「え?!そんな事あるんですか?!」
「あるもないもあったんだから仕方がないだろ?君、俺のサブなんだからちょっとこの案件担当して。」
「え…っと…、」
「もう忙しい時期なんだから四の五の言ってないでとにかく頼んだから。クリスマスには戻って来てね。」
「はい…。」
なんだよこれ!完全にミスのしりぬぐいじゃねーか。誰かが10年も前にミスったことを俺にやらせるってどういうことだよ、ムカツク。
「納得してない顔だよね。七光り君には荷が重いかい?」
「やります!完璧にやり切って見せます!」
目の前のニヤニヤとした嫌味な顔にそう宣言してから、あからさまな足音を立ててドアをドシャンと強く締めて部屋を出た。伝統のあるアンティーク(悪く言えば古い)な建物はビリビリと揺れるし、カツカツ音を立てると大理石の床がピキンと音を立てた。だけどイライラは晴れない。
プレゼントを届けるのに七光りとか関係ないだろ!
そう、俺はラップランドに本部があるサンタ協会の一員で、プレゼント配送係。要するにサンタクロースってこと。
日付変更線に沿って24日から25日に掛かる深夜、世界中にプレゼントを配るサンタはもちろん一人ではない。
担当地域ごとに複数人配置されていて、さっきのボス・イサカが当日不眠不休で支部のCTCでGPSを駆使して、俺たちが漏れなく無事にプレゼントを配り切るための采配を振るう。
サンタを待ち焦がれている子どもたちに注意を払い采配を振るう彼は本当にエリートで、この仕事について三年目の俺はまだまだペーペーだ。言われたままにプレゼントを配送するだけしか出来なくって、全然なってなくて、だからと言って何をどうすれば伝説のサンタクロースのようにになれるのかも分からない。
だけどいまに見てろ!絶対に立派なサンタになって俺を蔑んだ奴を見返してやる…。ただの配送屋なんて言わせないからな。
それにはまずこの案件を何とかしなければならない。
空間移動のマシン(トナカイ)、ルドルフ二世とともに、俺はこの街、日本にやって来たんだ。
▽
ラップランドに比べるとうすら温かい街だな…。
多くの人々の心には信仰心の欠片もないのに、街中が赤と緑、そして金銀にあふれている。
耳に入るのは思わず身体が揺れてしまうような軽快な音楽と、子どもたちの笑い声。
子どもたちに笑顔をあげたくて俺はこの仕事をしている。
俺の父は仕事に忙しい人だった。一晩でできるだけ多くの子どもにプレゼントを配ることのできる駆動と思念を持つトナカイを開発して、今はまだ届けられていない世界の子どもたちにもプレゼントを配りたいと言っていた。
俺はそんな父を尊敬していて、おんなじようにエンジニアになりたかったんだけどサンタシステムが俺にサンタクロースの適性を与えた。
サンタクロースはサンタの世界のヒーローだ。誰もが憧れる。俺だって自分にサンタ適性があると聞いた時は夢みたいだと思ったけど、実際は妬み嫉みがどろどろと渦巻く世界だった。
どうやってなったの?お父さんの力?そうだよね、だってそんな風には見えないもんね。
人で不足でイサカさんも宅配の子雇う感じだったのかな?
陰口どころか面と向かって言われた色々な言葉がまた頭の中を回り始めた。
駄目だ!忘れる。
今はこの案件をどうにかしないといけない。
▽
「えっと…、サガマサムネさん?」
つやつやの黒い髪の毛、大柄な体躯、無駄な肉のついていないほっそりした顎…。
子どもならとっくに深く寝ている時間なのに、なぜかここには憮然とした顔の成人男性がいた。
「今はタカノマサムネだ。」
男性は用件だけを面倒そうに言って「あんた誰?」と引き続き面倒そうに言った。
「サ、サンタクロースです。」
「え?サンタ?」
さっきまでの表情のない顔は途端にびっくりした顔に書き換わる。そして俺の頭の先からつま先まで視線をティルト・ダウンする。
「そんなヒョロっこい身体のサンタ、初めて見た。っつっても着ぐるみか絵面でしか知らねーけど。それに顔についてんの付け髭?うさんくせ~。」と笑う。
悪かったね。
っつうか、そういうふうに勝手にイメージ作られても困るんだけど。
伝説の初代サンタがそんな体格だったから仕方がないんだけど、サンタだってそりゃ色々いるよ。
だから一応顔にも付け髭のマスクしてるんだけど…。
「で、なに?人の夢ん中に出て来てさ、あわてんぼうのサンタクロースってやつ?それにしては間抜けじゃね?俺、子どもじゃねーけど?」
全然信じてないみたいな顔をして平然と言うこの人も大概だと思うけど、夢の中だからね、仕方がない。
「10年前にあなたに差し上げるはずのプレゼントが未配達となっていまして、こちらの手配のミスです。今さらですがお届けに上がりました。」
さっさとこんなつまんねー仕事を終えてサンタ協会に戻って、3年目のクリスマスのために精進潔斎しないといけないんだからと、事務的になりすぎない程度の丁寧さで俺はその人、サガマサムネ改めタカノマサムネに告げた。
「10年前?」
「ええ。どういういきさつがあったのか、申し訳ありません。書類自体は5年保管期限ですでに破棄されてしまっていましたが、永久保存の未配達データが見つかりまして私が越させていただきました。」
一応深々と顧客対応用のお辞儀をしてそのように説明を加える。
「なにくれるつもりだったの?」
「あの…、サンタはお子様の欲しいものをお届けしますので、このトナカイで思念を読み取り私が具現化させます。なのでしばしあなたのスピリットに触れさせてください。」
子猫に変態しているルドルフ二世を腕の中で起動させて意識をシンクロさせる。そしてタカノマサムネのスピリットに触れると…。
「出てこない!」
本当なら、ここで欲しいものが現れてどうぞと差し上げるはずだった。
子どもたちは深く眠っている時間だから会話もする必要はなくて、サンタは思念を探ってプレゼントを具現化する。
たまにまだ浅い眠りの子がいてもサンタとお話をした夢を見るだけだ。そして目が覚めるとそのプレゼントが枕もとや靴下の中に入っている。
いい話じゃないか。
要するに俺たちは品物をソリに積んで走るわけではない。欲しいものをその場で品物にするんだ。
それなのに…。
「なにしてんの?プレゼントはどうした?」
「あなた、サンタを信じてませんね。」
「この年で信じてる方がどうかしてんだろ?どうせ欲しいものくれる分けねーし。」
「だって、目の前にサンタがいるじゃないですか。」
「プレゼントくれたら信じてやるよ。」
「だから信じてないと欲しいものは出てこないんですよ。」
「それじゃあいらないよ、帰れよ。」
「イヤ、そういう訳には…。仕事ですし…。」
そんなやり取りをしていると急にタカノマサムネの手が付け髭に近づいて来た。
「俺がいらねーって言ってんだからいいじゃん。お前鬱陶しい。顔見せろよ。」
ヤバイ、夢の中でその人に触れてしまうと夢からはじき出されてしまう。
とっさに夢の中から逃げようとしたのだけど、ルドルフ二世がスルリと手から逃げて慌てたせいで足がもつれてしまう。
タカノマサムネの夢の中には何か分からない砕けた破片が山ほど転がっていてそれに足を取られる。
あ!摑まる!っと思った瞬間…。
俺は体温を感じる世界にはじき出されて、目を開いたタカノマサムネの腕の中だった…。
続きます。