インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~   作:さすらいの旅人

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第21話

 一夏が鈴を怒らせて数週間経った五月。

 

「で、あれから鈴は未だに怒ってると?」

 

「ああ。廊下や学食で会って話し掛けて謝ろうにも、露骨に顔を背けられるし。いかにも『怒ってます』って言うオーラ全開で……」

 

「………はあっ。あの馬鹿は……」

 

 俺は一夏に鈴と仲直りしたかどうか訊いてみたが、一夏の返答を聞いて呆れ顔になっている。無論一夏の行動を無下にしている鈴にだ。

 

 アイツは自分の思い通りに行かないと癇癪を起こして手が付けられない状態になる。事の発端は自分だと言うのに、何もかも相手の所為にして自分は悪くないと主張してくる始末だ。我侭な子供より性質が悪すぎるから手に負えない。

 

「まぁ向こうがそんな状態なら今は放っておいて訓練に集中するとしよう。それに鈴の事だから、今度のクラス対抗戦(リーグマッチ)でお前をボコボコにしてやろうって思ってるだろうからな」

 

「……確かに鈴ならそう考えそうだ」

 

 俺の予想に一夏は冷や汗を掻いて想像しながら頷いている。幼馴染であるから鈴の考えは容易に想像出来るからな。

 

「しかし鈴は一夏の幼馴染のくせに、どうやら本当に一夏の事を理解しきれてなかったみたいだな……」

 

「ん? なんか言ったか和哉?」

 

「何でもない」

 

 俺の独り言に一夏が反応したがすぐにはぐらかす。

 

 鈴が一夏の事を理解しきれてないと言うのは前回に言ったとおり………鈴は一夏が超鈍感な唐変木であるのを全然理解してなかった。アイツが一夏の幼馴染だと豪語するなら、ストレートな告白をしなければ絶対に気付かないと分かっていた筈だ。鈴にとって精一杯の告白のつもりなんだろうが、俺から言わせれば詰めが甘すぎる。

 

「一夏、和哉、来週からいよいよクラス対抗戦が始まるぞ。アリーナは試合用の設定に調整されるから、実質特訓は今日で最後だな」

 

「ああ、そう言えばそうだったな。ま、取り敢えず今日もやるとしますか」

 

 箒がアリーナの事を言うと俺は思い出したかのように言う。

 

 放課後、かすかに空が橙色に染まり始めるのを眺めながら、今日も特訓する為に第三アリーナへと向かう。

 

 面子は俺、一夏、セシリア、そして箒。と言っても、箒にはまだ基礎的な事しかさせていない。だがアイツはそれなりの操縦が出来るようになったので、今日は俺達と一緒に訓練をやらせようと思う。

 

 そう言えば俺達が特訓してる時に、アリーナの客席ではギャラリーがたくさんいて満員状態だったな。主に一夏を見たいが為にだけど。挙句の果てにはギャラリーの二年生がアリーナの客席を『指定席』として売っていた事があった。当然それを知った千冬さんは首謀者達を制裁したのは言うまでも無い。そして首謀者達は三日間寮の部屋から出て来れなくなったらしい。自業自得だ。

 

「セシリアの助力もあって一夏のIS操縦はかなり様になってきたな。付き合ってくれてありがとな、セシリア」

 

「どういたしましてですわ。それに一夏さんの素質を考えればこのくらいはできて当然、できない方が不自然というものですわ」

 

 俺の礼にセシリアはさも当然のように言ってると……。

 

「だが和哉。中距離射撃型の戦闘法(メソッド)が役に立つのか? 第一、一夏のISには射撃装備がないと言うのに」

 

 未だ訓練に参加出来てない箒が、やや棘のある言葉で告げた。そんなに剥れるなよ箒。今回はちゃんと参加させるから。

 

 まぁ箒の言うとおり、一夏のIS・白式には射撃装備が一切無い。武器は雪片弐型のみ。

 

 本来、ISと言うのは機体ごとに専用装備を持っている。だが、その『初期装備(プリセット)』だけでは不十分なので、それを補う為に『後付装備(イコライザ)』と言う物がある。例えばセシリアのISだと初期装備はブルー・ティアーズで、後付装備はライフルと近接ナイフだ。

 

 そして、ISには後付装備のために『拡張領域(パススロット)』が設けられている。装備出来る量はISのスペックによるが、それでも最低二つは後付出来るようになっているのが一般的なISと言う事らしい。

