「とんでもないことをしてくれたな、桐ケ谷・・・・」
「勝家・・・・・」
刀を手にすさまじい殺気を放ちながら勝家は俺のほうへ来る
「桐ケ谷、信奈さまには同盟相手の大将である貴様を斬るなと命じられていたが、わが主君へのこの仕打ち……今度ばかりは見逃せないぞ」
「主君?勝家、お前という将がいながら、なぜ信奈にではなく。こいつの言いなりになっているんだ?尾張を他の連中から守れる器を持った大名は信奈しかいないというのはお前でも知っているはずだ。なのになぜ織田家家臣を纏めない。なぜその少年の言うがままになっているんだ?」
「うっ・・・・・あ、あたしは、政治とかそういう難しいことは分からないんだッ! ただ、あたしの主君は信勝さまだからなッ!武士なら主君に最後まで忠義を通すものだろう!?」
と、勝家はそう言うとまほ少佐が
「そんなの状況によって変わるものだ柴田殿。将とはただ主君の命を聞くだけではない。主君の間違った行動を制し、場合には叱咤するのも将の役目だと思うぞ?」
「そ、それは・・・・・」
「少佐の言う通りだ勝家、いつまで主君を甘やかしている。信奈が家臣をまとめられない原因の一つはお前にもあるんだぞ?」
と、そう言うと勝家は顔を赤くしそして頭を掻き
「ええい!うるさい!うるさい!!二人とも難しいことを言ってごまかすな、バカー!」
と顔を真っ赤にしてそう怒鳴る。別に難しいことは一言も言っていないのだが、勝家の言葉に俺と少佐はきょとんとし苦笑いする。そして勝家は刀を振り上げ
「 と、とにかく貴様は信勝さまに盾突いた!!その罪は死罪に値するっ、覚悟して死ね!」
と、そう言い襲い掛かる俺と少佐はホルスターから拳銃を取り出そうとしたが、間に合わない。俺がそう焦ったその時・・・・・・
ダアァーン!!
と、いきなり銃声が鳴り響き、銃弾は勝家のすぐ後ろにあった戸棚に当たる。そのいきなりのことに勝家は驚き動きを止める。すると俺の後ろから・・・
「やれやれ大佐が戻らないうえに外の騒ぎ声が大きくなったから、心配して出てきたが、柴勝さん。なにうちらの大将に斬りかかろうとしているんだい?」
「辻!?」
「辻中尉・・・・」
と、そこから四式半自動小銃を持った辻中尉が出てきた。そしてその後ろから
「大佐たちは斬らせません!!」
「柴田殿だめですぞ!!政宗殿はさまは斬らせませんぞ!」
「……そう。ダメ。信奈さま想いの人は、殺させない」
ねねと犬千代が、手を広げて俺を庇ってくれて宮藤軍曹は14年式拳銃を構える。それを見た勝家は
「犬千代!?なんで邪魔をする!!こんな胡散臭いヤツ!!」
と、そう言うと犬千代は首を横に振り
「違う政宗、胡散臭くない。とってもいいヤツ。・・・・・胸はただの飾りだって言った。そこは高評価」
「はぁ?胸?何を言っているんだお前は?」
「無駄に胸の大きい勝家にはわからない・・・・」
「い、犬千代?何を怒っているんだ?」
と、言う千代と勝家がそう言う中。まほ少佐は
「大佐、犬千代に何か変な事でも言ったのか?」
と、明らかに呆れたようにジト目で俺を見ると
「いや?俺は別に変な事言ってないぞ?」
と、俺が少佐にそう言う中、犬千代は
「それに、なにより犬千代は信奈さまの笑顔を、失いたくない」
「ええ? こいつが、そんなに信奈さまに信頼されてるってのかよ?」
「たぶん・・・・・でも、犬千代は感じる。姫様が政宗と話している時、姫様、とても楽しそうに笑っていた。勝家気が付かなかった?」
「え?・・・あ、それは私も少し気が付いてた。なんか信奈さま、ご幼少の時に懐いていたあの南蛮宣教師と話していた時に見せた笑顔と同じだったな・・・・・・」
「そう同じ・・・・姫様の信奈さまの夢や気持ちを分かってあげらる人、少ない。だから政宗を斬ったら姫様悲しむ・・・・・」
と、犬千代の言葉に勝家はそう言うと
「う、うむ・・・・・」
「それだけじゃない政宗は姫様の同盟相手、同盟相手を斬っちゃったら政宗たち日本軍を敵に回すことになっちゃう。私、芳佳と喧嘩したくない」
