Fate/Forced Cast   作:砂皿めろん

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白衣のアサシン

 

天使のような女性と言うと、多くの男性は透き通るように白い肌を持った、小柄で優しそうな女性を思い浮かべることだろう。

 

しかしそれは平和ボケし何不自由のない生活を送る私たちだからこその認識で、

 

例えば場所が違えばその認識も大きく変化するはずだ。

 

 

戦争の渦中、何かが焼け焦げるような匂いの充満する医務室で、体から赤い血を流す兵士は確かに『天使』を見た。

 

 

これはかつて天使と崇められた一人の女性の、一切の見返りも求めぬ救済の物語である。

 

 

 

 

ーー午前 国立病院、集中治療室にてーー

 

 

 

本来であれば緊急の患者が運ばれてこない限り、そこで手術を行うことはありえないはずだった。

 

 

だからこそ、これから行われる『手術』は極秘裏に遂行される。

 

それもそのはず、白衣に身を包みメスを手にしたこの『医者』は、手術を行うために必要な医師免許を所有していないのだから。

 

 

「それでは、よろしいでしょうか?」

 

 

白衣の女性が誰にともなく独りごつ。

 

手術室には彼女の他に、彼女と手術台に乗せられた()()の他には誰もいない。

 

しかしそんな白衣の女性をカメラ越しに監視していた者がいた。彼はマイクに顔をよせ、スピーカーを通して声を発する。

 

『あぁ、問題ない。手術を開始してくれたまえ』

 

 

 

 

 

 

それからピッタリ一時間。

 

手術を終えた女性と燕尾服に身を包んだ男性は、病院内にある会議室で向かい合うようにして立っていた。

 

 

「見事だ、アサシン。君の腕はこの現代でも問題なく通用するよ。それもこれも、サーヴァントととしてのスキルによるものなのかもしれないがね」

 

「はぁ、スキル、ですか。サーヴァント、という単語も私には聞き慣れない言葉です。それに、暗殺者(アサシン)という呼び名も、出来れば止めていただきたい.....」

 

「ふっ、まぁ君の気持ちは分かるよ。しかしね、アサシン。だからといって君の真名を口にするわけにもいかないんだ。これは戦争だ。聖杯戦争、なのだからね」

 

「.........」

 

 

アサシンと呼ばれた白衣の女性。彼女は確かに、アサシンのサーヴァントだった。

 

しかし彼女自身はそう呼ばれることを嫌がっているように見受けられる。

 

 

「分かりました。ではアサシンで結構です。その代わりと言っては何ですが、例の件はきちんとお守りください」

 

「もちろん。君のことはちゃんと、ここのお偉いさん方に紹介しておいてあげよう。『恐ろしく腕の立つ名医を連れてきた』とね。ふふふ、恐ろしくとは、よく言ったものだがね」

 

 

燕尾服にシルクハットを被り、如何にも紳士風の男の態度が気に入らないのか、アサシンは露骨に不愉快そうな顔になった。

 

「.....まぁ、私は患者の傍にいられるのならば、なんとでも。それこそが私の唯一の願いなのですから。あなたの言う聖杯戦争とやらのことは分かりませんけれど」

 

「分からなくてもいいさ。君はただ患者の傍にいればいい。手術をすればいい。それだけでいいんだからね。ふふふ、それだけ、たったそれだけさ」

 

 

言いながら、紳士風の男は杖を突きながら会議室を歩く。大きな窓からは外の景色が一望できた。

 

「だがもうしばらく待ちたまえ。君のための、()()医師免許を現在お取り寄せ中だ。現場に立てるのはそれからだから、その間この病院の周辺でも歩いてみたらどうかね?」

 

 

ニヤリとどこか胡散臭い微笑みを浮かべるこの男。彼こそがアサシンのマスター、四季谷渉(しきやわたる)

 

日本の医学界で確かな発言力を有する権威である。

 

 

 

 

 

アサシンは白衣を脱ぐと、マスターに言われた通り散歩をすることに決めた。

 

