あなただけのサンタクロース   作:bui

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いよいよタカノさんのお誕生日~♪

とりあえずこれでおしまいです。

お誕生日おめでとう。


六夜

「タカノさんはクリスマスイブがお誕生日だったんですね。」

連休だからと言って、朝から部屋を掃除したり台所で煮炊きをしたりと大きい癖にこまねずみみたいにこまめに働いている後姿にむかって、淹れてもらった甘酒をのんびりうまうまと飲んでいる俺がポツリと聞こえないかなって思いながら言うと、タカノさんはいともあっさりとその言葉を拾い上げて意外そうな顔をした。

意外そうっていうか、

不審そうっていうか、

訝しげな感じは否めない。

 

「何で知ってんの?」

「ええ、ソラ太情報です。」

「ソラ太?」

 

それは正しくもあり、正しくもなし…。タカノさんの心の闇(ダンジョン)を冒険して得たのは、リツのタカノさんへの想いと自分の過去の断片だった。

 

『リツの想い』とかって言ってもけっしてヒトゴトだと思ってるわけではないのだけど、七光りのリツとして生きてきた時間が長すぎて、突然提示された思い出のアルバムに気持ちを込めて浸ることができない。

 

要するにソラ太が封じ込めていた記憶の断片は、単にそういう事があったという映画のような情報だ。

だから昔を思い出したと言っても、あのころのような執着は今の俺にはない。

 

それはデータと化した記憶のせいなのか、すでに風化して勢いを無くした若さのせいなのか、妄執の塊のようだったあの部屋を思い出すと、こじれた二人の重すぎた気持ちが怖くもあった。

 

いったい自分が信じてきた記憶だと思っていた過去はなんだったんだろうか?

感応する力はタカノさんへの想いとともに封じられていたから、誰かの記憶を勝手に吸い取って、さも自分のことのようにインプットしてしまったというわけでもないんだろう。

つじつまの合わないことが多すぎて演算処理の進まない容量いっばいのポンコツCPUを叱咤することさえ今の俺にはできないのだ。

 

「ん、」

不意に目の前に差し出された手のひらの意味が分からなくて、ワンコがお手をするようにボスリと手を載せると

「ヘえ、お前をプレゼントしてくれんの?」

と悪い顔でタカノさんが笑った。

 

「はあ!?何ですか!?それ!?」

と、とっさにみっともなくも裏返ったキンキン声で文句を言うと、

「プレゼントくれって意味で手を出したらお前が勝手に自分を乗っけてきたんじゃね?」

と悪い顔はもっともっと悪い顔になって、二ヤ二ヤが止まらない感じになった。

 

「自分を乗っけてきたとかなんですか!手をですよ、手、手、乗っけたのは手です。」

「じゃあお前、自分の手だけ俺にくれんの?手くれてどうするつもりなわけ?」

「いや、それは…。」

 

手だけもらったところで、猫より役に立たない俺の手なんてタカノさんだってどうにもできないだろうし、俺だって手だけタカノさんに俺のもんだと主張されても困る。ってか…、そういうことじゃないだろう…。

 

まあ…、俺をやるなら元手がかかるわけでもないし、経費も不要だ。サンタだからクリスマスのプレゼントは能力で出るけど誕生日は範疇外なので俺のできることってそんなに大したことはない。

 

その上で、こんな時期に生まれた子は抱き合わせで、ほかの子よりちょっと豪華なプレゼントをひとつって相場が決まってる。

かも…。

 

「おかしいでしょ。誕生日プレゼントがものじゃないって、不満ないんですか?俺で?」

 

プイっと横を向くと、タカノさんが手をつかんだまま俺の横に腰掛けた。

人が寝ても困らないくらい広いソファーなのに、そんなにびっちりとくっつかなくてもいいんじゃないか?

