インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~   作:さすらいの旅人

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珍しく連日更新で、少し長めに書く事が出来ました。

それではどうぞ!


第103話

「ん~美味しいよ~」

 

「本当に美味いな。このカレーって綾が作ったのか?」

 

「うん、そうだよ。まだあるからたくさん食べてね」

 

 修行を終えた俺と一夏は普段着に着替え、居間で夕御飯を食べていた。

 

 因みに今日のメニューは綾ちゃんが作ってくれたポークカレー。肉を使うカレーの中で俺が一番好きなやつだ。

 

「ほう、また料理の腕上げたんだな。前に食べたのと違ってコクが増してる。何か隠し味とか入れたのかい?」

 

「それは和哉お兄ちゃんでも教えられないよ」

 

「そうかい」

 

 まぁ別に追求する気は無いし。美味しい料理を出してくれるだけで俺は満足だからな。

 

 そう思ってると、俺の隣に座って何も食べようともしない黒閃に、綾ちゃんが視線を向ける。

 

「ねぇ黒閃お姉ちゃん、ホントに食べないの? お昼ご飯の時もいらないって言ってたけど……」

 

「お気になさらず。私はちょっとした事情がある為に食べれませんので、お気持ちだけ受け取っておきます。あと先程から申し上げましたが、私の事は黒閃と呼び捨てで構いませんので」

 

 そりゃあ黒閃はISだからなぁ、などとISとは無関係の綾ちゃんと竜爺の前では言えないし。

 

「ほっほっほ。こんなに賑やかな食事は凄く久しぶりじゃのう」

 

 この家の大黒柱の竜爺が上座に座ってカレーを食べながら、俺達の会話を見てさっきまで厳しい修行をしていた顔と違って、好々爺みたいな感じで言ってくる。

 

 いつもは此処で俺か綾ちゃん、もしくは綾ちゃんの母親としか食べてなかったからな。一夏や本音、そして(食べてはいないが)黒閃もいるから、竜爺にとっては新鮮な気持ちなんだろう。

 

「綾よ、お代わりじゃ」

 

「は~い」

 

「す、凄いな爺さん。もう三杯目だぜ」

 

「ほっほっほ、胃袋はまだまだ若い者には負けんぞ、童よ」

 

「っ……。あの、さっきから言おうと思ってたんですけど、その童って呼ぶの止めてくれませんか?」

 

「ん?」

 

 綾ちゃんから三杯目のカレーの皿を受け取ろうとする竜爺が、一夏の方へと顔を向ける。

 

 そう言われれば竜爺、一夏が自己紹介して以降からずっと『(わっぱ)』って呼んでたな。

 

「俺には一夏って名前がありますから」

 

「ふむ……明日以降の修行を最後まで頑張れば考えておくわい」

 

「そ、それとこれとは……」

 

「何じゃ、最後まで出来んのか? ワシと同じ男であるなら、付いて行こうとする気概ぐらいは見せて欲しいのう。でなければワシはお主の事を童と呼び続けるぞ?」

 

「っ!」

 

 ああ、一夏の奴また竜爺の誘いに乗せられちゃってるし。竜爺も竜爺で……ったく。

 

 で、竜爺の言葉にカチンと来た一夏は――

 

「上等ですよ! 俺が最後まで続けられたら絶対に名前で呼んでもらいますからね!」

 

 これまた予想通りと言うべきか、自分からまた無謀な約束をしてしまった。

 

「うむ、その意気じゃ。では明日からは今日以上の修行をやるから、是非とも楽しみにしておいてくれ」

 

「げっ!」

 

 今更とんでもない約束をしてしまったと後悔する一夏だがもう遅い。竜爺はやると言ったら絶対やるからな。

 

「もう、竜お爺ちゃんったらまた……」

 

「頑張ってね~おりむ~」

 

「織斑一夏、貴方には学習能力と言う物が無いんですか? 先程後悔したばかりだと言うのに」

 

 綾ちゃんは竜爺の行動に顔を顰め、本音は見捨てるように応援し、黒閃は一夏の行動に呆れながら毒を吐いた。

 

 一夏、悪いけど今回はフォロー出来ないからな。さっき俺も黒閃と同じ事を考えてたし。

 

