インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~ 作:さすらいの旅人
「さて黒閃。此処には本音はいないから、約束通り理由を聞かせてもらうぞ」
「………はい」
クレープを食べ終えた後、シャルロットとラウラ、そして本音と別れて今は部屋にいる。そこは言うまでも無く竜爺宅にある俺の部屋だ。
家に戻っても竜爺や綾ちゃん、あとIS学園に行ってる一夏が未だに帰ってきてなかった。
三人が帰ってくるまで部屋でのんびりしようと思っていたが、ふと遊園地のプールで起きた出来事を思い出したので、黒閃を問い質そうと人間の姿にさせている。
人間の姿になった黒閃は正座して胡坐を掻いてる俺と向き合い、今は落ち込んだ様子だ。
因みに今の格好はプールで見せた水着ではなく、通常通り黒のミニワンピース姿だ。場所によって服を変えれるなんて便利だなと内心思ったが、今の状況でそれを口にしない。
「これは本音にも言えることだが、どうしてすぐ喧嘩腰になるんだ? 普段誰に対して淡々と話すお前が、本音に限っては感情的になってるし」
本音も本音で普段のほほんとしてるのに、黒閃に対して何かしらの対抗心を燃やしている始末だ。しかも俺に関する事で。
まさかとは思うが、黒閃や本音は俺に恋愛感情を抱いてるから思わず喧嘩してたりして………なんてあり得ないか。つい思い上がった事を考えちまったよ。自重しないと。
「……確かに私は布仏本音相手に感情的になっている事を認めます。そしてマスターにご迷惑を掛けている事も」
「別に迷惑だなんて思っちゃいない。俺はただ、どうしてそうなっているかの理由を知りたいだけだ」
ISの黒閃が年相応の女の子……と言えるかどうかは分からないが、本音に対してはそれらしい反応をするのは寧ろ良い事だ。
出来れば黒閃には綾ちゃんや本音見たく感情表現豊かな女の子になって欲しいからな。そう思うと何か父親みたいな感じになるが。
「……とても言い辛いのですが……その……布仏本音が……」
「本音が、何だ?」
「……マスターと睦まじくしてるのを見たり聞いたりしてると……苛々するんです」
「苛々する?」
「はい。いわゆる嫉妬と言う物です。………ISである私がそんな感情を持つのは変だと思われるでしょうが……」
本音に嫉妬、ねぇ。変じゃなくて驚いたよ。さっきまで感情表現豊かになって欲しいと思ったが、まさか黒閃がそんな感情を抱くなんてな。
「それはどういう嫉妬だ? 嫉妬にも色々あると思うが」
「……マスター、先に謝罪します」
「は? 謝罪ってうおっ!」
黒閃がおかしな事を言った後、突然俺に抱き付いてきた。
その拍子で倒れそうになるも、俺は咄嗟に両手を床に付けて倒れないようにする。
「お、おい黒閃、いきなり何を……!」
「布仏本音が、特にマスターにこのような事をしてるのを見るだけで嫉妬してしまうんです」
「………はい?」
「マスターはマスターで甘えようとしてくる彼女に何も言う事なく受け入れていますから、私は……!」
「あ、あの、黒閃さん?」
「私だって、マスターとこうしたいし、甘えたいです。でも、それを布仏本音がいつもやってるから……!」
そう言いながら黒閃は抱き付く両腕を更にギュッと力を入れ、上目遣いをしながら俺を見てくる。いつもクールな表情をする黒閃ではなく、何処にでもいるような少女の顔だった。
「あ~……まぁ、本音は甘えたがりと言うか、少々子供っぽいところがあると言うか……。俺、ああ言う相手にはつい許したくなるんだよ」
俺を兄のように甘えてくる綾ちゃんと生活していた事もあって、本音が俺に何をしてもつい甘くなってしまう。それに本音はどことなく綾ちゃんと似てて、意外と甘え上手な所があるからな。もしアイツが女尊男碑主義な女だったら容赦なく突き放しているが。
