聖杯戦争 in 総武高校   作:Iタク

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ちょくちょくご感想をくださる人がいるようで、とても励みになります。
不定期な投稿ですが、今後ともよろしくお願いいたします。


2回戦
久しぶりの…


 

 

『対戦相手の組み合わせを掲示板にて公開しています。マスターたちは一度ご確認してください。』

 

 

 普段俺の携帯はいたずらメールやチェーンメール以外では鳴らないのだが、今回はどうやらちゃんとしたメールらしい。

 しかし、この文面から察するに全マスターに送信されているものなのだろうが、どうやってみんなのメールアドレスを取得したんだ?管理プログラム、恐るべし。

 

「へぇ、対戦相手もう決まったのね。ほら八幡、早く行きましょうよ。」

 

 サーヴァントってのは召喚される際に最低限の現代の知識を得るって資料に書いてたんだが、何故こいつは人の携帯を平然と覗いてるの?お母さんそんな子に育てた覚えないわよ?

 

「誰があんたに育てられたってのよ!別にいいでしょう見られて困るもんでもないんだから!」

 

 そういやこいつとはこっちの意思とは関係なくテレパシーが発動しちゃうんだったな。戦闘では使えそうだが、流石にオンオフがないと不便だな…

 

「はぁ…。とりあえず見に行ってくるけど、お前はここで待機しててくれよ。」

 

「は?!なんでよ?」

 

「なんでって、もし見ただけで真名を見抜くって能力持ったマスターかサーヴァントがいたらまずいだろ?」

 

「でも、校内で奇襲とかされたらあんたどうするつもりなの!?」

 

「校内での戦闘はペナルティがあるんだろ?そんな易々攻撃してくるやつはいねぇよ。」

 

「……………」

 

 無言でこちらをじっと見るジャンヌ。

 どうやら待機することに全然納得がいっていないらしい。確かにこいつが言っていることも一理ある。

 しかし、情報をいかに相手に与えないかが重要な聖杯戦争において、少しでもジャンヌのことは隠しておきたいのだ。

 けどまあ、今回は少しこいつの意見を尊重することにしよう。

 

 

「オーケーわかった。じゃあこうしよう。」

 

「………?」

 

 

 仕方なく、俺はジャンヌに条件を出し、一人で掲示板を見に行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 * * * * * * * * *

 

 

 

 

 対戦相手公開の連絡が来てしばらく経っていたせいか、掲示板の前には随分と人が集まっていた。

 久しぶりに大勢の人の中に混じったため、若干人ごみに酔ってきた。まあ時間が経てば少なくなることだろう。俺は少し、掲示板から離れたところで待つことにした。

 

 

「……ねぇ」

 

 

 どこからともなく声が聞こえた。

 呼びかけられた気がしたが恐らく気のせいだろう。

 しっかし、まだ人が多いなぁ…。そろそろ俺も確認したいんだが…

 

「ちょ、ちょっと!ねぇってばぁ!あんたヒキタニでしょ!?」

 

 おーい呼ばれてるぞーヒキタニ君とやら。

 さっさと返事してやれよ。

 

「…いい加減こっち向けぇ!」

 

「いっ!!何すんだ………って、お前…」

 

 

 不意に背中を叩かれたせいで余計に痛く感じ、思わず反応してしまった。

 最後まで無視するつもりだったのだが、どうやらもう無理のようだ。

 

 というのも叩いた相手が…

 

 

「…相模、か。」

 

「ちっ。久しぶりねヒキタニ。」

 

 

 相模南、

 以前文化祭で実行委員長を勤めたやつだ。まあそのときこいつとは色々あったんだが…

 しかし、呼んでおいて舌打ちとか流石に酷くね?

 

「で、なに?」

 

「いや何って、あんたまだ掲示板見てないの?」

 

「今来たところでこの人ごみだ。確認しようがねぇよ。」

 

「ふぅ~ん」

 

「…………」

 

「…………」

 

 そして会話が途切れる。

 いやそりゃそうだろ。え、なに、なんでこいつ俺に話しかけてきたの?不思議を通り越して怖いんですけど…

 

「……アハッ」

 

「アハッ?」

 

 急にどうしてんだこいつ……アハって何?アハ体験?急に脳が活性化したの?

