インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~ 作:さすらいの旅人
翌日の朝。
俺はいつも通りの時間に起きて朝の筋トレをしていたのだが……。
「はあっ! やあっ! 織斑先生、何か今日はいつもより拳のキレが増してるような気がするんですけど?」
「ふっ。昨日私を驚かせた褒美だと思え」
終わって早々ジャージ姿の千冬さんがやって来て、俺と組み手をしていた。
俺と千冬さんは話しながらも拳と脚を使って激しい攻防を繰り広げながらも会話をしている。まだお互いそれほど本気を出していないから、この程度の会話が出来る……って危なっ! 千冬さんの回し蹴りをモロに喰らったらやばかったな。
「つまり多少の実力を見せていると? はっ!」
「まぁそんなところだ。ふっ!」
おおう。俺の右の正拳突きを簡単に避けられたたよ。やはりこの程度の攻撃じゃ当たらないな。
「神代、どうせなら昨日オルコットにやった技を使え。お前がこの先慢心しないように、私が歯止めを掛けておこう」
「別に慢心なんてしていませんが……」
とは言え、千冬さん相手にはそれなりの技を使わなければ当てる事が出来ないのは事実だ。ここはいっそ敢えて挑戦してみるか。その前に千冬さんから距離を取らないと。
「何故そんなに離れる? あれは懐に入らないと使えないんじゃないのか?」
「別にあの技は必ず近づかなければ打てないやつじゃありませんよ。これが本来の『砕牙』です……(スッ)」
「ほう……」
俺は腰を少し落とし両膝を曲げ、右手の拳を強く握りながら引き手を取り、左手は開きながら真っ直ぐ千冬さんの方へと向ける。
「ん? その構えは若干剣術に似ている気がするな……」
「よく気付きましたね」
千冬さんの言うとおり、この『砕牙』は本来剣術で使う物だ。
『砕牙』の由来は、幕末時代に活躍した新撰組副長である土方歳三の『片手平突き』を拳に応用した物である。考案した師匠曰く、『別に刀を使わずとも拳でも充分に出来るからのう』と言って『砕牙』を編み出したのだ。俺は最初違和感があったが、師匠に教えられている内に完全に無くなっていた。師匠の言うとおり充分活用出来ていたから。
「まぁ何にせよ、早く打って来るが良い」
そう言って千冬さんが防御の構えを取ることに、俺は少し疑問を抱く。
「避けようとは考えないんですか?」
「生徒の正面からの攻撃を受け止めるのが教師の役目だからな」
「そうですか……なら行きますよ!」
「来い!」
俺がジリジリと間合いを詰めているが、千冬さんは一切動こうとしない。あれは本気で受け止める気みたいだな。そう考えながらも俺は全力で打とうと右手に力を込める。
「………………………」
「………………………」
互いに無言となって動かない俺と千冬さんだが……。
「はあっ!!」
ダンッ!!
俺は動き出して突進した。
「宮本流奥義『砕牙』!!」
そう言って俺は突進しながら上半身を捻って右拳を繰り出すと……。
「ふんっ!」
ダァァァァァン!!!
