インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~ 作:さすらいの旅人
外のランニングを終えた俺達は、そのまま道場に戻って更にハードな基礎訓練を続けた。
言うまでも無いと思うが、ちゃんと昼休憩を取って飯もたくさん食った。因みに昼飯は綾ちゃんが作ってくれた物。そしてその後からは休憩無しで夕方までぶっ続けで行っていた。
「よし、今日は初日じゃからここまでにしておこうかのう。欲を言えばもう少し続けたいところじゃが……まぁそこの童がもうダウンしとるから仕方ないか」
やっと修行初日が終わり、竜爺は少し物足りなさそうだが、それでも晴れやかな顔をしていた。久しぶりの修行でストレスが多少晴れたんだろう。
だが――
「ぜぇ、ぜぇ……! あ、あのなぁ竜爺、アンタ初っ端から飛ばし過ぎだ……!」
「………あ、あああ……」
竜爺とは対照的に、俺は座り込んでかなり息切れし、一夏なんかはうつ伏せで倒れてピクピクと動いてる虫の息状態だった。
修行を始めて数時間経っても俺はまだ平気だったが、竜爺が久しぶりの所為で加減を忘れたかのようにぶっ続けでやってくるからダウン寸前。
因みに一夏は何度も倒れていたが、それでも何とか続けた結果は言うまでもなく、既に言葉も出ない状態だった。と言うか、一夏はまだ初心者だと言うのに容赦無さ過ぎる。だがしかし、武の才能がある一夏に俺は敢えて竜爺に抗議しない。
(一夏。俺を倒すのが目標……と言うより千冬さんを守りたいんだったら、これ位は乗り越えてもらわなくちゃ困るぞ)
「おい童、いつまでも寝とらんで早う起きたらどうじゃ?」
俺がそう思っていると、竜爺はうつ伏せで倒れている一夏に声をかけるが、当の本人は返事をする余裕が無い様子だった。
「はぁっ……。やれやれ、全く仕方の無い奴じゃ」
(お、あれは……)
そんな一夏を見た竜爺は溜息を吐きながら近づいて床に膝を付くと、一夏がうつ伏せになってる状態から仰向けにさせ、両手を使ってマッサージを始めようとした。
すると――
「ふんっ」
「ぐああああ~~~~!! いでぇ~~~~!!!」
力を込めた竜爺のマッサージに、さっきまで虫の息だった一夏が顔を上げてすぐに悲鳴をあげた。
「騒ぐでないわ。むんっ!」
「うがああああ~~! か、和哉ぁ~~~!! 助けてくれ~~~!!!」
「大丈夫だ一夏。死にはしないから」
「そういう問題じゃねぇ~~~!!」
悲鳴をあげてる一夏に俺が黙って見てると、竜爺は一夏の上半身と下半身のマッサージを続ける。
「な、なんか凄く痛そうなマッサージだよ~」
「確かに一見すると、身体全体に悲鳴をあげてる織斑一夏を更に鞭を打ってる様に見えますね。ですが……」
近くで見ている本音は物凄く痛そうな顔をしており、黒閃は何かに気付いてる様子を見せる。
そしてその光景が続いて五分後――
「これで最後じゃ。ほれっ!」
「$~%&%$#”)%$)##”!!!!」
最後の一押しで一夏がもう悲鳴にならない声をあげた。
「よし、こんなもんかのう」
マッサージを終えた竜爺が立ち上がりながらそう言うと――
「いててて……な、何が……! 何がこんなもんだ爺さん!! 物凄ぇ痛かったぞぉ!!」
「「!!」」
余りの痛みに抗議する
「何じゃ、まだどこか痛いのか?」
「当たり前だ!! 爺さんの所為で身体が物凄く痛く、て……あれ?」
立ち上がれる事に気づいた一夏は思わず目線を下に向け、自分の身体を見ながら両手を使って竜爺にマッサージされた箇所を触っていた。
「え? え? お、俺……さっきまで動けないばかりか、起きる事も出来なかった筈なのに……何で?」
