インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~   作:さすらいの旅人

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第19話

「さて一夏、準備は良いか?」

 

「おう、いつでも良いぜ……けどさぁ」

 

 放課後の第三アリーナ。今日は俺が一夏とISの訓練をする予定だが、一夏が俺の背後にいる人物を見て疑問を抱いている。

 

「な、なんだその顔は……おかしいか?」

 

「いや、その、おかしいっていうか――」

 

「篠ノ之さん!? ど、どうしてここにいますの!? 今日はわたくしと一夏さんが和哉さんと訓練する日だと言うのに!」

 

 俺の背後にいる箒にセシリアは怒鳴っている。しかも箒は俺と同じくIS『打鉄』を装着し展開している。

 

 因みに打鉄は純国産ISとして定評のある第二世代の量産型。安定した性能を誇るガード型だから初心者にも扱いやすい。その事から多くの企業並びに国家、党IS学園においても訓練機として一般的に使われている。とまあ、教科書に書かれていた打鉄についての内容だ。

 

「俺が連れて来た。機体の使用許可が下りたら構わないって条件付きでな。それに箒がどうしても参加したいって言って来るし」

 

「か、和哉! 私はそこまで言った覚えは……!」 

 

「ほう? 嫌なら今からトレーニングルームへ行って一人で訓練してもらうが?」

 

「そ、それは……すまん」

 

 俺の宣告に箒は大人しくなる。セシリアの言うとおり箒は参加する予定では無かったのだが、『お前の言うとおりにするから私もIS操縦の練習をさせてくれ』と俺に懇願してきたのだ。普段はちゃんと一人でも訓練している箒だが、鈴の登場によって焦りを感じたんだろう。もし箒を参加させなかったら、俺が絶対に一夏争奪戦の巻き添えを喰らうのが容易に想像が付くから許可したのだ。人の恋愛の巻き添えなんか御免だからな。

 

「くっ……。和哉さんは別として、まさかこんなにあっさりと訓練機の使用許可が下りるだなんて」

 

 俺が箒に出した条件をあっさりクリアした事に悔しそうな顔をしているセシリア。俺も箒が訓練機を使える事を知って予想外だったからな。

 

「まぁそんな事はどうでも良いから始めるとしよう。先ずは箒。お前は刀を使って素振りを百回やった後に飛行訓練をやってもらう」

 

「なっ! ま、待て和哉! 私も一緒に……!」

 

 自分も特訓に付き合うと言って来る箒だったが……。

 

「箒、お前は俺の言うとおりにすると言った筈だぞ? ましてやISに乗ったばかりの今の箒では、まだ動きに慣れていないからな。それを解消する為には先ず素振りと飛行をしてISの操縦に慣れる事だ。焦る気持ちは分かるが、今はちゃんと練習に励む事だ。良いな?」

 

「…………………分かった」

 

 俺が少し声を低くしてかなり不満そうに言い放つと悔しそうな顔をしながらも指示通りに動き、俺達から離れて刀を展開し素振りを始めた。

 

「なぁ和哉、いくらなんでもアレは言い過ぎじゃないか?」

 

「事実を言ったまでだ。いくらシールドエネルギーがあるとは言え、まだISの操縦に慣れていないのにも拘らず、下手に俺達の訓練に付き合って怪我したら元も子もない。初めてやるからには先ず何事も練習が最優先だ」

 

「和哉さんの言うとおりですわ、一夏さん。ISと言うのはそう簡単に動かせる物ではありません。今の篠ノ之さんに先ずは基礎からやっていただきませんと。それは一夏さんにもお分かりだと思いますが?」

 

「………た、確かにそうだが」

 

 俺の説明にセシリアも頷きながら言葉を繋げた。その事に一夏は納得せざるをえない。

 

「取り敢えず今は箒の事は気にするな。今は自分の事に集中しろ」

 

「あ、ああ……。で、今日は何をするんだ?」

 

「先ず最初は……」

 

 そう言いながら俺は片足を一歩前に出して……。

 

 

グルンッ!

 

 

 一回りすると地面には俺を囲んだ円が出来た。

 

「俺をこの円の外から一歩動かす事だ」

 

「はあ!?」

 

「ええっ!?」

 

 今回の俺の特訓内容に一夏とセシリアが驚いた声を出す。

 

「か、和哉。お前いくらなんでも俺を舐めてないか? そんな狭い円から和哉を追い出す事なんていくら俺でも……」

 

「ならやってみろ。言っておくが零落白夜は無しだからな。セシリア、お前は何もせずに見てろよ。それはそれで参考になるからな」

 

「は、はぁ……分かりました」

 

 取り敢えず見ると言う感じのセシリア。それを確認した俺は一夏に向かって言い放つ。

 

「一夏、今のお前でどの位の時間を使って俺をこの円から追い出すことが出来る?」

 

「そんなの……すぐに終わらせてやるよ!」

 

 そう言って一夏は雪片弐型を持って構え、すぐ俺に向かって突進をして来た。

 

「うおおおお~~!」

 

 一夏が凄い速さで突進しながら片手突きを仕掛けるが……

 

「速いな。だが……よっと」

 

「なっ!」

 

 俺は軸足の反対の足を半歩前に出して半回転をやり、一夏の攻撃を簡単に避けた。

 

「っておい! こ、このままじゃ……!」

 

 

ダァァァァンッ!!

