インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~   作:さすらいの旅人

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第120話

「ん…………ん?」

 

「ぐ~、ぐ~」

 

 眠りから覚めた俺が目をあけると、離れまいとするように抱き着きながら無防備に寝ている本音がいた。

 

 何で本音が……? ……ああ、そうか。本音が家に遊びに来て、急遽ソファーで一緒に昼寝する事になったんだった。

 

「ん~、かず~……」

 

 状況を思い出してると、本音がもぞもぞと動き出す。起きた訳じゃなく、俺が動いたのを察知したからだ。

 

 それは良いとして、今は………あっ。もう夕方の五時じゃないか。どうやら三時間以上も本音と一緒に昼寝してたようだ。

 

 本音が遊びに来て昼寝するって、端から聞いたら絶対疑問に思うだろう。ま、本音は遊び好きだが、寝る事も好きなので問題はないけど。

 

 兎に角、これ以上寝てる訳にはいかないから、さっさと本音を起こすとするか。それに今日は夕飯の材料を買いに行く日だし。

 

「おい本音、もう起きろ。ってか、それ以上寝てると、今夜寝れなくなるぞ」

 

「う~ん……やだ~」

 

 ユサユサと揺らすが本音はすぐに起きようとしなかった。ま、これは予想通りだ。

 

 取り敢えず落とさないように起き上がると、未だ俺に抱き着いてる本音はうっすらと目を開ける。

 

「あれ? かずー?」

 

「やっと起きたか」

 

 目を開けた本音を見て、まだ完全に覚醒してないと判断する。

 

「じゃあコレで、っと」

 

「あうっ」

 

 本音の額にペチンっと軽いデコピンを当てると、漸くお目覚めになってくれた。

 

「うう~、痛いよかず~」

 

「そんなに痛くはしてない筈だ。ほれ、もう離れてくれ」

 

 痛そうに涙目で訴えてくる本音だが、俺は気にせず離れろと催促する。

 

 漸く本音から解放されたので、ソファーから立ち上がった俺はすぐにバンザイするように両腕を伸ばした。その後に首を左右に回すと、それに反応するように骨がコキコキと鳴る。

 

 三時間以上も本音に抱き着かれたままソファーで寝ていたので、身体が少し窮屈な状態になってたからな。だからこうして身体を伸ばして首も回してるって訳だ。

 

「何か君と一緒に寝たのは久しぶりだな。前に同じ部屋で一緒に寝ていた時の事を思い出したよ」

 

「……そ、そうだね~」

 

 因みに俺を抱き枕のように寝ていた本音は、何やら少し顔を赤らめていた。

 

「俺はこれから買い物に行くが、本音はどうする?」

 

「かずーと一緒に行く~」

 

 当然と言わんばかりに付いていくと言わんばかりに、またしても俺に抱き着いてくる。

 

 一先ず着替えてくるからと言って、俺はすぐに自分の部屋へ戻った。

 

 

 

 

 

 

「かずーと二人だけでお買い物って初めてだね~」

 

「言われてみりゃ、確かにそうだな。前はシャルロットとラウラが一緒だったが」

 

 部屋で出かけ様の服に着替えた俺は、本音を連れて近くのスーパーへと来ていた。今は買い物カートにかごを乗せて、隣にいる本音の歩調に合わせながら周囲を見ている。

 

「あ、すっごく今更だけど、本音は夕飯どうするんだ?」

 

「かずーが作ってくれるなら、かずーの家で食べるよ~」

 

「そうか。だったら本音のお姉さんに連絡しとけ。前みたいな事になるのは流石にご免だし」

 

「大丈夫~。ちゃんとお姉ちゃんに夕ご飯食べたらちゃんと帰るって言ってるから~」

 

「って、最初から俺ん家で飯食う気満々だったのかよ」

 

 まぁ良いけどさ。こっちとしては、ちゃんと家族に連絡入れてくれれば文句は言わない。

 

