天羽奏が亡くなったのは数ヶ月後のライブの日であった。
ツヴァイウィングのライブ中に突如出現したノイズ。
逃げ遅れた上に重症を負ってしまった立花響を救う為。己の命を燃やしてノイズを殲滅する禁断の切り札である「絶唱」を歌った事でそのバックファイアに耐えられず戦死、その肉体も灰となって散った。
最後の会話をしてから数ヶ月後の出来事。
天羽奏の墓の前で喪服を着た彼女達は奏と共に可愛がっていた愛犬、北登と共に御墓参りに来ていた。
「…ほらー、北登。姉御だよ、ちゃんと挨拶して」
「ワン!」
「よーしよし、そっかそっか、お前も嬉しいか」
天羽奏の墓石の前で尻尾を振る北登を撫でながらそう告げる兄貴肌の多津音。
久方ぶりの再会はこんな形になってしまって残念だが、この墓石が誰のものなのか北登もわかっているようであった。
墓石の前で黙祷と合掌。
ノイズとの戦いの末に他人の命を守る為に戦った彼女にどうか安らかに眠ってほしいという願いを込めて彼女達なりの涙を堪えての合掌であった。
すると、しばらくして彼女達の背後から声が聞こえてくる。
「…葬式以来か? 久しいな」
「あ、おっちゃん」
「前より彫りが深くなってね? 師匠」
「ははは! ここ最近忙しくてな! 皺が増えたのかもしれん」
そう言って、喪服の彼女達に声を掛けて来たのは特異災害対策機動部二課の司令官であり風鳴翼の叔父である風鳴弦十郎。
彼女達にシンフォギアの扱い方についてレクチャーし、なおかつ、放し飼いを許可している張本人である。
彼女達にとってみれば、奏の次にお世話になった人物と言っても過言ではない。
では、そんな彼が今回、彼女達に一体なんの用があるのだろうか?
「実はな…奏からお前達に伝えておきたかった事があったらしくてな、今日はそれを伝えに来た」
「…姉御から?」
「そうだ、あの日のライブの前に、あいつはお前達のユニット名を考えていてな」
そう言って、フッと優しい笑みを浮かべる弦十郎。
確か、以前、農業部ではなんだかパッとしないし、自分たちもアイドルなんでツヴァイウイングみたいなカッコいい名前が欲しいと奏に相談した事を彼女達は思い出す。
そして、弦十郎は五人に向かいゆっくりと口を開くとこう告げ始めた。
「RADIO、それが奏がお前達に相応しいと言っていた」
「RADIO…RADIOね」
ーーーー奏が考えてくれた名前。
わざわざ律儀にもちゃんと考えてくるあたり、あの人らしいと彼女達からは笑みが溢れでる。
だが、そうであってもやはりそれを聞きたかったのは元気で明るかった彼女の口からだった。
「うん、いいんでない? 姉御ってば流石のセンスだわな」
「師匠の口からじゃなくてあんたの口から私らの前で言って欲しかったよ…」
そう言いながら、奏の墓石に視線をやりつつ、口々にそれぞれの感想を述べるRADIOの面々。
ーーーーなんだかしんみりとしてしまう。
ありがとうももう伝えれないし、恩返しもできない。こんな寂しい事があるだろうか?
できるとすれば、彼女の心残りだった事を解消してあげる事くらいだろう。そう、風鳴翼の事である。
「つばっちは元気?」
「翼か…翼はな…」
そう言って、弦十郎は考え込むようにして、しばらくして彼女達に風鳴翼について語り始めた。
どうやら、目の前で奏を失ったショックから最近では食事を摂らず、部屋にこもりっぱなしになってしまったとか。
確かに彼女達も同じ立場なら気持ちはわかる。もし、自分たちのリーダーがそんな事になったら、彼女達は自分を抑える自信はない。
下手をすれば生き返らせる術をどんな事をしてでも編み出すつもりでいる。
だからこそ、翼の現状を知った彼女達は。
「リーダーなんとかしてやれないかな?」
「うーん、せやね」
「奏が不在という事でツヴァイウィングのライブツアーも中止にする予定だ」
「ん? 待てよ?」
とその時、国舞はピタリと何かいい考えが浮かんだのかそう声を溢す。
以前、奏が言っていた話を思い出していた。そう、そう言われてみれば、いるではないか、天羽奏の代わりになる奴が。
一同は北登をナデナデしている智絵へとここで視線を移す、これはもしや…。
「ん? 何? どったの?」
「リーダーちょっとちょっと」
「ん? なんやねん」
そう言って、智絵以外のRADIOメンバーは何やら集まるとヒソヒソと話をし始めた。
何を企んでいるのだろうか? さりげなく弦十郎も彼女たちに混じり話に参加している。
そうして、数十分後、彼女達は顔を見合わせると再び、智絵の方へ視線を向ける。
「やるっきゃねーか」
「まぁ、どうにかなるっしょこいつなら」
「うむ、そうしてくれると助かるといえば助かるな、ツヴァイウィングのライブを楽しみにしている人たちもいるし緒川君には俺から話しとこう」
「へ? 何? なんの話?」
そう言って置いてきぼりの智絵をよそに何やらトントン拍子で話が進んでいる。彼女は首を傾げたまま北登からペロペロと頬を舐められていた。
そうして、RADIOメンバーは智絵の肩をポンと叩くと満面の笑みを浮かべサムズアップをする。
「安心して逝って来い!」
「大丈夫! お前なら上手くやれるよ」
「だから何がっ!?」
というわけで後日。
智絵は訳がわからないまま、何やらAD緒川さんに連れられて、美容師やメイクさんから色々と弄られる事に。
そうした結果できたのがこちら。
「おー、姉御、お久しぶりー!」
「意外といけるもんだよね」
そこに出来上がったのは奏になった智絵の姿だった。
なんと、ツヴァイウィングの活動を継続させるために彼女達は奏の代わりを用意! それが、この瓜二つの智絵を使った奏さん復活作戦である。
だが、変装させられた智絵はというと?