「あ、そう言えば竜お爺ちゃん。お兄ちゃん達がランニングしてる時に、またあの人たち来てたよ」

 

 再び一夏が後悔しながらご飯を食べてる最中、突然綾ちゃんが思い出した顔になって言うと、さっきまで美味しそうにカレーを食べてた竜爺がいきなりしかめっ面になって口に運ぼうとするスプーンを皿の上に置く。

 

「はぁっ……全く、毎度毎度しつこい連中じゃのう。それで綾よ、まさかとは思うが奴等を道場の中に入れたのか?」

 

「ううん、それはしてない。咄嗟に居留守を使ったよ。アタシだけだと、あの人たち絶対に竜お爺ちゃんがいないのを良い事に勝手に進めると思ったから」

 

「うむ、良い判断じゃ」

 

「? なぁ竜爺、何か遭ったのか?」

 

 二人の会話が気になった俺は尋ねる。当然それは俺だけでなく、一夏と本音と黒閃も気になっていた。

 

 あの竜爺があんな顔するって事は何かただ事じゃないからな。それに綾ちゃんも滅多に見ないしかめっ面になってるし。

 

「な~に、これはワシ等家族の問題じゃ。弟子の和哉が気にするような事ではない」

 

「いや、あんな意味深な会話して気にするなって言われても、余計気になるんだけど」

 

 俺の突っ込みに本音がウンウンと頷いている。

 

 だが竜爺は教えてくれそうにない様子だったので、今度は綾ちゃんに尋ねようとするが――

 

「綾に訊こうとしても無駄じゃからな、和哉よ」

 

 くそっ、先手を打たれた。

 

「ゴメンね、和哉お兄ちゃん。お爺ちゃんが和哉お兄ちゃんには絶対言わないようにって――」

 

「綾よ、お主は余計な事を喋り過ぎじゃ」

 

「はうっ……。ゴメンなさい」

 

 ……綾ちゃん、ちょっと教えてくれたのは嬉しいけど、相変わらず隠し事は苦手なんだな。まぁ綾ちゃんは純心無垢な子だし、隠し事とか向いてないからしょうがないと言えばしょうがない。

 

 だけどこれ以上二人に訊いたとしても、教えてくれなさそうだから、ここは一旦諦めて引くとするか。

 

「………分かった。ホントは凄く気になるけど、もう訊かないでおく」

 

「そう言ってくれると助かるわい。お主等もすまんかったのう、折角の食事にこちらの詰まらん話を聞かせてしまって」

 

「あ、俺は別に……」

 

「私は気になるけど~……かずーと同じく訊かないよ~」

 

「お気になさらず」

 

 暗にこれ以上は訊かないでくれと言ってくる竜爺に、一夏と本音は気になりつつも俺と同じく引き、黒閃は興味を無くしたみたいな感じで言った。

 

 

 

 

 

 

「なあ和哉、俺たち一応客だけど台所にいる綾の手伝いとかしなくて良いのか?」

 

「良いって良いって。下手にあの子の手伝いとかすると、逆に何もやる事なくなっちゃうからな」

 

 黒閃を除く全員が飯を食い終えると、竜爺は綾ちゃんに後片付けを任せて早々に部屋へ戻り、その綾ちゃんは俺達が使った皿を片付けて台所で皿洗いをしている。

 

「それにしても本音の奴、ちゃんと一人で学園に帰れるんだか」

 

「大丈夫だろ。ってか、爺さんにタクシー呼んでのほほんさんを駅まで送るように頼んだのは和哉じゃないか」

 

「……まぁそうだな」

 

 因みに本音が学園に戻った理由は、竜爺と綾ちゃんが気になった会話の後に本音の携帯電話から着メロが鳴って、本音の姉らしき人が怒った声で一度学園に戻って来いと言われたそうだ。

 

 どうやら此処に泊まる事を本音は前以て説明してなかったようで、本音のお姉さんは相当お怒りのようだった。同時に夏休みの初日に行う筈だった生徒会の仕事も無断でサボった事も含めて。近くにいた俺も、本音のお姉さんの怒った声が聞こえたし。ついでに電話口から、とある生徒会長さんが必死に本音のお姉さんを宥めている声も聞こえたが。

 