「やれやれ、お主は愚鈍なのか? さっきのマッサージをやったからに決まっておるじゃろうが」
「まぁまぁ竜爺、あのマッサージを初めて受ける一夏の反応は当然だって。俺も初めてやった時は同じ反応だったろ?」
不可解な一夏に呆れてる竜爺だったが、俺がフォローをすると少し考える仕草をして、「おお、そう言われればそうじゃったわい」と言いながら思い出した。
因みに竜爺のマッサージはそこら辺のマッサージ師より凄く、疲労困憊や痛み等を和らげてくれる。尤も完全にとまではいかず、竜爺曰くあくまでその場での応急処置みたいな物だそうだ。それはそれで充分に凄いがな。俺も初めてやってくれた時は今の一夏と似たような事をして不思議に思っていた。
「では明日に備えて、今日はゆっくり休むが良い。おっと和哉、お主もワシのマッサージが必要か?」
「いや、一夏ほどじゃないから大丈夫」
「……そのようじゃのう」
俺の状態を一通り見て確認し終えた竜爺は道場から出ると、ある程度疲れが無くなって立ち上がった俺は一夏に声を掛けようとする。
「取り敢えずだ一夏、先ずは初日お疲れさん」
「あ、ああ……」
「どうした? ひょっとしてどこか痛むのか?」
「あ、いや、それはもう大丈夫だ。ただ……」
「ただ?」
「和哉って、こんなハードな修行を毎日やってたんだなぁって思ってな」
凄そうに俺を見る一夏に、俺はすぐに現実を教えようとする。
「いやいや、あの程度で凄いと言うのはまだ早いぞ。さっきまでのは竜爺に言わせれば、軽い準備運動みたいなもんだ」
「おいおい、軽い準備運動って……あれがか?」
「ああ、竜爺の修行は主に実戦並みの組み手だからな。特に組み手は一番きっついぞぉ。竜爺は一応手加減してるけど、ちょっと気を抜いただけでも即座に隙を突かれてKOされるからな」
「………一応訊くが、お前あの爺さんと本気でやった事あるのか?」
「ある訳無いだろうが。今でやっと実力の三~四割といったところだ」
俺の実力はまだ師匠の半分以下だからな、と付け加えると一夏は頬を引き攣らせる。
「……ただでさえお前も凄いのに、どんだけ規格外なんだよ、あの爺さん……」
「更に凹ませる様で悪いが、一夏と相手した時には実力の一割も出してなかったぞ。因みに、もし竜爺がお前相手に本気でやれば一秒以内で瞬殺されるから」
「………………マジ?」
「俺が嘘言うと思うか?」
「…………もしかして俺、とんでもない人に喧嘩売ったのか……?」
「お前なぁ、今更何言ってんだよ……」
顔を青褪めながら後悔してる一夏に俺は呆れてしまった。
ってか気付くの遅すぎだ。俺が竜爺と相手をするなと必死に説得した時点で気付いてくれ。あの時はマジでヒヤヒヤしたんだからな。いくら竜爺が手加減するのが分かってたとは言え、あんな無謀な事をするのは自殺行為も良いところだ。
「かずーがあんなマジ顔で言うなんて、やっぱりあのお爺ちゃんって凄いんだね~……」
「やはり只者ではないみたいですね、あのご老人は……。それに身体構造を確認しただけでも、とんでもない筋肉でしたし」
俺の話を聞いていた本音と黒閃も驚いているようだ。
ってか黒閃、お前にそんな確認機能が付いてたのか? 俺としちゃそっちの方に驚きなんだがな。もしかして俺の身体構造も既に調べ済み、なのか?
「当然です。マスターの身体に合わせるのが
俺に近づいてくる黒閃は当然の様に言ってくる。
人が考えてる事を読まないでくれよ。
「私はマスターの専用機ですので」
ああ、そうかい。
俺が諦めるように溜息を吐いてると、突然道場の戸が開いて綾ちゃんが入ってきた。
「みんな~、夕ご飯の準備が出来たから居間に来て~」
次回はちょっとした日常話になります。