 

 だが例外がある。一夏のISは一般的なISとは違って拡張領域がゼロだから、後付装備が出来ない。おまけに初期装備も書き換えられなく、結局のところ近接ブレード一本と言うのが今のところ一夏のISのスペックだ。後付装備が出来ない理由は恐らく、初期装備だけで拡張領域を全て使っているのだろう。

 

「確かに箒の言うとおりだが、覚えておいて損はない。射撃装備が無くても、戦い方を知っておけば対策を練る事が出来るからな」

 

「そうですわよ篠ノ之さん。一夏さんのISが近接戦しか出来ないとは言え、遠距離戦の戦い方も学ぶのは基本中の基本です。篠ノ之さんが言ってた剣術訓練ばかりさせては、あまりにも非効率的ですわ」

 

「な、何を言うか! 剣の道はすなわち見という言葉を知らぬのか。見とはすべての基本において――」

 

「和哉さん、今日はわたくしが昨日教えました無反動旋回(ゼロリアクト・ターン)のおさらいからはじめてもいいですか?」

 

「それは構わないが……」

 

「ええい、このっ――聞け、一夏! 和哉!」

 

「俺は聞いてるって!」

 

「同じく」

 

 セシリアに無視されたからと言って一夏と俺に怒鳴るなよ。

 

 箒って剣道をやってる割には心が未熟だなぁと思っていると、一夏は第三アリーナのAピットのドアセンサーに触れている。

 

 一夏の指紋・静脈認証によって開放許可が下りると、ドアはバシュッと音を立てて開く。

 

 そして俺達がピットに入ると……。

 

「待ってたわよ、一夏!」

 

 そこには鈴がいた。しかも腕組みをしてふふんと不敵な笑みを浮かべている。

 

「(おい一夏、どう言う事だ? お前から聞いた話だと鈴は怒っていたんだろ?)」

 

「(いや、俺も何がなんだかさっぱり分からん……昨日は確かに怒り心頭だったんだが)」

 

 小声で話しかけてくる俺に、一夏は全然分からないと答えてくる。じゃあアイツに一体何が……あ、俺と一夏の後ろで箒とセシリアが顔を顰めている気配がする。少し距離を置いたほうが良いな。

 

「貴様、どうやってここに――」

 

「ここは関係者以外立ち入り禁止ですわよ!」

 

 箒が言ってる最中セシリアによって中断される。セシリア、箒に最後まで言わせてやれよ。

 

 そして鈴は「はんっ」と挑発的な笑いと共に、自信満々に言い切る。

 

「あたしは関係者よ。一夏関係者。だから問題なしね」

 

「鈴、そう言う問題じゃ――」

 

 鈴の発言に俺が突っ込みを入れようとするが……。

 

「ほほう、どういう関係かじっくり聞きたいものだな」

 

「盗っ人猛々しいとはまさにこのことですわね!」

 

 うわぁ、箒だけじゃなくセシリアまで切れてるし。恋する乙女達は愛する人の事となるとすぐキレるんだな。

 

「……おかしなことを考えているだろう、一夏」

 

「いえ、なにも。人斬り包丁に対する警報を発令しただけです」

 

 こら一夏。箒相手にそんな事を考えてても口にしちゃダメだろうが。

 

「お、お前というやつはっ――!」

 

 箒が一夏を掴みかかろうとするが、鈴が間に入ってきた。

 

「今はあたしの出番。あたしが主役なの。脇役はすっこんでてよ」

 

「わ、脇やっ――!?」

 

「こら鈴。いくら何でも失礼にも程があるだろうが」

 

「オマケの和哉もすっこんでて」

 

「オマケって……」

 

 俺は脇役以下かよ。

 

「はいはい、話が進まないから後でね。……で、一夏。反省した?」

 

「へ? なにが?」

 

「だ、か、らっ! あたしを怒らせて申し訳なかったなーとか、仲直りしたいなーとか、あるでしょうが!」

 

 おいおい鈴。お前は話しかけてくる一夏を自分から避けといて、それは無いだろうが。

 

「いや、そう言われても……鈴が避けてたんじゃねえか」

 

「あんたねえ……じゃあなに、女の子が放っておいてって言ったら放っておくわけ!?」

 

「おう」

 

