Fate/Forced Cast   作:砂皿めろん

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的外れのアーチャー

 この世に果たして『最強』というものが実在するのかと問われれば、私はきっと実在すると答えるだろう。

 

 しかしその強さが永遠に続くものだという保証はどこにもない。むしろ強さの頂きに登り詰めてしまった以上、後はそこを降りることしか出来ないのだから。

 

 かつて神話の時代に栄えた古代の王もまた、これに該当する。

 

 黄金の英雄。

 

 もはや隠すこともない。

 

 彼の名はギルガメッシュという。

 

 半神半人の身でありながら神に背き、幾多の冒険の後不老不死を求める旅に出たという、『最強』の男。

 

 だからこそ、というべきか。

 

 長く続いたその強さは、現代、この聖杯戦争にて失われる。

 

 

 これは山の頂きならぬ天の頂きから人を治め続けた王の、無様な失墜の物語である。

 

 

 

 

 

 

ーー1日目 朝 高級マンションの屋上にてーー

 

 

 

 

 此度の聖杯戦争を戦う七騎全てのサーヴァントが召喚されてから一時間。

 

 

 アーチャーを召喚したマスター、鰐真蒼太(わにまそうた)は呆れていた。

 

 もちろん、目の前の英霊に対して。

 

 

 

 「ふははははは! なるほど、面白い! 貴様、やはりそこらの雑兵共とは根本から異なるようだな。この(オレ)の宝物を一度ならず二度も三度も防いでみせるとは! さすがの(オレ)といえどもその不敬! その不愉快! もはや笑うしかあるまい! ふはははは!」

 

 

 黄金の英霊はそう言って、青空の下高らかに笑っていた。

 

 そして笑いがおさまるのを待たず、溢れる出る殺気を隠そうともせずに続けた。

 

 

 「しかし王たるもの、不敬を働いた者には罰を与えねばならん。いくら貴様が人ならぬ異形の『何か』であったとしても、(オレ)の前では全てが等しく雑種に過ぎぬのだからな」

 

 「..........」

 

 

 何てことない平日。朝っぱらから高層マンションの屋上でバトルを繰り広げていた二人であるが、その額には汗一つ流れておらず、また精神的にも一切の焦りを抱くことはなかった。

 

 両者とも、己の敗北の可能性など、微塵も考慮していないのだ。

 

 しかし、そんな余裕たっぷりの二人ではあれども、

 

 黄金の英霊は明確な敵意を自身のマスターに対して放ち、

 

 一方マスターの少年は、そんなアーチャーにすっかり呆れていた。

 

 

 ーーやることなすこと的外れ。これが噂に聞いた『最強』の英霊、ギルガメッシュか.....。

 

 

 もしかするとそこには、失望の念も混じっていたのかもしれない。

 

 

 「では、王の威光を意にも介さぬ愚か者にこれより罰を下す。来たれ、我が財を閉じし王の鍵よ」

 

 アーチャーが言うと、その手元に『門』が開いた。それは先程から武具を射出するたびに空間に開いていた『王の財宝』、ゲートオブバビロンと呼ばれる彼の宝具であることを、マスターの鰐真少年は知っていた。

 

 やがて開いた門の中から、一つの大きな()が出てくる。

 

 

 王律鍵バヴ=イル。

 

 

 これもまた、英雄王ギルガメッシュの持つ数多の宝具、その一つである。

 

 

 ーーしかし、アレはその中でも特別に格別な物なんだろう。それを手に取るアーチャーを見れば、よく分かる。

 

 鰐真少年はそう感じ取ったが、それでも危機感を抱くことなく、アーチャーの次なる動作を見守った。

 

 

 アーチャーが手にした鍵はやがて空中に一筋の光の線を描き出し、幾度となく枝分かれを繰り返す。

 

 

 

 「.......む?」

 

 

 

 そこで、そこまで至って、

 

 

 

 ようやく、

 

 

 

 的外れのアーチャーは()()()()()()()

