インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~   作:さすらいの旅人

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第113話

「ったく。どうして喧嘩腰になるんだよ」

 

「うう~……ごめん、かずー」

 

「……申し訳ありません」

 

 本音と黒閃を余り人がいない休憩スペースまで連れて行った俺は少しばかり説教していた。俺の説教に二人は言い返そうとせず、頭を垂れるようにしょんぼりとしている。

 

「黒閃、この前俺が言った事を忘れたのか? 何か遭った時以外は待機状態のままで喋るなって」

 

「…………」

 

「決して絶対にやるなって束縛する命令じゃないんだが、少しは場所を考えてくれ。一般人がたくさんいるこんな場所で、お前が不用意な行動を起こしたら何を言われるか分からん」

 

「…………すみません、仰るとおり確かに軽率でした」

 

 俺の指摘に黒閃は何故か小さくなった感じがする。

 

「つーか、普段俺の指示に絶対従うお前が、どうしてあんな事をしたんだ? お前が何の理由もなく勝手に動くとは思えないんだが」

 

「それは…………」

 

 理由を問う俺に、黒閃は言おうとするもすぐに本音を見た途端に黙ってしまう。どうやら本音がいる前では答えたくないみたいだな。

 

「はぁっ、分かった。理由は後ほど聞くとしよう。取り敢えず待機状態に戻ってくれ」

 

「……分かりました」

 

 黒閃が頷くと、すぐに待機状態(ブレスレット)に戻った。

 

 それを確認した俺は次に本音の方へと視線を向ける。

 

「本音、俺はもうこれ以上どうこう言うつもりは無いから、もう頭を上げてくれ」

 

「で、でも私かずーに迷惑を……」

 

 罪悪感があるのか、本音はすぐに頭を上げようとしないので――

 

「ほいっと」

 

 

 ペチンッ

 

 

「わきゃっ!」

 

 俺は本音の額に物凄く手加減した軽いデコピンをした。俺の突然の行動に本音は驚くように悲鳴をあげる。

 

「か、かずー、何するの~……?」

 

「これで許してあげるから、早くいつもの君に戻ってくれ。君がそんな顔をされると、こっちが申し訳ない気分になる。さ、今度は泳ぎに行こうか」

 

「………うん」

 

 手を差し出すと、本音は片手を出してそのまま俺の手を握る。

 

 本音と一緒に泳ぐ為の浮き輪を借りに行こうとしていると――

 

『では! 本日のメインイベント! 水上ペアタッグ障害物レースは午後一時より開始いたします! 参加希望の方は十二時までにフロントへとお届け下さい!』

 

 突然の園内放送が響き渡った。

 

「メインイベント? 何か面白そうだな。本音、良かったら出てみないか?」

 

「え? でも私……」

 

『優勝商品はなんと沖縄五泊六日の旅をペアでご招待!!』

 

「っ!」

 

 アナウンスから景品内容を聞いた途端、さっきまで少し落ち込み気味だった本音がぴーんと耳を立てて一気に顔を上げた。

 

「へぇ。景品は沖縄旅行か。随分と豪華な――」

 

「かずー、出よう~!」

 

「へ?」

 

「優勝して沖縄行こう~~!!」

 

「え、ちょっ……!」

 

 急に元気になった本音はグイグイと俺を引っ張っていくようにフロントへ行く事となった。こうして俺と本音がフロントで受付をしてメインイベントに参加する………筈だった。

 

 

 

 

 

 

「もう信じられない~! かずーが参加出来ないってどういうことなのさ~~!?」

 

「ははは……。まぁ出たら出たで俺が反感喰らう事になったけどな」

 

 メインイベントの水上ペアタッグ障害物レースが終わった後、俺と本音はウォーターワールドを出て街を歩いていた。

 

 本音と俺の台詞でもう分かってるだろうが、俺達はレースに参加する事が出来なかった。俺がフロントで参加すると言った際、『お前空気読めよ』と言う受付からの無言の笑みによって退けられたからだ。尤も、それは俺に限った話じゃなく、他の男性参加者達も悉く退けられたが。

 