手も放してくれてかまわないんだけど、と言うか、放して欲しいんだけど。

 

なんだか…、だんだんとソワソワ落ち着かないというか、背中がムズムズして首の後ろ辺りがゾワゾワとくすぐったいような変な気持ちになる。

手に変な汗をかいているような気がして、くっついている右側のところだけに身体中の神経が集まってるみたいに感じて、心臓だけが身体の外に飛び出したみたいに勝手に踊ってる。

 

ホントもうこういうの嫌なんだけど…。

慣れない感覚に戸惑って神経が心底疲弊するんだ。

 

今まで俺は、初代サンタのような立派なサンタクロースになる事しか考えていなかった。

そうなれれば良かったはずなのに、

自分のことを馬鹿にしたやつらを見返してやろうと思ってたはずなのに、

ここに来たたったの一週間の間にそんなことはとっても小さいことだって思ってる自分がいる。

 

人と自分を比べて卑下するなんて、それこそが小さい器だってことなんだって思えるようになった。

 

もちろん理想を持つのはすごいことだと思う。俺が初代サンタのようになりたいって思うことは絶対に間違いではないはずだ。

 

でもそれから後の自分を断罪できるのは自分だけで、そんな自分を評価するのも自分だ。

 

だめだったって落ち込むことも、

きちんとできたら褒めることも、

全部自分が頑張った結果で、

 

人にどんなに褒められても貶されても、自分が自分をそうだと認めなければ成果にはならない。

 

頑張れなくてうじうじと愚痴ばっかり言っているよう矮小な自分は嫌だ。

いつだって胸を張れる自分に自分自身が高めていくしかないってことなんだ。

 

だからタカノさんにちゃんと1O年前のプレゼントを贈ろうと思った。

そしてそれができればきっと俺は理想のサンタクロースに近づけると思った。

 

だから今は最後のチャンスの瞬間なのかもしれない。

 

「俺はタカノさんにちゃんと1O年前のプレゼントをお渡ししますから。」

ちゃんと襟を正すぐらいのきちんとした気持ちでそういうと、タカノさんはちょっとびっくりした顔をしてからフフッと意地悪く笑った。

 

「ああ。1O年前のプレゼントね。」

「ええ、そうです。俺はそれのためにここにやってきたので、」

「そういっている時点でおそらくそれはあってない。」

「なんでですか?」

 

タカノさんの確信ありげな顔が憎らしい。俺なんぞができっこないって思ってるんだ。

だけどそれは違う、俺はやれるヤツなんだ。

 

「俺の欲しいものをお前が出せるわけがないから。」

「じゃあ失敗ですね。失敗の場合は俺はサンタをやめることがお約束でした。」

「そうだな。」

「サンタをやめた俺はどうすればいいんでしようか?」

 

そんなこと知るかって言うかな?

それとも別の…。

 

もし俺が思ってるような別の言葉を言ったら、この賭けは俺の勝ちなんだ。

そして知るかって言われたら…、

残念だけどあきらめて本当に国に帰るしかない…。

負け犬になって…。

 

でもタカノさんは「ここにいればいいじゃね?」と俺に言った。

それは俺が言うかもしれないと思っていた言葉と同じだった。

 

勝った…。

 

俺はその時ひそかに心の中でガッツポーズをした。

タカノさんの欲しいものは間違いなく俺の思っているものだ。

 

「分かりました。じゃあ遅ればせながらプレゼントを差し上げますから手を出してください。」

怪訝そうな顔のタカノさんの差し出した手の上に、さっきとは違って、ちゃんと意思を持った手を俺はポンっと置いた。

 

その手を見ているタカノさんはさらに眉間にしわを深く寄せてもっと怪訝そうな顔をした。なんのマネだって思ったに決まってる。

 

「リツとすごす誕生日を、一日早いですがクリスマスプレゼントに差し上げます。」

 

俺は今世紀一番の笑顔を添えて高野さんに差し出したのだった。

 

 

身体に取り込んだ、解凍された思い出は信じられないことだらけだった。

なんと俺はあの伝説のサンタクロースの直系の血筋だったのだ。

 

父さんはそんなことは一度も言わなかったし、周りの誰も教えてくれなかった。

というか、おそらくそれはトップシークレットで本当に俺の系譜のことはみんな知らなかったんだろう。

 

ただ、伝説のサンタと違ったのは俺が引きずられるのは、いつだって悲しい意識だったってことだ。

 

伝説のサンタは悲しい気持にも寄り添ったけど楽しくてわくわくする気持ちもきちんと感じることができたのだ。

 