 放っておけって言われて話しかける奴は、全然空気を読んでいないとしか思えないんだが。

 

「なんか変か?」

 

「変かって……ああ、もうっ!」

 

 焦れたように声を荒げて、頭を掻いている鈴だったが……。

 

「謝りなさいよ!」

 

 今度は一夏に一方的な要求をして来た。呆れて物が言えないな。

 

「だから、なんでだよ! 約束覚えてただろうが!」

 

 鈴の要求に納得していない一夏は、なぜそうしなければいけないのかと言い返す。

 

「あっきれた。まだそんな寝言いってんの!? 約束の意味が違うのよ、意味が!」

 

 確かに意味が違うが、お前の遠回しのプロポーズが超鈍感の一夏に分かるわけ無いだろうが。幼馴染ならそれくらい理解しろっての。

 

「一夏、今くだらないこと考えてるでしょ!?」

 

 おい一夏、お前はこんな状況でまた変なことを考えてたのかよ。

 

「あったまきた。どうあっても謝らないっていう訳ね!?」

 

「だから、説明してくれりゃ謝るっつーの!」

 

「せ、説明したくないからこうして来てるんでしょうが!」

 

 俺は鈴の言い分につくづく呆れたので、いい加減に収拾をつけようと口を開く。

 

「一夏、あの時鈴がお前に言った約束についてだが……」

 

「!」

 

 俺の発言に鈴は物凄い反応してコッチを見てくるが無視。

 

「え? 和哉は分かったのか?」

 

「ああ。鈴がお前に言った約束の本当の意味は……」

 

「アンタは余計な事を言わなくていいから黙ってなさい!」

 

 一夏に教えようとする俺に鈴が遮りながら怒鳴ってきた。

 

「何で止めるんだよ、鈴。折角和哉が教えてくれるってのに」

 

「一夏が気付かなければ意味が無いのよ! 和哉! アンタ喋ったらどうなるか分かってるわよね!?」

 

「俺はただ未だに分かってない一夏に教えようとしただけだ。ってかそうすれば一夏の為になるだろうが」

 

「とにかくアンタは黙ってなさい! もし喋ったら……!」

 

 鈴がそう言いながら右腕を構えている。ISを部分展開させて俺を黙らせるって意思表示のつもりだろう。やはりお前もISが無ければ強気になれないバカ女の一人という事か。

 

「……………はぁっ。もう勝手にしろ」

 

「ふんっ。分かれば良いのよ」

 

 俺が降参したと勘違いしてる鈴は再び一夏の方に顔を向ける。

 

「じゃあこうしましょう一夏! 来週のクラス対抗戦(リーグマッチ)、そこで勝った方が負けた方に何でも一つ言うことを聞かせられるってことでいいわね!?」

 

「おう、いいぜ。俺が勝ったら説明してもらうからな」

 

 鈴の売り言葉に一夏の買い言葉。もう勝手にしてくれ。

 

「せ、説明は、その……」

 

 一夏を指したままのポーズでボッと鈴が赤くなる。何だよ鈴。説明するのが恐いのか? このヘタレが。

 

「……和哉、アンタ今凄く失礼な事を考えてたのでしょ?」

 

「気のせいだろ。と言うか、お前ちゃんと一夏にハッキリと説明出来るのか?」

 

「そ、それは……」

 

 俺を睨んでいた鈴が再び顔を赤らめる。

 

「何だ? やめるならやめてもいいぞ?」

 

「誰がやめるのよ! あんたこそ、あたしに謝る練習しておきなさいよ!」

 

 鈴の様子に一夏が親切心に言うと、鈴は即座に言い返してきた。

 

「なんでだよ、馬鹿」

 

「馬鹿とは何よ馬鹿とは! この朴念仁! 間抜け! アホ! 馬鹿はアンタよ!」

 

 鈴の罵倒に一夏が顔を顰めて……。

 

「うるさい、貧乳」

 

 ………ちょっと一夏、それは鈴の禁句じゃなかったか?

 

 

ドガァァンッ!!!

