インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~ 作:さすらいの旅人
取り敢えずどうぞ!!
「申し訳ありません、マスター。ご老人が私に気付く素振りをしてましたので、やむを得ず戻りました」
俺、一夏、本音が居間に着いてから数分後に黒閃が戻ってきた。余りに戻ってくるのが早い事に一夏と本音は驚いている中、俺は溜息を吐いていた。
「……はぁっ、流石は竜爺と言うべきか。気配の無い黒閃に感づくなんてな……」
無論溜息を吐いたのは黒閃が早く戻ってきた事でなく、竜爺の余りの勘の鋭さだった。思わず呆れてしまうほどに。
竜爺は気配の無い黒閃をどうやって察知したんだか。ひょっとして後頭部に目でも付いてるのか?
「となると竜爺が気付いたって事は、此処に来てる連中の顔は見れなかったか?」
「それは大丈夫です。僅かでしたが、ご老人が対応していた女性三名の顔を視認し、記録もしておきました」
「おお、それはそれは」
僅かとは言え、それなりに成果を出す黒閃も凄いな。
「それさえ分かれば充分だ。良くやってくれた」
「……」
「む!」
頭を撫でる俺に黒閃は嫌がる様子を見せなく気持ち良さそうに目を細めてると、近くにいる本音が急に不機嫌そうな顔になった。
どうでもいいけど、黒閃ってついつい撫でたくなるんだよな。何かこう……失礼な例えなんだが、犬や猫みたいに気持ち良さそうな顔してるから、何かもっと撫でたくなる。まぁ嫌がってたら止めるけど。
「かず~、もうそれくらいで良いでしょ~? はい終了~」
「あ……」
不機嫌な本音が急に黒閃を撫でてる俺の手を掴んで放そうとする。急に中断された事に黒閃が名残惜しそうな感じから一転し、今度は本音を睨み始める。
あ、確かこの展開はさっきもあった様な気が……。
「布仏本音、何故貴女が口出しするんですか?」
「べっつに~」
「「……………(バチバチッ!)」」
何なんだよ、この二人は。睨み合った途端に何故か火花散らしているんですけど。俺はどうすれば良いんだろうか?
「さっきも言ったけど、本当にモテる男は大変だな~和哉」
「だから何でだよ」
コッチも言わせて貰うが、本当にお前にだけは言われたくないっての。無自覚で唐変木な一夏にだけは絶対に。
まぁそんな事より、今は竜爺が応対していた女の事が気になるから、取り敢えず意味不明な睨み合いをしてる二人を止める事にしよう。
「おい二人とも、いい加減に止めてくれ。あと黒閃、俺はお前が記録した連中の顔を見せて欲しいんだが?」
「っ! は、はい、すぐに……。では一旦待機状態に戻ります」
俺の言葉を聞いた黒閃はハッとするようにコッチへと視線を向けると、光を発して
『今玄関でご老人が対応してるのは、この三人の女性の内、リーダーと思われる黒髪の方です』
(ん? コイツ等どこかで)
映し出される女を見て俺が少し顔を顰めると、一夏と本音も見ようと近づいてくる。
「うわっ、営業スマイルしてても、いかにも何か企んでるって感じがするな」
「何かあくどい事を考えてそうだね~」
思った事を言っている二人を余所に、俺は三人の女性を見て何かを思い出そうとしてる。
コイツ等は一体何処で見た? つい最近見たと思うんだが……ってコイツまさか……!
「黒閃、この茶髪の女の方を拡大出来るか?」
『少しお待ち下さい』
黒閃が答えると、画面に映ってる女性三人の内、俺が指名した茶髪の女性が徐々に拡大されていく。拡大が完了し、茶髪の女性の顔がハッキリ見えると――
「っ! 思い出した!!」
「お、おい和哉! 何処行くんだ!? ってか何を思い出したんだよ!?」
「かず~!?」
引き止めようとする一夏と本音を無視して、俺はすぐに竜爺たちがいる玄関へと急いで向かっていった。
俺が竜爺の言い付けを破ってまで行こうとする理由は……映っていた女が以前俺を殺そうとしていた女性権利団体の一人だと思い出したから。
☆
~竜三視点~
「チッ……。宮本さん、あまり此方を困らせないで下さい。貴方がこの借用書にサインをして下さるだけで万事解決なんですから」
「戯け。何が万事解決じゃ」
小娘共が頑なに拒否するワシにうんざりし始めておるのか、少しずつ急くように言ってくる。あと聞こえないようにやってるようじゃが、舌打ちしてるのをしかと聞いた。これは相当苛立っておるようじゃのう。
けれど苛立っておるのはワシも同じ事。さっきからしつこく署名しろと言うてくるから、ワシはいい加減力付くで追い出したかった。因みに滅多な事で嫌な顔をしない綾もワシと同じなのか、小娘共の戯言を聞き続けているのか不愉快そうに眉を顰めておる。
