インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~ 作:さすらいの旅人
それではどうぞ!
「さて、楽しい談笑はここまでにして、早速修行に移ろうかの」
「あれの何処が楽しい談笑なんだよ。竜爺だけメッチャ楽しんでただけだろうが」
「あはは……」
場所は変わって、此処は修行場と言う名の道場。
さっきまでのプチ騒動を竜爺が強制的に終わらせて俺達を道場へと案内し、修行する俺と一夏は道着に着替え終えて、黒帯付き道着を着てる竜爺と対峙している。本音と黒閃、そして綾ちゃんは邪魔にならないように隅っこに座って見物状態。
本当は竜爺にまだ文句を言いたいところだが、そんな事をいつまでやっても切りが無かったので仕方なく、修行に専念する為に押し止めた。仮に文句を言い続けたところで、竜爺がのらりくらりとかわして修行の話題に持っていくのが目に見えてるからな。
それはそうと、久しぶりの道場だ。前に来たのは六月の頭で二ヶ月近く経ってしまったから、またしても久しぶりの雰囲気と認識してしまう。
「ところで和哉よ。修行する前の確認じゃが、本当にそやつも参加させて良いのか? ワシの修行は生半可で無い事は、お主が誰よりも知っておる筈じゃが」
「問題無い。俺が一夏をある程度鍛えさせたから、それなりには付いて行ける」
「ふむ……。どれ」
「っ……」
答えた俺に竜爺が一夏を値踏みするように観察すると、一夏は突然竜爺にジロジロと見られてる事により少し動揺する。
一夏の上半身から下半身を見回した竜爺は少々不満そうだが、それでもある程度納得の様子だった。
「……成程のう。確かに和哉の言うとおり、そやつの身体は基礎の基礎まで出来上がっておる……じゃが、如何せん中途半端じゃのう」
「なっ……」
「例えて言うなら、“常に守られて一人前を気取った雛鳥”じゃのう」
「っ!」
あっ、一夏がムッとしてる。いくら俺の師匠とは言え、まだ会って間もない人にいきなり未熟者呼ばわりされたら、そりゃ誰だって怒る。
だが竜爺の言ってる事は間違ってない。確かに一夏は強くなったが、達人級の竜爺から見れば序の口もいいところだ。恐らく千冬さんも竜爺と同じ評価をするだろう。一夏はまだまだ未熟で弱い、と。尤も、それは未だに未熟な俺にも言える事だが。
「そ、そんなに俺は弱く見えますか……!?」
「うむ、弱いのう。呆れるほどに」
あっけらかんと答える竜爺に――
「でしたら! 修行する前に一度俺と勝負して下さい! その言葉、すぐに撤回させます!!」
「む?」
「はあっ!? い、一夏、お前何考えて……!」
一夏がとんでも無い事を言い出した事により、俺は仰天しながらも止めようとするが――
「ハッハッハッハッハ! 面白い、このワシに挑戦するとは中々度胸があるのう。良かろう
「おい竜爺! アンタまで何言ってやがる!?」
竜爺がアッサリと受諾してしまった。
一夏も一夏だが、竜爺まで何考えているんだよ。
「もう、竜お爺ちゃんってば……」
「やれやれ。事実を言われただけで激昂するとは……」
「頑張れおりむ~! 私は応援するよ~!」
見物してる綾ちゃんは竜爺に呆れ、黒閃は一夏に呆れ、本音は一夏を応援していた。特に綾ちゃん、出来れば君も止めに入って欲しいんだが。
「ってか一夏、何でお前あんな事を言い出した!? いくらなんでもそれは……」
はっきり言って自殺行為にも程がある。言っちゃ悪いが、一夏では竜爺の相手にならない。
「止めないでくれ和哉! いくらお前の師匠だからと言って、我慢の限度ってもんがある! たとえ勝てなくても、今の俺はあの爺さんがさっき言った言葉を撤回させなきゃ気がすまねぇんだ!」
「落ち着け! 竜爺に指摘されて怒る気持ちは分からなくもないが――」
何とか一夏の考えを改めさせようと説得するが、当の本人に言っても聞かない様子。
「ホッホッホ、それだけ威勢があれば充分じゃのう。ほれ、いつでも掛かって来い。お主がワシに攻撃を当てれたら、先程の未熟者呼ばわりは撤回しようぞ」
激昂してる一夏の反応を見て楽しんでる竜爺は、手を後ろに組みながらそう言ってきた。それを見た一夏は口元をヒクヒクしながら俺に問いかけてくる。
「なぁ和哉、あの爺さんは俺をバカにしてるのか?」
「……多分な。あと一夏、さっきも言ったが止めたほうがいい。今のお前じゃ――」
「生憎、俺はあれだけ言われて黙ってるほど人間出来てないんだ! お前が俺の立場だったら怒らないのか!?」
「………分かった。もう好きにしてくれ」
否定出来ない事を言ってくるので俺は説得するのを諦めて見守る事にして少し離れると、一夏はすぐに構えた。
