インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~ 作:さすらいの旅人
「う~~……!」
「……はぁっ。いつまでそうしてるんだよ。早くしないとアップルパイが冷めるぞ?」
本音がちゃんと目が覚めた数分後。
寝惚けて変な事を言ってた本音は抱きついてた俺から離れ、剥れた顔をしながら睨み続けている。しかも少し顔を赤らめたままで。
対して俺は呆れながら来賓用のソファーに座って、アップルパイを用意していたが、当の本人は未だに食べようとする気配が無かった。
いつものコイツなら俺が作ったアップルパイをすぐに食べようとするんだが、今回は珍しく飛びつこうとせずに睨み続けている。それだけ怒っていると言う証拠……なんだろうか?
「かずーが謝るまで……食べない~」
「何でだよ。俺は別に何も悪い事はしてないっての。元はと言えば君が仕事中に寝てるから――」
「む~~~!」
「……あ~分かった分かった。俺が悪かったよ」
これ以上怒らせると面倒な事になると思った俺は、不本意ながらも謝る事にした。
まぁ、よくよく考えてみれば、何の反応も無かったからって無断で生徒会室に入った俺も悪い。
本音も本音で、まさか俺がこんな時間に生徒会室に入ってくるなんて予想なんかしてなかったと思うし。だからここは俺が妥協するしかない。
「詫びになるかどうかは分からんが、今日は本音の言う事を聞くことにするよ。勿論、俺の出来る範囲内でだが」
「…………ほんとに~?」
「ああ。さっきの事がまだ許せないなら、ビンタするなり殴っても良いから」
本音に叩かれても殴られても大して痛くはないが、自分がちゃんと謝ってるって証明しないとな。
「……分かった。じゃあ許す~」
俺の言葉を信用したのか、さっきまで剥れてた本音が段々収まり、普段のほほんとした顔となってきた。
「その代わり~、ちゃんと私のお願い聞いてね~」
「ああ。んで、何をすれば良いんだい?」
念押ししてくる本音に内心嘆息しながらも、何を願うのかを問う。
「じゃあ先ず~……足を広げて~」
「足をだと? 何でだ?」
「良いから~。お願い聞くんでしょ~?」
「はいはい、分かったよ」
疑問を訊こうとするも、本音がまた剥れそうになりそうだったから、一先ず言うとおりに若干閉じ気味だった両足を開く。
「……これで良いのか?」
「うん」
頷いた本音は近づいてきて、背を向けながら俺の目の前に立ち止まり――
ポスッ
「う~ん、いい背もたれ~♪」
そのまま座ってしまい、俺に寄りかかってきた。
「………なぁ、君がやりたいのはコレなのかい?」
「そうだよ~。次は~」
「まだあるんかい」
今度は何を要求する気なんだと思ったが、この体勢に少し覚えがあった。
それは夏休みの頃、俺が本音とプールに遊びに行き、ウォータースライダーでペア滑りをした時だ。
まさか本音はあの時と同じ事をしたいのかと疑問を抱いてると――
「前みたいにぎゅってして~」
――思ったとおりだった。ここはウォータースライダーじゃないんだが……ま、いっか。
「仰せのままに」
一先ず言われた通りに後ろから抱きしめる事にした。痛くしないように必要最低限の力で抱きしめると、本音からおかしな声が出始める。
「はう~。かずーにぎゅってされて幸せ~♪」
「……本音、前も言ったが恥ずかしい事を言わないでくれ」
本音は良くても俺としては色々と不味い。
此処には俺と本音しかいないから今のところ大丈夫だが、もし楯無さんと虚さんが来たら絶対に大目玉を喰らう事になる。
付き合ってもいない友人の俺が本音にセクハラ同然の事をしてるんだから、姉の虚さんが怒り狂うこと間違いない。あの人は何だかんだ言って、本音を大事な妹と見てるからな。
出来れば二人が戻ってくる前に一刻も早くこの体勢を早く解除したい。
「なぁ、これで許してくれるんならもう離れて――」
「ダメ~」
「……ですよね~」
やはりそう簡単に離れてくれそうになかった。もし俺が強制的に離れさせようとしたら本音はまた剥れて、今度は完全に俺を許さなくなるだろうな。
………もうこうなったら
そう決めた俺は抱きしめてる両腕に少し力を込めようとする。
「あ、まだ強くぎゅってしてきた~♪」
「痛かったら放すぞ」
「大丈夫~。もっと強くぎゅってしてぇ~♪」
「はいはい」
何か幸せそうな声を出してるな。俺は今、セクハラ同然の行動をしてるの言うのに、何故こんなに喜んでいるんだろうか。
………どうでもいいけど、自分から久しぶりに抱きしめた所為か、何やら本音からいい匂いがしていた。
いつも本音から抱き付いてくるから大して気にはしないんだが、自分からやると意識してしまう。けど何か妙に落ち着くんだよな。何でだろう?