「いやいやいやいや! 無理無理無理!? あんな踊り踊りながら歌うなんて! ちょっとぉ!」
「はい、小型のマイク変声機」
「はいじゃないわ! はいじゃ!」
そう言って、いい歳した自分が奏の様に振る舞うのは無理だと言って聞かない智絵に容赦なく変声機を渡す国舞。
ーーー精神年齢的にキツイものがある。
それは確かに本業真っ盛りの時ならともかく、農業しか最近してきてない彼女にはあんな踊りを踊りながら歌うなんて中々ハード。
それに加えて…。
「いや、確かにミュージシャンやらヤクザやら色んな役はやったことあるけども流石にメッキ剥がれるって!」
「なんでもできるのが当たり前でしょ! 今更無理とかない!」
「…他人事だと思ってこれだもんなー…」
ーーーーやろうと思えばできる。
というわけで、目以外、完全に奏と瓜二つにした智絵はこうしてツヴァイウィングとRADIOの二足草鞋を無理矢理はかされる事に。
そんなわけで、早速、閉じこもっている翼の部屋に彼女達は訪れる事にした。
「…どうしよ、これ翼ちゃんにバレたら消されるよ」
「大丈夫だって、なんとか私らで姉御を復活させるやり方考えるからさ」
「そうそう、一時の間だけだから」
そう言って、智絵の背中をバンバンと叩く多津音と雅子の二人。
確かに今のままではライブもできないだろうし、ツヴァイウィングを楽しみにしている皆もガッカリしてしまう。
ノイズ襲撃があった今だからこそ、元気を届けなければいけない。
深呼吸した智絵はフゥーと息を吐くと、閉じこもっている翼の部屋の前で変声機で声を変えるとこう声を掛けはじめる。
「おーい、翼ー、いつまでそうしてんだ?」
「…!?」
そうして、変声機でその声を聞いた部屋の主である翼はバタバタと何やら急いだ様に支度をすると扉を開けた。
聞き覚えのある声、もうあの日、彼女が目の前から消えた時から聞こえることはないだろうと思っていたその声。
扉を開いた風鳴翼は涙を浮かべながら、その声の主を求め、顔へと視線を向ける。
「よぉ、しけた顔してんなよ」
そこに居たのは紅掛かっている綺麗な髪に、跳ね毛が特徴のツヴァイウィングの片割れが何事もなかったかのように立っていた。
いつものように笑みを浮かべた彼女、天羽奏の姿がそこにあった。
「奏ッ…! …ど、どうして! あの時確かに!」
「まぁ、いろいろあってな、色々」
そう言って、言いずらそうに翼から視線を逸らしながらぽりぽりと頬をかく奏の変装をした智絵。
内心ではいつバレるかわからないという不安で心臓がバクバクである、いくら演技の経験があるからと言っても怖い。
リーダー達は奏を復活させる方法を考えると言っていたが、本当に宛てにして良いのだろうか?
すると、感情を抑えきれなくなったのか、翼は涙を流しながら奏に変装した智絵に抱きついてきた。
「…心配させてっ!! 絶唱を使って、あんな…あんな消え方なんかしたら…死んだって!」
「そりゃ悪かったな…、私もちょっとあの時は余裕がなかったからさ」
「馬鹿っ!」
そう言って、抱きつきながら涙を流す翼の頭を優しく撫でてあげる智絵。
だが、彼女はある時、冷静になって考る。そう言われてみれば、自分はなんでこんなことをやっているのだろうと。
(あれ? なんでこんなことしてんだろ?)
