短編です。今後それぞれ独立した小話を投稿していく予定。
一発目はFate/Grand OrderとDiesiraeのクロスオーバー。ではよろしくお願いします。

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亜種平行世界:壺中聖櫃都市シャンバラ「黄金の獣」

 

 絶望――そんなもの、これまで何度も経験してた。その度に絆を結んだサーヴァントが、誰よりも信頼する後輩が己を支えくれた。容易ならざる窮地を自分たちは何度も乗り越えてきた。

 一種の自負すら抱いていたと言っていい。自分達ならばどんな苦難をも突破できると。だが―――

 

 

「どうしたね、人類最後のマスターとやら。まさか、これが卿らの全力ではあるまい」

 

 覆せない絶望が――『地獄』がそこにあった。

 ただ対峙しているだけで魂が損壊していくのが分かる。今この瞬間『格が違う』という言葉の意味を真に理解した。

 それは完璧で完全で――つまりは『黄金』。何者も侵せず、そして何者をも破壊する絶対者。

 

 英霊、神霊なにするものぞ。其は万象の破壊者なり――。

 

 共にこの特異点に降り立ったサーヴァントは皆、黄金の地獄へ溶けていった。人類最後のマスター、『藤丸立香』を守護るものはここに存在しない。

 故、彼に待ち受けるのは逃れられない絶対的な死――否、黄金に祝福されたモノに魂の安息は訪れない。

 黄金に(コワ)されたが最後、未来永劫『怒りの日』を奏でる戦奴として戦い続ける運命だ。

 

「ふむ、これは些か拍子抜けと言わざるを得んな。カールめ、『よもや未知が観れるやも』とは大袈裟な。私は依然、既知感に囚われている。卿も災難だったな、あの魔術師殿に目をつけられるとは――同情するよ」

 

 なにか言葉をかけられたようだったが、立香はそれを認識できなかった。

 あらゆる英雄、神より美しい人体の黄金比。悪魔的な美貌をもつ黄金の魔人に魅入られ、呼吸すらままならない。最早、意識を保っている事が奇跡と言えた。

 

「卿の嘆きも絶望も、総て既知だ。ああ、だが約束しよう。いずれ来る怒りの日に私が総てを飲み込み、壊す。卿の世界とて例外ではない。離れ離れになどさせぬよ。案ずるな、私は総てを愛している」

 

 

 ――その一言が、薄れつつあった立香の意識を繋ぎとめた。

 

 この男は今、なんといった?オレたちの世界を壊す、だと?

 あり得ない、とはいえない。すでに彼の黄金の力は痛感している。

 決してこれは嘘をつかない。できないことを口にしない。

 『怒りの日』、終末の時に総ては灰塵と化し砕け散るのだろう。黄金の獣がすべてを飲み込む。

 例外なく総てを、勿論オレたちの世界も。だが、それは――

 

 

 

 ――どこまでも透けるような蒼空の下、何よりも美しい後輩の笑顔があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「させ……ないっ!」

 

「ほう?」

 

 あり得ないことだった。藤丸立香はただの人間である。英雄ではない。身に着けた魔術礼装こそ一級品だがそんなものが役に立つ状況では断じてない。しかし、それでも彼は黄金の圧力に抗って見せた。

 膝に力を入れて、屈していた体を立ち上げる。朦朧とした意識の中、敵を見据えてそらさない。

 

「――見事だ。相応に加減しているとはいえ、本来只人の身で耐えられるものではないだろう」

 

 黄金が口を開く。その言葉の一音一音に込められた魔力に気が狂いそうになるも、歯をくいしばって意識を繋ぐ。

 ここで意識を失えばそれで終わり。次に目を覚ます時は己も黄金の戦奴として戦列に加わっている事だろう。それは嫌だ。承服できない。

 思い出してしまったから。黄金の奈落に飲み込まれそうだったあの瞬間に彼女の笑顔を。

 

「卿の勇気は認めよう、その魂、英雄に相応しい。だがどうする。状況は変わらん。私に立ち向かった所で卿にできることなぞ何もない」

 

 そう、それが現実。黄金の威光に膝を折らなかったのは見事。褒め称えられるべき偉業ですらある。だがここまで。

 彼我の戦力差は依然絶望的。身体的にはどこまでも凡人でしかない立香に、黄金の獣は倒せない。

 

「ここまでか――いや、恥じる事はない。卿の如き人間こそ真なる強者だ。その在り方を眩しいとすら思うよ、嘘ではない。卿ならば、あるいは総軍に溶けても自我を保てるやもしれん。そうして再び私の前に立ち、幾度となく挑むがいい。凡夫なる英雄よ」

 

 神殺しの槍が構えられる。それは考えうる限り最高位の聖遺物。

 真なる使い手である黄金の獣が振るえば神ですらその矛先を躱すことはできない。必中必殺というデタラメを両立した至高の武具だ。

 当然、立香に避けられるはずもなく、刹那の後にその心臓へ槍が突き立てられる未来を幻視して――

 

