インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~   作:さすらいの旅人

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第109話

 とまあ、たった二日程度しか時間を遡っていないが、要はこの一週間で一夏が地獄の修行に(別の意味で)死んでは生き返る繰り返しをしてたって訳だ。余りに修行が辛い為に一夏が一時脱走するかと思っていたが、綾ちゃんの手料理三食と大好きな温泉の効果があったみたいで、それをやらずに一週間続けていた。もしその二つの癒し効果が無かったら絶対に脱走していたと俺は思う。

 

 それはそうと、綾ちゃんを背中に乗せて腕立て伏せをしている俺に、宮本家へ再び来た俺と一夏のクラスメート――布仏本音がこっちに近づいて来た。

 

「いらっしゃい、本音お姉ちゃん」

 

「ってか本音、お姉さんに言ったんだろうな?」

 

 本音は修行初日で姉に知らせてない事により一度IS学園に帰ったが、一週間の間に数回来ていた。その時は本音のお姉さんに許可を貰って。

 

 んで、綾ちゃんが俺達の修行を手伝っている事を知った本音は、自分も手伝うと言って付き合ってくれてる。尤も、主に俺の手伝いだけど。

 

「大丈夫だよ~。前と同じく夕方頃には帰ってくるようにって言われたから~………本当は泊まりたかったんだけど~」

 

 だろうな。電話越しでしか知らないが、本音のお姉さんは話し方や声を聞いて結構真面目そうな人だから、知り合いの家とは言え男所帯の家に泊まらせたら色々と不味いし。綾ちゃんはこの家の家族だから問題無いけど。

 

「それよりもかず~、私言ったよね~? かずーの修行の手伝いは私がやるって~」

 

「君がいない代わりに綾ちゃんに頼んでたんだけどな」

 

「じゃあ今から私がやる~。綾ちゃん、悪いけどどいて~」

 

「は~い。じゃあアタシ、昼御飯の支度してくるね」

 

 綾ちゃんは何の文句も言わずに乗っていた俺の背中から離れて立ち上がり、そのまま家の中へ入っていく。そう言えば、あと少し経ったら昼飯だったな。修行しててすっかり忘れてた。

 

「かず~、乗るよ~?」

 

「お好きなように」

 

 腕立て伏せを続けている俺に、今度は本音が俺の背中に乗ってきた。綾ちゃんの重さと比べて本音は……ちょっと重いかも。

 

「………かず~、今すっごく失礼なこと考えなかった~?」

 

「別に何にも」

 

 危ない危ない。考えただけで気付くとは本音も侮れないな。まぁ女に向かって重いなんて単語はNGワードだから、間違っても口には出せない。もし言ったら本音に嫌われてしまうかもしれないからな。

 

「ぐっ……ぐぎぎっ……! あ、あっちは楽そうで羨ましい……! あだっ!」

 

「じゃから気を抜くなと言うておろうが。ほれ、あと二十歩進めば休憩じゃ」

 

 握力と下半身の修行をしてる一夏が気を抜いたところを、竜爺が即座に鞭で叩く。

 

「あ、あと二十歩って……もう腕と足が限界なんですけど!?」

 

「安心せい。この一週間の間、ワシが課した課題をギリギリでこなしたから、童の身体能力は多少とは言え上がっておる。もし上がってなければ今頃へばっておるわい」

 

「え? そ、そうなんあいだっ!」

 

「何度も言わせるでない。上がったと言っても多少と言うたじゃろうが」

 

 身体能力が上がった事を確認する一夏だったが、再び竜爺の鬼の鞭が飛ぶ。調子に乗らせない為なんだろうか。

 

 でもまぁ確かに竜爺の言うとおり、まだ一週間とは言え一夏の身体能力は上がっていた。修行をやって二~三日はすぐにへばっていたが、その後からは武術の才能が少しずつ開花するかのように、俺が組み手をする時は徐々に実力も上がり始めていた。本人は全く気付いてないがな。まぁ今の一夏にソレを教えて慢心させないよう、竜爺が敢えて厳しい事を言ってるんだろう。未熟な内に慢心したら取り返しの付かないことになるのは、俺自身よく知ってるし。

 

 一夏を見ながら腕立て伏せを続けていると、背中に乗っている本音が急に話し掛けてくる。

 

