綺麗な秋空の下、小麦の収穫時期、この村で五人の少女達が農業に励んでいた。
まるで、それが本業であるかのように重機を動かし、さらに、小麦の状態を確認、そして、栽培した後の土の状態も欠かさずチェック。
彼女達はこの村で定期的に農作業をしにやってくる変わった女子高生達。
「ねぇ、リーダー。今年は割と豊作だったね」
「せやねー、なんか最近、物騒な事件とかあってたみたいやけどこうして無事に栽培できてよかったわー」
「だねー」
彼女達はそう言って、汗をぬぐいつつ。満面の笑みを浮かべていた。
私立リディアン音楽院高等科、農業部。
なんと、そこに所属する彼女達は農作業を主にした国民的なアーティストであり、アイドルなのである。
歌うことは稀ながらその人気は何故か高く、ライブの客層も建築の職人から農業者、男女の年齢層もバラバラで幅広い。
そんな彼女達はこの村での活動を主にADから指示を仰ぎ、今日も今日とて村の開拓に勤しんでいるのである。
もちろん、それだけではない。彼女達にはなんともう一つの顔があった。
「あ、ADから電話だ」
「えー、また電話?」
「ノイズが出たんやない?」
「あー、またぁ? もうフルセット着なきゃなんないじゃん」
「兄ィ、フルセットじゃなくてシンフォギアね、シンフォギア」
そう、なんと公式に日本政府から信頼されているスズメバチバスター、もとい、ノイズから人々の平和を守る駆除をお願いされている業者なのである。
ーーーー※本業はアイドルです。
彼女達五人は神話に登場する聖遺物をシンフォギア(フルセット)として身に纏いノイズと戦っている。
その武器はそれぞれ個性的。
まぁ、それは彼女達が戦う姿を見て貰えば皆様にはご理解いただけるだろう。
という事でノイズが出現したという市街地へすぐさま向かう農業部隊員達。
数分後、現場に到着してみると、そこには悲惨な光景が広がっていた。
逃げ惑う人々、そして、ノイズ達による蹂躙、そんな、ノイズの侵攻を受けた街の中にはもちろん灰と化した死人もいる。
ここで、謎の存在にして人類の天敵、ノイズという者達について説明しよう。
ノイズとは人類共通の脅威とされ、人類を脅かす認定特異災害である。
13年前の国連総会で特異災害として認定された未知の存在であり、発生そのものは有史以来から確認されていた。
空間からにじみ出るように突如発生し、人間のみを大群で襲撃、触れた人間を自分もろとも炭素の塊に転換させ、発生から一定時間が経過すると自ら炭素化して自壊する特性を持つ存在なのである。
詰まる話がスズメバチよりタチが悪い存在なのだ。
「あーもー、こんなに街を荒らして」
「よし、じゃあ、ぱっぱと駆除しちゃいますか」
「賛成ー」
そう言って、楽器を持つ隊員達。
一体何をする気なのだろうか?
すると、ここで、彼らのボーカルである少女、胸が豊満で綺麗な黒髪を靡かせ、アホ毛が特徴の永瀬智絵はマイクを握る。
そして、ドラムを出現させた癖が強い金髪の短髪でツリ目の少女、岡松雅子に視線を向けた。
「兄ィ、リーダー準備は?」
「ええでー」
「よーし、そんじゃみんなフルセット着るぞ!」
五人は息を大きく吸い、ゆっくりとそれを吐き出すようにして言葉を発する。
久方ぶりの本業、だが、彼女達はそれでも素晴らしい歌唱力でその言葉を聖歌のように告げた。
「Pioneer yamasiro tron」
「そんじゃ、さんのーがーはい!」
「オンリーユー♪」
そう言うと、五人の体に異変が起こる。
彼女達の胸にある石物が光を放ち、全員の姿がみるみるうちに変わっていった。
機械のような、それでいて、アーマーの様な物に身を包んだ彼女達は楽器やマイクを手にノイズと対峙する。
だが、この彼女達が身につけたアーマーをよく見てみるとその姿は農作業着に適当に部品を引っ付けたような姿にしか見えない。
「やっベー、途中から聖詠の歌詞、わけわかんなくなったけど変身出来た」
「お前はほんと本番で間違えるよね」
「フィーリングフィーリング!」
