インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~ 作:さすらいの旅人
「ふ~~、さっぱりした」
「あ~~気持ち良かった~。しっかし和哉ってずるい奴だな」
「いきなり何だよ?」
温泉を堪能した後に寝泊りする部屋へ案内してると、移動中に一夏が急に不機嫌そうにジロッと睨みながら変な事を言い出してきた。
「だってお前、IS学園に入学する前まで弟子の関係上この家に居て、毎日あの温泉に入ってたんだろ? しかも友人の俺に内緒で」
「それと一体何の関係が……ああ、そう言う事か」
呆れている俺だったが、一夏の不機嫌な理由が何となく分かり始めてきた。
恐らく一夏は俺が内緒でずっとあの温泉を使っていた事に対して少し怒ってるかもしれない。風呂や温泉が好きな一夏にとっては許せない、みたいな感じで。
「和哉は俺が温泉好きなのを中学の頃から知ってる筈だろ? それを知った上で内緒にしてたなんてひっでぇな~」
「仕方ないだろ。あの時は下手に喋ったら、学校中に知れ渡って面倒な事になると危惧して教えられなかったんだよ」
「別に学校じゃなくても、休日の時に言ってくれれば良いじゃないか」
「教えようにも、そん時には弾や数馬、鈴の内の誰かが必ずいたからな。お前が黙ってても、アイツ等がどこかでポロッと喋る可能性が無きにしも有らずだったし」
別にアイツ等の事を信用してないって訳じゃないが、もし知られたら学校どころか、下手したらマスコミの耳が入って撮影やら取材やら、挙句の果てには商売目的で交渉しようとする連中も来るかもしれない。何しろあの温泉は天然物だから、絶対注目の的になる事は間違いない。竜爺も竜爺でそう言った事は嫌いだから、弟子の俺は師匠に絶対迷惑を掛けずに黙っていようと口を堅く閉じていた訳だ。
「でもだからって……」
「じゃあ一夏、こう考えてみろ。もし中学の頃、お前やお前以外の連中が此処に温泉がある事を知って色んなところから注目された事を」
「え?」
「例えて言うなら……そうだな、俺達が男性初のIS操縦者になってマスコミや政府関係者や研究者共にに注目された感じで」
「あ……」
俺が例えると、一夏はすぐに当時の事を思い出した。ISが男である自分に適正がある事を知った友人や知人、そしてマスコミや政府の役人や研究者が家に押し寄せてきた事を。
あの時は人の心情を全く考えていない無神経な連中だと思う程うざかった。俺が竜爺の家にいるのを知ったマスコミは人の事を根掘り葉掘り聞き出そうとしたり、役人や研究者共は勝手な事ばかり言ったりと、俺だけじゃなく竜爺もブチ切れて強制的に追い出したからな。
俺があんな事をしたんだから、穏健な一夏もさぞかし辟易してたに違いないと思ったので例え話を出してみたが、思ったとおりそれは覿面だった。さっきまでの不機嫌が無くなって申し訳無さそうな顔になって、顔を下へ向けている。
「その顔を見るから察するに、納得してくれたと思っていいか?」
「……悪ぃ和哉。俺、勝手なこと言って……」
「分かってくれりゃ良いさ。ほれ、部屋に着いたぞ」
部屋に着くと俺はすぐに戸を開けて一夏を招きいれる。この部屋は俺がIS学園に入学する前までに使っていた所だから、全然違和感無く使える。尤も、客人の一夏を此処に招いたのは初めてだが。
「此処が和哉が使ってた部屋かぁ。にしても……何かお前の家の部屋と大して変わんないな」