 

 

「アッハハハハハハハハハハハ!!」

 

 

「……」

 

 

 よくわからんが、相模がかなりおかしくなっていることだけはよくわかった。

 何がそんなに面白いんだよ…、あっ俺の顔ですか?ってそれなら今更か…

 

「…ヒキタニ」

 

「…あ?」

 

「うち、一回戦の相手がゆっこだったの。もちろん殺した…生きるために殺したの。そのあと、遥も負けたことを聞いたんだ…」

 

「お、おう……」

 

 なるほどな…

 それで相模はちょっと狂ってるのか…

 一気に友達を二人も失って、正常な方がおかしいってもんだ。

 

 

「それを聞いて私……」

 

「………」

 

 

 

「…さいっっっっこうの気分になったの!!」

 

 

「……は?」

 

「今まであった胸のつっかえが取れたっていうか、仲いい振りしてウロチョロしてたあいつらがいなくなってスッキリしたというか…!」

 

「…………」

 

 いや、依然として狂ってるのは確かなのだが……こいつホントに大丈夫なのか?

 

「私、やっと……やっとボッチになれた!!」

 

 あ、やだこの子お友達になれそう。

 

「うち、やっと気づいたの…、これが私の願いだったんだって。そして今、聖杯は私の願いを叶えている…つまり、もうこの戦いの勝者は決まっているのよ!」

 

「それって、たまたまなんじゃねーの?」

 

 総勢129人のトーナメント方式ということは、一回戦が終わった時点で60数人が死んでいることになる。

 確率的に言えば、その中に自分の知り合いや身内が入っていてもおかしくはない。

 

 ……

 

 ……いや、今は無駄なことを考えている暇はないな…。

 

 

「うん、流石にうちもそう思ってたよ。……あんたを見るまでは」

 

「……………………はい?」

 

 こいつはさっきから何を言ってるんだ…?

 

「あんた、途中参加したんでしょ?」

 

「え、あ、おう。」

 

 あれ、なんでそのことを……?

 

「わかってるよ、あんたが参加した理由……」

 

「…なんだと?」

 

 どこからか情報が漏れたのか…?いや待て、理由ってつまりジャンヌを召喚した時に言ったことだよな。それはジャンヌにしか言っていないし、そもそもあれは正式に参加する前に言ったことだ。バレるはずがない。

 根も葉もない噂や悪評を流されることはよくあることだ。

 だが、俺が聖杯戦争に参加した理由なんて聞いて誰が得をするというんだ?

 俺にとって何の弱みにもならないし、相手にとって何の武器にもならない。

 

 なら、相模が言っている理由とはなんだ?

 

 

 

 

「……うちのため、なんだよね。」

 

 

 

 

 

「…………は?」

 

 

 

 

 ………は?…え?

 

 今こいつは何といった?

 

 

「わかってる、わかってるよ。うちのためにわざわざ参加してくれたんだよね。」

 

 

「いや……え?」

 

 

 予想外の答えに頭が追い付かない。

 

 俺が、

 相模のために、

 聖杯戦争に、

 参加した、だと?

 

 

「待て、なんでそうなる?」

 

 当然の疑問を自然に聞いてみる。

 

 

「何でって、私に殺されにわざわざ参加してくれたんだよね。」

 

 

「………」

 

 

 依然理解できなかった。

 

 

「私、トーナメント表を見たときとても残念だったの……なんでヒキタニがいないんだろうって…。私はボッチになりたいのに、私に関わったことのある人全員殺したいのに、なんでって…」

 

 しょんぼりとした表情とは裏腹に、何やら急に物騒なことを語り始めた。

 