 その為に本音は学園に戻る事になったので、俺が竜爺に頼んで本音をタクシーで駅まで送るように頼んだ。本音は帰りたくなかったようだが、お姉さんには逆らえないのか、渋々とタクシーに乗って帰っていったと言う訳だ。

 

「あ、そうだ和哉、風呂場に案内してくれないか? 俺もうさっきから風呂に入りたくてな」

 

「ああ、俺も丁度風呂に入りたかったところだし、一緒に入るか。背中流してやるぞ」

 

「え゛!?」

 

「どうした?」

 

「お、お前と二人で風呂に、か……? そ、それはちょっと……」

 

「あの、マスター。お風呂と言うのは普通一人ずつ入るものでは?」

 

 嫌そうな顔で引き気味になる一夏と、さっきまで黙っていた黒閃が意味不明な事を言ってくる。

 

「何そんな嫌そうな顔してるんだ? ってか黒閃、何か勘違いして………あ、そっか。二人は知らないんだったな。いやいやすまんすまん、教えるのすっかり忘れてた」

 

「へ?」

 

「何を忘れていたのですか?」

 

「まぁ今此処で教えるより実物を見せた方が手っ取り早いか。と、その前に……綾ちゃん、俺ら先に風呂入ってるから! あと黒閃はもう疲れたから部屋で休みたいって言ってるから俺が案内しとく!」

 

 俺が台所に向かって少し大きめに声を出すと、そこから「分かったよ~」と綾ちゃんの返事が来たのを確認した。

 

「黒閃、悪いけど二人が見てない内に待機状態に戻ってくれ」

 

「分かりました」

 

 黒閃は俺の指示通りに人間の姿から待機状態のブレスレットに戻った。

 

「これでよし、と。さぁ一夏、行くとしようか」

 

「ちょ、ちょっと待てよ和哉。俺に一体何を見せるんだ? せめて何なのかを教えてくれよ」

 

「見れば分かるよ。少なくとも一夏が一番好きな物だからさ」

 

「はぁ? 意味が分かんねぇって」

 

 未だに何かを訊こうとする一夏を俺は無視して風呂場へと案内した。

 

 そして目的地に着いて、

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、おい和哉、こ、これって……!」

 

「ふふん。どうだ一夏、驚いたろ?」

 

「あ、ああ……。まさかこんなところで……“温泉”に入れるなんて思ってもいなかったぜ!」

 

 この風呂場――温泉に入れる事を知った(既に服を脱いでる)一夏は物の見事にハイテンションになっていた。

 

 因みに俺も服を脱いでおり腰にタオルを巻いてる状態だ。

 

 ここは数年前まで無駄に広い庭の敷地内の一つだったが、俺が竜爺の遊び心が含まれた(スコップ使用の)穴掘り訓練をした際、偶然にも温泉を引いてしまった。しかも天然温泉を。これには流石の竜爺も驚いて直ぐに調べたが、幸い誰かが利用している物ではなく、この土地ならではの温泉だった。

 

 それを知った竜爺は、折角出た温泉を元に戻すのは勿体無いと思い、此処を温泉場へと改造しようと考えた。勿論温泉を引いた弟子の俺も手伝い、今はもう完全に温泉場で宮本家専用の贅沢な風呂場となってる。無論タダで使い放題だ。その分管理とか面倒だが、温泉好きの竜爺にとって、そんなのは苦でも無いらしい。

 

 因みにさっき言ったとおり此処は宮本家専用の風呂場だから、この温泉を利用しての商売とかは一切してない。温泉好きな竜爺がコレで儲ける気は毛頭無く、純粋に温泉を楽しみたいと言う理由で誰にも教えていない。

 

「よし、早速入らせて――」

 

「待て一夏」

 

「な、何だよ?」

 

 温泉に入ろうとする一夏に俺は肩を掴んで止めると、一夏は怪訝な顔をして俺を見てくる。

 

「今だから言うが、この温泉は竜爺とその家族、あと弟子の俺しか知らない。そしてそれを身内ではない一夏に教えた」

 

「…………………」

 

「もしこの温泉場を誰かに教えたら……ココから先は言わなくても分かるよな?」

 

 俺が真剣な顔をして警告する事に、一夏は無言で首を縦に振り――

 

「仮にもし喋った場合、お前はもう永久に使えなくなる。そうなりたくないよな?」

 

「ち、誓う! 絶対に喋らない! ってか、こんな温泉が目の前にあって入れないなんて、俺には絶対耐えられない!」

 

「OK。その言葉、忘れるなよ」

 

 絶対に喋らないと誓ってくれた。

 

 まぁ一夏は元々口が堅いのは知ってるから別に問題ない。特に風呂好きの一夏が、この温泉に入れなくなると言うのは(一夏からすれば)拷問に等しいから、絶対に何が何でも喋らないだろう。

 

「よし、約束したんなら入ってよし、と」

 

「わわわっ! きゅ、急に押すなって! うわぁっ!」

 

 

 ザッパァァァ~~~ン!!

