聖杯戦争 in 総武高校   作:Iタク

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ここから、また八幡視点です。


1回戦
6日目


 聖杯戦争。

 今は1回戦目の6日目。決戦前日ということになる。

 普通の参加者ならば、もうすでに戦う準備をし終えて夜も眠れないほど緊張していることだろう。

 

「ちょっと、八幡。」

 

 だが俺は違う。

 特別枠の俺は、1回戦免除。シード扱いとなっている。

 どうやら俺には一般魔術師並みの魔力があるようだ。今回この戦争に参加できたのもそのおかげらしい。

 

「八幡?ねぇ八幡?」

 

 だから俺には、他の人と違って幾分余裕がある。

 ならば何をするべきか?2日目に向けての準備、つまり、英気を養うことだ。戦いといえば勝負ごとにおいてよく、腹が減っては戦は出来ぬ、というが、普通に考えてそれより心配することは、ちゃんと眠れているかどうかだ。ストレスで暴食になってしまうことはよく聞く話だが、ストレスや心配事を抱えた状態で熟睡することは中々難しい。2回戦からは俺も戦うわけだから、よく眠れる日は早々に来ることはないだろう。だから俺は次の戦いに備えて再び布団に身を預け───

 

 

「いい加減にしなさいよこのニート!!昨日からずっと部屋にこもりっぱなしじゃないの!!」

 

「ちょっおまっ!布団をはがすなよ寒いだろ…!」

 

「うるさいわよ!私ここにきてから何もしてないじゃない!?いい加減暇なのよ!」

 

 朝からうるさいのは俺のサーヴァントであるジャンヌダルク。

 教科書やそれについての書籍では聖女なんて書かれているが、ふたを開けてみれば存外普通の元気な女性だった。

 少し蛇足をつけさせてもらうと、先ほど布団に身を預け、といったが、俺は普段ベッドで寝ている。しかし昨日と今日は敷布団で寝ているのだ。

 理由は簡単、この黒女にベッドを独占されているからだ。霊体化しておかないのかと聞いてみたが、普通の状態でいるほうが何かと都合がいいらしい。とりあえず俺はもうベッドでは寝れないようだ。いやほら、なんかあいつ妙に気に入ってるみたいだし、あと匂いとか……って危ない危ない。またテレパシーが発動するところだったぜ。

 

 話を戻して現在、シードの参加者が俺であることを気づかれないように2回戦が始まるまで部屋にこもっていようと思っていたのだが、どうやら我慢の限界らしい。

 

「つってもなぁ、俺らの存在はあんまり知られたくないし、出来れば外に出たくないんだが…」

「でも暇なのよ!別に、私さえ霊体化してればあなただけ姿を見られてもいいんじゃないの?」

 

 んー、それもそうかもしれないが、まあ、決戦2日前に俺のことを気にする奴は早々いないか……こうなれば腹をくくるしかない。

 

「………行くか?」

「あら、物分かりのいいマス…八幡じゃない。」

「いや、物分かりのいい八幡ってなんだよ………」

 

 俺は年下の女の子に弱いのかと思っていたが、どうやら駄々をこねた女に弱いらしい。

 ここ一番に嬉しそうな顔をしたサーヴァントを連れて、俺は渋々扉を開けた。

 

 

 

 

 * * * * * * *

 

 

 

「別エリアに行きたい?」

 

 

 俺はなるべく人目につかないように移動し、平塚先生の姿をしたNPCのもとへ行った。

 出る前にいろいろ考えていた。会場の視察をしようと思ったが、資料によれば総武高校と瓜二つの構造をしているらしい。流石に通っている学校のことを今更見て回ろうとは思わない。

 次に、顔見知りに会おうとも思ったが、変に関われば今後に影響が出るかもしれないのでやめておいた。

 

 散々悩んだ末に、まだ見ていない別エリアを確認しておこうと思った。2回戦以降もそこに行かなければならないのだ。見ていて損はないだろう。

 何より、俺のサーヴァントはそろそろガス抜きをしないと部屋の中で暴れそうだ…

 

