Fate/Forced Cast   作:砂皿めろん

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女の子です(重要)。




投げ遣りのランサー

 現代において本当の意味での『信仰心』を持つ者は果たしてどれほどであろうか。

 

 少なくともこの日本で明確な信仰の対象を定めている者は少数派であろう。

 

 だがそれは現代においての話であって、過去、例えば11~12世紀ほど前まで遡るのならば、まだ信仰心は人々の中に深く根づいていたはずだ。

 

 

 ()()もまた、信仰を信じる信徒であったが、その信仰の対象は己の信じる神などではなく、

 

 たった一人の『伝説』に過ぎなかった。

 

 

 これは何百年という時を経てもなお色褪せることのない、厚き信仰の物語である。

 

 

 

 

 

ーー1日目 夜 街外れの路地裏にてーー

 

 

 

 

 明朝に召喚されて早々聖杯戦争を投げたランサーのサーヴァントが、あれから日が暮れるまでどうしていたのかと言えば、ずっと人目につかない場所で睡眠をとっていたのだった。

 

 

 「ぐーすか、ぴーすか.....」

 

 

 そして現在進行形で、彼女は眠り続けている。

 

 

 詳細のハッキリしていないランサーのサーヴァントに対して()()という表現を用いたのには理由がある。それは一目見れば彼女が男性ではないことがすぐに分かる、女性的な体つきをしているからだ。

 

 体にぴったりと張り付く黒衣に身を包み、その腰には幾つものナイフホルダーが提げられている。女性であると言った以上わざわざ描写するまでもないと思うが、胸には大きくも小さくもない、確かな膨らみがあった。

 

 

 しかしここで最も描写する必要があるのはそんな些細な容姿ではないだろう。

 

 最も見るものの目を惹くもの。

 

 彼女が身に付けているものの中で最も異質なもの。

 

 それは顔を隠すように被せられている()()()()()だった。

 

 

 「ん、うーん....」

 

 

 午後7時を少し過ぎた頃、夜行性の彼女はようやく目を覚ました。

 

 

 「むにゃむにゃ、うーん.....」

 

 しかし目を覚ましただけで、一向に体を起こそうとする気配がない。

 

 「うー、うーん、すやすや.....」

 

 そしてそのまま、二度寝に入ってしまった。

 

 

 

 「うおっ!? 人が死んでる!?」

 

 人気のなかったはずの路地裏に突如男性の声が響き渡る。

 

 どうやらお酒が入っているらしく、地面に寝転ぶランサーの頭を危うく踏みそうになったところで、彼女の存在に気づいたらしい。

 

 

 「いや、死んでない、のか? ただ寝てるだけだな。くそっ、こんなとこで寝てんじゃねぇぞ....」

 

 おどかされた苛立ちを隠そうともせず舌打ちをする男性は、しかしランサーの魅力的な体つきを舐めるようにして観察した後、

 

 「こんなとこで寝てちゃ風邪引くよな。よし、俺の家に連れて帰ろう」

 

 あくまで親切心からそう決意する。

 

 

 

 男性が横たわるランサーに向かって手を差しのべ、その黒衣に包まれた肩に触れようとした次の瞬間、

 

 彼は、

 

 自分の首が地面に落ちる音を聞いた。

 

 

 ぼとり。

 

 

 

 「むにゃむにゃ、なんだ、もう夜かぁー」

 

 ランサーのサーヴァントはそう言って、ナイフを握った手の甲で目を擦りながら起き上がった。

 

 「あ、おはようございまーす」

 

 そして地面に落ちた生首に挨拶。

 

 ちゃんと髑髏の仮面を手で持ち上げ、その顔が相手に見えるようにして、満面の笑顔を浮かべる。

 

 彼女はとても礼儀正しい人間なのだ。

 

 

 「にひっ☆」

 

 

 

 

 

 

ーー7時間前 午前 渋滞中の公道、黒塗りの高級車の中にてーー

 

 

 

 ランサーを召喚した()()()魔術師、通称ティアーモは運転席でクラクションを何度も鳴らしながら苛立つ心をなんとか抑えようと必至だった。

 

 

 「くそ! くそったれ! なんでよりにもよってこの私が、あんな外れサーヴァントを引いちゃったのよ!」

 

 

 と、彼女は言うものの、この聖杯戦争において『ハズレ』を引いたマスターなんていくらでもいる。

 

 まだそのことを知らない彼女は、自分だけ大きく出遅れたと思い込み落ち着いていられなかった。

 

 

 「せっかく時計塔から直々に指名されて聖杯戦争に参加出来たっていうのに。せっかく()()()に認めてもらうチャンスだと思ったのにー!」

 

 

 彼女の叫びは虚しく車内を反響し、やがて外に出ることなく消えていった。

 

 ランサーはどこだ。ランサーはどこだ。ランサーはどこだ。

 

 

 頭の中はそればかりで、もはやいつもの外面を取り繕う余裕もない。

 

 

 時計塔でモテモテだった彼女は、年齢問わず『王子様』と呼ばれいい気になっていた彼女の姿は、今はどこにもない。

 

 女性にモテる女性、ティアーモは現在も自分のサーヴァントたるランサーを必至に捜索中!

