Fate/Forced Cast   作:砂皿めろん

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ランサー陣営続き




槍が降ろうと

暗殺教団『山の翁』は11~12世紀の間に暗躍していた暗殺者集団である。

 

初代頭領が生まれて以降、およそ19代に渡り続いたその歴史は長く、裏の世界の住人に知らぬ者はいないというほどに恐れられていた。

 

 

そんな教団で10代目の『山の翁』が任命され、20年の月日が経過した丁度その頃、まだ幼き1()1()()()は次なる『山の翁』となるべく修行の日々を送っていた。

 

「じゃあ今日もたくさんある『初代様』の伝説の中から、面白い話を一つ聞かせてあげるとしようかね」

 

村に住む老齢の女性は子供たちを集め、毎日村に伝わる物語を読み聞かせていたのだが、11代目にとってその日聞かされた『伝説』が自らの人生を大きく変えることになろうとは、この時はまだ知るよしもなかった。

 

 

それは恐るべき『首狩り』の物語だった。

 

『首狩り』は大きな大きな大剣を得物とし、来る日も来る日も暗殺対象である人間の首を撥ね飛ばしては自分の住みかに持ち帰っていたのだという。

 

そう、彼は、初代山の翁は、殺した人間の首をコレクションしていたのだった。

 

 

そんな伝説の物語を聞いた11代目は、その日仕事で殺した人間の首を持ち帰り、村の中央にそびえ立つ巨大な『初代山の翁』の銅像の御前にそれを献上した。

 

ーーきっと喜んでくれるだろう。

 

11代目は子供のように目を輝かせ、すっかり良いことをした気分になっていた。

 

まだ幼かった彼女にとっては、銅像だって生きていたのだ。銅像にだって、心があると思っていたのだ。

 

実際銅像に心などなく、死んだからこそ銅像になっていると言ってしまえばあまりに残酷なのかもしれないが、しかし、

 

 

しかし。

 

 

「えっ?」

 

11代目は見た。

 

夕暮れ時、太陽に照らされ初代山の翁の銅像から伸びる影が、更に伸び、まるで生き物のように蠢いて、

 

やがてそれは、地面から体を起こした。

 

 

「しょだいさま、ですか?」

 

11代目の問いかけに、初代山の翁の影は答えない。

 

ただゆっくりと、目の前に跪く少女に手を伸ばし、

 

その頭を優しく撫でたのだった。

 

 

親を知らない11代目にとって、その手のどれだけ温かかったことか。

 

 

そんな出来事があって以来、彼女は毎日欠かすことなく、人間の首を初代山の翁の銅像へと献上した。

 

 

正式に『11代目山の翁』として選ばれた後も、変わることなく......。

 

 

 

 

 

 

ーー午後10時過ぎ 高速道路にてーー

 

 

現在ランサーのサーヴァントは二台のパトカーに追われていた。

 

生首を手に持っているところを、通行人に目撃されてしまったのである。

 

 

「しつこいなー!」

 

しかし普段ならばより多くの警官を出動すべきこの場面で、たった二台しかパトカーを出動出来ていないのには理由がある。

 

現在、この町の警察署はライダーのサーヴァントおよびそのマスターによって制圧されており、それどころではないからだ。

 

ランサーを追いかけるこのパトカーも、元は隣町から緊急でやって来た増援に過ぎない。

 

 

ランサーは高速道路を走って移動していたのだが、流石に車の速度では振り切れないと見るやすぐさま高速道路から降りることを決めた。

 

降りた先には、電車の線路。

 

五秒後に運悪く線路の上を通過した貨物列車を、ギリギリのところで躱したランサーはそのままジャンプして後部車両に乗り移った。

 

およそ現代を生きる人間には不可能であろう、常識はずれの動きである。

 

 

「これで、あのウーウーうるさいのからは逃げ切ったかな」

 

ランサーは一安心して列車の上に腰を下ろす。

 

その間も列車はもの凄いスピードで線路の上を走り、ランサーの体を風が通りすぎて行くのだが、そんなものは何の影響にもならないと言わんばかりにランサーは涼しい顔でむしろ上機嫌だ。

 

しかし次の瞬間に起こった現象には、流石のランサーといえども対応出来るはずがなかった。

 

 

急停車。

 

耳をつんざくような甲高いブレーキ音と共に、もの凄いスピードで走っていたはずの列車があり得ないほど唐突にそのスピードを落としたのである。

 

勢いそのまま、ランサーは列車の上から振り落とされてしまう。

 

「わぶっ!?」

 

茂みの中へと落ちていった彼女は、自分の身に何が起こったのかまったく理解出来なかった。

 