「1回戦は免除されて、マスター同士の実戦はなくなりましたけど、別エリアに行く分には構いませんよね?」

 

 だが、問題なのは実戦というのが別エリアに行くことも含まれているかもしれないことだ。

 俺は1回戦免除で実戦をしない代わりに資料を受け取った時点で取引は成立している。だから、ここで向こうにダメだ、と言われるとどうしようもできない。

 

 と、思っていたのだが、

 

「そういうことなら構わないさ。丁度、空いたエリアがあってな、扱いに困っていたところだ。確かに実戦は見送るように言ったが、エリアに行ってエネミーと戦うのは皆1回戦前にしたことだ。むしろ、君もしておかなければな。」

 

 …空いたエリア……か。

 

 つまりそれは、すでに脱落者がいるということ。

 

 つまりそれは、すでに誰か死んだということだ。

 

 

 もしかして、あいつらの誰かが……………………

 

 

 ダメだダメだ。そんなことを気にしていたらこの先に進めない。

 今は気にせず、こちらの要件を進めなくては

 

「一つ注意しておこう。例え別エリアの滞在時間が一分であっても、こちらに戻ってくると夜になる。知っての通り、聖杯戦争中は夜に外での活動は禁止してる。別エリアに行く前は、用事を済ませておくことだ。」

「そういやそんなことも資料に書いてありましたね。わかりました、ありがとうございます。」

「では、別エリアへの扉は、君が英霊を召喚した場所だ。言わなくともわかるな?」

 

 そう言うと、NPCは微笑み立ち去った。

 全く、ホントに先生に似てるなぁ…。NPCでも男前じゃねぇか…

 

 たいした用事もなかった俺は、あの部室に直行した。

 

 

 

 

「あっ、そういえば、現在の別エリアは第二暗唱鍵取得のための第二層で、エネミーのレベルが通常より高いんだったな。……まあ、あの二人なら大丈夫か。」

 

 

 

 

 

 

 * * * * * * *

 

 

 

 

 

 懐かしい

 

 いや、あの時から全然時間はたっていないのはわかっている

 

 だが、この教室の前に立つと、あの三人が楽し気に談話してる風景が思い上がってくる。

 

 この戦いに勝てば、また見れるだろうか。

 

 そうだ、勝たなくては

 

 そのためにもやはり部屋に戻って英気をやしな痛い痛い痛い!!!

 

「何戻ろうとしてんのよ!!早く入りなさいよ!」

「わかった、わかったから横腹をつねるのはやめろやめてください。」

 

 こいつ本気でつねりやがったな。自分が英霊ってことわかってんのか…?

 というか、いつになったらこのテレパシーを制御できるのだろうか…

 まあ、冗談はこの辺までにして、

 

「…行くぞ、アヴェンジャー。」

 

「ええ、行きましょうか八幡。」

 

 気持ちを切り替え、戦いの場に繋がる扉に手を伸ば痛い痛い痛い!!

 

「今度はなんなんだよ…!?あとピンポイントで同じところをつねるのやめてくれる?マジで痛いんですけど。」

「あーごめん。ちょっと気になって…」

「気になる?何が?」

「あれ、あそこの扉。」

「はぁ、扉?」

 

 あれだけ行きたがってたジャンヌが足を止めて何を言うのかと思えば、気になる扉?

 ジャンヌは奉仕部の部室の横にある、廊下の正面にある扉を指さした。

 

 ……あんなところに扉とかあったか…?