 

 

 一夏が禁句を言った直後に爆発音が鳴り、そして衝撃で部屋全体がかすかに揺れた。発生源はISを部分展開している鈴の右腕。

 

「おい鈴。怒ったとは言えISを展開するな。規則違反だぞ」 

 

「い、言ったわね……。言ってはならないことを、言ったわね!」

 

 俺の突っ込みに鈴は全く聞いていなかった。鈴の右腕に装甲化されているISアーマーがぴじじっと紫電が走ってる。

 

 あの様子だと本気でキレているみたいだな。

 

「い、いや、悪い。今のは俺が悪かった。すまん」

 

 流石に禁句を言った事を気付いて後悔した一夏が謝ろうとするが、鈴はそんな事お構いなしだった。

 

「今の『は』!? 今の『も』よ! いつだってアンタが悪いのよ!」

 

 無茶苦茶な理屈だな。自分で原因作っておいて、お前は何でもかんでも人のせいにするのかよ。中学の頃から全然代わってないんだな。何かアイツ、代表候補生になって今まで以上に増長してる気がする。

 

「ちょっとは手加減してあげようかと思ったけど、どうやら死にたいらしいわね……。いいわよ、希望通りにしてあげる。――全力で、叩きのめしてあげる」

 

 鈴は一夏に今まで見たことの無い鋭い視線を送ってからピットを出て行った。

 

 壁を見ると、直径三十センチほどのクレーターが出来ていた。特殊合金製の壁を簡単に凹ませるとは中々の威力だな。

 

「……パワータイプですわね。それも一夏さんと同じ、近接格闘型……」

 

「セシリア、悪いが無反動旋回(ゼロリアクト・ターン)のおさらいは無しにさせてもらう。鈴のISが近接格闘メインだと分かった以上、今日は一夏の近接戦をメインにした実戦訓練をやる」

 

「教えることが出来なくて残念ですが、どうやらその方がよろしいですわね」

 

 俺とセシリアの会話を余所に、一夏は物凄く後悔した顔となっている。何しろ鈴に胸の事は最大の禁句だからな。

 

「なぁ和哉。俺、どうすれば良いかな?」

 

「………取り敢えず禁句を言った事については謝っておけ」

 

「……そうするよ」

 

「さて、訓練を始める前に……」

 

 そう言って俺は鞄から携帯を取り出し……。

 

【To:織斑千冬  From:神代和哉

 

 中国代表候補生の凰が第三アリーナのピットで、IS展開をして壁を破壊した事を報告します】

 

「はい、送信っと」

 

 千冬さんに報告メールを送信した。

 

「? 和哉、誰にメールしたんだ?」

 

「千冬さんに鈴がピットの壁を壊した事を報告した。どんな事情があれ、鈴のやった事は規則違反だからな」

 

「うわぁ……。よりにもよって千冬姉に報告かよ。和哉も随分とえげつない事を……ん? ちょっと待て!」

 

 箒の問いに答えた俺はすぐ携帯をしまうと、一夏は急に何か気付いた顔になった。

 

「どうした一夏?」

 

「和哉! お前一体どこで千冬姉のメアドを知ったんだ!?」

 

 ……あ、しまった。確か一夏はブラコンの千冬さんに負けず劣らずのシスコンだったって事をすっかり忘れてた。毎朝千冬さんと組み手をしてた時に、偶々教えて貰ったなんて言ったら一夏はどうなるだろうか。因みに携帯番号も知ってるんだがな。取り敢えず今はポーカーフェイスで何とかやり過ごすとしよう。

 

「千冬さんのメアドを知ってたら何か不味いのか?」

 

「べ、別にそう言う訳じゃないが……」

 

「そうか。では早く訓練を始めるとしよう」

 

 かなり不満顔になってる一夏だったが、一先ず訓練を優先する事にしたのであった。

 

 その後、俺からのメールを見た千冬さんは速攻で鈴を捕らえた。そして鈴は千冬さんの出席簿で制裁された後、反省文を書かされたのは言うまでも無い。

 

 

 

 

 

おまけ

 

 

「和哉~~~! よくも千冬さんにチクッたわね! アンタの所為で千冬さんに叩かれた上に、反省文まで書かされたんだから!」

 

「んなもんお前の自業自得だろうが。壁を壊しといてタダで済むと思ったら大間違いだぞ。後先考えずにあんな事をするお前が悪い」

 

「アンタは……! もう頭に来た! 一夏を倒したついでに今度はアンタをギッタギタにしてやるから! それまで遺言を考えてなさい!」

 

「……はぁっ」

 

 後日、俺はクラス対抗戦以降に鈴と戦う事になるのであった。

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