千冬さんは両手を使って受け止めた。
「なるほどな。確かにオルコットが気絶する筈だ。もし生身で受けたら重症どころじゃすまないな」
「………これを平然と受け止める織斑先生も流石ですね」
「ひよっこの技を受け止めるなど造作も無い……と言いたいところだが、私も少々危なかった。もし片手で受け止めたら、骨に罅が入っていたかもしれないからな」
「それはそれは。織斑先生からそんな言葉を聞けるとは予想外でした……」
千冬さんに危惧の念を抱かせるとは驚いたな。
「だがこの程度の技で私を倒すのは百年早い」
「でしょうね」
俺の『砕牙』の威力は師匠と比べたら、まだ半分以下だからな。それで千冬さんを倒せるなんて微塵も思っちゃいない。俺もまだまだ精進しなければ。
「では小手調べはここまでにして、次は本気でいきますか?」
「そうしたいところだが、あいにく時間だ」
「もうですか。残念です」
名残惜しそうに言う千冬さんに俺は拳を引っ込める。
「ではまた時間があったらお願いします」
「そうしよう。ではまた……」
千冬さんが寮に戻ろうとしていくのを見た俺は修行道具を片付けていると……。
「おっと。私とした事が大事な事を訊き忘れていた。お前と織斑のどっちがクラス代表をやるんだ?」
「ああ、そう言えば」
思い出したかのようにこっちを振り向いて訊いてくる千冬さんに、俺も思い出した。
「まだ話し合ってはいませんけど、一夏にやってもらおうと思っています」
「何故だ? 私としてはお前が代表になった方が良いと思うが」
「俺が代表になったら、クラスメイト達が反発するのが目に見えてますし」
「そんなの気にする必要は無いだろう。お前がその気になればすぐに黙らせる事ができる筈だ。強い者が上に立つのが至極当然だと、私はそう思っているが?」
根っからの実力主義である千冬さんならではの言い分だな。だがそれでも俺は断る。
「確かに織斑先生の言うとおりかもしれませんね。ですが、どの道俺は代表になるのを辞退します。勿論一夏にクラス代表をさせる理由はありますが」
「………一応聞こう」
理由があると知った千冬さんは間がありながらも聞こうとする。
「一夏は俺と違って統率力がある上に人を惹き付ける魅力があります。織斑先生もご存知ですよね?」
「………そうだな」
「アイツには実戦訓練を学んで欲しいんです。この学園は主にクラス代表が出る大会がありますから丁度良いかと」
「それと織斑の何の関係があると言うんだ?」
「オルコットと試合して気付いたんですが、一夏は訓練させるより実戦に近い方でやらせたら、前とは比べ物にならない位に成長してました。ですから一夏を今後更に強くさせる為には、クラス代表になってより多くの実戦訓練を積んで欲しいと思っています。織斑先生としても、それが一夏の為になると分かっているのでは?」
「……………………」
俺が理由を言い切ると千冬さんは無言だった。そうしているって事はやはり千冬さん自身もそう考えていたに違いない。未熟な一夏を一刻も早く強くなる為には、それしか無いのだから。
そして少し待っていると……。
「分かった。そう言う理由ならば、私の方から山田先生に織斑を代表にするよう言っておこう」
織斑先生はそう決断した。何も指摘しないのは反対する理由が無いと言ったところか。
「随分アッサリと認めてくれましたね。てっきり何か言うと思っていましたが」
「お前の言うとおり、織斑には強くなってもらわなければいけないからな。さっさとアイツが一人前にならないと、この先何が起こるか分からん」
「そうですか」
と言ってる千冬さんだが、本当は大事な弟の一夏を守りたいけど、自分に何か遭っても一人でやって欲しいと言う姉からの切実な願いがあるんだろうな。本当に素直じゃないよ、この人は………あ、やば。
「…………神代、私は今貴様の顔を思いっきり殴りたいんだが」
「アハハハハ……すいませんでした」
心を読んだ千冬さんに俺は謝った。
その後に俺は修行道具が入ってる鞄を背負い、それを見た織斑先生は何処かへと去っていくのを見て……。
「実は理由がもう一つあるんですよね~。一夏がクラス代表になれば織斑先生が適当な理由で自分の部屋に連れて、学園の中で姉弟水入らずの二人っきりのイチャイチャ時間を作れます。ブラコンの織斑先生にとってはさぞかし嬉しい展開に……あ、何か急に殺気を感じてきたからさっさと逃げようっと」
俺が独り言を言ってると、途中から物凄い殺気を感じたので素早く退避した。
そして気配を完全に殺して隠れていると……
『ちっ! もういないか。逃げ足の速い奴だ』
予想通り、千冬さんが戻ってきていた。あの人って勘が鋭いだけじゃなく、耳も良いんだな。
◇
「ちょっとよろしいですか?」
「ん? 誰かと思えばオルコットじゃないか」
千冬さんから逃げて寮に戻り、部屋に戻ろうとしていると制服姿のオルコットと会った。
「何か用か? 話だったら出来れば後にして欲しいんだが……」
「すぐに済みます。先ずはこれだけを言わせて下さい、和哉さん」
一体何を言うのやら………ん? 今オルコットが俺を名前で呼んだ?