「まぁな。好きに使って構わないって竜爺に言われたから、俺向けの部屋にしたんだ」
だからこの部屋には家から持って来た暇潰し用に置いてる家庭用ゲーム機や漫画が置いてある。竜爺は修行に関して物凄く厳しいが、私生活や趣味については何も言わない。竜爺が『誰かに迷惑を掛けるような事さえしなければ好きにして構わん』って言ってたし。
因みに綾ちゃんも俺の部屋を利用する事がある。あの子は見た目とは裏腹にかなりのゲーマーで、竜爺の家に泊まる際、俺が修行終えた後には必ずと言って良いほどゲームの相手をする。ゲームのジャンルは色々あるが、とにかく綾ちゃんはゲームが凄く上手い。特にアクションゲームが。
「ってな訳だから、夏休み中この部屋はお前の好きに使って良いぞ。竜爺の厳しい修行には必ず息抜きが必要だからな。俺はいつもそうしてるし」
「だよなぁ。あんな地獄とも言える修行の後に何もしないで明日にはまた修行って……正直言ってやってられねぇよ」
「ハハハ。竜爺はそれを見越して、修行後は俺を自由にさせてるんだ」
でなけりゃ、俺はもうとっくのとうに修行を抜け出して弟子を辞めてたからな。
「まぁそれより、これからどうする? 俺は久しぶりに家庭用のヴァーストをやろうと思うが」
「あ、それなら俺もやる。アレは弾の家で遊んでから全然してないからな。っと、その前にちょっと千冬姉に連絡しとくから、悪いけど先に準備しといてくれないか?」
「分かった」
俺はすぐに家庭用ゲーム機を引っ張り出して準備し、一夏は置いてあった鞄から携帯を取り出した。
そして準備を終えた俺はテレビを付けて、ゲーム機の電源を付けようと――
「げっ!」
「ん?」
――する直後に一夏が突然不味いような声を出したので、俺は何事かと思って振り向いた。
一夏を見ると、携帯の画面を見て何故か青褪めている。一体どうしたんだ?
「どうした一夏?」
「お、俺の携帯に、ふ、不在着信やメールがあってな……」
「それがどうした?」
別に驚く事じゃないだろうと呆れていたが――
「そ、その殆どが……箒と鈴、シャルやラウラばかりなんだよ……。特に箒からの不在着信が十件以上もあって……」
「………え?」
一夏が理由を言った後、俺はすぐに前言撤回した。
これは不味いな。一夏が此処で修行する事をアイツ等が知ったら絶対に面倒な事になると思って、敢えて内緒で行ってしまったのが逆に仇になっちまった。
箒の事だから一夏が電話した直後に滅茶苦茶怒って怒鳴るのが目に見えてる。流石に十回以上電話しても出てくれなかったからな。箒は普段大人しいが、大好きな一夏の事となるとすぐに怒る。
俺から考えるに、恐らく箒は『自分がこんなに何回も電話してると言うのに出ないなんてどう言う事だ~!?』って憤慨かもしれない。アイツは一夏の事となると手に取るように分かりやすい奴だからな。
「ど、どうする和哉? 今俺が箒に電話したら……アイツ間違いなく絶対に怒るぞ……!」
「落ち着け一夏。別に俺達はやましい事なんてしてないし、ちゃんと冷静に事情を話せば……」
「じゃあ訊くが、怒ったアイツが俺の話をちゃんと大人しく聞いてくれると思うか? あと鈴たちも」
「それは………すまん、無いな」
一応考えてみたが、一夏がどんな選択をしても箒が怒る展開にしかならない。アドベンチャーゲームで言うなら、どんな選択肢を選んでもバッドエンド直行確実だ。