因みに一夏のあの構えは武術の構えだ。確か一夏は小学校時代に箒がいる道場で剣道以外にも、刀が折れた時の事を想定した際に素手の古武術も教わったと言ってたな。普段一夏とは訓練ばかりで組み手とかした事ないから、一夏のあんな構えは初めて見た。
「む? その構え……お主、以前に篠ノ之道場で
「え、な、何で箒の父親の事を……」
「やはりそうか」
どうやら竜爺も気付いてる様子。加えて箒の父親の事も何か知っているようだ。何故知っているのかを聞きたいが、それは後にする。分かりきってはいても一応勝負だからな。
「あやつとはもう何年も会っておらんが、元気にしておるかどうか……まぁあの堅物に心配は無用じゃろう」
「おい竜爺、昔を思い出すのは後にしたらどうだ?」
「おっと、いかんいかん。目の前の事を忘れて、つい昔を思い出してしまったわい。年寄りの悪い癖じゃ」
俺の指摘に昔を思い出してた竜爺はすぐに頭を切り替えて、再び一夏を見る。一夏は一夏で竜爺に何かを聞きたそうな感じだ。
「じ、爺さん。どうして柳韻さんを知って……」
「昔にあやつとは色々あった、とだけ答えておこう。もしそれ以上の事を知りたければ、ワシに攻撃を当てる事じゃな」
「……そうですか。なら!」
そう言って一夏は基本に忠実なすり足移動をして、さっき竜爺に挑発されたせいか、素早く右手での正拳突きを顔面目掛けて繰り出そうとする。
だが――
「ぐっ……!」
「ふむ、正拳突きはギリギリ及第点じゃが、それ以外は全く駄目じゃのう。錆だらけにも程があるわい」
竜爺は後ろに回してた左手で一夏の正拳突きをあっさりと受け止めながら採点をしていた。しかも残念そうな様子で。一夏はすぐに拳を引っ込めようとするが、竜爺の驚異的な握力の所為でそれは出来なかった。
「やれやれ、こんなに錆だらけなお主を柳韻が見たら嘆いてると思うぞ。ほれっ」
バチンッ!
「うわぁぁぁぁっ!」
竜爺に拳を放されたと同時に強烈なデコピンを額に食らった一夏は吹っ飛ぶと、そのまま仰向けになって倒れた。
相変わらず凄い威力な事で。嘗て俺も竜爺にあのデコピンだけで何度吹っ飛ばされた事か……。思い出すだけで、何故か額が痛くなってきた。
「……あ、あのお爺ちゃんすご~。おりむーがデコピンだけで吹っ飛ばされたよ~」
「アレだけで織斑一夏を……」
「うわぁ、織斑さん大丈夫かな~?」
本音と黒閃は驚いており、デコピンを食らった一夏を心配そうに見ている綾ちゃん。あの子は過去に竜爺のデコピンで吹っ飛んでる俺を何度も見た事あるから、もう驚かなく相手を心配してしまう。
「いってぇ~~!!」
「お~い、大丈夫か一夏~?」
両手で額を押さえながらのた打ち回っている一夏に声をかけるが、竜爺のデコピンの激痛のせいですぐに立ち上がれないようだ。
「これ童、いつまでのた打ち回っておる。この程度、和哉ならすぐに起き上がるぞ」
「いやいや竜爺、アレを初めて食らった奴は誰でもああなるから」
だが一夏はまだマシな方だ。これが打たれ弱い一般人が食らったら、余りの痛みの所為で確実に気絶してる。下手すりゃ大怪我にもなる可能性もある。本人は昔と比べて威力が落ちたとは言ってはいるが、それでも強烈である事には変わり無い。
「つつつ……!」
「やれやれ、やっと起きたか。ほれ、もう一回」
「っ! こんのぉ~~~!!」
来いと挑発するかように片手を使ってのジェスチャーをすると、一夏はカチンと来て痛みを堪えながら竜爺に向かっていった。
今度は正拳突き以外の殴打を連続して繰り出すが、竜爺はヒョイヒョイっと簡単に回避していると――
「足元がお留守じゃぞ、童」
「うわっ!」
悪い所を指摘するように足払いをやり、バタンと物の見事にすっ転んでしまう一夏。さっきと違って、今度はちゃんと受身を取っている。
「これで二回目。全く、柳韻の門下ともあろう者が情けないのう。もしワシが柳韻であれば、ここで叱咤しておるわい。で、まだやるかのう?」
「くっ……! まだまだ、やりますよ!」
(負けず嫌いなことで)
そう言い返して立ち上がる一夏を見ながら、俺は竜爺に武術を習い始めていた頃の自分を思い出した。
今の一夏みたく竜爺に言われて、ムキになりながら何度も挑んでは負けていたなぁ。まぁ今でも負けてるけど。恐らく竜爺も思い出しているに違いない。その証拠に何か懐かしむかのように笑みを浮かべているし。
「うむ。諦めずに尚挑むその姿勢は合格じゃのう」
「それはどうも……」
竜爺の賛辞を受け取る一夏だが、さっきまでの威勢が無くなりかけていた。
どうやら一夏自分と竜爺の力の差を漸く理解してきたようだ。そうでなければ、僅かながら一夏の全身が震えている訳が無い。一応何度も震えを止めてはいるが、竜爺を見てはまた僅かに震え始める。
(さてどうする一夏? 力の差があり過ぎるとは言え、このまま無様に負けるお前じゃあないだろう?)
