インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~ 作:さすらいの旅人
「全く。このワシを待たせ続けるとは、随分と良い根性をしておるようじゃのう、和哉」
「いやいや、俺は事前にちゃんと朝九時までに行くって言った筈だぞ。それを聞いた竜爺は分かったって言ってたからな」
居間へ案内されて早々説教染みた事を言う竜爺に、俺は自分に非は無いと反論している。
「どうぞ、麦茶です。今朝作ったばかりだから、あんまり冷えてないですけど」
「おお、ありがとう」
「いただきま~す」
「あ、私は……コホン。お気遣いありがとうございます」
因みに俺と竜爺の隣では、綾ちゃんが一夏達に麦茶を用意していた。黒閃はいらないと言おうとしていたが、綾ちゃんの気遣いを無下にしたくなかったのか、お礼を言っていた。
「師匠の為に早く来ようとは思わなかったのかのう?」
「俺一人で行くならまだしも、友達を連れて来るんだからそんなん無理だ。っていうか綾ちゃんから聞いたけど、朝五時から家の前でいたんだって? いくらなんでも気が早過ぎるだろうが」
「む………」
未だに文句を言ってくるので、それなりの正論を叩きつけると言い返せなくなり始める竜爺。
この反応をするって事は多少自覚があるみたいだ。
「そ、それよりもじゃ。和哉が言っておった鍛えさせたい奴とは、その者か?」
あ、分が悪くなったと思って急に話題変えたな。本当ならまだ文句を言いたいところだが、一夏達を蚊帳の外にしておく訳にはいかないので、敢えて合わせる事にした。
「ああ、コイツは織斑一夏って言って、中学からの友達」
「は、初めまして、織斑一夏です」
急に振られた一夏は緊張しながらも竜爺に挨拶をする。
「んで、この女子二人は――」
「私は布仏本音~。初めまして~」
「お初にお目にかかります。私は“黒閃”と申します。以後お見知りおきを」
「ふむ……」
俺が言い切る前に本音と黒閃は接し方が対照的であるが、竜爺は気にせず何か考える仕草をしたが、それをすぐに止めて自己紹介をしようとする。
「もう既に知っておろうが、ワシは宮本竜三じゃ。和哉の師匠をしておる。弟子が世話になったのう。ところで、この未熟な弟子はお主等に何か粗相はしておらんかったか? 遠慮なく言ってくれ。後でワシの方でキツく言っておく」
「おいコラ」
自己紹介しながらさり気なく人を貶す竜爺に思わず突っ込みを入れる俺。
ってか、いくら師匠とは言え初対面の相手に初めに訊く事がそれか? いくらなんでも失礼だぞ。俺に対して。
「い、いえいえ。寧ろ俺の方が世話になってるばかりか助けられてばかりですよ」
「そんな事無いよ~。かずーは凄く優しいよ~」
「宮本殿、いくら貴方がマス……カズヤの師匠とは言え、その問いは如何なものかと思われます」
手を振りながら俺を擁護する一夏、首を横に振って否定する本音、少しばかり顔を顰めて俺の呼び方を訂正しながら文句を言う黒閃。そんな三人に俺は思わず内心感動した。
「これは失礼した。和哉がお主等に普段どのような接し方をしておるのかが気になって訊いたつもりじゃが、少々不躾じゃったのう」
「竜お爺ちゃん、いくら和哉お兄ちゃんの師匠だからって、まだ会って間もない人にそんな事を聞くのはどうかと思うよ?」
「むぅ……じゃから今こうして謝っておろうが」
いいぞ綾ちゃん、もっと言ってやれ。
竜爺は俺の文句は聞き流すが、孫の綾ちゃん相手に正論を言われると、あんまり強く出れなく言い負かされるからな。
(なぁ和哉、お前の師匠って孫には甘いのか?)
(まあそれなりにな)
目で問いかけてくる一夏にコクンと首を縦に振ると、竜爺がまたもや話題を変えようと再び俺の方へ視線を向けた。
「ところで和哉よ。先程から気になっておったのじゃが……意外と隅に置けぬのう。師匠であるワシとしても流石に予想外じゃったわ。せめて報告ぐらいはして欲しかったのう」
「? ……あの、言ってる意味が分かんないんだが」
何を訳の分からん事を言ってるんだ、この老人は。ついにボケてしまったか?
