インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~   作:さすらいの旅人

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凄い久しぶりの更新です。


第112話

「かず~! 早く早く~!」

 

「はいはい、分かったからそう慌てんなって。別に遊園地は逃げたりしないんだから」

 

 竜爺に事情を説明した翌日の朝。

 

 昨日竜爺が言ったとおり、今日は骨休みとなっているので修行は無い。その為に俺は朝早々、待ち合わせの場所となってる駅へ行って、既にいる本音に腕を引っ張られていた。本音が昨日言っていたウォーターランドへ行く為に。

 

「遊園地は逃げなくても、かずーと遊ぶ時間が逃げるんだよ~。ほら早く~!」

 

「全く、君は普段のほほんとしてるのに、こう言う時だけ行動が素早いんだな」

 

 遊びに関しての行動が早い事に少しばかり俺は呆れた。出来れば修行初日の時には寝坊せずそうして欲しかったと思いながら嘆息したからな。因みに現在待機状態(ブレスレット)になってる黒閃も、俺と同じだったのか小さく嘆息していたのが聞こえた。

 

 まぁ今話題になってる遊園地のチケットを手に入れて遊びにいけるから、本音がはしゃぐ気持ちも分からなくも無い。俺も内心ちょっと行ってみたいと思ってたし。

 

(にしても、竜爺は一体どうするつもりなんだ?)

 

 けれど、俺としては遊園地よりも気掛かりな事があった。俺が女性権利団体に狙われ、殺されそうになった理由を聞いた竜爺だ。

 

 途轍もない怒気と殺気を取り敢えず引っ込めて何ともない様に話していた竜爺だが、本当に大丈夫なんだろうかと今でも不安を抱いてる。

 

 俺が理由を説明した後、次に竜爺は自分の家と温泉が狙われている事を話してくれた。温泉を知っていた一夏は別として、本音には一応口外しないよう言っておいた。けれど『今更緘口(かんこう)しても、知られるのが時間の問題じゃがのう』、竜爺が苦笑していたけど。

 

 何でも女性権利団体の連中は宮本家の天然温泉を女性専用のスパにしようと、あの手この手を使って竜爺の土地を手に入れようとしているそうだ。因みに何で連中が知っているのかと言うと、女性権利団体の連中がこの町で何処か手頃な土地が無いかと調べてた際、偶然に竜爺の家に温泉がある事を発見したそうだ。嫌な偶然だよ。

 

 今は竜爺がどうにか反対しているそうだが、綾ちゃんの母親――真理奈さんからの話だと竜爺の土地にスパを建設する事は決定らしい。何とも自分勝手な連中だ。

 

 まぁ奴等がもう少しで上手くいきそうなところを俺が阻止したから何とか凌ぐ事が出来たが、それがいつまで持つかどうか分からない。

 

(本当なら竜爺の手助けをしたかったんだけどなぁ……)

 

 一応事情を知った俺も手伝うと言ったんだが、竜爺から――

 

『今回はなるべく身内で片を付けたい。じゃがもしワシ等が手に負えなくなった時には頼む』

 

 と言われたので引き下がる事にした。

 

 それに加えて今日は本音と遊園地に遊びに行く日でもあるから、そっちを優先しろとも竜爺に言われたし。

 

「かず~」

 

 でもまぁ、竜爺が身内で片を付けると言っても、あの連中が何を仕出かすか分かんないんだよな。自分が女である事を良い事にやりたい放題してる連中だから、いくら竜爺が強くても権力使われたらなぁ。

 

「かず~」

 

 もし奴等が汚い手を使って竜爺を陥れるんだったら、その時は黒閃に頼んで奴等の情報を――

 

「ちょっとかずーってば!」

 

「え? な、何だ本音? いきなりでかい声出すなよ」

 

 突然本音が大きな声を出して呼んで来たから、俺は思わず驚いてしまった。

 

「さっきから呼んでるのに、かず~全然反応しないんだよ~」

 

「……そ、そうだったのか。悪い悪い、つい考え事しててな」

 

「………ねぇかず~、私と遊園地行くのがそんなに嫌なの?」

 

 本音はしかめっ面になりながら歩くのを止め、俺から離れてそう訊いてくる本音。

 

「何でそうなるんだよ」

 

「だってかず~、昨日からお爺ちゃんの話を聞いた後からず~っと考えてるんだもん。何か今日の遊園地もあんまり乗り気な感じがしないし~」

 

「………」

 

 ………確かに言われてみればそうだった。竜爺や女性権利団体の事ばっか考えてた所為で、本音の事をあんまり構ってないんだった。

 