と、そう言うと勝家は一瞬顔を青くする。前の盗賊討伐の時、勝家は政宗たち日本軍の力をこの目で見た。あの力をこちらに向けられたらと思うと、ぞっとする。
「う・・・・・私もあいつらとはできれば戦いたくないな・・・・・はぁ・・・犬千代。お前にそこまでまっすぐ見つめられちゃ、仕方ないな・・・わかったよ」
と、そう言い勝家はため息をつき刀をしまう。すると地面に座り込んだまま放置されていた信勝が
「ちょっと待て勝家。君は僕を殴ったこの無礼な二人を処罰しないで見逃すのか!?」
「え、えっと・・・・それは」
勝家がそう言うと
「大佐。どうかしたんですか?」
「銃声がしましたけど?・・・・・・ん?なんやこいつら?」
長屋の戸からうちらの歩兵部隊がぞろぞろと出てきて勝家たちを包囲する感じでやってくる。中には百式短機関銃を持った兵士たちもいた。それを見た勝家は
「え、えーと……わ、若殿。若殿も何度も信奈さまへのご謀反を企みましたが、そのたびに命を許されています。ここは、借りをひとつ返すということで・・・・・」
「勝家。僕をあの足軽のサルと一緒にする気なのか!!」
と、そう言うと、俺のことを足軽とかサルといったことに苛立ったのかうちらの歩兵たちがじっと睨む。するとそれに気づいた勝家は
「い、いいから。もう戻りましょう!今川家が上洛を目指して尾張に侵攻しようとしているという噂もありますし。それでもここにいるというのなら。殴って気絶させて連れて行きます」
と、勝家が袖をまくってそう言うと、勝家は顔を青くする。さすがにもうこれ以上は殴られたくはないからだ。そして信勝の取り巻きたちも猛将柴田勝家には勝てないため逆らう度胸がない。そして信勝は渋々自分が乗った馬に乗り
「う、ぐぐ。さ、サル! 今日のところは勝家に免じて、これで勘弁してやる! だが、今に吠え面かかせてやるから覚えておきたまえよ。母上に言いつけてやるからな! いいか?言っておくが ぼくは、父上にも殴られたことがなかったんだぞ!」
と、なんかお決まりのようなセリフを吐きながら信勝は去って行った。一体何しに来たんやら・・・・俺がそう思っていると
「で、どうしたんですかい?まさか喧嘩でも?」
と、歩兵部隊の中では古参の船坂軍曹が頭を掻きながら俺に聞く
「いや、なに、ちょっとした小競り合いさ。大したことないよ」
「そうかい?まあ問題がないんならそれでいいんですが・・・・・・」
そう言うと歩兵のみんなは長屋の戻って行った。そしてまほ大尉は
「それでは大佐。私もそろそろ戻る」
「ああ、それよりも少佐。珍しいな冷静な君が怒るなんて」
とそう言うとまほが頭を少し掻き
「いや、あれは私も少し大人げなかったと思っている。ただ、あの信勝の言った言葉が許せなかっただけよ。姉として見過ごすことができなかったからな」
「姉って・・・・・少佐には弟とかいるのか?」
「いや、あいにく弟とかいない。だが妹がいる。私と同じ戦車隊に所属していてな。今は確か茨城の方で戦車の教官をしていると聞いた。元気だろうか。それとも私がいなくなったと知って・・・・・・」
「少佐・・・・・」
と、寂しそうに目を細めるまほ大尉。すると
「いや、なんでもない今のは忘れてくれ。逸見を待たせているので私はこれで」
と、少佐は俺に敬礼し去って行った。そして俺はねねや辻たちの方へ行くのであった。すると犬千代が
「政宗・・・・ジャガイモまだある?」
と、さっきまでのことをまるでなかったかのようにそう訊くと
「ああ、まだ庭に収穫したのがあると思うから。宮藤」
「あ、はい。すぐに用意します」
「ねねも手伝うのですぞ!」
とそう言い宮藤たちは長屋に入る。そして辻も
「ほら、大将。ボヤッと突っ立ってないで早く戻ろう。急がないとあの三人に収穫したジャガイモ全部食べられるぞ?」
「ああ、そうだな。今行く」
辻にそう言われ、俺も長屋に戻るのであった。だがその後、この長屋の出来事が原因でとんでもない事が起きるなんてこの時俺はまだ知らなかったのであった。