おかしい、冷静になって考えれば別にツヴァイウィングの代わりに自分たちが楽器持って本業のツアーをやればよくないだろうか?
何故、自分はこんな地雷の上で綱渡りみたいな事になっているのだろう。
まぁ、何はともあれ、部屋に閉じこもっていた翼を外に出す事には成功した。
「ままま、何はともあれ、とりあえず飯いこーぜ! 飯! 私、腹減ってさ!」
「もう奏ったら!! …私だけ置いて、もう突然…居なくなったりしないでよ?」
「…ひ、ひゃい」
ーーー背筋が寒い。
これがもし、自分だとバレたら背中からざっくり刺されたりしないだろうか?
というより、智絵の懸念はもう一つある。
そうシンフォギアである。奏のシンフォギアは言わずとも知れた第3号聖遺物「ガングニール」。
その一方で智絵のシンフォギアは山城。そしてその武器は?
(つれたか丸出したら一発アウトだなこれ)
ーーーーなんと漁船である。
つれたか丸と呼ばれる漁船を使い、ノイズ達を屠るのが主な戦い方、これを見られた時に翼になんと言い訳をすれば良いのか。
ガングニールが漁船になりました。で通用するわけもないし、詰まる話がどう切り抜けるのかが肝になってくる。
最悪の場合、智絵は、最近、マグロの一本釣りにはまってガングニールをリーダー達から漁船に変えてもらったという苦しい言い訳を考えついてはいる。
果たしてそれが翼に通用するかどうかは不透明なところではあるが。
「ねぇ、奏、それでご飯は何食べるの? うどん?」
「そうだねー、うどん良いよね、私も良く作ったよ、小麦から手打ちにして」
「え? 小麦から?」
「そうそう、小麦から、まずは土を耕して小麦を作るところから始めるんだけど…」
「え? そんなところからはじめるの!?」
そう言って、驚いた様に声を上げる翼。
今まで、奏がそんな事をしているとは彼女も初耳であった。
そんな中、つい、土から作ると口走ってしまった智絵は冷や汗をかきながら思わず内心で声が溢れる。
(あ、やべ、つい癖が出た)
ーーーいつもの癖。
なかなか、普段から癖というのは治りにくいもの、それが、日常的にやっていたのならなおさら身についてしまう。
智絵は笑い声を上げながら誤魔化す様に、翼に向かってこんな風に話をし始めた。
「そうそう! 多津音達がさ! そっからはじめるもんだから私もね?」
「…ふーん…」
「ねぇ? 翼、今度あんたもやってみたら良いよ、身体動かすから体重減るし、一石二鳥だよ?」
「奏がそこまで言うなら…考えとく」
そう答える翼はどこか不機嫌そうになっていた。
気持ちはわかる。大方、いつものことだろう、早い話がやきもちだ。それは、奏でなくともリーダーやRADIOメンバーは全員気づいていた。
本当に難儀な性格である。
(リハ、多めやっとかないとやばそーだなー)
そして、一方で智絵はこんなことを考えていた。
翼の事もそうだが、何より、ツヴァイウィングとRADIOの二足草鞋をやるのなら両方のリハをかなり多めにしとかなければならない。
特にツヴァイウィングの方は念入りにだ。そう、自分が演じる天羽奏に違和感を感じさせない様にしないといけない。
「あれ? これってよく考えたらめっちゃ本業やってね?」
「ん? 何か言った?」
「あ、あぁ! なんでもないよ! 独り言独り言!」
「…? そう? それならいいんだけど」
そう答える智絵に首をかしげる翼。
こうして幸先が不安な即席コンビが出来上がってしまった。いつバレてカオスな事になるのかひやひやするコンビである。
果たして、ツヴァイウィングとして二人は機能するのだろうか?
一方、その頃、他のRADIOメンバーはというと?
「タイムマシン作らないとな」
「タイムマシンってバックトゥザフューチャーみたいなのよね?」
「ちなみにどのレベルから作るの? やっぱり鉄作るところから?」
「石油掘るところからでしょ」
という具合に本物の天羽奏を用意すべく、なんと、タイムマシン作りを考えていた。
理想としては、デロリアンの様な車のタイムマシンが望ましいといった具合である。
シンフォギアシステムを使ってこれができないだろうかと模索中である。だが、考案段階なので完全な完成はまだまだ先の話になるだろう。
果たして、これからどんな事が彼女達を待ち構えているのか!
それは次回! 鉄腕/シンフォギアで!
今日のRADIO。
1.天羽奏の代わりに智絵を派遣。
2.智絵、アイドル二足草鞋。
3.名前がユニット名RADIOに決まる。
4.タイムマシン作りに挑戦。
5.シンフォギアが漁船。