師匠である竜爺に失礼な事を考えつつも、綾ちゃんが用意した麦茶を飲もうと――
「
「ブッ!! ゴホッ! ゴホッ!」
――したが竜爺の発言によって既に口の中に入れてたお茶を吹き出し
「か、和哉お兄ちゃん!?」
「お、おい和哉、大丈夫か?」
「かず~大丈夫?」
「だ、大丈夫ですかカズヤ!?」
俺が噎せた事によって竜爺を除く綾ちゃんたちが驚いて俺に声を掛けて来た。その中で黒閃は案じるかのように片手を使って俺の背中を摩っている。
「ゴホッ! ゴホッ! ゴホッ! あ、ありがとう黒閃、大丈夫……。ってか竜爺、アンタなぁ……!」
「あ~……いや、スマン。まさかお主が噎せるとは思わなくてのぉ。で、話を戻すが、どっちなのじゃ? ワシの予想では、黒閃と言うお嬢さんがお主の恋人ではないかと予想しておるのじゃが?」
「ゴホッ、ゴホッ……んなわけねぇだろうがぁ! 黒閃は俺の………っ」
ついツッコミと同時に黒閃の事を教えようとしたが、途中から不味いと思った俺は口篭ってしまった。
いくら黒閃の事が各国に知れ渡っているとは言え、(あくまでISに関して係わりの無い)一般人である竜爺や綾ちゃんに教える訳にはいかない。下手に知ってしまったら色々と面倒な事になってしまう。特にあの各国のお偉いさんとかが。
「ん? 『俺の』………何なのじゃ?」
「あ、いや、えっと………」
やばい。どう言えば良いのか全然分かんなくて言葉が出ない。こんな時には誰かの手を借りたいんだが、一夏は俺がどう言うのかジッと見ててフォローしようと言う感じがしないし、黒閃も同様だ。本音は何故か急に剥れ顔になりながらも睨んでるし。それに気のせいか、綾ちゃんは気になっているかのように何故か凄く興味深そうに見てる。
どうしよう、何て言えば……あ~~、仕方ない。これで誤魔化すとしよう。
「こ、コイツは、その………俺の相棒だ!」
黒閃は人間の姿をしてるが元はISで俺の専用機だから別に間違っちゃいないだろう。俺の答えに、一夏達はそれなりに納得した表情となっているから大丈夫だ。それと黒閃は……微妙な表情をしてるが納得してる事にしておこう。
さて、綾ちゃんはともかく問題の竜爺は――
「ほほう、相棒か。ふむ、それはつまり……既に人生の伴侶を見つけたと言う事か」
「それも違ぇ! ってか恋人以上に重くなってんぞ!?」
とんでもない方向へ進んで勘違いしまくってた。
このクソ爺……! 久しぶりに会ったかと思いきや、俺を弄って楽しんでやがるな……!
「冗談じゃよ。全く和哉よ、お主は御茶目な老人の戯言と思って簡単に聞き流す事は出来んのか?」
「あのなぁ……! 真面目な顔して訊いときながら今更何言ってやがるんだよ……!」
ってかどこが御茶目な老人だよ。俺には意地の悪いクソ爺のKY発言にしか聞こえなかったぞ。
「あと言っとくけど、隣の本音も恋人じゃなく――」
「ルームメイトで同じベッドで寝泊りしてた仲だよ~」
「――そう、あくまで一緒に寝てただけで決して恋人では……っておい本音!」
間違っちゃいないが竜爺にその発言はNGだ!
「ほほ~う、そうかそうか。まさかお主ら、そのような関係じゃったとはのう」
「いや、だから違うって!」
「一緒に寝る、か。アタシも前までは和哉お兄ちゃんと一緒に寝てたから、似たような感じなのかな? もしくは一緒にお風呂にも入ったとか」
「ちょっとかず~~~! どう言うことなの~~!? 綾ちゃんとは恋人じゃないって言ったよね~~~!?」
「何でいきなりそこで怒るんだよ本音!?」
ってか綾ちゃん、この状況でそんな発言しないでくれる!? 本音が完全に誤解してるんだけど!
確かに以前一緒に寝たり風呂に入った事はあるけど、それはもう去年までの話だ。まぁそれらの事もあったおかげで女の耐性が付いて、本音が何をしてきても動じなくなってるから、その部分は綾ちゃんに大変感謝してるが……。
「かず~の浮気者~~!」
「何で!? ってか俺そんな事した憶えはないぞ! おい黒閃、ちょっと本音を止めてくれ!」
「………私としては貴方が宮本綾とどれ位の関係なのかをお聞きしたいのですが?」
「お前もかよ!」
「おお、これが俗に言う修羅場と言う物か。ハッハッハッハ。青春じゃのう、和哉よ」
「これのどこが青春に見えるんだよ! と言うかアンタが原因作ったんだろうがこのクソ爺!!」
笑いながら他人事のように言ってくる竜爺に思わず突っ込みながらキレて罵倒する俺。
「えっと……この状況で俺は一体どうすれば……?」
ちょっとだけ蚊帳の外状態になってる一夏はどうしようかと思いつつも助けてはくれなかった。