 それに一人で飯を食うのは少し味気無かったから、誰かと一緒に食った方が俺としては楽しいし。

 

 とにかく、本音が家で夕飯食べるなら、少し凝ったモノを作るか。と言っても、そんな難しい料理は作れないが。

 

 よし。ここはいっその事、カレーでも作るとしよう。綾ちゃんほど上手くはないが、カレーぐらいなら俺でも作る事が出来るし。

 

 そう思って先ずは野菜を買う為に野菜市場へ向かっていると――

 

「あれ? 和哉にのほほんさんじゃないか」

 

「おお、一夏」

 

「あ、おりむー。やっほ~」

 

 何と一夏と遭遇した。しかも一夏の他に、一夏ラヴァーズの面々も驚くように俺達を見ている。

 

 一夏がこのスーパーにいるのは何ら問題無いが、何で箒達も……あ、そっか。今日は確か、箒達が一夏の家に遊びに行く日だったんだ。すっかり忘れてた。

 

 因みに本音は久しぶりに会った箒達と仲良く話し始めている。

 

「奇遇だな。お前達も買い物か?」

 

「まあな。って、それよりも和哉。お前、何で電話に出なかったんだよ? 携帯にかけても全然繋がらなかったし、今まで何してたんだ?」

 

「え? 電話………ああ、悪い。全然気付かなかった」

 

 一夏に言われて思わず懐に入れてる携帯電話を取り出して見てみると、一夏からの着信履歴が数件あった。しかも俺と本音が昼寝している頃の時間に。

 

「もしかして、のほほんさんと一緒にどこかへ出掛けてたのか?」

 

「いいや。俺の家にいて、ここへ来る前に一緒に寝てた。ちょっと窮屈だったが」

 

「……え? のほほんさんと一緒にって……」

 

 本音と家で一緒に昼寝してた事を言うと、一夏が少し驚くように目を見開く。

 

「ま、まさかお前、のほほんさんを部屋に連れ込んで――」

 

「何か勘違いしてるようだから言っておくが、本音が俺の家に遊びに来たんだよ。寝たと言っても、リビングにあるソファーで仲良く一緒に昼寝してただけだ」

 

「――あ、ああ。そっちね」

 

 何か安心するように言っている一夏。その『そっち』と言うのが何なのか問い質したいところだが、敢えて聞かなかった事にしておくとしよう。

 

 ついでに――

 

「でね~、かずーが久しぶりにぎゅ~って私を抱きしめてくれて~、私すっごく幸せだったよ~♪」

 

「そ、そうか……。和哉め、またしても破廉恥な事を……! だが……羨ましい」

 

「あのさぁ~、あたし達にそんな惚気話しないでくれる? 本気で衝撃砲をぶっぱなしたいんだけど……! ………でも、羨ましい。はぁっ……」

 

「か、和哉さんってば、またお恥ずかしい事を……! ですが、やっぱり布仏さんが羨ましいですわ……!」

 

「僕は惚気話を聞いたのは二度目なんだけど……本当にいいなぁ、布仏さん……」

 

「布仏、それ以上自慢話をされると、私も流石に我慢の限界だぞ。………よし、今度は私が一夏にやってみるとしよう」

 

 あそこにいる女子一同は何故か本音に対して苛々したり、羨んでいるような会話をしてる気がするんだが、俺の思い過ごしか?

 

 一先ずアイツ等は放っておくとしよう。

 

「んで、起きたのが夕方で、今はこうして夕飯の材料を買う為に此処へ来たって訳だ。一夏も俺達と同じ理由で此処に来てるんだろ?」

 

「まぁな。だけど……セシリアも料理するって言ってるんだが、大丈夫か? 前に和哉がセシリアに料理指導してたけど、今はどうなんだ?」

 

「料理指導したのは一度っきりだから、ちゃんと改善してるかどうかは全然分からん」

 

「そ、そうか……」

 

 以前、セシリアが初めて作った料理は最悪だったな。余りにも不味かったから、本人の前で『不味い』と言ってしまうほどに。

 