「ってか、意外だな黒閃。いつも
「……貴方は
成程。要するに俺は黒閃からしたら父親みたいなものなんだな。ちょっと複雑だが、黒閃の大好きな父親を誰かに取られた娘状態になってる訳か。
だとしたら、娘の要望に
「でも、私は主である貴方に――」
「よし黒閃、今日は好きなだけ俺に甘えていいぞ」
「――え? はうっ!」
何か言ってる黒閃だったが、俺は気にせず黒閃の要望に応えようと抱きしめ返す。あと片手で黒閃の頭も撫で始める。
「ま、マスター、何を……!」
「言ったろ? 好きなだけ甘えて良いって。黒閃の思いに応えるのは俺の役目だからな」
「た、確かにそう言いましたが……ああっ」
抱きしめながら黒閃の頭を撫でていると、途端に黒閃が気持ちよさそうな声を出してくる。コイツは俺に頭を撫でられると気持ちよさそうな顔をするからな。
「さぁ黒閃、今から命令する。その堅苦しい話し方と呼び方は止めて、俺に存分に甘えると良い」
「……ひ、卑怯です、マスター。そんなこと言われたら、私は……」
「我慢出来なくなるか? 良いぞ。偶にはお前もガス抜きしろ。それに俺としても、甘えてくるお前を見てみたいし。ほれ、いっそ猫みたく鳴きながら
「……にゃ、にゃあ……」
お、結構可愛い鳴き声をするな。う~ん、こう言う黒閃も結構良いかもしれない。恥ずかしそうに顔を赤くしながらも、俺のリクエストに応えてるところが意外と可愛い。綾ちゃんとは違う別物の可愛さだ。
「ま、マスター、これ以上は……!」
「ダメ。命令に背くと、この光景を写真にとって一夏に見せるぞ?」
「! そ、その時は織斑一夏を抹殺します!」
「そんな物騒な事言うお前には……ふぅっ」
「ひゃうっ!」
ちょっとしたお仕置きを込めて、黒閃の耳元に息を吹きかけた。ISであるにも拘らず、黒閃は中々可愛らしい反応をする。
う~ん、コイツがここまで可愛い反応をすると、もっとからかいたくなるな。いや、苛めたくなると言った方が正しいか。
と言うか、普通にこんな事をしたら俺はもうとっくに黒閃から電撃を浴びてもおかしくないんだが。
そう思ってると、部屋の外から誰かが近づいてくる足音が聞こえた。
そして――
ガラッ
「ただいま~。何だ和哉、もうのほほんさんと……って」
「おう、おかえり一夏」
何のノックもせずに部屋の戸を開けた一夏に俺は気にせず迎えた。けれど一夏は人間になってる黒閃を抱きしめてる俺を見てすぐに固まる。
「……お、織斑、一夏……!」
さっきまで甘える寸前だった黒閃が意識を取り戻したかのように、一夏の方を見る。
「す、すまん和哉! 邪魔して悪かった!」
「は? 俺は別に……」
ピシャンッ!
一夏は何か誤解してるのか、俺が何か言おうにも即座に戸を閉めて何処かへ言ってしまった。
そして――
「ふ、ふ、フフフフフ……織斑一夏……殺す!」
「ま、待て黒閃! お前いきなり何物騒な事を言ってる!?」
顔を真っ赤にしながらも恐い笑みを浮かべながら、一夏の後を追うように部屋から出て行ってしまう黒閃。
「ま、待ってくれ黒閃! 俺は何も見てないから!!」
「ダメです、待ちません。ですから早く忘れて死んで下さい」
「止めんか黒閃!! お前マジで今日はお前らしく無い事ばかりしてるぞ!?」
必死に逃げる一夏。必死に一夏を追いかける黒閃。一夏を殺そうとする黒閃を追いかける俺。
竜爺の家でおかしな事をやっている俺達は――
「お主等ぁ!! 家の中で何やっとるんじゃぁ!!??」
家主である竜爺が帰って来た後に滅茶苦茶怒られたのは言うまでもない。
今回は和哉に甘えようとする黒閃、と言う無意味な趣旨を書いてしまいました。