Fate/Forced Cast   作:砂皿めろん

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1日目
プロローグ 配られない台本


 まず、一騎のサーヴァントが召喚された。

 

 

 たった一騎の英霊が召喚された。

 

 

 そこは特別、魔力に満ちているわけでも過去に何らかの魔術的因縁があるわけでもない普通の土地で、そんなありふれた場所にそれは忽然と姿を現した。

 

 

 その英霊に割り当てられたクラスは、キャスター。

 

 

 それが全ての始まりである。

 

 

 以降七日間にわたる全ての出来事の、()()である。

 

 

 

 

 

 

 

ーー1日目 明朝 未だ薄暗い公園にてーー

 

 

 

 

 「聖杯戦争をご存じでない!?」

 

 人気のない公園。我がマスターはそう言って、どこかオーバーリアクションぎみに驚いてみせた。

 

 聖杯戦争。見たことも聞いたことも参加したこともないそれは、私にとって容易に理解出来る単語ではなかった。

 

 聖杯、と言うからには、恐らくその『聖杯』とやらを奪いあう戦争なのだろう。その程度は推測できる。

 

 「まぁ概ねその通りだけどさぁ。お前サーヴァントなんだろ? だったら普通召喚される時に万能の願望器たる聖杯くんが色々教えてくれてるはずなんだけどなぁ」

 

 訳が分からないという風に首を傾げる我がマスター。

 

 数分ほど前、私がこの場所に召喚(?)されてからマスターはずっとこの調子だった。

 

 目と目が合うなり、『汝が俺のサーヴァントか?』とかなんとか聞いてきたのだが、なんのことだかさっぱり分からず、言葉を濁すことしか出来なかった。

 

 私は何も知らない。何も、分からない。

 

 主人を真似して、私も首を傾げてみた。

 

 ......主人(マスター)

 

 そもそもなぜ私は、この人をマスターだなどと思うのだろう? 不思議な感じだ。

 

 「あーあ。どうせ召喚するならジャック・ザ・リッパーちゃんとかナーサリー・ライムちゃんとかが良かったのに、それが外れたどころか、聖杯戦争について何にも知らないだなんて、ホント運悪いよ俺。リセマラしてもいい?」

 

 リセマラ? とは何のことだろう? よく分からない。

 

 「てかこれ聖杯側のミスだろ。詫び石はよ!」

 

 夜明け間近の公園に、マスターのよく分からない叫びが響く。本当によく分からないが、どうやら苛立っているというのだけは感じ取れた。

 

 それが私のせいであるかどうかは定かではないが、無条件に申し訳ない気持ちに駆られる。

 

 「なんかやる気なくしたわ。聖杯戦争についての説明なら軽くしてやるから、あとはお前で勝手にやってくれ」

 

 マスターはベンチの上に横たわるようにして寝そべった後、地平線の向こうから太陽が登りつつある空を見上げた。その態勢のまま、何気ない調子で問いかける。

 

 「つーかお前、クラスはなんなの?」

 

 クラス?

 

 「セイバーとかランサーとか、そういうのだよ。あーもうめんどくせーな」

 

 セイバーとか、ランサーとか.....

 

 オウム返しのようにマスターの言葉を頭の中で反芻する。すると不思議なことに、その『クラス』とやらに関する情報が、朧気ながら私の知識の底に浮上した。

 

 

 

 私のクラス。

 

 それは、きっと......

 

 

 

 

 

ーー同時刻 高級マンションの一室にてーー

 

 

 

 「アーチャー」

 

 

 黄金の英霊はそう名乗った。

 

 名乗るや否や、自身のマスターに向けて無数の武具を射出する。

 

 一撃。神殺しの逸話を残した名剣。

 

 二撃。竜をも殺す毒にまみれた神槍。

 

 三撃。千里先まで届く光速の弾丸。

 

 それだけではない。四方八方、あらゆる角度から繰り出される武器の数々その全てに必殺の破壊力が込められていた。それを約十秒間、絶えず繰り返す。

 

 しかし、それでも、

 