 何で参加出来ないんだと俺は文句を言ったが、受付が水上を見ろと視線で誘導してきて理由がすぐに分かった。水上には主に見目麗しい女性が沢山いたからだ。

 

 その時に俺は知った。このレースは初めから女性メインにやらせ、観客席にいる下心丸出しの男は走る見目麗しい女性を見て楽しむものだと。

 

 それらを理解した俺は呆れて物が言えなくなったので、参加する気が一気に失せた。だから俺は本音を説得して普通に泳いで遊ぶ事にしたって訳だ。

 

 事情を知った本音は俺と同じく呆れて遊ぶ事に賛成したが、後々になってレースに対し、こうして文句を言い続けている。

 

「確かに参加出来なかったのは残念だったな。まぁ久しぶりに遊園地で楽しめたから、それで充分だよ」

 

「そうだけど~……かずーと沖縄旅行が~……」

 

 本音は納得してもまだ未練がましく呟いていた。

 

 ってか仮に俺等が参加して景品貰っても、旅行に行くのは多分無理だと思う。

 

 IS学園の生徒である俺等が遠出の旅行なんて出来る訳ないし、俺は竜爺の修行があるし、本音はお姉さんからダメだしを喰らうだろう。容易に予想できるオチだ。

 

「つーか俺と旅行してどうすんだよ。そう言うのは普通俺じゃなくて同性の友人、もしくは恋人と行くようなもんだろ?」

 

「私はかずーと一緒に行きたかったの~」

 

 そう言って本音は強請るように俺の腕に引っ付いてくる。

 

「はいはい。じゃあそんな本音には残念賞としてランチを奢ってあげるよ。何が食べたい?」

 

「かずーが行く店なら何でも良いよ~♪」

 

 俺が奢ると聞いた途端、本音は上機嫌になった。分かりやすい奴だ。

 

「そう言うと思ったよ。じゃあ、あそこのカフェに行こうか」

 

「行こ~」

 

 丁度目に留まったオープンテラスのカフェを見た俺が其処へ行こうとすると、本音は文句を言う事なく俺に付いて行こうとする。

 

 そして俺達がカフェに入ると――

 

「いらっしゃいませ。カフェ@クルーズへようこ、そ……」

 

「ん? お前、シャルロット……?」

 

「あ、でゅっちーだ~」

 

 何故か執事服を着たシャルロットが俺達を接客するように出迎えていた。しかも中々様になってる格好だ。思わず以前男装していたシャルル・デュノアの姿を思い出したよ。

 

「か、か、か、和哉……! な、な、何で君がココに!?」

 

「そう言うシャルロットこそ何してるんだ? ってかその格好……」

 

「っ! こ、これは、その……!」

 

 俺と遭遇してしまった事により、シャルロットは完全に慌ててすぐに言葉が出ない様子だった。

 

「でゅっちーカッコいいね~」 

 

「の、布仏さんもいたの!?」

 

「さっきから俺の隣にいたんだけどな」

 

 俺に意識を向けてた所為か、シャルロットは本音の存在に漸く気付いた。いくら俺に見られたからって、代表候補生がそんなに慌てるなよ。

 

「まぁ良いや。今は訊かないでおくから、取り敢えず二人用の席に案内してくれ」

 

「え、えっと……どうぞコチラへ」

 

 他の客を待たせるわけには行かないと思ったシャルロットは、そのまま俺と本音を席へと案内する。その途中、今度はメイド服を着たラウラを見つけた。

 

「あ、ぼーでんだ~」

 

「ラウラもいたのか……」

 

「し、師匠……!? どうして此処に!?」

 

 俺達に気付いたラウラがコッチを見て驚いた顔をしている。

 

 そして案内された席に座ると、シャルロットが――

 

「ご注文が決まりましたらどうか僕に! 声をお掛け下さい」

 

 “僕に”とやたら強調してメニュー表を置き、別の客の対応をしにいった。

 

「ねぇかずー、でゅっちーとぼーでんがどうしてココにいるの~?」

 

「さぁな。何か理由があるからなんだろ……」

 