ただ、その衝撃により腕に抱えていたはずの()()がどこかへ飛んでいってしまったのだけは、何よりも先に気づいた。

 

 

 

やがて完全に停止した列車の先から、男の声。

 

「うおー、マジでマスターの言う通り、踏み切りから飛び出したら止まってくれるんだな。これがヒッチハイクってヤツ?」

 

「まぁ運が悪けりゃそのまま轢かれてたけどね。それとこれからあたし達のやることを考えれば、ヒッチハイクよりはむしろハイジャックという方が正しいのかもしれない」

 

「いいね! 外国語ってのは意味がどうあれカッコよく聞こえるのがズルいわ」

 

 

踏み切りに佇み、陽気に会話を交わす男女二人組。

 

ライダーと、そのマスター。

 

 

ランサーは立ち上がり、その二人を交互に見た。

 

その顔を、視界に捉えた。

 

それはつまり、相手にもこのランサーの姿が見えたということでもある。

 

 

「おい、アイツ、サーヴァントじゃないか!?」

 

最初に気づいたのはマスターの女性。

 

聖杯戦争に参加したマスターには、見るだけでサーヴァントのステータスがある程度分かるようになっている。

 

彼女の目には、ランサーは明らかに他の人間とは異なって見えたのだ。

 

「ランサーだ。アイツ、ランサーのサーヴァントだぞ!」

 

 

予想外の遭遇に驚きを隠せないマスターをよそにライダーは呑気な顔でランサーの体を観察する。

 

「サーヴァント? 俺にはただのエロいねーちゃんにしか見えないけどな。ねーちゃんっつーか、お嬢ちゃんかな?」

 

 

 

「........」

 

ランサーは黙ったまま、己の背後から真っ黒な()()を取り出した。

 

相手のことなど、既に聖杯戦争を投げ出した彼女にとってはどうでもいいことだが、目の前に立つ、腰に日本刀を提げた男の強さならば人目で分かったからだ。

 

 

「にひひっ☆」

 

そして笑う。

 

 

 

 

 

 

 

思わぬ形で出会ったランサーとライダー。

 

その後の戦闘がどうなったのかは、また別の視点で語ることになるだろうが、

 

とにかくランサーは戦闘の結果がどうであろうと、とりあえずは生き延び、そして初代様に捧げるはずの生首を失ってしまったという事実に変わりはない。

 

 

そして、更に更に。

 

 

「そこの女! 黙って手を挙げろ! 武器を下ろしてその場から動くな!」

 

 

二十人を越える警官たちに包囲されていた。

 

ライダーとそのマスターの犯した犯行を、その罪を、上手いこと擦り付けられてしまったのである。

 

完全な濡れ衣だった。

 

 

「どうした、早く手を挙げろ!」

 

いつまでも武器を下ろさないランサーに対して、一人の警官が声を荒げる。

 

しかし、それは無理というものだった。

 

 

現在時刻、午前0時00分。

 

その瞬間に、

 

 

ランサーの頭の中を、()()()()()()()()

 

 

それは膨大すぎるほどに強大な何かだった。

 

 

「う、せ、聖杯、戦争......?」

 

 

ランサーの頭の中はその膨大な何かによって埋め尽くされてしまい、身動き一つ取ることが出来ない。

 

 

「最後の、一人.....願い......?」

 

 

「おい! 何をしている! 手を挙げろと言っているんだ!」

 

警官の一人は、やがて痺れを切らし、

 

 

無防備に立ち尽くすランサーへと、近づいた。

 

 

近づいてしまったのだ。

 

 

ランサーまであと2メートルという距離まで近づいた警官は、そこからもう一歩踏み出したその瞬間に、既にその命を終えてしまっていた。

 

 

漆黒の長槍が綺麗な弧を描きながら、振るわれる。

 

その軌跡は夜の闇の中にあってはほとんど不可視の一撃に近い。

 

 

殺人は一日一回。

 

ランサーはそれを忠実に守り、

 

今日もまた、一つの首を手に入れる。

 

 

 

「聖杯戦争、かぁ....」

 

全てを知ったランサーは呟く。

 

 

召喚された時とは違う。聖杯戦争の何たるかは理解出来た。それに参加することこそが自分の使命なのだと認識した。

 

 

しかし、それでもなお、

 

 

「どうでもいいや☆」

 

 

投げ遣りのランサーは、それを投げ捨てた。

 

 

 

己が目的はただ一つ。

 

 

『初代様に首を捧げる』。

 

 

それだけなのだから。

 

 

「にひひっ☆」

 

 

 

 

 

 

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