そして、本来は見ているだけの、意識だけの視覚的感覚のはずが、俺は感応力が強すぎて実際に対象者が受けた身体の痛みまでも感じるほどに共感してしまい、痛みに苦しむせいで、サンタの世界でさえも誰にも会えず誰にも触れられず、俺の存在は隠蔽されて、その精神感応能力に翻弄されすぎて、サンタの世界の牢獄のような遮蔽されたところで存在を消されたまま育ったのだ。

 

父とでさえほんの少しの時間しか話をすることもできなくて、父はそんな俺のためにソラ太を作った。

それからはソラ太が作る障壁(シールド)が俺の力を抑えてくれて、俺に悲しい波長の想いは届かなくなくなった。

 

なのになぜだかあの年、それが来たんだ。マサムネの悲しい想いが…。

 

マサムネの悲しくて寂しい波長が俺を呼びよせ、遠い国のマサムネの夢を感応力で訪問した。

マサムネが欲しがっている温かい家族の風景を映画を投影するように見せて、俺もまた、サンタの直系であるがゆえに得られなかった自分以外の人との心の交流の喜びに浸った。

 

「まだ先だけど、クリスマスイブは誕生日なんだ。本当のリツと過ごしたい。リツに誕生日を祝ってもらいたい。リツはサンタなんだろ?俺のお願いを叶えてくれる?」

 

マサムネのお願いは遠い国にいる俺にはとても難しいことに思えた。だけど俺はサンタの直系の子孫なんだ。きっとほかのサンタのようにできるに違いない。

 

ならば…、ソラ太の、トナカイのもうひとつの機能、空間移動を試してみてもいいのではないのだろうか?

 

そう思ってそれを早速実行した。

 

あの頃は空の管制システムが厳しいなんて知らなかったし、空間移動に訓練が必要だとも思っていなかった。

空間移動では、捻じ曲げた空間が他の空間と交われば世界が消滅するくらいの大変な事故を起こすと知ったのは…。サンタの仕事を始めてからだから、つい最近のことだ。

 

だってサンタシステムを素人が使うことなんてありえないから、知らなくて当然なんだ。

そして俺は、ただただマサムネに会いたかった…。

誰に何を反対されてもきっと空間を飛んだんだろう。

 

 

マサムネに会うために掟を破って飛んだのは、ちょうど桜が咲いて締麗な季節だった。

ホロホロとこぼれるように花びらを散らす桜は、ただ見ているだけでもいつまでも飽きなかった。

黒髪のマサムネにとても合っていてとても美しかった。

 

夢の中で会うマサムネと実際に触れることのできるマサムネは全然違った。

 

欲しいものはここに全部ある。そう思えて、そっと触れると、命とかそういうものの温かさを感じられて嬉しくてはしゃいだ。

そして、どんどん欲張りになって、俺自身がマサムネを自分の中に取り込んでしまおうとしたんだ。

 

そうすればマサムネといつだって一緒だ。マサムネが俺をどう思っているかとか、ひょっとして俺の事を嫌いだって思う日が来るかもしれないとか、そんなあるかないか分からない心配をする必要もなくなる。

 

全部全部心ごと食べてしまえばいいんだって思ったんだ。

 

そして、そんな危うい俺の行動をソラ太が止めた。

寸でのところで俺の気持ちをマサムネの中に封じ込めた。

あの妄執の部屋自体が実は俺の過去だったんだ。

 

その中に埋もれていた俺の唯一のピュアな気持ち、マサムネが好きという気持ちだけをタカノがずっとずっと泣きながら守ってきたんだ。

 

タカノさんを魔王と表したけど、実際にひどく傲慢で自己中な魔王は10年前のリツ自身だった。

 

不意に…、

「お前はリツじゃない…。」

と、タカノさんは俺に向かって言った。

 

リツじゃないという言葉は俺のリツじゃないという言葉と同義語だ。目覚めてからでさえ、俺自体もマサムネのリツだって思えないでいるんだから当然だよね。

 

「そうですね。そう言われてしまうとどうにもならないんですが、でもタカノさん、じゃあなんであなたははじめから俺をだましてたんですか?」

 

俺の言葉にタカノさんは「ウっ」と言葉を詰まらせた。

 

「俺のミッションが成功するかしないかで条件を出しましたね。でもどちらに転んでもあなたはプレゼントを手に入れることになっていたんですよね?」

 

タカノさんは俺の手を乗せたまま目を伏せた。

成功すれば、もちろんりつとの誕生日を送れる。

だけど失敗しても俺はサンタをやめてタカノさんと一緒にいる。

 

どのみち誕生日はタカノさんと過ごせるんだ。これ親が全部取りのたいした仕掛けの賭けだとおもわない?