少し期待するように見てると、一夏が突然二回ほど深呼吸をした。まるで何かに集中するように。
「ほう。これは何かをすると期待して良いかの?」
「………………」
竜爺が何かに気付いた様子で問うと一夏は無言で返答する。それを見た竜爺はいつでも来いというようにジッと無言で一夏を見据えていた。
俺や本音達も二人と同じく無言で見守っていると、一夏が急に動き出した。しかも今までとは違う早さで。
竜爺もさっきまでと違う早さに少し目を見開きながら、距離を合わせる為に半歩下がろうとする。だがその半歩が着地する前に、一夏はを掴んで投げ飛ばそうとする。
だが――
「どうした童、ワシを投げ飛ばさんのか?」
「ぐぎぎぎぎっ!」
一夏が竜爺を投げ飛ばす事が出来なかった。
理由は簡単。投げ飛ばそうとする一夏に、竜爺が梃子でも動かないように身体の重心に力を入れて投げ技を阻止しているからだ。普通はそんな事は出来ないんだが、竜爺のような達人には造作も無い。
「“相手の一拍子目よりも早く仕掛ける”篠ノ之流古武術の裏奥義『
バチィィィンッ!!
「がっ!」
「ワシ相手に投げ技を仕掛けるのは愚策じゃったのう。隙だらけじゃわい」
未だに投げ飛ばそうとする一夏に竜爺が、また一夏にデコピンを食らわして吹っ飛ばした。今度はさっきよりも威力が高めに。
「む? ちょっと強くし過ぎたかのう?」
「お、おい一夏、だいじょう……でもないか」
「…………………」
吹っ飛ばされて倒れてる一夏を見てみると、デコピンの威力が高かったせいか、今度は痛みを通り越して完全に気絶していた。
「竜爺、一夏が気絶したから終了だ」
「何じゃ、もう終わりか? 呆気ないのう。もうちょっと粘って欲しかったのじゃが」
「あれだけでも充分やってたっての。綾ちゃん、悪いけど冷たい水とタオルを用意してくれないか?」
「う、うん、分かった」
気絶してる一夏用に使う物を用意するよう頼み、綾ちゃんはすぐに立って道場から出た。本音と黒閃は気絶してる一夏へと向かう。
「お、おりむーの額かまっかっかだ~。何かあの音を聞くだけでこっちも痛くなりそうだよ~。」
「愚かな。意地を張らず、すぐに離れれば良かったものを。全く」
心配そうに一夏を見る本音とは対照的に、黒閃は辛辣な評価をしながらも一夏の頭を持ってそのまま膝枕をさせた。
「ほう、何だかんだ言いながらも一夏に優しいじゃないか、黒閃」
「黒閃優しいね~」
「別に、ただの気紛れです。織斑一夏はマス……カズヤのご友人ですので」
気紛れで膝枕をやるのは普通あり得ないんだが……まぁそう言う事にしておこう。もうついでに、これは一夏ラヴァーズの連中には黙っておかないとな。もし知ったら、アイツ等の事だから絶対誤解しそうだし。
「ほっほっほ。お嬢さんの膝枕とは、その童は運が良いのう。お嬢さん、童のコレか?」
「断じて違います。私は織斑一夏に対してそんなのは微塵もありません」
「………何もそんな真剣な顔で否定せんでも」
おちょくるかのように小指を立てながら問う竜爺をバッサリと否定する黒閃。竜爺、からかう相手を間違えたな。
そんな中、気絶してる一夏が意識が戻ったのか唸り声をあげ始めた。
「う、う~ん……何か頭に柔らかいものが……」
「あ、おりむーが起きた~」
「ならこれ以上は不要ですね」
「あだっ!」
目覚めようとする一夏に黒閃はすぐに立ち上がると、さっきまで柔らかい黒閃の膝枕から一転して硬い畳へと一夏の後頭部に直撃した。おいおい黒閃、出来れば最後まで優しくしてやれよ。