 

 

 

 

 

 時は戻り(というか進み)午後7時半。

 

 マスターの苦労など歯牙にもかけないランサーは(というか聖杯戦争の記憶自体既に頭の中から消え去っていることだろう)、生首を片手に町を歩いていた。

 

 

 とは言え、彼女もバーサーカーではない。

 

 その適性がないこともないのだが、理性を保っている以上生首片手に堂々と歩くわけにいかないことぐらいは理解している。

 

 なので彼女は屋根の上を歩いていた。

 

 道を歩く通行人の内、誰か一人でも上を見上げてしまえば大パニックである。

 

 

 「ふんふふーん☆」

 

 

 それに引き換え、ランサーは上機嫌だった。

 

 なぜなら、その手に生首があるから。

 

 なんて言えばやはり彼女はバーサーカーではないかと誤解してしまうかもしれないが、事実その通りであるのだから仕方がない。

 

 

 「にひひ☆ これを持って今日も初代様のとこに行こー! そしたら初代様、また褒めてくれるかなー?」

 

 

 その一人言は、今はまだ彼女自身にしか理解出来ない言葉だった。

 

 

 

 

 

 屋根の上を歩くこと数分。

 

 反対側からもう一人、何者かが屋根の上を歩いて来た。

 

 「どうもー」

 

 「あ、お疲れさまです」

 

 

 

 

 その時お互いの脳裏に電撃が走る!

 

 コイツは誰だ!?

 

 

 先に動いたのはランサーではない『何者か』であった。

 

 大きく後ろに飛び上がり、ランサーとの間に距離をとる。

 

 その動きから分かる通り、彼は素人ではない。

 

 ならば果たして何のプロだと言うのだろうか。

 

 腰に拳銃のホルスターを提げているのが見える。日本において拳銃を所持している人間がまともな人間であるはずがない。何らかの犯罪に関与している、あるいはこれからするつもりであるだろうことはすぐに分かった。

 

 少なくとも私は分かった。

 

 

 だがランサーにはまるで分かっていなかった!

 

 「.....? あれ、急にどうしたんですかー?」

 

 

 ジャキリ、目の前の何者かが無駄のない動きで構えた拳銃を目にしてもなお、ランサーは緊張感のない声で話しかけている。

 

 

 ーー馬鹿だ。相手は馬鹿だ! そのまま通り過ぎればそれで良かったんだ!

 

 

 何者かは自分の用心深すぎる行動に若干の後悔を否めなかったが、それでも拳銃の照準をランサーから外そうとはしなかった。

 

 「もう後に引けないようだから教えてやる。俺はこの町で活動している暗殺者だ。まぁカッコよく言えばアサシンってヤツだな」

 

 もちろん無意識の台詞ではあったのだろうが、聖杯戦争を匂わせるワードが含まれていながら、この人物は聖杯戦争とはまったくの無関係である。

 

 アサシンと言うのは、そのままの意味での暗殺者(アサシン)なのだろう。

 

 

 「金さえ貰えりゃ誰だって殺す。金が貰えないなら殺して奪う。殺すことでしか生きていけねぇ失格者だが、しかしそんな俺にだって生きる権利はあるはずだ」

 

 

 暗殺者の男は言いながら、静かに引き金に指をかける。

 

 「だから俺には俺が生きるために、お前を殺す権利がある」

 

 

 男の覚悟は決まった。

 

 実際ただ突っ立っているだけのランサー目掛けて、その引き金を引くだけの準備は整った。

 

 ーー運が悪かったな。まるで蝶のように美しいアンタを殺しはしたくないが、まぁ許してくれよな。

 

 

 ランサーは、

 

 「へー、()()()()アサシンなんだ」

 

 それだけを呟いて、

 

 

 ダァン!

 

 

 一発の銃声が鳴り響くその直前か、あるいは直後か。

 

 

 彼女はその場から姿を消していた。

 

 

 「.......え?」

 

 

 

 暗殺者の男は間抜けな声を漏らして、

 

 

 「..........あれ?」

 

 

 今まで見ていたのは幻だったのかと思うほどに、甲高い銃声の後にやって来た底なしの静寂を味わっていた。

 

 

 

 一切の痕跡も残さず、ランサーは姿を消していたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 「さーて、初代様はどこかなー?」

 

 

 

 もはや隠しようもない髑髏の仮面から導かれるその真名は『ハサン・サッバーハ』。

 

 

 どういうわけかランサーのサーヴァントとして現界した彼女の右手には、大事そうに抱えた一つの生首。

 

 

 殺人は一日一回。だって首は一つで十分なのだから。

 

 

 

 「にひっ☆」

 

 

 

 

 

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