 

「俺だって賭けをしていたんだ。あの日、ー目見ただけでお前があのリツだって分かってた。でもお前は俺のことが分からなかった。だから俺はお前が思い出すかどうかに賭けたんだ。」

「ちゃんと思い出しました。あなたの中のリツを回収したので。」

「ならなんで昔のリツじゃないんだ。」

 

激高するでもなく嘆くでもなく、タカノさんは淡々と俺にそう告げるから。余計にその言葉に胸が痛んだ。

きっと戻ってきたリツの魂のようなものが俺の中で悲鳴を上げて身体いっばいに叫んでいるんだろう。

…やめて、その人を傷つけないで…って。

 

「だって仕方がないじゃないですか…。昔のあなたより…、俺は今のあなたにこんなに心が揺れているんだから。」

 

ただ乗せていただけの手に力を入れて、その長い指をキュっとつかむと冷えた指がフルフルと震えた。

 

「だからこんな俺でも良ければあなたの誕生日をー緒にお祝いしますよ。」お誕生日おめでとう、と…、言うつもりだったのに、俺がその言葉を言い終わらないうちに乱暴な腕に拘束されて、顔は厚い胸に押し付けられた。

 

「昔のリツじゃないんだから、やっばりお前の仕事は失敗だ。だからお前はサンタをやめて俺といなければならない。」

「ー年にたった一日仕事すれば後は悠々自適、そんなにハードな仕事じゃないからやめるのはもったいないですよ。」

「だめだ。クリスマスにいない恋人なんて絶対にだめだ。」

「それなら転職して恋のキューピットにでもなりましょうか。」

「人の恋路も却下・・・。」

 

いつ恋人になったんだと文句を言いたかったけど、それもまあ今日は誕生日だから許そう。

結局失敗したって言ったらイサカさんにメチャ叱られそうだし、このままタカノさんのところでほとぼりを冷ますのもいいのかもしれない。

 

それにしても、こんな風にどきどきしてしまうと自分の心を隠せない。

俺を抱き締めてうつむいているタカノさんが見上げれば、一面に浮かぶ幸せな恋人同士の画像で俺のツンデしな気持ちは一発でばればれだ…。

 

願わくば、タカノさんが上を見ませんようにって思っていることは、ここだけの秘密にしておいて欲しい。

 

サンタさん、俺のお願い聞いてくれるよね。

 

 

 

終わりじゃないよ。エピローグに続く。

 

********************************************

 

 

 

 

 

 

「お疲れ、サンタクロース。」

 

目の前にポワンと火の玉が浮かび、だんだんと広がって立ち姿の美しい黒髪の人になった。人型を取ってはいるけどこの人はサンタクロース属性の妖精の中でも、一番力のあるドンなのだ。

 

時にあらぶる龍になることもある。

いつもあいまいな笑顔を浮かベて人を翻弄する狡猾さと、情にもろい面も兼ね備えていて、こんな俺にも使命を与えて猶予と希望をくれる。

 

「イサカさん。ありがとうございます。」

「今年もきちんと仕事をやってくれて助かったよ。さすがは伝説のサンタクロースの直系

子孫。」

「嫌味ですか…。」

きちんと仕事をしたことは自分でも分かっている。クリスマスイブからクリスマス当日になる夜中、零時を迎える国の子どもたちにプレゼントを配る。

多くのサンタが分業であるのに、俺はこの国の子どもたちに一人で仕事を終える。

極東の小さい国とはいえ、豊かさからか、サンタを妄信する風土が最近広まっているために案外件数が多いのだ。

 

「いや、これで一年間、彼と幸せな時間が過ごせるね。」

 

俺がサンタクロースとしての仕事をきちんとすれば、この人は俺の望みをかなえるといった。だから俺は何があってもこの人には逆らえない。

 

「あなたのそういう悪趣味な笑い方も大概ですけど、選択肢も他にはないので仕方がないです。そしていつも感謝しています。」

 

慇懃無礼にならない程度には一応嫌味を返しておく。簡単に平身低頭してひれ伏すことなどこの人が望んでないことを知っているから。

 