力付くで追い出す事は造作もない事じゃが、義娘の真理奈から聞いた話では、小娘共は女性権利団体の団員じゃからソレが出来なかった。下手に手を出せば、小娘共は即座に訴えて有罪にされると言っておったからのう。普通は有り得ん事なのじゃが、女性優遇制度と言うふざけた物があるせいで、小娘共の証言は正当化されてしまう。何とも哀しい世の中じゃ。
「さっきの重ねておった承諾書を見て、うぬ等の魂胆が分かったわい。うぬ等、口では都合の良いことをほざいておきながら、初めからワシの土地と温泉を奪うのが目的なのじゃろう?」
既に真理奈から聞いてる事じゃが、敢えて今気付いたとワシは言い放つ。もし情報源である真理奈の事を言ってしまえば、彼女にも被害が及んでしまうからのう。本人は気にせんと言うじゃろうが、義娘の真理奈もワシの大事な家族じゃからな。
「ですから先程のは間違いでして――」
「なぁ
「そうねぇ。
「ちょ、貴女達……!」
「ほう?」
美緒と呼ばれる黒髪小娘の後ろにいた、他の小娘二人が本性を現したかのようにワシを見下す発言をしてくる。茶髪小娘が沙希で、金髪小娘が奈々と言う名前のようじゃのう。
「さっきからこっちが下手に出てれば署名しないだの帰れだのって……爺さん、事を穏便に済まそうとしてる私達の気持ちを考えてくれない?」
「そうよ。アタシ達がその気になれば、貴方みたいな老人を此処から追い出す事なんて造作も無いのよ? さっさと美緒が持ってる書類にサインしてくれれば警察沙汰にならずに済むんだからさぁ」
沙希と奈々と呼ばれる小娘二人がワシを見下すように言い放つ。
辛い目と言うのは大方、此奴等の事じゃから警察に訴えてワシを何かしらの罪状で逮捕させようとするんじゃろうな。さっきも言ったが、此奴等の証言は女性優遇制度によって正当化されるからのう。況してや此奴等は女性権利団体の連中じゃから、真理奈の話だと団体の中には政治関係者もおると言っておった。もしかすれば更に圧力をかけられるかもしれん。
「はぁっ……。まぁ確かにこの二人の言うとおりですね。宮本さん、これ以上拒まれると私達としては非常に困りますので、ここらで諦めてもらえませんか? 私達の上司も痺れを切らしておりますから、早くしないと温泉を除くこの家を強制的に取り壊されてしまいますよ?」
「貴様等、そこまでしてワシの土地を欲するか……!」
「……お姉さん達、自分が何を言ってるのかを分かって言ってるんですか?」
小娘共の脅迫に先ほどから黙って見ていた綾が口を出してきた。綾の言い分は尤もなのじゃが――
「お嬢さん、悪いけど口を挟まないでくれますか?」
「アタシ達は今この爺さんと話してるんだ」
「学校で習わなかったかしら? 大人の話し合いに口を出さないようにって」
――この小娘共にそんな理屈は通用せんからのう。
綾には悪いが下がってもらうか。下手に口出しをすると、此奴等の事じゃから綾が同じ女子とは言え、ワシの家族と言う理由で何かしらの事を仕出かすかもしれん。
「綾よ、悪いがお主は――」
「じゃあ綾ちゃんの代わりに俺が口を出させてもらうよ、殺人未遂犯のお姉さん方」
「「「っ!!!」」」
「む!? 和哉お主……!」
ワシの言い付けを破るとはこのバカ弟子が! 後でみっちりと……む? ちょっと待て、殺人未遂犯とは何の話じゃ?
それに気のせいか、和哉が現れた事に小娘共が何やら慌てておるようじゃが……。
「ハハハ~、久しぶりだなぁ~。特に茶髪のお姉さん、背中と鳩尾は大丈夫かな?」
「て、テメェ……!」
「しかしまぁ~、俺の担任の言ったとおりだな。俺を殺そうとしたアンタを警察に突き出したのに、もう釈放されてるとはねぇ。女権団体はどうやって罪状を揉み消したのやら」
あの茶髪小娘が和哉を殺そうとした? 警察に突き出した? 釈放された? 罪状を揉み消した?
「え? え? か、和哉お兄ちゃん、一体何の話なの?」
当然戸惑っておるのはワシだけでなく綾も同様じゃ。
和哉だけでなく、この小娘共にも色々と聞かねばならんようじゃのう。
「おい和哉よ、それは一体どう言う事じゃ? それにお主等、此処におるワシの弟子を殺そうとしたとは――」
「す、すみません宮本さん! わ、私たち急用を思い出しましたので今日は一旦失礼します!」
「あ、ちょっと美緒!」
「ちょっ! 一人だけ逃げようとすんな!」
三人の小娘共を問い詰めようとすると、適当な言い訳を言った途端に素早く逃走されてしまった。逃げ足の速い連中じゃわい。
あの程度の小娘共をすぐに捕まえられるが、今ワシとしては一番気になる事があるから後回しじゃ。