「和哉さん、今まであなたに無礼な態度をとって申し訳ありませんでした」
突然オルコットが俺に頭を下げて謝って……ちょっと待て! コイツが俺に頭を下げただと!?
「あ、あの、オルコットさん?」
「そう簡単に許してくれるとは思えませんが……」
「い、いやいや。俺だってアンタに色々と言ったし……」
罵倒したり挑発したりとな。
「ですが事の発端はわたくしですわ。わたくしがあのような事をしなければ……」
「そ、そうか。………って! 分かったからもう謝らないでくれ! 何かアンタに謝られているとコッチが申し訳ない気分になる!」
ってかプライドの高いオルコットが、俺にあっさりと頭を下げる行為をする自体あり得ないんだから!
「ではもう一つ。これが一番言いたかった事ですが」
「まだあるんかい……」
まぁ謝る以外なら聞くよ。
「和哉さん。昨日は負けましたが、次に会う時は更に腕を磨いてあなたを倒します! セシリア・オルコットの名にかけて!」
「………ほう?」
オルコットは意を決したかのような顔になって宣言すると、俺は急に笑みを浮かべた。
「それはつまり、俺に対する挑戦状と受け取って良いのかな?」
「あなたが承諾して下さればの話ですが……」
「へぇ………その前に一つ聞きたい。どうして俺にそんな事をするんだ?」
一応聞いておかなければいけないからな。あのオルコットが昨日とは全然違って、俺をライバルみたいな目で見てるし。
「あなたとの戦いで色々教えられました。自分がどれだけ未熟で、どれだけ思い上がっていたのかを」
「…………………」
「ですからわたくしは今掲げているイギリス代表になる目標を捨て、あなたを倒すことだけに専念します。そうしなければわたくしは次のステップに進むことができませんので」
「つまりアンタは俺を踏み台にするってか?」
「そう受け取ってもらって構いません」
俺の意地悪な問いにオルコットは迷いなく答えている。これは本気で俺を倒そうとしているようだな。
「あなたが気分を害したのでしたら……」
「別に謝る必要はない。良いじゃないか」
「え?」
謝ろうとするオルコットに俺は即座に止めた。寧ろ大歓迎だからな。
「俺はアンタみたいな対抗心がある奴は大好きだ。張り合う相手がいてくれた方が俺も強くなることが出来るからな」
「………それはつまり、わたくしからの挑戦を受けると思っていいのですか?」
「勿論だ。俺はいつでも受けて立つぞ。ただし再び俺と戦うときは、俺も昨日以上に強くなってるから覚悟しとけよ?」
そう言って俺は手を前に出すと……。
「言っておきますけど、わたくしも更に強くなっておりますので。それと和哉さん。わたくしのことはセシリアと呼んでください」
「ああ、分かったよ。セシリア」
オルコット……セシリアは俺の手を握って握手を交わした。
「ついでと言っちゃ何だが、一夏にも謝っておけよ」
「い、一夏さんにですか!?」
何だ? 一夏の事を言ったらオルコットが急に顔を赤らめたな。ってか一夏さんって。
オルコットの様子がおかしい事に気付きながらも握手を止める。
「セシリア、アンタもしかして一夏の事が………」
「わたくし急に部屋に戻らないといけませんので、これにて失礼しますわ!」
そう言ってセシリアは去って行った。
「やれやれ……」
どうやらこれはマジみたいだ。セシリアがいつの間にか一夏の事を好きになっちゃうとは。本当に一夏は女を落とす事に関しては天下一だ。その分アイツ自体が鈍感だけど。
「こりゃ箒もうかうかしてられないな」
◇
「で、昨日は一夏の練習相手をしてあげたって事か?」
「…………そうだ」
朝の教室にて箒が不機嫌そうに窓を向いていたので、俺が声を掛けて昨日の事を聞いた。
何でも一夏が剣道の練習に付き合ってくれと頼まれたらしく、箒は了承して練習相手になったようだ。
(でもそれだけでこんなに不機嫌じゃないんだろうな)