 黄金の英霊の眼前に佇む一人の少年は、瞬き一つせず、射出される武具全てを()()()()()()

 

 黄金の英霊の眉が吊り上がる。そこに込められた感情は怒りか驚きか称賛か。

 

 

 「クラスなら」

 

 怒濤の攻撃が終わり、刹那の静寂の後に少年は口火を切る。

 

 「自分のクラスぐらいなら、どうにか言えるみたいだね」

 

 その言葉が、言い方が気に食わなかったのだろう。黄金の英霊は手首をクイッと上げると同時に、先刻と同様の攻撃を少年に向けて繰り出した。

 

 少年は顔色一つ変えず、またもそれら全てを撃ち落とす。

 

 「でもそれ以外はまるで知らないみたいだ。君はこの場に召喚されるなり、『ほう、ここが冥府の国か』だなんて呟いていたけど、全然違うから。その後僕を見るなり『どうやら冥府の案内人らしいな。ふん、見るからに生気のない面よ』とかも言ってたけど、的外れにもほどがある」

 

 

 「.........」

 

 

 黄金の英霊、アーチャーは黙ったままだった。

 

 「なるほど、な」

 

 小さくそう呟いた後、目の前の少年を鋭く睨み付ける。

 

 「貴様、(オレ)の眼前に立ちながらいつまでも頭を垂れぬと思えば、なるほど、通りで垂れぬわけだ」

 

 何か自分なりに状況を理解したのだろう。自信たっぷりに、胸を張るようにアーチャーは続けた。

 

 「宇宙人なのだろう? 貴様は」

 

 「え?」

 

 「通りで先程から言葉が通じぬわけだ。(オレ)の視界に映り込みながら頭を垂れぬのも仕方がない。さすがの我と言えども、星の外にまで威光が届いている道理はないのだしな。そして(オレ)の宝物を全て防ぎきってみせたその異能。そして異常。この星の生命ではありえぬ。貴様は、宇宙人というものなのだ」

 

 「............」

 

 少年は黙ったまま、笑顔になった。

 

 もちろんそれは面白かったからだし、微笑ましかったからだし、安心したからでもある。

 

 だが1番の理由は、可笑しかったからである。

 

 

 

 ーーてんで的外れだ。笑うしかない。

 

 今もなお威張るように腕を組んでいるアーチャーに対して、少年はそう思った。

 

 

 だから少年は、目の前の英霊のことをこれからこう呼ぶことに決めた。

 

 

 

 的外れのアーチャー、と。

 

 

 

 

 

 

ーー同時刻 山の中腹にある竹林にてーー

 

 

 

 

 ランサーを名乗る英霊が召喚されて数分、そこに残っているのは一人の魔術師ただ一人だった。

 

 ランサーは、もういない。

 

 しかしそこには、魔術師の眼下には、一本の長い長い槍が地面に深々と突き刺さっている。

 

 ランサーの槍だった。

 

 「まったく、もしかして私、とんでもないサーヴァントを召喚しちゃったのかもね」

 

 魔術師の女は一人、右手で頭を押さえるようにしてしゃがみこんでいた。

 

 「武器なんかいらない。聖杯戦争なんか知らない。って、あのサーヴァント、本当に英雄なのかしら?」

 

 そもそも思い返してみれば、あの英霊の中に聖杯戦争に関する知識はなかったように思える。

 

 聖杯戦争ってなんだ? みたいな顔を終始していた。

 

 

 

 いや、そんな顔、といっても、その()()の下の顔を拝めたわけではないのだが。

 

 

 

 「あーあ、どうすんのよ、これ」

 

 魔術師は地面に刺さった槍を抜き取る。

 

 それは思った以上に、思った以上以上に、とてつもなく軽かった。

 

 「発泡スチロールか何か?」

 

 魔術師が呟くや否や、その槍は突如泡のように膨らんだ後、シュワシュワと音をたてながら地面の上に零れ落ちてしまった。

 

 地面に染みは残らず、跡形もなく消滅してしまう。

 

 

 

 

 それがこの聖杯戦争で最も自由奔放なサーヴァント、

 