「ねぇかず~、アップルパイ食べて良い~?」
「良いよ。と言うか、それは元々本音に食べさせる為に作ったからな」
「やったぁ~♪ いっただっきま~す」
本音は嬉しそうに、テーブルの上に置かれてるアップルパイを片手で掴んで食べようとする。
間近でアップルパイを食べてるのを見てる俺は苦笑しながらも、機嫌が直って良かったと内心思った。
「ん~♪ やっぱりかずーのアップルパイ、ちょおちょおちょお美味しいよ~♪」
横からだが、見るからに幸せそうな顔をしてる本音。
「それはどうも。作った甲斐があったよ」
「かず~も食べてみなよ~」
「いや、俺は別に……って、おい」
本音は片手で持ってる食べかけのアップルパイを食べさせようと、俺の口まで運ぼうとする。
此処へ来る前、事前に味見をしてるから今更食べる必要もないんだが。
「ソレ、君の食べかけじゃないか。俺が食べたら間接キスになるぞ?」
「私はそういうの気にしないから~。早く早く~」
「………分かったよ。そんじゃ……」
あぐっ、と本音の食べかけアップルパイを食べる俺。
………うん。やっぱり味見したとおり、いつも俺が作ってるアップルパイの味だ。
「(モグモグ)……これで良いのか?」
「あ、ほっぺに砂糖ついてる。取ってあげるね~」
アップルパイを食べた事で俺の頬に付いてる砂糖の一部を、本音は見つけてすぐにペロッと舐めとってしまう。
「本音、お前また……」
「てひひ。かずーの手が塞がってたから取っちゃった~♪」
「……じゃあ俺もお返しだ」
「へ? ………ひゃうっ!」
本音の頬に付いてる砂糖の一部を、俺も舌でペロッと舐めとった。その直後、本音から身体をビクッと震わせながら変な声を出す。
「うう~……かずーに舐められちゃった~」
「どうだ? 自分がいかに恥ずかしい事をしてたって理解したか?」
俺だっていつもやられっ放しではいられない。本音には少しばかり分かってもらう必要があるからな。。
「う~……私、かずーに汚されちゃった~」
「おい。人にやっておいて、自分はそれかよ」
女は良くて男はダメってか? ったく。女の考える事は未だに分からないな。
「かず~、私を傷物にした責任とって~」
「ソレを言うなら、君が先に俺を傷物にしたと思うんだが?」
ってか俺、一体何をやってるんだろうか? 本音を抱きしめてる事で頭がおかしくなってるかもしれないな。
「って、そうだ本音。それよりも訊きたい事があるんだが、君はこのところ俺を避けてるような気がしてたが何でだ?」
「え? …………ああ~、別にかずーを避けてたわけじゃないよ~」
話題を変えると、本音は思い出すように理由を話し始める。
「お姉ちゃんがかずーに迷惑を掛けるなってキツく言われたんだよ~」
「虚さんが?」
「そうなんだよ~。かずーとぎゅっとしたいのに、お姉ちゃんったら――」
そこから先は姉の虚さんに対する文句と、俺に引っ付く事が出来なかった理由をゆったりしながらも長々と説明していた。
要するに虚さんが本音に、毎回俺に引っ付くのは布仏家の常識が疑われると言う事で禁止にしてたようだ。
それなら今こうしているのは不味いんじゃないかと訊くも、俺が抱きしめてるから問題ないと言う事で虚さんに言うつもりらしい。
何か俺、虚さんに凄く申し訳ない事をしたな。こんな事なら本音に会う前に虚さんに訊いておくべきだったよ。
でもまぁ今更遅いか。虚さんには後で、俺は別に迷惑してないと言えばいい。それで本音はいつもの本音に戻る事が出来るだろうし。
☆
その頃――
「………ねぇ虚ちゃん。あの二人はいつまでああしてるのかしら?」
「さ、さぁ……? ここは会長がビシッと言えばよろしいかと」
「じゃあ虚ちゃんが言ってよ。本音ちゃんのお姉さんとして。私、あんな砂吐きそうな空間に入りたくないわよ。本音ちゃんなんか凄く幸せそうなしてるから、入るに入れないし」
「それは………」
「和哉くんも和哉くんで本音ちゃんに言われるがままだし……確かあの二人ってまだ付き合ってないんだったわよね?」
「……ええ。神代君曰く、自分と本音はただの友人だと」
「ただの友人相手にあんなスキンシップするって……はぁっ。本当に和哉くんって一夏くんとはまた別の鈍感くんね」
既に仕事を終えた更識楯無と布仏虚は生徒会室前にて、和哉と本音がイチャ付くのを終えるまでずっと待っていた。
更に――
「………何でしょうか、このムカムカする気持ちは……。何故かは分かりませんが、早くメンテナンスを終えてマスターに会わないと……!」
現在ラボでメンテ中の黒閃も、ISでありながら女の勘が働いていたのであった。
取りあえず今回の番外編はこれにて終了です。