流石に今キレてもおかしくない箒を一夏に任せるのは酷なので、仕方ないから今回は俺が代わりに箒の対応するとしよう。勿論他の一夏ラヴァーズの連中にも。因みにセシリアは今イギリスにいて、俺が一夏を連れて行く事を知ってるから問題ない。
あくまで俺が一夏を此処に連れてきたんだから、ちゃんとその責任を取らないといけない。一夏は何も悪くないし。
「はぁっ……。一夏、電話を貸してくれ。俺が箒に説明する」
「え? でも……」
「箒が怒る原因を作ったのは俺だからな。それにアイツは俺相手ならちゃんと話を聞いてくれるし、今までもそうだったろ?」
「……確かに」
一夏が今までの事を振り返って、俺が箒を宥める時はちゃんと聞いていた事を思い出していた。それを理解した一夏は俺に携帯を渡そうとする。うん、理解してくれて何よりだ。
「けど和哉、何で俺の電話を使うんだ? お前の携帯にも箒の番号が登録してあるんだから、そっち使って箒と話せば良いんじゃないか?」
「まぁ普通はそうするが、今回はお前の携帯を使って箒を一度ガス抜きさせる必要があるんだ。そうすれば箒はお前に理不尽な行動を取らなくなる」
「理不尽? 何でだ?」
一夏がいまいち意味が分からないような顔をしているので、俺は簡単に説明しようとする。
「今の箒はお前の携帯に何回電話しても繋がらない事によって、すっごくストレスが溜まって超激怒してるのは分かるよな?」
「ああ」
「それでそんな状態の箒に俺が電話で理由を説明して納得させたとしてもな、アイツはストレスを溜め込んだままになって発散が出来る機会が無くなってしまう。けれど箒の性格から考えて、恐らくだが『この怒りを一体誰に向ければ良いんだ?』と考え始め、その結果『電話しなかった一夏が悪いから、アイツに責任を取ってもらおう』と結論する。そしてお前が学園から戻ってきた後、箒は絶対何かしらの理由をつけて二人っきりになった後、お前を思いっきりブチのめしてストレス発散させる流れになる筈だ。幼馴染のお前も考えてみてどう思う?」
「うん、確かにそうだ。箒なら絶対にやりかねない。流石は和哉、よく箒を理解し……って! 和哉が説明しても俺は箒にボコられること決定なのかよ!?」
「そう言ってんだろうが」
なに納得しながらツッコミしてんだよ、と呆れながら付け加える俺。
「だからそんな理不尽な行動をさせない為に、箒にはお前の携帯を使ってこの場でストレスを発散させる必要があるんだ。その後に俺が説明すれば――」
「俺に理不尽な事はしなくなる、って訳か」
「そう言う事だ」
一夏はやっと理解してくれたようなので、俺は一夏に指示を下す。
「じゃあ今から箒に電話するが……その前に一夏は少し離れて耳塞いどけ。アイツの事だから絶対にデッカイ怒鳴り声を出すと思う」
「お、おう!」
言われたとおり一夏はすぐに俺から離れて耳を塞ぐ。流石に俺も間近で箒のデカイ怒鳴り声は聞きたくなかったから、一応離れても話せるように一夏の携帯電話をスピーカーホンに切り替えて床に置く。不在着暦から箒の携帯番号を見つけ、俺はピッとボタンを押して箒に電話した直後、俺は携帯から少し離れた。
トゥルルルルルルッ! トゥルルルルルルッ! トゥルルルルルルッ!
スピーカーホンによって待ち音が聞こえる中、耳を塞いでる俺と一夏は生唾を飲みながら物凄く緊張していた。まるで今から恐ろしい化け物と対峙するかのように。
そして――
トゥルルルルプツッ!