 

 

 

 「無駄だよ、アーチャー」

 

 

 マスターである鰐真少年は優しく、静かに告げる。

 

 

 

 「その中に、乖離剣(エア)はない」

 

 

 

 そして、

 

 

 英雄王は、この日初めて怒りを覚えた。

 

 

 

 「そうか」

 

 

 いや、むしろ彼はこの聖杯戦争に召喚された瞬間から既に怒っていたのだが、彼をよく知る者ならばそんな怒りは怒りの内に入らないと言うだろう。

 

 

 かつて冒険を共にした、

 

 彼の友はこう語る。

 

 

 『ギルはあまり怒ったりしないよ。あれはただ傲慢なだけなんだ。彼が本気で怒るとなると、そうだね、少なくとも、彼は()()()()()()()だろうね』

 

 嬉しそうに語るのだった。

 

 

 

 「どういうことだ」

 

 

 ギロリと、アーチャーの眼光が鋭くマスターを貫く。

 

 

 「よもや貴様、この(オレ)の宝物に手をかけたのではあるまいな?」

 

 

 ーー的外れな感想だ。

 

 

 と鰐真少年は思った。

 

 

 「いくら宇宙人とて、賊の真似事が許されるわけではあるまい。なるほど、となると貴様、既に死ぬ覚悟は出来ているのだろうな? 雑種!」

 

 

 アーチャーは、もはや我を失っていた。

 

 それもそのはず、他の財宝であればいざ知らず、いや他の財宝であっても酷く怒りはするが、乖離剣(エア)に手を出されるのだけは、まったくもって話が別なのである。

 

 

 彼の顔は酷く歪み、怒りに体を震わせている。

 

 まるで悪役のようである。

 

 仮に彼が悪役であったのならば、いずれ正義の味方にでも倒されるに違いない。

 

 

 ーーまぁ、僕は正義の味方じゃないんだけどね。

 

 少年は肩を竦めながらそう思った。

 

 

 「ならば死ね! 雑種風情が! もはや茶番はこれまでだ! 殺す! 貴様だけは生かしてはおけぬ!」

 

 

 王としての風格を保っている時ならば口にすることもないであろう幼稚な暴言を吐きながら、アーチャーは己の背後に無限とも思えるほど多くの『門』を開いた。

 

 

 そしてまたもや、気づく。

 

 

 開いた門から取りだそうとした、彼の財宝の中でも最上級の武具の数々。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 「ッ!?」

 

 

 よもやこれほどの怒りを覚えたことが、生前の彼にあっただろうか。

 

 

 自分でもそう思えるほどに、彼は怒った。

 

 頭の中で何かが切れる音がする。

 

 

 「おのれ雑種ごときがァ!!!」

 

 

 

 その王のものとも思えぬ咆哮に、ほとんど紛れるような形で、

 

 

 ドスッ。

 

 

 と、鈍い音が聞こえた。

 

 

 

 それは触手だった。

 

 

 アーチャー、ギルガメッシュのマスターである鰐真少年の背後からおぞましく蠢く触手が、アーチャーの脇腹を貫いた音だった。

 

 

 

 「違うよ、アーチャー。僕じゃない」

 

 

 鰐真少年はニッコリと微笑んで、アーチャーから視線を逸らさない。

 

 

 「君はこの聖杯戦争に召喚された時点で、既に乖離剣を含むおよそ半数の財宝を失っていたんだよ」

 

 

 そしてもう一度、微笑む。

 

 

 しかしこの微笑みは、酷く醜い。

 

 

 相手を心の底から嘲るような、意地の悪い微笑みだった。

 

 

 「な、なんだ、と.......?」

 

 

 

 

 

 はらりと、アーチャーの黄金色の前髪が力なく下りる。赤目は弱々しく震え、その頬には、うっすらと刻まれた、(しわ)

 

 

 

 およそ50代前半ぐらいなのだろう黄金の英雄王は、その抗いようのない事実に、ただ落胆することしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

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