 不味い。この後の事を考えると、恐らく本音はずっと不機嫌になって暫く俺と口をきかないかもしれない。

 

 折角本音が頑張って遊園地のチケットを入手したのに、俺がこんな行く気なさげな事をしてちゃダメだな。友人として最低だ。

 

「ぶぅ~。そんなにお爺ちゃんの事が気になるんなら、私は一人でふにゃぁ!!」

 

「すまんすまん、俺が悪かったよ本音」

 

 今度は膨れっ面になってる本音の頭を優しく片手で撫でる。

 

「い、いきなり何するの~……!」

 

「君の厚意を無駄にするような事をして本当に悪かった。だから今日は君が満足するまで遊び相手を務めるから、な?」

 

「………そ、そんなこと言っても私は許さないよ~」

 

 と言ってる割には嬉しそうな感じがするんだけどな。その証拠に本音はおでこを俺の胸にグリグリと当ててるし。これはかなり喜んでいる表現だ。

 

「そうかい。遊び相手の他に、詫びも込めて久しぶりにアップルパイも作ろうかとも考えていたんだが」

 

「………クレープも奢って~」

 

 調子に乗るなと言って軽いデコピンをしたいところだが、非がある今の俺に出来なかった。仕方ないので妥協しよう。

 

「分かったよ。それで許してくれるなら」

 

「………じゃあ許してあげる~」

 

「それは良かった」

 

 ふむ、やっぱり本音が許してくれる最大の武器はお菓子だな。この子は俺が作るアップルパイやお菓子が大好物だから、手間や費用が掛かるにしても許してくれるなら安いもんだ。

 

「かずーのそういうとこ、私好き~」

 

「そうかい。それじゃ早く遊園地に行こうか」

 

「行こ~♪」

 

 さっきまでの不機嫌が一気に無くなったようにホクホク顔となってる本音は、再び俺の片腕に引っ付いて一緒に歩き始める。

 

 正直歩き辛いんだが、今此処でまた彼女の機嫌を損なわせる訳にはいかないから、このままで行く事にした。

 

『…………マスター、布仏本音に甘すぎです』

 

「ふんふんふ~ん♪」

 

 途端に待機状態になってる黒閃からツッコミを入れられるが、ご機嫌な本音は聞いてない様に歩き続いていた。

 

 

 

 

 

 

「おお~、凄いなぁ。こりゃ話題になる訳だ」

 

『ウォーターワールドと呼ばれるだけあって、色々なアトラクションがありますね』

 

 目的地に着いた俺は、ゲートを通って水着に着替える為に一旦本音と別れた。そして水着に着替えた俺が早かったのか本音の姿が見えなかったが、周囲は途轍もないほどの人でいっぱいだった。

 

 プールで泳いだり、日光浴したり、アトラクションで遊んでいる人がいる。ここにいる客に共通して言えるのは、全員物凄く楽しんでいる。それだけ此処が楽しいって証拠だ。

 

「こんだけ人が多いと本音を探すのは一苦労かもしれないな」

 

「大丈夫だよ~。私はずっとかずーの傍にいるから~」

 

「そうしてくれるとありがた……って!」

 

 俺の呟きに反応した事に思わず振り返ると、隣にはいつの間にか本音がいた。

 

「君はいつからそこにいたんだい?」

 

「ついさっきだよ~」

 

「……そうか」

 

 どうやら余りの人の多さに、呆けに取られた所為で本音が接近してくる事に気付かなかったようだな。やれやれ、どうやら俺はまだまだ修行不足か。

 

 まぁそれはそれとして、俺はどうしてもツッコミたい事が一つある。それは――

 

「ところで本音。臨海学校の時から思ってたんだが、それは本当に水着なのかい」

 

 前回に見たキツネの着ぐるみを纏ってる本音に。

 

「そうだよ~。これが私の勝負水着なのだ~……と言うのは冗談で~」

 

 そう言いながら本音は片手を背中に回してジーッとチャックみたいな物を下ろすと――

 

「実はコレがホントの私の水着なのだ~!」

 

「だったら初めっからその格好で来ればいいじゃないか!」

 

 着ぐるみを全て脱いだ途端、真の姿を見せるかのように少し際どい白のビキニを纏った本音が現れたので、俺は声を荒げながらツッコんだ。

 

「え~? もしかしてかずー、こっちの方見たかった~? きゃ~、かずーのエッチ~♪」

 

 恥ずかしげな仕草をするように両腕で胸を隠そうとする本音。

 