「そう思ってたら、あんたが急に参加することになったって知って!これって私の願いが叶ったってことだよね!聖杯が私の願望を叶えたってことだよね!つまり、この聖杯戦争はもう私が勝ったも同然ってことじゃん!もう最高だよ、アハハハハハ!」

 

 

 ………

 

 納得はしてないが、ぼんやりとこいつの言ってることはわかった。

 つまり、俺が参加したことで自分がもう優勝したも同然と思い込んでいるのか。

 …何ともまあ、中二病顔負けの想像力だな……

 

 

 

 ───ねえ、八幡

 

 

 唐突に、声が聞こえた。声の主はもちろん…

 

 

(…どうした、ジャンヌ)

 

 

 部屋を出る前にジャンヌに出した条件、それは俺とテレパシーできるギリギリの距離まで離れ、できる限りマイルーム付近で霊体化した状態で待機している、というものだ。

 

 

 ───あいつ、燃やしてもいい?ていうか燃やすわ。

 

 

(ジャンヌ、ステイだ。)

 

 

 ちゃんということを聞いてくれるのは助かるのだが、基本考えが攻撃的なのが厄介だ。

 まあ、俺のことを守ろうとしていることはホントに助かっているのだが…

 

 

(これも一種の作戦かもしれん。相手に流されたらそれこそ向こうの思う壺だぞ。)

 

 

 ───チッ…わかったわよ。

 

 

 …声が完全に聞こえなくなった。どうやら納得してくれたようだ。

 まあ何というか、何だかんだいいやつなんだよなぁ

 

 

「じゃあヒキタニ、この一週間、存分に楽しもうね!うち、精一杯あんたを殺しに行くから!簡単に死なないでね……うふふっ、アハハ!」

 

 そう言って、相模は去って行った。

 …なるほど、小町の気持ちがよくわかってきた。

 どんな願いも叶える願望機を前に、みんなが必死で相手を殺そうとする。普通ならこの殺気にやられてしまうのだろう。

 

 

「……はっ」

 

 

 だが、俺にとってはむしろ清々しい思いだ。

 誰が向けてきたのかわからない悪意よりも、

 目の前から、ちゃんと敵意を向けてくれた方が俄然楽というものだ。

 

 

 そんなこんなで、掲示板から人がほとんどいなくなっていた。

 まあ、あのセリフからもう察しはついているのだが、念のため確認する。

 

 

「…はぁ…、めんどくせぇな……」

 

 

 

 

 《二回戦 比企谷 八幡 vs 相模 南》

 

 

 

 

 

 * * * * * * * *

 

 

 

 

 対戦相手を確認した後、俺は購買部に寄った。

 一応言うことを聞いてくれたジャンヌに何か買って帰ってやろうと思ったからだ。

 

 しかし、高校の購買部にある商品などたかが知れている。

 通常とは違う状態らしいが、仮にもあいつはフランスの聖女様。

 

 せめて、上等なお菓子でもあればいいんだが……

 

 そんな淡い希望も虚しく、購買部にはないことを確認した俺は何も買わず、少し校内を歩くことにした。

 

 

 

 

 

 別に、目的の場所があるわけではない。

 

 ただ、上等なお菓子、のことを考えたとき、

 

 いつも一番初めに部室にいる、アイツ(・・・)のことを思い出した。

 

 

「……いやいや、バカか俺は」

 

 

 自然と、部室の前に俺は立っていた。

 今となっては、ここは別エリアへ行く入り口でしかない。

 もちろんここにアイツはいない。

 

 そんなことはわかっている。

 

 わかっているのに………

 

 

 何故か、俺の足が止まった。

 

 

 …………

 

 

 …………

 

 

 …………なんだ、この匂いは…?

 

 

 もちろん部室からではない。

 

 

 これは……隣の部屋…?