あくまで俺の予想だが、恐らく一夏は主語を抜かして『付き合ってくれ』と言ったかもしれない。それで箒は思わず告白と勘違いして、その後は見事に夢を打ち砕かれたってところかな。
まぁそれは置いといてだ。俺が朝飯を食ってる時、一夏が『特訓する時はいつでも言ってくれ』とやる気満々に言ってきたから、アイツもセシリアと同様に変わったみたいだな。箒には悪いが、俺にはとても好都合な展開だ。張り合う相手が更に増えるのは俺として大変好ましいからな。
「取り敢えずだ箒、俺から一つ言える事は………早く一夏を捕まえとかないと横から掻っ攫われるよ」
「! ま、待て和哉! それはどう言う意味――」
箒が俺に問い質そうとするが、山田先生と織斑先生が来たので中断せざるを得なかった。
そして俺は席に座ると、朝の
「では、一年一組代表は織斑一夏くんに決定です。あ、一繋がりでいい感じですね!」
山田先生が嬉々として言うと、クラスの女子達も大いに盛り上がっていた。そして指名された一夏は暗い顔をしている。
「先生、質問です」
一夏が質問するために挙手をする。基本だな。
「はい、織斑くん」
「どうして俺はいつの間にかクラス代表になっているんでしょうか? 和哉が勝ったとは言え、俺は負けたも同然ですし」
「それは――」
「それは俺が辞退して一夏を指名したからだ」
「な、何だと!?」
山田先生が言う前に俺が立ち上がって言うと一夏が驚愕した。そりゃ驚くよな。一夏とは事前に話しを通していないし。
「ちょっと待て和哉! お前何勝手に決めてるんだ!? 俺は承諾してないぞ!」
「お前と話し合ったところで、お互いに譲り合うのが目に見えてるからな。だからここは一夏になってもらおうかと」
「勝手に決めるな! お前に何の権利があって……!」
「権利は無いが、一夏には責任がある。俺に大見得を切っといて無様に負けて、俺が尻拭いをしたんだからな」
「ぐっ!」
先程まで俺に抗議していた一夏だったが、昨日の試合について引っ張り出すと言い返せなくなった。甘いな一夏。ちゃんとお前に対する反撃方法も考えているんだよ。
「だから一夏には責任を取って貰う為に、代表になってもらおうと思ったって訳だ。Do you understand?」
「……………………はぁっ」
溜息を吐く一夏はがっくしと首を垂らす。
「ま、俺よりお前の方が適任なのは確かだ。女子達も俺より一夏が代表の方が良いだろう?」
そう言いながら俺は女子達の方へ顔を向ける。
「そ、それはまあ確かに……」
「織斑くんなら私たちが反対する理由は無いし……」
「私たちは貴重な体験を積めるし、他のクラスの子に情報が売れる。確かに一粒で二度おいしいね、織斑くんは」
「コラコラ。商売にしたり、クラスメイトを売るんじゃない」
一人の女子の台詞に思わず突っ込む俺。いくらなんでもソレはダメだからな。
「あ~もう! こうなったらやってやる! その代わりに和哉! 俺が代表になったからにはお前を扱き使ってやるからな!」
「どうぞご自由に。雑用やISの訓練をしたい時にはいつでも命じてください」
「くっ! この程度じゃダメか!」
ハッハッハッハ。お前の考えてることなんてお見通しだっての。
「そ、それでですわね一夏さん!」
突然セシリアが立ち上がって一夏に言って来た。早速アプローチを仕掛けてきたな。あ、箒がセシリアを睨んでる。
「い、一夏さん?」
突然の呼び方に一夏は戸惑っていたが、セシリアはそのまま続ける。
「そ、その、昨日の戦いでは和哉さんに色々と言われ、わたくしもかなり反省しまして」
おいおいセシリアさんよ、俺を引き合いに出さないでくれ。俺はアンタ等の恋愛に関して口を出したくないんだから。
「お詫びとしまして、一夏さんにはわたくしがIS操縦を教えますわ。そうすればみるみるうちに成長を遂げ――」
バンッ!