 

 

「い、一夏っ!」

 

「一夏さんっ!」

 

 攻撃をかわされた事に驚く一夏だったが、そのまま突進したままアリーナの壁に激突する事となる。それを見た箒とセシリアはすぐに一夏の方を見る。

 

「い、いてててて……こ、これは正直痛いな……けど何で避けられたんだ?」

 

「あんな単純な突進攻撃を避けるなんて造作も無いぞ。ほれ、早く俺を動かしてみろ」

 

「くっ! い、言われなくてもっ!」

 

 壁に激突して痛みに悶えていた一夏だったが、俺からのオープン・チャネルを聞いて再び俺目掛けて突進し攻撃を仕掛けてきた。

 

「今度こそっ!」

 

 突きがダメなら今度は上段の斬撃を振りかぶって来た。

 

 だがしかし……。

 

「さっき言っただろうが。そんな単純な突進攻撃を避けるなんて造作も無いって。ほれ」

 

「なにっ!」

 

 俺は再びさっきと同じように、軸足の反対の足を半歩前に出して半回転しながら避ける。

 

「くっ! も、もう壁には……!」

 

 流石にまたアリーナの壁に激突したくなかったのか、一夏は急ブレーキして止まった。

 

「ほう。今度は当たらなかったみたいだな。だがそんな調子だと俺をこの円から追い出すのは無理みたいだな」

 

「そんなの最後までやってみなきゃ分からないじゃないか!」

 

「あ、あの和哉さん。一夏さんの攻撃をどうやって避けたんですの? ちょっと速くて見えなかったんですが……」

 

「ん?」

 

 一夏と話していると、見ていたセシリアが不可解な顔をしながら聞いてきた。

 

「簡単な事だ。一夏が突進攻撃した際、俺がこう片足を半歩前に出して、こんな風に回って避けたんだ。分かったか?」

 

「え…ええ、まぁ……取り敢えずは」

 

 俺が一夏の攻撃を避けた動作を教えていると、セシリアは何とも微妙な顔をしてる。

 

「………和哉さん、あなた本当にISに乗ったばかりなんですの? あんな素早い攻撃をあっさり避けるなんて、熟練のIS操縦者でも難しい筈なんですが……」

 

「武道を学んでいればこの程度は誰でも出来る。ってかIS操縦者って武道とかはやらないのか? やればそれなりに身に付いてISに応用出来ると言うのに」

 

「確かにありますが、ISの操縦がメインですからあまりやってませんわ」

 

「そうか………」

 

 セシリアの台詞に俺は内心落胆した。いくらISが強力だと言っても使うのは人間だと言うのに、己を鍛えなければ話にならない。セシリアの言う事が事実なら、IS操縦者は生身での格闘戦が大して出来ないと言う事になる。まぁ千冬さんみたいに武道をやっている人がいたから、全員が全員ではないだろう。

 

 ってか俺が今此処でそんな事を考えても仕方ないな。とにかく早く一夏にこの課題をクリアさせないと。

 

「まぁ今はそんな話しをしてる場合じゃないな。ほら、一夏。早く俺をこの円から動かせ」

 

「い、言われなくてもそうする!」

 

 俺の台詞に威勢よく言い放つ一夏。

 

「とは言え、今のお前では時間が掛かると思うから……セシリア、お前も一夏と一緒に混ざれ。ただし使う武器は近接戦用の武器だけだ」

 

「わ、わたくしもですか? ですがわたくしは遠距離専門で……」

 

「今回の特訓は近接戦用メインだ。それにセシリア。もしお前が遠距離兵器が使えなくなって、近接戦用武器だけで相手に勝つ事が出来るのか? あの時の俺みたいに懐に入られたら……」

 

「う………」

 

 俺の指摘にセシリアは言い返すことが出来なかった。セシリアは遠距離戦は強いが、接近戦は大して強くない。その為セシリアには俺が近接戦用の戦い方を教えているのだ。

 

「これは一夏の特訓でもあり、セシリアの苦手克服の為でもある。さあ二人とも、纏めて掛かって来い」

 

 俺がそう言うと一夏がやる気満々みたいな顔をして構える。

 

「くそぅ……もうこうなったら意地でもそこから動かしてやる! やるぞセシリア!」

 

「は、はい! ………一夏さんと二人でやる……これは案外良いかもしれませんわね」

 

「ん? セシリア、何か言ったか?」

 

「! い、いいえ! 何でもありませんわ!」

 