 

 

 俺がトンッと軽く背中を押すと、一夏はバランスを崩してしまいそのまま温泉へダイブした。そして一夏はバタバタと暴れるが、手足が床に付いたのを確認すると、すぐに立ってきた。

 

「あ、あぶねぇじゃねぇか和哉!!」

 

「ハハハ、初めて温泉に入る洗礼だと思ってくれ」

 

「嫌な洗礼だな!? ってか客の俺に、んな事しないでくれ!」

 

「いやぁ~、俺が初めて温泉に入る際に竜爺に同じ事されたから、俺もちょっとやってみようかなぁ~ってな」

 

「やられた事あるんなら尚更やるな!! だったら俺もお前に――」

 

『織斑一夏、腰に巻いてるタオルが取れていますが?』

 

「どわぁ!!」

 

 突然の黒閃の指摘により、さっきまで憤慨状態だった一夏がすぐに恥ずかしがって自分の股間を両手で覆いながら温泉に入った。すぐにプカプカと浮いてたタオルも取って。

 

「な、何で黒閃が此処にいるんだよ!?」

 

『貴方は見ていなかったのですか? 私が待機状態になったのを』

 

「そう言う意味じゃねぇ! ってか和哉、何で待機状態の黒閃を脱衣所に置いてかなかったんだよ!?」

 

「いや、俺は最初そのつもりだったんだが……」

 

 一夏の言うとおり黒閃を脱衣所に置いておく筈だったが、ブレスレット越しから何か訴えるような感じがして外すに外せなかった。もし外したらまた人間の姿になって温泉に入ってきそうな気もしたし。

 

『私はマスターの専用機ですのでいるのは当然です。それに織斑一夏も待機状態の白式を手首に付けたままじゃないですか。別に問題はないでしょう?』

 

「いや、白式と違ってお前は俺達と会話出来たり人間になれるから問題あるぞ。それに第一、お前は人間の姿が女なんだからな。少しは男の俺達に気を遣ってくれ。ってか黒閃、お前その状態になってても俺達の姿が見えるんだろ?」

 

『……………いえ、この姿だと視覚は遮断されてますので見えません』

 

 嘘だな。コイツが今咄嗟に考えて誤魔化したのが何となく分かる。ちょっと引っ掛けてみるか。

 

「ふ~ん、じゃあ聞くが、一夏の股間に付いてるアレはどうだった?」

 

「何で俺に振るんだよ!?」

 

『そうですね。標準以上かと思われますが、それでもマスターと比べて些か小さいかと』

 

「がはぁっ!!」

 

 あ、一夏が黒閃の言葉で何処からかグサッて音が聞こえたと同時に、一夏のライフが一気にゼロになりかけてる。おまけに余りに効き過ぎた所為か潜っちまったし。

 

 すまん一夏、お前の犠牲は無駄にしない!

 

「黒閃、やっぱりお前見えてるんじゃないか」

 

『え? …………はっ!』

 

「予定変更だ。やっぱお前が待機状態と言えども、脱衣所に置いてくる必要があるな」

 

『ま、待って下さいマスター! い、今のは言葉の綾で……!』

 

「今更誤魔化しても遅いわ。ってかISが見苦しい言い訳すんな」

 

 そう言って俺はすぐに脱衣所に戻り待機状態の黒閃を置いて行き、今度は正真正銘、俺と一夏だけの温泉時間となった。

 

 そして意気消沈してる一夏を俺が必死にあの手この手で何とか元気付けさせたのは言うまでもない。あと黒閃は俺の方で一夏の心を瀕死にさせた罰として、暫くの間は何かある時以外は待機状態のままで喋るなと厳命しといた。

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