箒が電話に出たので――
『一夏貴様ぁぁぁぁぁぁぁ~~!!!!!!!!! 私が何度電話しても出ないくせに今更どの面下げて電話してきたぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~!!!!!?????』
携帯から俺の『咆哮』以上である箒の爆発した怒鳴り声が部屋全体にビリビリと響き渡った。その所為か耳を塞いでも、あまりに凄い怒鳴り声に俺達は思わず吹っ飛んでダメージを受け、蹲りながらも必死に堪えている。
「~~~!! な、なんつーバカでかい声だ! ホントに俺の『咆哮』を遥かに超えてるぞ!」
「~~~!! み、耳塞いでも痛ぇ~~~!!」
『貴様私に黙って一体何処で何をしてる~~~~~~~~~~!!!!!!!!???????? 事と次第によっては許さんぞぉぉぉぉぉ~~~~~~~!!!!!!!』
そんな俺達に箒はお構い無しと言わんばかりに、未だ不満をぶちまけるかのように叫び続けていた。
☆
~箒が爆発する数分前~
「それで真理奈さんや、綾の報告にあった連中が来たと言う事は――」
『ええ。思ったとおり、日本支部の女性権利団体は未だにお義父さんの土地を狙ってるみたいだわ』
「やはりそうか」
此処は宮本竜三の私室。
竜三は私室へ戻った後、すぐに置かれている電話を使って女性へと電話していた。その内容は食事中に和哉達に秘密にしていた話だった。
「全く、本当にしつこい連中じゃのう。以前小娘共が此処に来た際、慇懃無礼な態度でワシの温泉を人の為に役立てよう等と御託を並べておったが、どうせアレは嘘なんじゃろ?」
『ええ。いつもウチの店でエステしに来る女性権利団体の幹部の一人がこう言ってたわ。「天然温泉がある土地に女性専用スパを建設するけど、家主であるくたばりぞこないの目障りな爺が未だに首を縦に振らなくて困ったもんだわ」ってね。私がその家族なのを知らずにペラペラと』
「……人の家をもう我が物気取りでいるとは、ワシも随分舐められたもんじゃのう」
不愉快そうに話す女性に、竜三はただただ呆れる一方だった。
因みに竜三が電話している真理奈と言う女性は、綾の母親である宮本真理奈で、同時に竜三の義娘でもある。
「さっきの話を聞くからに、小娘共はワシの土地にスパを建てる事はもう決定済みなのか?」
『ええ。あのお喋りな幹部さんによると、何でも今回の件が上手く行った暁には、女性権利団体の団長さんから直々の褒美と同時に、建設したスパの経営者に任命される事を約束されてるらしいわ』
「やれやれ、己が利権の為にワシの土地や温泉を踏み台にしてのしあがろうとは……本に、どこまでも身勝手な小娘共じゃわい」
『っ!』
途中から声が低くなった竜三に、真理奈は電話越しからでも竜三の怒りを感じ取ってビクッと震えた。
竜三は修行以外の事だと普段温厚で滅多に怒らない好々爺な老人だが、今は心の底から怒っている。温厚な人ほど怒らせると恐いと言うが、竜三は正にその典型だった。
そして真理奈は危惧した。竜三を怒らせる行為は死を意味すると。別に死と言っても竜三は相手を殺す事はしないが、相手の頭のてっぺんから足の爪先に至るまでに死の恐怖を極限に与え続けるので、それは最早死も同然。それを知っている真理奈は、色々不味い事になってしまうと竜三を説得しようとする。
「いっその事、ワシ直々に小娘共を潰した方が手っ取り早いかもしれんのう……」
『お、お義父さん、その気持ちは痛いほど分かるけど、そんな事したら……!』
自分だけに被害が及ぶならまだしも、と言おうとする真理奈だが――
「冗談じゃ。そうすれば綾だけでなく、和哉にも要らぬ迷惑を掛けてしまうからのう。ワシはそこまで愚かではないわい」
「……なら良いけど」
娘の綾と、竜三の弟子である和哉に多大な迷惑を掛ける事を分かっていた竜三に安堵した。同時に先程まであった竜三の怒気も静まっていた。
『お義父さん、とにかく今は私の方で何とか――』
『一夏貴様ぁぁぁぁぁぁぁ~~!!!!!!!!! 私が何度電話しても出ないくせに今更どの面下げて電話してきたぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~!!!!!?????』
「な、何じゃあ!?」
『な、なに今の!?』
突然上から知らない女性の怒り狂った声が響いて、竜三と真理奈は不意を突かれたかのように驚いてしまった。