「まあ俺達はみんなで、取替え子としてこちらに来ていたお前の力を侮っていたのだから、その気がなかったとは言ってもある程度こちらにも落ち度があることだ。ただ、長老連中も何かと体面を重んじるから一応の言い訳も必要だ。」

 

毎年ー度、この時期に報告と感謝を伝えなければならないのは、昔の俺がしでかした尻拭いと愛しい人の命乞いのためだ。

俺は自分がサンタクロースの血筋だとは知らなった。

 

妖精はたまに取り替え子をするのだそうだ。それは色々な理由があるようだけど俺がなぜそうされたのかは分からない。俺はずっと、あの時まで自分がただの人間だと思って生きていたのだ。

 

俺は1O年前に深くおぼれ過ぎた愛しい恋人の心をすっぽりと飲み込んでしまった。

恋人を手放したくない。誰かに取られたくない。ひとつになりたいと強く思ってしまったから。

 

身の内にある恋人の心は未だ俺から分離をさせるすべがない。

イサカさんが妖精の世界の博士に研究をしてもらっているが、未だにどうしたらよいのかの目途もついてない。

何しろ俺はサンタクロースの直系の子孫で、サンタの世界ではイサカさんに次パワーを秘めているのだそうだ。

だから俺の身体から恋人の心を引きはがすまで、まだどれほどの時間がかかるのか分からない。

 

「いずれにしても延命継続対応に感謝します。」

「お前がきちんと年に一度のオツトメを果たしてくれれば長老達も文句は言わないから、コールドスリープシステム『SORATA』から彼を放り出したりしないよ。今だって学者たちが彼を元に戻すための研究を続けている。」

「放り出されれば、生身の身体が持ちませんから何も文句はありません。」

 

心を取り込まれてしまった身体は本来ならば生きてはいけない。しかし彼の身体は心をなくして空っぽのままでもいなくならずに眠っている。『SORATA』のおかげで。

ソラ太は肉体を冬眠状態にしながらも血液のように生気を循環させ、身体が滅びていくことを引き留めている。

 

そして俺は年にー日だけ、その恋人の深層心理にもぐりこみ、素敵な自作の物語を共鳴と共感の感応能力で開放して過ごすことを許されている。

 

「今年も彼はお前からのプレゼントとしてクリスマスイブの夜に素敵な夢を見たわけだね。」

「その日しか彼とは触れ合えませんから…。夢の中でだけですけど…。」

 

冬眠システムを解除すると身体に負担がかかる。命の摂理に反した行為を行っていると世界に気づかれてしまう。だから年に一度だけ彼は身体を解凍されてまどろむ。

何もない真っ白い心に、俺のことだけいくつもいくつも刻むように、空っぽの心にまやかしの記憶を投影していく。

そう、クリスマスイブの日だけ、俺との楽しい夢を見るのだ。

いつか目覚めるかもしれないという希望のために、その代価に、俺は今年もサンタクロースとして仕事を勤め上げた。

 

「いや…、しかし今年は少しハラハラしたけどね。」

「陳腐でしたか?俺の作った物語は。」

「いや…。昔のことを持ち出すようなことをするとは思わなくてね。」

「もともと俺は精神感応で見せることはできても物語を作るのには向いてません。もうネタ切れなので次からはウサミ先生かヨシカワ先生に物語を作ってもらいます。」

 

毎年楽しい物語をつくってそれを眠る彼に見せているけど、そろそろ設定も妄想も行き詰ってる。俺は作家じゃないし、ウサミ先生やヨシカワ先生のような素敵なラブロマンスを作れるわけもない。

 

「そうだな。彼らなら素敵な千夜一夜物語だって書いてくれるだろうし、幼馴染や同居人ラブ、会社に勤める元恋人同士の二人が、一年間で恋に落ちる話だって作ってくれるさ。」

 

「一年かけてどうするか考えます。」

「ああ、じゃあまた来年。」

「ええ、またクリスマスに。」

 

いつかお前が目覚る日まで、お前だけのサンタクロースはおあずけだな。

 

また来年。俺の誕生日とお前のクリスマスイブに楽しい夢を見よう。

 

 

 

愛してるよりつ…。

 

 

 

 

 

 




おしまいです。
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