 

「それで、あそこがどうしたんだ?」

「え?ああ、いや…なんか気になって……。あそこは誰かの部屋なの?」

「いや、この階には個人ルームはないって聞いたぞ。物置部屋じゃないのか?」

「…そう。まあいいわ、さて行きましょうか。…ほら、早くしなさい!」

「止めたのお前だよね?俺無駄に横腹つねられたよね?」

 

 仕切り直し、俺は別エリアへ向かったのだった。

 

 

 

 * * * * * * *

 

 

 

 

「やっと戦闘ね。さあ、どんどん燃やすわよ!」

 

 入って一言目から物騒なことを言ってるなぁ…

 

 しかし、思ったよりシンプルな構造になってるようだ。簡単に言うと、簡単な迷路のようになっている。

 資料によれば、一度通った道は端末に記録されるらしい。例え行き止まりと分かっていても、念のため全部の道を通ったほうがよさそうだな。

 

「よし、片っ端から歩いていくぞ。とりあえずそこの分かれ道を右だ。」

「仕方ないから、ナビは貴方に任せるわ。」

 

 今回の目標は、礼装を入手することだ。礼装とはマスターの装備品であり、アイテムの他に戦いに加入できる唯一の方法である。回復はアイテムでできるから、支援効果のある礼装を見つけられるといいのだが…

 

「八幡、来たわよ。」

「え、もう?」

 

 はぁ…できれば会いたくなかったのだが、早速エネミーと出会ってしまった。

 まあ平塚NPCによれば初戦はチュートリアルみたいな感じらしいし、絶対勝てるようになってるじゃあ…

 ……って、あれ?

 

「…レベル……7?待て待て、第一層の別エリアはエネミー最大でもレベル3までって聞いてたんだが…」

 

 先に説明しておくが、全マスターは、エネミー・敵サーヴァントを認識し、見ただけでレベルがわかるようになっている。

 まあ、わかりやすい話スカウターみたいな感じだ。今では戦闘力5か…ゴミめ、とも言ってられない。レベル5は現時点ではそこそこ高いほうになる。

 

 それくらいのはずなのに、レベル7?

 

「ホントにここ第一層なのか?……っておいおい、ここ第二層じゃねぇか…!」

 

「なに?まずいの?」

 

「まずいってお前…倒せるのか?」

 

 ポケ〇ンならタイプ弱点の技出してたらレベル高くても倒せるが、エネミーにはクラスがない。弱点がつけない分、単純な力量差が勝敗を決める。

 

「まあ、ものは試しよ。とりあえず私に指示しなさい八幡。あなた、私の頭脳になってくれるんでしょ?」

 

 ジャンヌは微笑みかけた。

 参ったな………そんな顔されたらもう断れねぇよ。

 

「…よし、初めは遠距離から様子見だ。」

「了解よ。見てなさい八幡、あなたのサーヴァントがいかに優秀かってことをね!」

 

 早速ジャンヌはノリノリのようだ。

 さて、遠距離攻撃を指示した理由は二つある。

 まず一つは、言った通り様子見。

 戦いに慣れてない俺にとって、いきなり接近戦の指示は難しい。ジャンヌの戦い方や能力を直で見るためにも、まずは遠くから攻撃をさせることに越したことはないだろう。

 

 二つ目は、ジャンヌの保治スキル。

 こいつには自己回復(魔力)(A+)というスキルがある。なんでも、魔力を微量ながら毎分回復していくらしい。中でもこいつのクラス、アヴェンジャーは特級の回復量なのだ。

 それならば、魔力を消費する遠距離攻撃をしてもあまり支障はないはずだ。

 ジャンヌは右手をエネミーに対してかざし、魔力を込める。さあ、こいつはどんな技を使うのか、少し楽しみだ。

 

 

「初撃から飛ばしていくわよ。燃えろ!!」

 

 

 バァーーーーーーン!!!!!

 

 

 

………………………ん?

 

 

 

 …………………え、待って?

 

 こいつさっき燃えろって言わなかったか?

 敵を炎上させる技だったんじゃないの?

 

「……………………」

「……………………」

 

 そばで見ていた俺だけでなく、当人であるジャンヌでさえ呆然としている。

 いやいや、これやったのお前だからね?