「………やっぱ俺、帰ろうかな?」

 

「冗談だってば~。もう~、かずーは冗談が通じないんだから~」

 

 

 ムニュッ

 

 

 しかめっ面する俺に本音が正面から抱き付いてきたから、本音の胸がダイレクトに伝わってくる。

 

 これが他の男だったらドギマギしてるんだろうが、俺は綾ちゃんのお蔭で耐性が付いてるから大して動じない。それはそれである意味悲しい耐性かもしれないが。

 

「はいはい、冗談なのは分かったから一先ず離れような」

 

 何しろ客の何人かが俺に抱きついてる本音を見ているし。視線には慣れてるが、流石に知らない人に注目されるのは恥ずかしい。

 

『くそぅっ! あんな可愛いのほほん巨乳の彼女とイチャイチャしやがって……!』

 

『これが俗に言う美少女と野獣ってか……?』

 

 そこの男共、本音は俺の彼女じゃねぇ。つーか誰が野獣だ、誰が。

 

『何か彼女の方は幸せそうな顔してるわね~』

 

『チッ。これだから彼氏持ちの勝ち組は……!』

 

 だから違うってつってんだろうが、そこの女共! 誤解してんじゃねぇ!

 

「ったく。ほら行くよ、本音。先ずはどうする?」

 

「えっとね~」

 

 俺がそう言うと、本音は俺から離れて脱いだ着ぐるみを手に取りいそいそと再び纏う。

 

 ってかまた着るんかい。まぁ却ってその方が良いかもしれないけど。

 

「じゃああそこ行こ~」

 

 内心呆れてると、着ぐるみを纏った本音が俺の手を取って移動をする。

 

「……おい、初っ端からコレかよ」

 

 本音が目指そうとしてる場所に着いた俺がそう呟く。

 

 何故ならそこはクネクネと曲がった長いコースがあるウォータースライダーだ。しかもペア滑りコースに向かってるし。まぁスリルがあって楽しそうだから文句は無い。

 

「此処に来るって最初に決めたんだよ~。かずーと一緒に滑りたかったし~」

 

「分かった分かった。んで? これはどう滑れば良いんだ?」

 

 滑り方を尋ねると、係員のお姉さんが俺に声を掛けてきた。

 

「ペア滑りはですねー、こう、女の子を後ろからだっこする感じでですねー」

 

「ふーん」

 

 向こうの説明に従うように、俺はスライダーの入り口に座る。

 

「女の子は男の子の脚の間に座ってですねー」

 

「こうかな~?」

 

 本音は遠慮無しに俺の脚の間に腰を下ろすと同時に、背中を俺の胸板にピトッと寄り掛かってくる。

 

 因みに本音はいつのまにか着ぐるみを脱いでいた。さっき着たばかりなのにまた脱ぐって、何でメンドクサイ事をしてるんだろうか。言い出したらキリがないから、もう本音には何も言わない。

 

「あらあらー、お二人は恋人同士ですかー?」

 

「違いますからさっさと説明続けて下さい」

 

 からかってくる係員のお姉さんに向かって言うと、向こうは再度説明をしようとする。

 

「それでですねー、男の子は女の子を後ろからぎゅってするんですよ。ぎゅって。勿論、お腹を抱く感じでー」

 

「かずー、早くぎゅってして~」

 

「はいはい」

 

 催促してくる本音に俺は嘆息しながら、言われたように後ろから抱きしめる。

 

「かずーに抱きしめられてる~。何か幸せ~♪」

 

「頼むからそんな恥ずかしい事は言わないでくれ」

 

 普段俺に抱きついてるのに、俺がやっただけでどうしてそんな幸せそうな顔をするんだか。

 

 しかしまぁ、綾ちゃんで慣れてるとは言え、肌と肌でこんなに密着するのは久しぶりかもしれない。本音も綾ちゃんと同じく女の子特有の柔らかさがある上に、何故かいい匂いもする。俺、ちょっと頭がおかしくなってきたかな?