 その後に本人にも味見をさせて不味いと理解してくれたので、俺が一から料理指導したのを今でもはっきりと覚えているよ。しかし、今はどうなっているのかは本当に分からない。

 

 あの時は俺が見てたから良かったが、恐らく今回も誰かが見てなければ恐ろしい料理となるだろうな。

 

「和哉、良かったら俺達と一緒に夕飯を食べないか? 男のお前がいてくれたら心強いし」

 

「で、本音は?」

 

「もう一度セシリアの料理を見て欲しいから」

 

「……はぁっ」

 

 素直に言ってくれる一夏に、俺は思わず溜息が出てしまった。別に俺がいなくても、他の誰かが見ればいいと思うんだが。

 

 取り敢えず本音に確認してみると、一夏達と一緒に夕飯を食べる事を承諾してくれた。どうやら久しぶりに会った箒達と一緒に話したいようだ。当然、箒達も俺達の参加に何の文句もなかった。セシリアの料理監視をすると聞いた途端、寧ろ参加して欲しいと懇願されたし。

 

 って事で、急遽俺と本音が一夏達と加わる事になったので、カレー作りの為の材料購入は当然中止。夕飯のメインは箒達がやるから、俺はデザート担当としてアップルパイを作る事にした。それを聞いた本音は勿論、箒達も嬉しそうに喜んでいる。

 

「箒、ちょっとこっちへ」

 

「な、何だ?」

 

 一夏達から少し離れた俺は、密かに箒を近くに呼び寄せた。

 

「この前の夏祭りはどうだった? ちゃんと一夏に告れたか?」

 

「あ、ああ~。それなんだが……」

 

 俺の問いに箒が言い辛そうな感じで、すぐに教えてくれなかった。

 

 この様子から察して……恐らく失敗したんだろうな。そうでなければ、今頃はこうして鈴達が一夏にアピールとかしてないし。

 

「お前って奴は……はぁっ。ったく、アレだけ言ったのに………このヘタレ」

 

「だ、誰がヘタレだ! そ、それに私は、ちゃんと告白……したんだぞ」

 

「どうせ告白した際に花火の音とかで、かき消されたんだろ。違うか?」

 

「……は、はい」

 

 俺が適当に言ってみると、物の見事に当たってしまった。

 

 箒に限った話じゃないんだが、どうして一夏ラヴァーズは肝心な場面を自ら一夏と付き合う機会を逃してしまうんだろうか。人が折角告白のチャンスを作ってるって言うのに……!

 

 普段から一夏に対してズケズケと言うくせに、恋愛事となると臆病になるんだよな。ちったぁ勇気を振り絞って進んでくれよ。

 

「あ、そうだ和哉。黒閃はどうしたんだ?」

 

「ん? ああ、アイツは――」

 

 急にこっちを振り向いた一夏が、俺の相棒について尋ねてきた。一夏だけじゃなく、箒達も気になっていたようだ。

 

 俺はアップルパイの材料を揃えながら、家で本音に話した内容をそのまま話した。

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって織斑邸のキッチン。そこでは各々が料理を作ろうと奮闘している。

 

 料理の内容は箒達から聞いていた。箒は『カレイの煮付け』、鈴は『肉じゃが』、セシリアは『ハッシュドビーフ』、シャルロットは『鳥の唐揚げ』、ラウラは……何故か『おでん』だった。

 

 取り敢えず俺が一番に危惧しているのは――

 

「セシリア、ちゃんと分量通りに入れろ」

 

「で、ですが、写真と色が違って、まだ赤色じゃありませんわ」

 

「本に書いてある通りにやればちゃんと出来る……コラ、ケチャップを大量に入れようとするな!」

 

 セシリアが作り方を無視しての調理をやっていた。それを見た俺が即座に阻止してるので、今のところは問題無く進んでいる。

 

「今日は和哉が参加してくれて、本当に助かった……」

 