「ねぇかずー、ちょっとお願いがあるんだけど良いかな~?」

 

「お願い?」

 

「うん。もしさ~、修行が休みだったら此処に行ってみない~?」

 

 そう言って本音は何処からか紙を取り出して、腕立て伏せをしてる俺に見えるよう広げる。

 

「どれどれ」

 

 俺が横に向けて見てみると、ソレはチケットの前売り券だった。

 

「ウォーターワールド? ああ、確か今月出来たばかりの遊園地だったか」

 

 鈴から聞いた話だと今話題となってる遊園地だから、前売り券は今月分は完売で、当日券は会場二時間前に並ばないと買えない物だって言ってた。そんな入手困難なチケットを本音はよく手に入れたもんだ。

 

「そうだよ~。前から予約してやった買えたんだよ~、えっへん」

 

「んで? 此処にいる俺達と一緒にこの遊園地に行きたいと?」

 

「………違うよ~、かずーと二人で行きたいの~?」

 

「え? 俺と二人で?」

 

 急に不機嫌そうに言い返す本音に俺は思わず鸚鵡返しをしてしまった。

 

 普通こう言うのは同姓の友達かカップルで行くような物だと思うんだが、何で友人の男の俺と何だ? 意味不明だぞ。

 

「ぜえっ! ぜえっ! ………え? のほほんさんが和哉を?」

 

「ほほう」

 

 俺と本音の話を聞いていたのか、やっと修行を終えてへばり気味な一夏と竜爺がコッチを見ていた。特に竜爺が何か面白そうな笑みをしているが一先ず無視だ。

 

「別に俺じゃなくても、綾ちゃんや学園にいる鏡や岸原と一緒に行けば良いんじゃないのか?」

 

「かずーじゃないとダメなの~」

 

「ダメって……君と行くとしても、竜爺がそう簡単に久々の修行を休ませてくれる日なんて――」

 

「明日は休みじゃから、遊びに行っても構わんぞ」

 

「――は?」

 

 突然、竜爺が信じられない事を言った事により思わず腕立て伏せを止めて硬直する俺。そしてすぐに背中に乗ってる本音を退かせた後に立ち上がり、すぐに竜爺を訝るように視線を送る。

 

「おいおい何のつもりだ竜爺? 明日が休みだなんて俺は聞いてないぞ?」

 

「な~に、流石に一週間ぶっ続けで修行すれば、そろそろ骨休みが必要な頃合いじゃと思ってたからのう。それにこの童もいい加減休ませないと壊れてしまいそうじゃし」

 

 どの口が言うんだか。俺が一夏を休ませる必要があると言った時には、精々修行時間を少し短くする程度で済ませてたのに、何でこう言う時に限って休ませるんだよ。ってか何度も一夏を壊しかけてはマッサージで復活させてる竜爺が言っても全然説得力が無いんだが。

 

「や、やっと俺に休みが……良かった~」

 

 修行から一時解放されると思ってる一夏は、心の底から安堵の声を出している。そりゃあ一週間も散々地獄を見てたから、誰だってそう言いたくなる。俺も時々竜爺の組み手で地獄を見かけたからな。いや、三途の川だったか? まぁそれは入学前からよくあった事だから今更気にしないが。

 

「ほんとに~? お爺ちゃんほんとに明日休みなの~?」

 

「ああ、じゃから明日は和哉を連れて思う存分楽しんでくるといい」

 

「やった~! ありがとうお爺ちゃん! 明日楽しみだね~かず~!」

 

「おい、いきなり抱きつくなって」

 

 両手を挙げながら竜爺にお礼を言った直後、本音は汗まみれの俺に抱き付いてくる。こんな状態の俺にそんな事しないでくれ。

 

 ってか竜爺、今度は何ニヤニヤしてんだよ。いくら師匠でも、その顔見てるとめっちゃ殴りたい衝動に駆られるんだが。

 

「ハッハッハッハ。和哉よ、異性との付き合いも修行の一つじゃ。これを機に学ぶが良い」

 

「何を学べば良いんだよ? ってか竜爺、いい加減そのニヤニヤ顔は止めろ。絶対面白がってるだろ?」

 

「いやいやいやいや、うぬ等を見てついワシの青春時代を思い出してのぉ~」

 

 嘘だ! 絶対に面白がってるぞあのクソ爺! 本当にあの顔を『砕牙・零式』でぶん殴りてぇ!!