長い髪は三つ編みにして結んでいるが、それでも結構なボリュームがある。鏡に映ったそんな自分の髪型を見て、アサシンはいつか切るべきではないかと思案した。

 

 

それからしばらく病院内の廊下を歩いていた彼女は、思っていた以上に発達している現代の医療現場に驚嘆する。

 

ーー私の生きていた時代ではあり得ないほどの清潔さですね。清潔さ、これは医療にとって最も大切なことですから。

 

特にアサシンは、白を基調とした病院内の配色を大層気に入ったらしい。壁や床の手触りを、じっくりと自分の手で確かめながら歩いていった。

 

ーー素晴らしい。白とは清潔の色。故に白衣を着るものは、それだけで清廉潔白である証拠となりえる。

 

 

そんな風に目に入るもの一つ一つに称賛の言葉を思い浮かべるアサシンに、一人の子供が声をかけた。

 

「おねーさん、誰かのお見舞い?」

 

声のした方をアサシンが振り向くと、そこには車イスに座った、まだ七、八歳にも見える女の子がいた。

 

「お見舞い、とは、如何なるものでしょうか?」

 

アサシンは女の子と視線を合わせるためにしゃがみこんで、しかし口調はいつもと変わらぬ淡々としたものだった。

 

「えー、お見舞って言ったら普通分かるよー。入院してる人に会いに来るってことだよー」

 

「なるほど、では私は違います。私は、そうですね、私は.....」

 

ここでアサシンは口ごもった。

 

ーーはて、この場合、私は何と答えればよいのでしょうか?

 

しばらくの間考え込むアサシンを見て、女の子は可愛らしく首を傾げて次の言葉を待った。

 

「.....私は、医者です。あなたたち患者を一人残らず、救う者です」

 

「え!? おねーさん、お医者さんだったの!? でもなんか、雰囲気違うね!」

 

医者だと聞いた途端必要以上に驚く女の子を見て、ついアサシンの口元が綻んだ。

 

 

彼女はこの時、現代に召喚されて初めて笑ったのだ。

 

「えぇ、そうでしょうね。おねーさんは、今日初めて、医者になったのですから」

 

それは決して嘘ではない。彼女の生前は、あくまで看護師。医者になった経歴など持ち合わせていない。

 

 

「じゃあいつか、みゆの『しゅじゅつ』もしてくれるのー?」

 

「そうなるかもしれません。この病院にいるのであれば、可能性はあるでしょう」

 

「わー! おねーさんだったらしゅじゅつ怖くないかも! 絶対みゆのしゅじゅつはおねーさんがしてね! 約束だから!」

 

「ふふ、分かりました。約束しましょう」

 

 

そして二人は、お互いの小指と小指を結びあった。

 

 

 

 

 

その後もアサシンは散歩を続けた。

 

病院の外には大きな庭があり、そこでは患者たちがベンチに座り木を眺めていたり、他の患者と世間話をしたりしていた。

 

その光景が、アサシンの脳裏に深く焼きつく。

 

何もかもが違う。

 

あの頃とは、

 

全てが違っていた。

 

 

 

やがて、

 

「初仕事の許可がおりた。出番だ、アサシン」

 

マスター、四季谷からの呼び出しを受ける。

 

 

 

 

 

手術室に運ばれて来たのは男性の警察官だった。

 

まるで刀で斬られたかのような生々しい傷を胸に負っている。

 

 

「それでは手術を開始します」

 

 

白衣に身を包んだアサシンは言って、真っ白な手袋を手に被せた。

 

白は清潔の色。白衣を着た者は、清廉潔白。

 

アサシンはそう言った。

 

 

 

「い、痛てぇ、痛てぇよお医者さん! 早く、早く助けてくれ!」

 

患者の男性が、すがるような視線をアサシンに向ける。

 

 

「大丈夫、安心して」

 

アサシンは、淡々と、告げる。

 

 

「あなたの命は、必ず救います」

 

 

その性質は、()()()()()()()

 

 

「あなたの命を、奪ってでも」

 

 

 

 

 

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