 

 

 小町がいるであろう物置とは少し離れた部屋だ。

 

 

 いや、そんなことはどうでもいい。

 

 

 問題なのはこの匂いだ。

 

 

 いや、匂いというより……

 

 

 

 この香りは……

 

 

 

「……紅茶…」

 

 

 

 種類は詳しく知っているわけではない。

 

 だが、こればかりは間違えるはずがない。

 

 何故ならこの香りは、いつも部室で漂っていたものだ。

 

 

「……これは確認だ、何も問題ない…」

 

 

 そう言い聞かせるように言った後、俺は、香りが漂う部屋の扉を開けた。

 

 そしてそこには……

 

 

 

「…ん?やあ。えっと……君は…」

 

 

「………」

 

 

 

 見知らぬ一人のイケメンがいた。

 

 

「…あ、いや、す、すまん。いいにお…香りがしたもんだからつい…」

 

 

 自分でも驚くほど元気がなくなっていた。

 え、なにこれ、めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど…

 確認とか言っておいて内心めちゃくちゃ期待してたってことじゃないか…。これはあれだな、あいつにだけは死んでも隠しておかないとな。

 

 

「ふふっ、なるほどね。そうだ、よかったら一緒に君もどうだい?僕のパートナーはこういうものがどうも苦手のようでね、知らずに作りすぎて困っていたんだよ。」

 

 

 部屋に元々いた男は、笑顔で俺に語り掛けてくる。

 

「つってもなぁ……」

 

 そう、今は戦争中なのだ。

 このお菓子や紅茶に毒が入っている可能性もある。こんなことで脱落していたら溜まったものじゃない。

 

「あ…そうか、確かに見知らぬ人からのものなんてそう簡単に食べれないね…。」

 

 素なのかわざとなのか、見てわかるくらい男はしょんぼりしていた。

 だが、こればかりは仕方がない。

 

 

 仕方がない、のだが……

 

 

「……その紅茶…」

 

「…え?」

 

「いや、その紅茶は、あんたが作ったやつなのか?」

 

「ああ、この紅茶?僕が作った…といってもここにあったティーセットを使わせてもらったんだけどね。」

 

「…ここにあった……」

 

 

 もちろん、この男が嘘をついている可能性もある。むしろそう思ったほうが自然だろう。

 

 しかし、俺は先ほどから漂っているこの香りのことを信じずにはいられなかった。

 

 

「…一杯だけ……」

 

「……?」

 

「一杯だけもらってもいいか?その紅茶。」

 

「…いいのかい?」

 

「ああ。いや、むしろ飲ませてくれ。さっきから気になってしょうがないんだ。」

 

「あ、ああ…!もちろん、すぐ用意するよ。」

 

 

 そう言って、男は嬉しそうに用意をし始める。

 どうやら、俺は相当あの紅茶にはまってしまっていたらしい。

 これで、毒でも入っていれば死ぬというのに、ダメだな…

 

 

「どうぞ、口に合えばいいんだけどね。」

 

 合うに決まっている。

 根拠などどこにもないが、直感的にそう思った。

 

 スッと紅茶を口に含める。

 

 

「……美味い…」

 

 

 これ以外の言葉が出なかった。

 久しぶりの味だ。

 不思議と心が落ち着くようだった。

 

「そうか、それは良かったよ。」

 

 男は嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

「それでその、聞いていいのかわからんが、」

 

「ん?なにかな?」

 

「…名前、とか、聞いてもいいか?」

 

「…名前、か……」

 

 少なくとも、俺のクラスにはこの男はいなかった……と思う。

 そもそも、これほど美形の男がいたら以前から噂になっていたはずだ。

 

 

「……シン」

 

「え?」

 

「名前だよ。僕はシン、ただのシンだよ。」

 

「シン、か。」

 

 

 もちろんこれが偽名という可能性もあるが、初対面である以上確証がない時点では疑っていてもしょうがない。

 

「俺は比企谷だ。……まあなんだ、紅茶サンキューな。」

 

「いや、僕のほうこそありがとう。やっぱり、ティータイムは誰かと一緒にしないとね。」

 

 

 この時の俺はまだ知らない。

 

 シンと名乗ったこの男が、

 

 俺の初めての友達になるということを

 


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