 

 あと一夏、お前へばってくるくせに何ニヤニヤしてんだよ!?

 

「が、頑張れよ~和哉。俺応援してるからさ~」

 

 何を頑張れってんだよ!? あ~~何かアイツの顔見てるとイライラしてきたから、ちょっとばかし俺が竜爺直伝のマッサージを――

 

「りゅ、竜お爺ちゃん! またあの人たちが来たよ~!」

 

 ――しようと思っていたが、突然綾ちゃんが慌てた様子でこっちに来た。

 

「何?」

 

「「「?」」」

 

 さっきまで楽しんでいた顔をしている竜爺が、綾ちゃんの言葉を聞いた途端に不愉快そうに目を鋭くしていた。いきなりの変わりように俺や一夏、そして本音も不可解な表情をする。

 

 そう言えば修行初日の夕飯に綾ちゃんと竜爺が妙な事を話していたが、ひょっとして二人が言ってた連中が来たのか?

 

「やれやれ折角の時間を、ほんにしつこくて無粋な小娘共じゃのう」

 

「竜爺、それってもしかして――」

 

「和哉は気にしなくて良い。前も言ったがこれはワシ等家族の問題じゃ。ワシが戻ってくるまで居間で休憩しておれ、良いな?」

 

「あ、ああ……」

 

 有無を言わせないように釘を刺してくる竜爺に、俺は頷くしかなかった。確認した竜爺はすぐさま綾ちゃんと一緒に家の中に入り、そのまま玄関へと向かっていく。

 

「あのお爺ちゃん、いきなりすっごい恐い顔になってたね~」

 

「なぁ和哉、あの爺さんがあんな顔するって何か尋常じゃ無い気がするんだが?」

 

 俺と同じく疑問を抱いてる本音に、漸く息が整った一夏が俺に聞いてくる。

 

「……一先ず居間で休憩してよう」

 

「え、和哉は気にならないのか?」

 

 意外そうな感じで言う一夏。てっきり俺がコッソリと竜爺の跡を追うんだと思っていたんだろう。

 

「そりゃ気になるが、竜爺に釘刺された以上はソレが出来ないんだ。もしやったらこっ酷く叱られるからな」

 

 現に以前、俺は竜爺から釘を刺されたにも拘らず跡を追って怒られた事があった。まぁその時はあんまり大したことじゃないが。その後からは罰として修行内容の倍以上の内容を課されて、俺がへばっても有無を言わさず続けさせたからな。あれはマジでキツかった。その為、以降は竜爺に釘を刺されたら敢えて口出ししない事にしている。

 

 けれど一夏の言うとおり、今回ばかりは凄く気になる。さっきまで楽しそうな顔をしていた竜爺がいきなり不機嫌になるって相当な事だ。さっき言ってた“小娘共”と言うのが、そこまで竜爺を豹変させるほど不快な連中なのかもしれない。まさか女性権利団体の連中じゃ……いや、それは考え過ぎか。でも気になるな。

 

「ま、それはあくまで入学前までの俺だったらの話しだけど」

 

「! じゃあ和哉、まさか」

 

 やはり気になるから、ちょっとアイツに任せてみるとするか。幸い此処にはIS学園関係者しかいないからな。

 

「姿を現せ、黒閃」

 

『了解しました』

 

 待機状態(ブレスレット)になってる黒閃に命じた瞬間、それから白い光を放つ。一夏が思わず両目を手で覆うが、すぐに光が収まり、俺の隣に人間状態の黒閃が姿を現す。久々の姿を見た一夏は少し目を見開き、本音は若干不機嫌そうな様子だった。

 

 因みに黒閃はこの一週間、俺の厳命によって一切喋っていなかった。竜爺や綾ちゃんには修行二日目に用事があって帰ったと前以て言っている。

 

「お呼びでしょうか、マス……その前に布仏本音、貴女はマスターから離れて下さい」

 

「相変わらずだね~。私がかずーとこうしてたって別に気にしないでよ~」

 

「……お前等、何で顔合わせて早々に喧嘩腰なんだ?」

 

 俺の気のせいだろうか、二人が何やら互いにバチバチと火花を散らせているような気がするんだが……まぁそこは気にしないでおこう。取り敢えず黒閃の言うとおり、一先ず抱きついてる本音を離さないとな。