 

 ていうかこれどうすんのマジで…

 

「………えっとな…」

「なっ何よ!?敵は倒せたんだからいいでしょ!?」

「いやまあ……うん。倒したね、完膚なきまでに圧勝だよ。だけどな…」

「あー聞えない!私はなんにも聞こえないからー!!」

 

 確かに勝った。それはいい。いいんだが…

 

 

 

 早い話、エリアが全壊していた。

 

 

 

 

 

 * * * * * * *

 

 

 

「いやぁ、見通しがいいなー。見ろよ、最深部まで見えるぜ。」

「あー!もううるさい!!仕方ないでしょ初戦だったんだから!加減が分からなかったのよ!」

 

 まあ、ある意味当たりだったな…。

 だってほら、魔力はほぼ無限に生成される最大火力のアタッカーだぞ。

 しかも、俺自身の魔力値は一般魔術師と変わらない。うまく組み合わせれば、さっき以上の火力が出ることだろう。………それは大丈夫なのだろうか…

 

「おっ。ジャンヌ、これ見ろよ。」

「んー?あら、早速見つけたのね、礼装(・・)

 

 今回の目的だった礼装を見つけることができた。…まあ、こいつがエリアを全壊してくれたおかげで探しやすくなったというのもあるが、これ以上いじるのはやめておいてやろう。

 

「これを装備すれば、俺も魔術使えるようになるんだよな?」

「まあ、よっぽどのものでない限り使えるわよ。それで、能力は?」

「えっとな、“低確率で敵をスタンする”っていう能力だ。…使えるか?」

「スタンできれば相手の動きを止めれるから使えるけど、低確率っていうのが微妙ね。初めのものにしてはまだマシじゃない?」

「そうか……。とりあえず、帰るか。戦闘経験を積もうにも、敵いないし。」

「うっ……。そ、そうね。今回はこの辺で満足しておいてあげる。」

 

 おっと、また元気をなくしてしまったな。仕方ない、部屋に戻ったらとっておきのデザートを分けてやろう。

 

 

 

 * * * * * * *

 

 

 

 入る前の緊張はどこへ行ったのやら、俺は家に帰るときくらいリラックスした状態で戻ってきた。

 一番の要因はやはり俺のサーヴァントの能力を見たからだろう。

 油断は少しもできない、そんなことはわかっている。

 しかし、ハッキリ言って負ける気がしなかった。それくらいジャンヌは強い。

 

「さて、戻るぞ。帰ったら念のため休んどけってうわっ、マジで夜だな…時間感覚狂いそうだ。」

 

「………待って八幡。」

 

 振り返ると、今日一番に真剣な顔をしているジャンヌ。

 

「ここに入る前に、私が言っていたこと覚えていますか?」

「あっああ、そこの物置部屋の話だろ。それがどうかしたか?」

 

 そういえば、うやむやに話が終わってたな。この部屋がどうかしたのだろうか…

 

 

「間違いありません、ここに敵マスターがいます。」

「!?」

 

 そんな…!この階にマスターの部屋はないはず。

 

「しかし、厳重な結界が施されているようね。確認しようにも、入室は困難かと。どうする?」

「どうするって言われても、ここでの戦闘は禁止なんじゃ…」

 

 そういいながら、物置部屋にもたれかかる。

 すると、ガチャ、と音が鳴った。

 …あれ?

 

「これもしかして、開いた?」

「そのようね…。これはもう、確認しろって言ってるようなものでしょ!」

 

 全く、なんでこんなイレギュラーなことばかり起こるんだ………

 しかし、開けたからには中を確認しなくては。

 心でそう言い訳しながら、ゆっくりと扉を開けると、

 

 

「ひっ…!?こっ来ないで!!!!………って、あれ…?」

 

 

「おっお前………!!」

 

 

 そこには、俺のよく知る人がいた。

 人というより、天使かな。しかし、今は怯え切った表情で体を震わせている。

 

 

「………お、お兄ちゃん??」

 

 

 

 

 

 

 


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