと船医は彼らに背を向ける。

「ここまでです!」

シンたちは看護科の女性に肩を押され、手術室の前から強制的に追い出される。そして、彼らが見守っている目の前で手術中を示す赤いランプが灯った。




やはり不幸フラグから逃れられないアスカ一家でした。

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