 けどあの二人がアルバイトをするのはあんまり良くない。いくら夏休みだからって、IS学園の代表候補生がアルバイトをしてるなんて世間が知ったら色々と不味い事になる。二人は当然それを分かってる筈なんだが……。

 

 シャルロットとラウラが客の対応をしながらもチラチラと俺達の席を見ている。特に俺の行動を矢鱈と警戒しているようだ。

 

 どれほど警戒してるのかと言うと――

 

「よし。ちょっと一夏に」

 

「お客様。携帯電話の使用はご遠慮願います」

 

「ししょ、じゃなくてお客様。通信はご遠慮頂こう」

 

 俺が懐から携帯を取り出そうとした途端に即行で注意を促すほどだ。

 

 注意された俺はそれを止めてメニュー表を見ると、シャルロットとラウラは何事も無かったかのように客の対応を再開する。

 

 あの様子からして一夏に絶対知られたくないようだな。アイツが知ったところで笑う事はしないと思うんだが。

 

「それはそうと本音、何を頼む?」

 

 一先ずランチを優先する事にした俺は、本音にメニュー表を見せて何を頼むか尋ねる。

 

「えっとね~……日替わりのパスタと期間限定パフェだよ~」

 

「パフェ? ………っておい、マジかよ」

 

 本音が指したパフェの欄を見てみると、価格が二五〇〇円と結構高かった。しかもランチより高いし。

 

「あのなぁ、奢るとは言ったが高過ぎだろ。ってかコレ、かなりの量だぞ。全部食べれるのか?」

 

 メニュー表にパフェの写真が載っており、かなり高いだけあって量もそれなりにあった。とても一人で全部食べきれる物じゃない。

 

「パフェ代は私も払うよ~。あとコレはかずーと一緒に食べるの~」

 

「俺と一緒にって……つまり俺の分のデザートまで頼んだって事か?」

 

「てひひ」

 

 してやったりと言うような笑みをする本音に、俺は思わず嘆息した。

 

 ………まぁ良いか。俺もこのパフェは少しばかり気になっていたからな。この際だから本音と一緒に食べるとしよう。

 

「じゃあ俺はハンバーグセットにするか。すみません、ちゅうも――」

 

「ご注文はお決まりですか?」

 

 俺と本音が食べるランチとデザートが決まったので注文と言ってる途中、いつのまにかシャルロットがスタンバイしていた。警戒し過ぎにも程があるんだが。

 

「……はい、コレとコレで」

 

 もうツッコむ気にもなれない俺は少し間がありながらも、執事のシャルロットにメニュー表を見せながら注文する物を言う。

 

「かしこまりました。すぐにご用意しますので、少々お待ち下さい。あ、こちらをお渡しておきますね」

 

「ん?」

 

 注文内容を聞いたシャルロットがお辞儀をした後、俺に折り畳まれた小さな紙を渡して去っていった。

 

「…………はぁっ」

 

 それを渡された俺は広げて見た途端に再び嘆息した。

 

「? どうしたのかずー? でゅっちーが渡した紙に何書いてあるの~?」

 

「…………」

 

 本音の問いに――

 

 

『後で大事な話があるからランチを食べた後、少しの間だけ待って』

 

 

 そう紙に書いてある内容を見せると、本音はすぐに苦笑した。 

 

「でゅっちーたち、すぐに帰してくれないみたいだね~」

 

「そう言う事だ。本音、悪いけど暫く付き合ってもらえるか?」

 

 紙に“少しの間だけ”と書かれてはいるが、絶対にその程度じゃ済まないと確信してる俺と本音。

 

 人間、余り見せたくない格好を知り合いに目撃されたら逃がそうとしない。後で必ず言い訳や説明をするって相場が決まってるからな。

 

 まぁ俺等としても、シャルロットとラウラがどうしてあんな格好をしてるのかが気になってるから、すぐに逃げる真似はしない。それに本音は楽しそうに二人の格好を眺めているし。

 

「良いよ~。かずーと一緒なら全然OKだよ~。あ、もしかしたらパフェをタダにして――」

 

「そんな事をしたら後になってラウラからの報復を受ける事になるぞ?」

 