セシリアが言ってる最中に、箒が机を叩くとすぐに立ち上がった。
「あいにくだが、一夏の教官は足りている。私が、直接頼まれたからな」
「(か…和哉? これは一体?)」
「(俺に訊くな)」
小声で訊いてくる一夏にバッサリ切り捨てるのを余所に、『私が』を特別強調した箒は物凄く殺気立っている瞳でセシリアを睨んでいる。
しかしセシリアは箒の睨みを物ともせずに正面から受け止めて、視線を返している。それも誇らしげに。
「あら、あなたはISランクCの篠ノ之さん。Aのわたくしに何かご用かしら?」
「ら、ランクは関係ない! 頼まれたのは私だ。い、一夏がどうしてもと懇願するからだ」
「(って箒は言ってるけど、どうなんだ一夏?)」
「(いや、俺はどうしてもと言った覚えは無い)」
ま、セシリアに一夏を取られたくないと箒の対抗心なのは分かっているけど。
「え、箒ってランクCなのか……?」
「だ、だからランクは関係ないと言っている!」
一夏の突っ込みに箒は怒鳴った。ちなみに一夏はBで、俺はセシリアと同じくAだ。けどそのランクは訓練機で出した最初の格付けだから、あんまり意味が無いような気がするんだが。
「座れ、馬鹿ども」
すたすたと歩いて行きセシリア、箒の頭をバシンと叩いた千冬さんが低い声で告げる。
相変わらず容赦の無い攻撃だなと思っていると……。
バシンッ!
「その得意げな顔はなんだ。やめろ」
いつの間にか一夏を出席簿で叩く千冬さん。一夏が得意気な顔していたって事は下らない駄洒落でも考えていたんだろうな。
「お前たちのランクなどゴミだ。私からしたらどれも平等にひよっこだ。まだ殻も破れていない段階で優劣を付けようとするな」
千冬さんの台詞にセシリアや箒は一切反論しなかった。特にセシリアは何か言いたそうな顔をしていたが、相手が相手なので逆らわずに言葉を飲み込んだ。
「代表候補生でも一から勉強してもらうと前に言っただろう。くだらん揉め事は十代の特権だが、あいにく今は私の管轄時間だ。自重しろ」
規則に厳しい千冬さんならではの発言だな。
あれ? 千冬さんがいきなり一夏の顔を見て……
バシン!
「……お前、今何か無礼なことを考えていただろう」
「そんなことはまったくありません」
「ほう」
バシンバシン!
「すみませんでした」
「わかればいい」
どうやら一夏が千冬さんに対してまた何か失礼な事を考えていたみたいだな。
偶には飴を与えたらどうですか千冬さん? 本当は一夏の事が好きで好きでたまらないくせ……に!
パシッ!
「……お前も何か無礼なことを考えていただろう」
「めっそうもありません」
あ…危ねぇ~。あと少し遅かったら白刃取りが出来なかった。
「ふむ」
グググググググググググ!!!!
「お…織斑先生……いつまでもこんな事をしている場合ではないのでは……?」
「……………………ちっ!」
舌打ちしながら出席簿を引っ込めて教壇に戻る千冬さん。そんなに俺の頭が叩けないことが悔しいんですか?
「クラス代表は織斑一夏。異存はないな」
はーいと(一夏を除く)クラス全員一丸となって返事をした。うん、団結は良い事だな。
「(和哉、お前やっぱり後で覚えてろ)」
「(ははは~。いつでも待ってるよ~)」
◇
「会長。申し訳ありませんが、やはり神代和哉に会いに行くのはもう少し待ってからにして下さい」
「ちょっと~! 折角今日は会いに行こうって決めてたのに急にストップ掛けないでよ!」
とある部屋にて、会長と呼ばれている女性が引き止められていた。
「彼に対する苦情が余りにも多すぎますから、ここは会長も手伝ってもらおうかと」
「だ…だから、それに関しては問題無いって」
「苦情以外に、その他の書類も私一人だけでやれと?」
「うっ……」
女性が指を差すと、テーブルの上には和哉の抗議文以外の書類がドッサリと置いてあった。
「会長、まさかこの書類を私に丸投げする為、神代和哉に会いに行こうと考えていませんでしたか?」
「あ…あははは……そんなわけないよ」
「………………………………」
「…………ごめんなさい」
会長は女性の睨みに根負けして素直に謝る。
これにより会長が神代和哉に会いに行くのは、四月の下旬まで先延ばしとなるのであった。