 

「最後にですねー、女の子は男の子の腕に捕まって下さいねー。しっかりとですよー。途中で水着がほどけちゃうと危ないですからー」

 

「はーい」

 

 返事をした本音は、俺の腕をぎゅっと掴んでくる。

 

「あのぅ、もうこれで行って良いですか?」

 

 確認する為に係員のお姉さんに問うと――

 

「はーい、どうぞー。それではいってらっしゃーい」

 

 とんっと背中を押されてしまった。

 

「くそっ、勝手にスタートさせやがって……っておおおっ!?」

 

「おお~~!!」

 

 ゆっくりと滑走してる最中に係員のお姉さんに文句を言いたがったが、すぐに加速して速度が上がったので、もうどうでも良くなった。本音なんかは楽しそうに声をあげてるし。

 

「お~すごいすご~~い!」

 

「確かにこれは凄いな」

 

 滑っていく速度は速くても、言葉を交わす余裕はあった。

 

 本音も本音で滑る速度に嬉しそうな顔をしている。

 

「うおっ! カーブか!」

 

「わひゃぁっ!」

 

 ぐいいいっと遠心力で外側に引っ張られる俺の体だが、この程度で体勢を崩しはしない。

 

 けれど本音はカーブによって体勢が勢いに負けて傾いてしまう。

 

 すると――

 

 

 むにゅん

 

 

「あ……」

 

「ほわぁ~!」

 

 本音が体勢を傾けてしまった事により、俺の手が本音の胸に触れてしまった。

 

「ちょっ! かずー! どこ触ってるの~~!!??」

 

「俺の所為じゃない。君が体勢をずらすから……わぷっ!?」

 

 

 ザッパーンッ!!

 

 

 本音の発言に俺が抗議するも終着点に到達したらしく、俺達は水中に突っこんでしまった。

 

「ぷはっ! ったくも~」

 

 水面から顔を出すと、ガードするように腕をクロスさせた本音が顔を赤らめながらジーッと見ていた。

 

「う~~~……!」

 

「……言っとくけど、俺の所為じゃないからな」

 

「……かずーのエッチ~」

 

「何でだよ。元はと言えば君が体勢をずらしたから、ああなったんだぞ?」

 

「でも……触ったのに変わりないよ~」

 

「あのなぁ……」

 

 服越しとは言え、普段から人に胸を押し当ててる本音が言う台詞じゃないと思うんだけど。

 

 どうやって本音の機嫌を直そうかと考えてると、突然左手首が光り出した。

 

 何事かと思って見てみると、いつのまにか人間形態となってる黒閃が現れる。しかも何故か黒の水着(ビキニ)姿で。

 

「な、何で黒閃が出てくるの~!?」

 

「布仏本音、マスターが強く出れないのを良い事に余り調子に乗らないで下さい」

 

 あのさぁ黒閃、今は周囲に人がいないから良かったんだけど、いきなり人間になるのは止めてくれない? お前の突然の登場は心臓に悪いんだよ。

 

「マスターに非はありません。元はと言えば体勢を崩した貴女が原因でしょう」

 

「そ、そうかもしれないけど~、黒閃が言わなくても……」

 

「たかが胸を触られたぐらいで、ああだこうだと文句を言わないで下さい」

 

 言ってる事は間違っちゃいない。けれど流石に異性に胸を触られたら意識すると思うぞ。今の本音がそうだし。

 

「だ、だからぁ……」

 

「私でしたらマスターに触られても気にしません。こんな風に」

 

 黒閃がいきなり俺の手首を掴み――

 

 

 ムニュッ

 

 

「いっ!?」

 

「!?」

 

 自分の胸を触らせた。突然の柔らかな感触に俺は驚き、本音はギョッと目を見開く。

 

「んんっ……。な、何故でしょう……? マスターに触られると気持ちよくなってきて……」

 

「止めんかコラ!」

 

「何やってるの黒閃~~!!」

 

 

 スッパァァンッ!!

 

 

 本音がどこから出したのか分からないが、持ってるハリセンで黒閃の頭をどついた。

 

「………痛いじゃないですか、布仏本音。あとそのハリセンはどこから出したんですか?」

 

「そんな事はどうでもいいの~! かずーに自分の胸を触らせるのはダメ~! かずーは私のなんだから~!」

 

「おい、いつから俺は君のものになったんだ、本音?」

 

「貴女にどうこう言われる筋合いはありません。私はマスターの所有物ですから、マスターに何をされても構いませんので」

 

「お前も誤解を招く事を言ってんじゃねぇ黒閃!!」

 

 急に本音と黒閃の喧嘩が始まってしまった事により――

 

『くそ~! 大してイケメンじゃねぇあの野郎がどうして美少女二人に囲まれてやがんだよ!?』

 

『あの野郎、羨まし過ぎる……!』

 

『うわ~、一人の男を奪い合う美少女二人ってやつかな?』

 

『と言うより彼氏の方はどこかで見たような気が……』

 

 段々野次馬が集まり始めてきたから、俺は一先ず二人を連れて退散する事にした。




う~ん、久しぶりに書いたから微糖だったかな?
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