 

 

 

 

 

 

「戯けが。誰の許しを得て我がマスターに槍を向ける、下郎」

 

 

 

 

 

 

 瞬間、もう一人の『黄金』がこの異界に現れた。

 

 

 

「!」

 

 立香が息をのんだ瞬間、彼の視界が急速に黄金から遠のき――目を焼く閃光が眼前で爆ぜた。

 数百を超える高ランク宝具が彼の黄金めがけ、必滅の意志を伴い射出されたのだ。

 立香の知る中でおよそ最強と言えるサーヴァント、『英雄王ギルガメッシュ』が慢心を捨てて『王の財宝』を開帳したのだと察する。

 そう認識をしてからゆっくりと、自身を抱き上げ、爆心地から救助してくれた存在へと視線を向けた。

 

「エル、キドゥ……?」

 

「ああ、そうだよマスター。遅れてごめんね」

 

 翡翠色の長髪をなびかせて、中性的な美貌をもつ英雄王唯一の友、『エルキドゥ』が立香を安心させるように微笑んだ。

 

「来てくれたのか……っ」

 

 絶望が覆る。希望という光が黄金の闇を払っていく。

 屈しかけていた魂に勇気がみなぎってくるのを実感できる。

 当然だろう、こんなにも頼もしい仲間が来てくれたのだから――!

 

「――フン。我らが来たことで安心するのも解るがな。まだそれには早いぞ、マスター」

 

 そう呟いたギルガメッシュの視線の先、総てを見通す紅い千里眼は爆炎の中、いまだ健在なりし黄金の獣を見据えていた。

 

「現状、神と化したあの売女程ではないが――秘めた力はあれを上回って余りある。この我でさえ観測れぬその神威……全く、神代も過ぎて久しい人界でよくもそこまで化けたものよ」

 

 

 

 

 

「――化けた、とは。なるほど確かに的を得た表現だ。その肩書、伊達ではないらしいな“英雄王”」

 

 まるでゴミを払うかのような軽い仕草で燃え盛る爆炎を消失させる。現れたのは先程と何一つ変わらない姿で笑う、黄金の男。

 ギルガメッシュの放った宝具群をもってして、髪の毛一本たりとも傷つける事が出来なかったという恐るべき事実に、しかして英雄王とその盟友は怯まない。

 なぜならこの程度の神獣なぞ、彼らは飽きるほど打ち倒してきたからだ。だが――

 

「ギル、あれは――」

 

「解っている。時を追うごとに奴の魔力が膨れ上がっている。恐らくは地上で行われている何らかの儀式が影響しているのだとは思うが……まあそれはいい。今はどの道どうにもならん」

 

「そっちにまで手は回らないしね」

 

「あれはこの星を……いや、あらゆる世界を食らいつくす真なる獣だ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)。全く、ビーストや遊星、外なる神すら比較にならん。如何な存在が仕組んだ事(・・・・・・・・・・)かは知らんが――呆れた自殺志願者よな?フハハハハハハ!」

 

「ギルガメッシュ……」

 

 さらりととんでもない事を吐き捨てながら爆笑するギルガメッシュに立香は思わず苦笑する。

 切迫した状況でありながら、あまりにも自然体過ぎる。しかしてそれが周囲の人間に安心を与えるのだから流石というしかないだろう。

 

「ハハハハ……マスター!速攻で終わらせる!ありったけの魔力を回し、令呪で我らを援護せよ!」

 

「久方ぶりの本気だね、わかるとも!」

 

「令呪をもって命じる!全霊をもって奴を倒せ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よかろう。参れ」

 

 原初の英雄、恐らくは最強と言って相違ない二騎のサーヴァントを前にして、しかし黄金の獣は微笑を絶やさない。

 

 ああ、愛しいな。砕け散るまで愛させてくれよ英雄――私は総てを愛している。

 

 英雄王ギルガメッシュ。そして神の造りし最強の兵器エルキドゥ。なるほど、前菜(・・)としては相応しい。

 あのツァラトゥストラ(・・・・・・・・・・)が出来損ないであった故の詫びのつもりか?カールよ。いや悪くない。皆もろともに我が宇宙(ヴェルトール)へ迎え入れよう。

 

「Frohe Weihnachten」

 

 さあ――涙を流して、この怒りの日を称えるがいい!

 

 




設定解説

時系列は香純ルート後。蓮はすでにツァラトゥストラではなく新たに用意されたツァラトゥストラとシャンバラの地で黒円卓が激突する。
カルデアは新ツァラトゥストラと共闘し黒円卓撃退にあたるがこれに敗北。作中、立香たちがラインハルトと対峙している間、大隊長らが地上で残りのスワスチカを開くために虐殺実行中。
英雄王らが無理やりこれたのは乖離剣とクラフト何某氏のおかげ。

英雄王&エルキドゥVS黄金の獣!創造の段階ならワンチャンあるから!(なおほどなくして流出に至る模様)


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