 

「アハハ……モテる男は大変だなぁ~和哉」

 

「何でだよ」

 

 俺がモテるなんてあり得ないっつーの。ってか唐変木の一夏にだけは言われたくないな、その台詞は。お前だって普段専用機持ち組にモテモテで振り回されてるだろうが。

 

「取り敢えず本音、君はいい加減離れてくれ」

 

「え~~」

 

「離れないとお菓子作ってあげないぞ?」

 

「……ぶ~~」

 

 ちょっとした脅しを使うと、本音は頬を膨らませながら渋々と離れてくれた。

 

 さて、早速黒閃に命じるとするか。

 

「黒閃、久々に姿を現して早々に悪いが、玄関に行って竜爺と綾ちゃんが対応してる奴を見てきてくれないか? 俺が言ったら気配でバレてしまうから、気配が一切無いお前なら大丈夫な筈だ」

 

「それは構いませんが……宜しいのですか? 先程あのご老人に釘を刺されたと言うのに」

 

「ちょっとばかし気になるんだよ。あの竜爺が一瞬で不機嫌な顔になったのがな。それになんか嫌な予感がして、俺の思い過ごしなのかを確認もしたいんだ。勝手な命令で悪いが、やってくれるか?」

 

「………それがマスターの命令であるならば、従いましょう」

 

「助かる」

 

 竜爺に悟られないように隠密行動出来るのは今のところ黒閃しかいないからな。了承してくれて何よりだ。

 

「では少しばかり様子を見てきます」

 

「おう、任せた」

 

 

 

 

 

 

 ~黒閃視点~

 

 

 マスターに命じられて玄関の近くまで行くと、そこにはご老人が目の前にいるスーツを着た女性三人と応対しているのが見えた。私が近づいている事にご老人は気付いてる様子は一切無い。そしてご老人の後ろにいる綾と女性三人も同様に。私は人間の姿になっても、元々はISだから気配と言う物は存在しない。故にご老人は私の存在に気付いていないのだ。

 

「じゃから何度も言うておろうが。ワシはこの土地を売る気は無いし、こんな物に署名などせんと」

 

 ご老人は不機嫌そうに言い返しているが、黒髪の女性が相手の感情をまるで無視しているかのように話を続けようとしている。

 

「こちらも何度も申し上げてるではありませんか。貴方が所有している温泉を人の為に役立てようと。これはチャンスなんですよ? あの天然温泉を世に広めれば、全国の人が此処に訪れて大繁盛すること間違いありません。それに売るとは言っても、あくまで貴方の土地をお借りするだけですし」

 

(温泉?)

 

 確かマスターの話では、この家にある温泉を知っているのは宮本家の家族とご老人の弟子である神代和哉(マスター)、そして織斑一夏だけの筈。何故あの女性はそれを知っているんだろうか。

 

「ほう? では聞くが、この土地借用書には……何故か二枚重ねとなって土地承諾書もあるんじゃが、どう言う事かのう?」

 

 女性に渡されていた借用書にくっ付いている物を剥がして、それを目の前に突きつけるご老人。

 

「………これは失礼しました。私とした事が重大なミスをしてしまい、申し訳ありません」

 

 見破られた女性は一瞬口元を引き攣らせているが、それでも営業スマイルをしながら謝罪していた。同時に茶髪と金髪の女性二人も忌々しそうな顔をしていたが、すぐに元の表情に戻している。

 

(ん? そういえばあの三人、以前何処かで見たような気が……)

 

 もう少し詳しく見てみようと更に近づこうとすると――

 

「む?」

 

(っ!?)

 

 ご老人が気付いたかのように後ろを振り向いたので、私はすぐに動きを止めた。

 

 馬鹿な。今の私は完全に気配が無い筈なのに、あのご老人はどうやって察知した?

 

「どうかされましたか?」

 

「何でもないわい。それよりも、うぬ等もいい加減に――」

 

(これ以上は不味いですね。一度マスターの所に戻らなければ)

 

 しかしあの女性三人、一体何処で見たんだろうか。ISの私が忘れる訳が無い筈なのに……ひょっとして私が完全な自我を持つ前に会った人物、だとするとマスターが知ってるかもしれない。

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