「そんなんでいいのかなぁ」
そう言って苦笑いを浮かべる紫色のミディアムヘアーが特徴の農業隊員キーボード担当の少女、国舞 谷子。
彼女達は五人で一つの聖遺物を身につけている。
それは古代から今に至るまで伝承に残っている伝説の建造物、聖遺物を基にしたシンフォギアを身につけているからである。
その名は山城。
この山城と呼ばれる建造物の伝承にまつわる道具をシンフォギアとして彼女達は使いこなすことができるのだ。
「そんじゃリーダー頼んだ」
「あいよー」
そして、フルセット(シンフォギア)を着てしまえばこちらのもの。
キュラキュラと音を立ててブルドーザーに乗って我らがリーダーが満を期して登場。
ちんまい身体に茶髪の長髪で頭に白いタオルを巻きつけた彼女達を束ねるリーダー、城志摩 繁奈。
ーーーー別名、重機歴13年の女子高生(自称)
まるで農作業着の様なシンフォギア、山城を身につければ、例え、スズメバチだろうがノイズだろうが怖くは無い。
「はーい、ブルドーザー通りますよー」
安全第一のヘルメットを被った我らがリーダーはそう言ってノイズをブルドーザーで撤去していく。
先程までノイズから逃げ惑っていた街の人たちはそんな彼女の姿を見て目をまんまるとしていた。
そして、そんな彼らに襲いかからんとしたノイズ達も。
「そい!」
なんと、急に真横から飛んできた謎の物質で構成されたまな板が頭に直撃し、消滅してしまった。
シンフォギア山城に身を包んだ雅子は人々の前に立ち塞がる様にしてまな板を構える。
そんな彼女の姿を見ていた人々は驚愕した表情を浮かべたまま、こんな言葉を発した。
「まな板…って…」
「ささ、今のうち今のうち、逃げて逃げて、刺されたら大変だから」
「あ、は、はい!」
そう言って、雅子から催促され、その場から駆け出す住民。
まな板を片手に構え、もう片手には包丁を携える雅子はニヤリと笑みを浮かべると対峙するノイズを見ながらこう告げ始める。
「さて、三枚が良いか四枚が良いか…見た目ヒラメっぽいしやっぱ四枚かな?」
「いやー、どっちかというと蟹っぽいよ?」
「じゃあ三枚じゃないね」
「鍋がいいよ鍋が」
「あれ食べれんのかな?」
ーーーーグルメ厄介。
鍋にしたらノイズとて甲殻類みたいなやつもいるし食べられるのでは? という彼女達の思惑。
だが、あいにくだが、ノイズは倒されると灰になってしまうので食べることができない。
ちなみにノイズの灰を使ってリーダーがお茶を作りたいとか言っていたような気もする。
「あ、お前ら来てたのかー」
「お! おっす! お師匠じゃん」
「相変わらずだな、おい」
そう言うと、赤い髪が跳ねたシンフォギア使いは見事な着地を見せ、彼女達の前に降りたった。
彼女の名前は天羽奏。
彼女達のシンフォギアの師匠であり、同時に6人目の農業部の一人である。
農業部に関しては彼女達が勝手に奏を所属にしているだけなのだが。
「真実は!」
「いつも一つ!」
「いやー、やっぱわかってるわ、流石、姉御!」
「毎回の事ながら今のやりとりって必要あるの?」
そう言って、智絵と奏のやりとりに苦笑いを浮かべる国舞。
仲が良いのは良いのだが、毎回、智絵のノリに付き合ってあげる奏も律儀である。
そこからビシガシグッグと仲良く手を合わせる二人のやり取りはもはや定番であった。
「あんた達もノイズ退治?」
「そうなんっすよー、ようやく小麦の収穫終わったと思ったらこれですからねー」
「あらー、そりゃ大変」
「いやー困ったもんですよ、はい」
そう奏と話をしながら片手で出現させた謎の物質で構成された木炭や土器を生成し、それを投げつける事でノイズを消滅させる国舞。
また国舞から放られた土器は巨大化し、ノイズ達を屠っていく。
なんとこの土器、対ノイズ専用の遠隔型巨大土器なのである。
「そういや、つばっちは?」
「つばっちはあっち」
そう言って、自身の相方である防人、青みがかった艶やかな長髪にスレンダーな体型をした美少女、風鳴翼がいる方を指差す奏。