(俺は聞こえたけど)

 

 一夏の台詞にセシリアは妙に嬉しそうな顔になっている。一夏と二人でやれると言う事に内心喜んでいるんだろう。

 

(セシリアとは対照的に、箒は不機嫌だが)

 

 ふと箒の方を見てみると、不機嫌顔で素振りをしながら一夏とセシリアを睨んでいた。本当は割って入りたいところだが、そんな事をしたら俺に追い出されるのを分かっているから敢えて我慢しているんだろう。

 

(悪く思わないでくれよ箒。これは二人の特訓なんだからな)

 

 俺は箒に内心そう言うと、再び一夏とセシリアの方を見る。

 

「さあ一夏とセシリア! 掛かって来い!」

 

「言われなくても!」

 

「行きますわよ和哉さん!」

 

 俺が言ったと同時に、雪片弐型を構える一夏と近接戦用武器を持ったセシリアが俺に襲い掛かって来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

(くっ。今の私には見ているだけしかないのか……)

 

 箒は素振りをしながらも和哉達の方を見ていた。

 

 その先には……。

 

「もらったぜ和哉!」

 

「甘い」

 

 

ガキィィィィン!!!

 

 

「なっ! 刀を出すなんて聞いてないぞ!」

 

「刀を出さないと一言も言った覚えはない。ほら、この鍔迫り合いで俺を動かしてみろ」

 

「ぐぎぎぎぎ!!!」

 

 一夏が振りかぶった正面攻撃を、和哉が右手で刀を展開した瞬間に受け止めて鍔迫り合いをしていた。だが一夏は和哉を動かす事が出来ていなかった。

 

「隙ありですわ和哉さん!」

 

「ん?」

 

 セシリアが左側面からインターセプターを和哉目掛けて突き立てるが……。

 

 

ガシッ!

 

 

「はい残念」

 

「んなっ!?」

 

 和哉はセシリアがインターセプターを持っている手の手首を掴んで進行を止めた。

 

「ぐぐぐぐ!」

 

「セシリア、この場面では左じゃなく右から攻めるべきだったぞ……って聞いてないか」

 

「ってか和哉! 俺とセシリアの攻撃を受け止めたまま動かないなんて、どんだけ馬鹿力なんだよ!?」

 

「普段から鍛えてるから、力もそれなりに付いてるんだ」

 

「お前は化け物か何かか!?」

 

「失敬な。俺はまだ師匠の領域にまで入ってないっての。あ~らよっと」

 

 そう言って和哉はセシリアの手首を掴んでいる左手を振るうと……。

 

「きゃあっ!」

 

「どわっ!」

 

 セシリアと一夏は見事にぶつかって一緒に転倒した。

 

「いててて。大丈夫かセシリア……って!」

 

「い、一夏さん……」

 

 転ぶ態勢が悪かったのか、一夏はセシリアを押し倒す状態となっていた。その事にセシリアは顔を赤らめている。

 

(………何だアレは?)

 

 バッチリ見ていた箒は急に素振りを止めて、殺気を出しながら一夏達に近づき始めていた。

 

「わ、悪いセシリア!」

 

「だ、だめです一夏さん。今は特訓中ですのに……その……こう言う事は人のいない場所で……」

 

 即座に離れる一夏にセシリアは咎めているが、内心物凄く喜んでいた。

 

「ほ、本当に悪かった!」

 

「あのさぁお二人さん。申し訳ないけど早くコッチに集中し……げっ!」

 

 和哉が言ってる最中に、殺気を放っていた箒が一夏の背後にいた。

 

「一夏……貴様と言う奴は……」

 

「ほ、箒!?」

 

「人が真面目に素振りをしてる最中に公共の場でセシリアを押し倒すとはな……」

 

「ち、違う! あれは和哉にやられて……!」

 

 一夏が説明しようとしても箒は聞く耳持たずで……。

 

「問答……無用!」

 

「どわっ! ちょ…ちょっと待て箒!」

 

 即座に攻撃をするが、一夏は何とか避けた。だが箒はそのまま一夏に追撃を仕掛けている。

 

「おい箒! 勝手な真似は……って聞いてないし」

 

 和哉は止めようとしたが、今の箒は嫉妬全開になっているので簡単に止める事が出来ないと判断する。

 

「ったく。今回は俺の失敗だったな。あんな事になるならセシリアを遠くへ投げ飛ばすべきだった」

 

 そう思いながら和哉はセシリアの方を見ると……。

 

「ああ……わたくし一夏さんに押し倒されちゃいましたわ。これはもう一夏さんに責任を取っていただかなければ……」

 

 ピンクオーラ全開にして色々と考えているのであった。 

 

「………取り敢えずセシリアを放っておいて、今は箒を何とかしなければな。こら箒! 勝手な事をするなと言っただろうが!」

 

 和哉は刀を振りかぶりながら一夏を追いかけている箒を止める為に、急遽特訓を中止するのであった。

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