 

 投げ遣りのランサーの武器である、投げ槍だった。

 

 

 ーーだった。

 

 

 

 

 

 

ーー同時刻 市内で最も大きな警察署にてーー

 

 

 

 「俺なんか悪いことしたか? ちょっと道歩いてただけだろ?」

 

 「それが問題なんだ。外人さんなら知らなかったかもしれないが、我が国ではこのような、物々しいまでに鋭利な刃物を、というか日本刀を持って歩くことは処罰の対象になるんだよ」

 

 「いやそれは俺の魂なんだが。一心同体な。宝具ってほどじゃねぇけど、大事な得物なんだよ。ん? つーか今俺なんつった? 宝具? なんだそれ?」

 

 「私に聞かれても困る」

 

 

 先刻、不審な男を署に連行した警察官は本当に困ったようにしてため息をついた。不審な男というのは大柄というほど大きくも、小柄というほど小さくもない普通の男であるが、所持していた一振りの武具は明らかに異常だった。

 

 刀。

 

 日本刀である。

 

 しかし彼は、このサーヴァントはセイバーではない。

 

 「失礼、少し席を外させてもらう。くれぐれも、そこを動かぬように」

 

 警察官の男性は眉間に皺を寄せながらそう言って、席を立った。

 

 サーヴァントの男は緊張の糸が解れたかのように全身の力を抜いた。

 

 「ふぅー、マジビビったな。いきなり警察に連行されちまうなんてよ。レア体験じゃん」

 

 「サーヴァントにしては現代人みたいな奴だよな、お前」

 

 そうサーヴァントの男に声をかけたのは、彼と同じく警察に連行された女性。この聖杯戦争におけるマスターの一人でもある。

 

 胸元の大きく開いた露出の多い服を着ているが、その胸はお世辞にも大きいとは言えない。

 

 なんだか無理してヤンチャぶってるみたいだなー、とサーヴァントの男は思った。

 

 「それでライダー、提案があるんだけど」

 

 マスターの女性はそう言って、内緒話をするように声のボリュームを落とした。

 

 ライダーと呼ばれた男はそれにあわせて耳を彼女の口元に寄せる。

 

 ごにょごにょと何かを話す彼女の表情はまるでイタズラを考える子供のように無邪気で、またそれを聞くライダーの表情もまったく同じであった。

 

 もしかすると、この聖杯戦争において最も相性が良いのはこの二人なのかもしれない。

 

 しばらくして、マスターの内緒話を聞き終えたライダーは軽やかに口笛を吹いた。

 

 「ひゅ~、いいね、最高だわ」

 

 その口元が、歪む。

 

 

 あくまでその心の奥に悪意などはなく。

 

 あくまで、悪まで、彼はとてもノリが良いだけなのだ。

 

 

 

 『この警察署を乗っ取って私達の拠点にしよう』というマスターの提案に、ノリ良く賛同したライダーは笑う。

 

 

 

 それこそが悪ノリのライダー、最初の悪事の始まりである。

 

 

 

 

 

 

 

 はてさて、そんなわけでこの土地に集った七騎の英霊の内、的外れのアーチャー、投げ遣りのランサー、悪ノリのライダーの三騎が既に行動を開始した。

 

 

 残る四騎の内の二騎、快刀乱麻のセイバー、白衣のアサシンは未だ動かず。

 

 元凶のキャスターの所在は、もはや誰にも掴めない。

 

 

 

 

 そんなところだろう。

 

 

 私はそんなところで、一旦区切りをつける。

 

 かくいう私も、聖杯をかけて戦う七騎の内の一騎らしいのだが、どうにもその実感が湧いてこない。

 

 何者かの陰謀により開かれたこの聖杯戦争。召喚された私は、マスターの望むままに戦いに身を投じるべきなのだろうが、今は一旦、このようにして物語の行く末を見守らせてもらうことにしよう。

 

 

 

 

 

 

 私のクラスはバーサーカー。

 

 

 

 

 

 狂言回しのバーサーカーである。

 

 

 

 

 

 

 

 

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