「――もらうのは無かった事にするよ~」

 

 理解してくれて何よりだよ、本音。

 

 そして注文を待って十分程経つと、料理を持ったシャルロットがこっちに来る。

 

「お待たせしました。日替わりパスタとハンバーグセットです」

 

 女性客達を魅了する笑みを見せながら頼んだ料理をテーブルの上に置くシャルロット。さっきから思ってたんだが、シャルロットは本当にそこら辺の男よりカッコいい貴公子に見え――

 

「お客様、何か変な事を考えておりませんか?」

 

「………いえ、全く」

 

 突然シャルロットが(俺だけにしか見えないよう)黒い笑みを見せて来たので、不穏な考えを止めることにした。

 

 あとこれは前々から思ってた事だが、一夏ラヴァーズの中でシャルロットが一番厄介だ。特に黒い笑みを見せるところが、な。

 

 温和な人ほど怒らせたら恐いとは正にシャルロットの事を指している。感情をすぐ面に出す箒達とは違って、シャルロットは静かな怒りを見せるから、俺にとってはそれが厄介だ。

 

 それ故に俺はシャルロットを余り敵に回したくはない。尤も、一夏関連でからかう事は止めないけどな。

 

「では、ごゆっくりどうぞ。あとデザートをお食べの際はお呼びください」

 

「分かった」

 

「OK~」

 

 俺と本音が頷くと、シャルロットはすぐに別の客の対応をする。

 

 思わず見ると、女性客はシャルロットが来た途端、魅了されているんじゃないかと思うほど顔を赤らめていた。

 

 因みにラウラは――

 

「おい、それを飲んだらさっさと出て行け。邪魔だ」

 

「は、はい」

 

 お客に対する態度とは思えない酷い対応をしていた。

 

 アレじゃすぐにクビにされるんじゃないかと少し心配したが、実はそうでもない。

 

「あ、あの子、超いい……!」

 

「あんな可愛い子に罵られたいっ、見下ろされたい、差別されたいぃっ!」

 

 ラウラが美少女であるからか、男性客の殆どは異様な興奮を見せていた。

 

 言っておくが俺はラウラに罵られたくもないし、見下ろされたくもないし、差別されたくもない! 俺はMっ気なんか一切無い!

 

 もしラウラが俺にあんな冷たい態度取ってきたら、デコピン食らわせてやる。

 

 そう思いながら俺は本音と一緒にランチを食べてる中、店内全体は段々騒然としてくる。

 

 それは言うまでもなく――

 

「あ、あのっ、追加の注文良いですか!? 出来ればさっきの金髪の執事さんで!」

 

「コーヒーを下さい! 勿論銀髪のメイドさんから!」

 

「こっちにも美少年執事さんを一つお願いします!」

 

「是非とも美少女メイドさんを!」

 

 男女の客達がこぞってシャルロットとラウラを指名しているからだ。

 

「でゅっちーもぼーでんも凄い人気だね~」

 

「あの容姿であの格好だから、そうなるのは当然だよ」

 

「それはそうとかずー、そのハンバーグ美味しそうだね~」

 

「いきなり話の内容を変えるな」

 

 急に俺が食べてるハンバーグを見てる本音に注意しながらも、俺は少し切ったハンバーグをフォークに刺し、そのまま本音の口にまで運ぼうとする。

 

「かずー、何だかんだ言ってやさし~♪ あ~ん」

 

 パクッとハンバーグを食べる本音。

 

「………良いなぁ、布仏さん」

 

「ふむ。あれが副官の言うバカップルというものか」

 

 何故か羨ましがって呟くシャルロットは良いとして、ラウラは後でデコピンの刑を実行する必要がありそうだ。

 

 つーか誰がバカップルだ。俺と本音はカップル以前に付き合ってすらいないっての。

 

 と、そんな時――

 

 

 バタンッ!

 

 

「全員、動くんじゃねぇ!!」

 

 ドアを破らんばかりの勢いで雪崩れ込んできた三人の男が怒号を発した。




さて、この場合どっちの心配をした方が良いでしょうか?

客とスタッフ? それとも………三人の男?
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