「確かにな。私たちがいくら言っても、セシリアは聞く耳持たないからな」

 

「今回は和哉に感謝しないとね」

 

「うん。僕達としても本当に助かるよ」

 

 一夏、箒、鈴、シャルロットは揃って俺に感謝の念を送っていた。ラウラは気にせず料理に専念してるが。

 

「かずー、ちょっと良い~?」

 

「ん? どうした、本音」

 

 同じくキッチンにいる本音が俺を呼んできた。セシリアの調理は一通り終わったので、後は煮込むだけだから問題ないと思った俺は、すぐに本音のもとへと向かう。

 

 本音には俺と一緒にアップルパイを作っている。今はアップルパイに必要なアップルフィリングを任せていた。本音はセシリアと違って、ちゃんと言われた通りの事をやっているから大丈夫だ。それでも少し不安だが。

 

「フィリングが出来たけど、どうすれば良い~?」

 

「上出来だ。初めてなのに凄いな」

 

「これくらいはお手の物だよ~」

 

「そうかい。じゃあ次は……」

 

 出来たアップルフィリングを見た俺は、既に作り終えたパイシートとカスタードクリームを用意して最後の段階に移ろうとする。

 

 いつもは一人でアップルパイを作ってるが、本音と一緒に作るのは初めてだな。

 

「こうしてかずーと一緒に作ってると嬉しいな~」

 

「そうか? 良かったら、また今度作ってみるか?」

 

「それも良いかもね~。夫婦みたいな感じがするし~♪」

 

「何言ってるんだか」

 

 変な事を言ってくる本音に、俺は呆れながら突っ込む。

 

「そう言う台詞は友人の俺じゃなく、好きな男に言ってくれ」

 

「え~、私はかずーの事が大好きだよ~」

 

「そうかい。じゃあもし俺がこの先ずっと独り身だったら、俺の妻になってくれるか?」

 

「良いよ~。でも私としては今でも良いんだけどな~」

 

「学生で結婚出来るわけないだろうが。いくら冗談だからって、悪乗りし過ぎだ」

 

 ったく。冗談に乗ってくれるのは嬉しいが、大袈裟な事を言い過ぎだろうが。

 

 そう思ってると――

 

『ゴホンゴホンッ!』

 

「「ん?」」

 

 突然、一夏達が席をした事で俺と本音はすぐに振り向く。

 

「どした、一夏? 急に咳き込んで」

 

「おりむ~、風邪でもひいた~?」

 

「ふ、二人とも……料理中に、そういう会話はどうかと……」

 

「「?」」

 

 一夏の言っている意味が分からない俺と本音は揃って首を傾げる。

 

「何故だろうか……急にキッチンが暑くなったような気が……」

 

「アンタ達ねぇ、こんな所で堂々とイチャ付いてんじゃないわよ……!」

 

「お二人とも、その行為は私達に対する当てつけのつもりですの?」

 

「僕たちの前で見せ付けるの止めてくれるかな? もうイライラしてくるんだけど」

 

「師匠に布仏、何故か分からんが殺意が湧いてきたぞ」

 

「「???」」

 

 料理中である一夏ラヴァーズの面々も訳の分からない事を言ってくるので、俺と本音は更に不可解な表情をする。

 

 そんなこんなで、俺たち全員それぞれの料理が完成し、楽しい夕飯の時間となった。

 

 もうついでに――

 

「そうだ和哉、良かったら今日俺の家に泊まっていかないか? 千冬姉が今日帰ってこないって言うからさ。着替えは置いてあるぞ」

 

『和哉だけずるい!』

 

 夕飯を食べ終えた後、一夏が俺に泊まりの誘いをした事に、本音を除く女性陣から嫉妬されてしまった。

 

 いくら何でも、男の俺に嫉妬するのはどうかと思うんだが。




 お読みになっている方々には申し訳ありませんが、あと何話か更新したら完結させます。

 ほったらかし状態が続いていますので、区切りをつける為に終わらせようかと。



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