ノイズに対し、刀を振りかざす彼女はまさに戦場に舞う名刀のようだ。
それを見ていた智絵は感心したように声を溢す。
「ほぇー流石はつばっちだ、張り切ってんねー」
「いやー、カナッデー&翼はやっぱすげーよなぁ」
「ちょいちょい、多津音、ツヴァイウイングねツヴァイウイング」
そう言って、大工道具を扱いながらノイズと戦っている銀髪、短髪の健康的な褐色肌をした農業部ベース担当、山口多津音に突っ込みを入れる奏。
多津音がシンフォギア山城の大工道具で生成した建物はノイズを殲滅する要塞と化す。
その建築時間はシンフォギアの力を借りる事で短縮されておりなんと驚きの3秒。
本職の方も腰を抜かすような驚き建築ができるのである。
「んじゃ、私もやるか。こいつらはちゃっちゃと粉微塵にするとしますかね」
「奏!」
「はいよ、わかってるよ!」
そして、天羽奏もまたノイズ達を前にして本気のスイッチが入る。
第3号聖遺物「ガングニール」。
天羽奏はそのガングニールの欠片より生成された、シンフォギアシステムを使いノイズと戦っている。
ガングニールの鋭い槍がノイズ達を引き裂き、穿つ。
「また貴女達ね! 毎回毎回、奏に会うたび無駄話をして!」
「へーい」
「すんませんでしたー」
「まぁまぁ、そんな怒んなって翼、私の可愛い弟子達なんだからさ」
そう言って、奏の側までやって来た風鳴翼は不機嫌そうに農業部メンバーにお説教を浴びせる。
ここは戦場、ノイズとの戦いの場。
そこにこんな農業作業の服を着た五人組がいるのだから場違いも甚だしい。
防人として、到底見過ごすわけにはいかないというのが風鳴翼個人としての見解であった。
「そんなピリピリしなさんなよ、つばっち。余裕が無いと頭も回らなくなるよ」
「そうそう、私らも遊びじゃなくて本気で戦ってるんだよ、こう見えても」
「本気…本気ね…、じゃあ! 聞くが、なんでまな板で戦ったりしてるのか、説明願おうか!」
翼はそう言うと、まな板と包丁でノイズ相手に大立ち回りを見せる雅子を指差して彼女達に告げる。
ーーー確かにまな板は食卓用品。
だが、その風鳴翼の言葉を聞いていた雅子はノイズ達をその謎の物質でできたまな板で屠ると翼の元に飛んでくる。
そして、ノイズを倒しながら話を続ける翼はさらに声を上げる。
「まな板じゃ戦えないでしょ! 普通!」
ごもっともである。
だが、まな板を否定された雅子はというと鋭い指摘を述べた翼の眼前まで迫る。
思わず後ずさる翼、何か言いたいことがあるのかとこちらも負けじと雅子の眼をまっすぐ見据える
そして、ノイズとの戦いの最中だと言うのにも関わらず翼の目の前まで迫った雅子はまっすぐに眼を見たままこう断言する。
「お前はまな板の凄さを何もわかってない」
ーーーー迫真で迫られた一言。
雅子のまな板の凄さを何もわかっていない。という一言に思わず呆気にとられる翼。
まな板の凄さとは一体なんなのか、どこをどうひっくり返してもまな板はまな板である。
そして、歌を歌いはじめる智絵を確認し、同じく歌を口ずさみハモりながら戦いに復帰する雅子。
「さて、私らもやるよ、翼」
「まな板の凄さってなんなの…」
「そりゃもう後でいいから」
そう言うと、翼を先導するかの様に歌を歌いはじめる奏。
これが彼女達にとっての日常。
奏と彼女らが交わす何気ないやりとりはどこか命がけで戦う戦場を忘れさせるようなそんな安心感があった。
それは風鳴翼にとってはあまり面白くはなかった。
二人の絆は確かに深いが、奏が彼女達を可愛がる事で彼女を取られるんじゃないかという不安がどこかにあったのである。
それに、自分の前では見せない顔を奏は時折彼女達の前で見せていた。
「安心しなよ、あいつらはあくまで弟子で私の相棒はあんただけだからさ」
「…別に…、わかってる」
そう言うとプイっとそっぽを向く翼。
そして、二人は歌を歌いながらノイズに向かい戦闘に入る。
シンフォギアを身に纏いし、五人の農業部とツヴァイウイングの二人。彼女達の戦いの日々はまだ始まったばかりである。