インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~   作:さすらいの旅人

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第23話

「もしもし!? 織斑くん聞いてます!? 凰さんも! 聞いてますー!?」

 

 山田先生はISのプライベート・チャネルを使って一夏たちに何度も通信している。本来それは声に出す必要な全く無いんだが、そんな事を失念するくらい山田先生は焦っていた。

 

「本人たちがやると言っているのだから、やらせてみてもいいだろう」

 

「そうですよ山田先生。一夏は俺にやるってそう断言したんですから」

 

「お、お、織斑先生! 神代くん! 何をのんきなことを言ってるんですか!? 元はと言えば神代くんが織斑くんを後押しした所為で……!」

 

「落ち着け。コーヒーでも飲め。糖分が足りないからイライラするんだ」

 

 怒鳴っている山田先生を千冬さんは宥めながら、近くに置いてあったコーヒーに砂糖を入れようとしているが……。

 

「……あの、先生。それ塩ですけど……」

 

「織斑先生はコーヒーに塩を入れるんですか?」

 

「…………………………」

 

 山田先生と俺の突っ込みにぴたりとコーヒーに運んでいたスプーンを止め、塩を容器に戻す。とは言え、もう既にコーヒーには塩が入っているが。

 

「神代、なぜ塩があるんだ?」

 

「俺にそんな事を訊かれても……。けどその容器には大きく『塩』って書いてますよ」

 

「……………………」

 

 こんなアホらしいミスをするほど、千冬さんは弟の一夏の事をかなり心配して焦っているな。

 

 と、俺がそう考えている時……。

 

「あっ! やっぱり弟さんのことが心配なんですね!? だからそんなミスを――」

 

「………………………」

 

 山田先生が俺と同じ事を考えながら口にしてしまった。それを聞いた瞬間、千冬さんは無言で山田先生を見ている。

 

 千冬さんのイヤな沈黙に山田先生は何か不味い事が起きる気がして、話しを逸らそうと試みるが既に遅かった。

 

「あ、あのですねっ――」

 

「山田先生、コーヒーをどうぞ」

 

「へ? あ、あの、それ塩が入ってる奴じゃ……」

 

「どうぞ」

 

 ずずいっと塩入りコーヒーを押し付ける千冬さんに、山田先生は涙目でそれを受け取った。哀れな。

 

「い、いただきます……」

 

「熱いので一気に飲むといい」

 

「いやいや織斑先生、それはいくらなんでも……」

 

 悪魔と化している千冬さんに俺は突っ込みを入れるが無視された。

 

「うう……苦じょっぱいです……」

 

「山田先生、“口は災いの元”と言う諺をこの際しっかり覚えておきましょう」

 

「そ、そうします……。うう、教師の私が生徒に教えられるなんて……」

 

 塩入りコーヒーをちびちびと呑んでいる山田先生に俺が教えると、更に落ち込んでしまうのあった。

 

「先生! わたくしと和哉さんにIS使用許可を! すぐに出撃できますわ!」

 

「お前も落ち着けセシリア」

 

「これが落ち着いていられますか!」

 

 山田先生を余所に慌てながら出撃要請をするセシリアに俺が宥めるが全然落ち着いていなかった。

 

「だいたい和哉さんはどうしてそんなに落ち着いていられますの!? この非常時に!」

 

「慌てたところで事態が収拾する訳が無いだろうが。だがなセシリア。俺達が一夏達を助けに行こうとするなら、織斑先生がとっくに命じている筈だ。そうでしょう、織斑先生?」

 

「その通りだ。これを見ろ」

 

 俺が確認を取ると千冬さんは頷きながらブック型端末の画面を数回叩き、表示される情報を切り替える。表示された内容はこの第二アリーナのステータスチェックのレベル数値だった。

 

「遮断シールドがレベル4に設定……? しかも、扉がすべてロックされて――あのISの仕業ですの」

 

「そのようだ。これでは避難することも救援に向かうこともできないな」

 

 千冬さんは落ち着いた調子で話しているが、よくみるとその手は苛立ちを抑えきれないとばかりにせわしなく画面を叩いている。実は俺も内心凄く焦っている。だがセシリアに言ったとおり慌てたところで自体は収拾しないから、俺は必死に押さえ込んで冷静になっている。師匠にも『何時如何(いついか)なる場合でも冷静に対応すべし』って教えられたからな。

 

「で、でしたら! 緊急事態として政府に助勢を――」

 

「やっている。現在も三年の精鋭がシステムクラックを実行中だ。遮断シールドを解除できれば、すぐに部隊を突入させる」

 

 言葉を続けながら、益々募っている苛立ちに千冬さんの眉がぴくっと動く。セシリアはそれを危険信号と受け取り、頭を抑えながらベンチに座った。

 

「はぁぁ……。結局、待っていることしかできないのですね……」

 

「言っておくがセシリア。もし救援に行く事が出来ても、どの道俺達は出撃出来ないと思うぞ」

 

「何故そう言い切れますの!?」

 

 俺の予想に漸く落ち着いたセシリアだったが即座に怒鳴り返すと……。

 

「神代の言うとおり、どちらにしてもお前達は突入隊に入れないから安心しろ」

 

「な、なんですって!?」

 

 千冬さんが頷くように事実を告げた。

 

「オルコットのISの装備は一対多向きで、神代が使ってる打鉄は一対一向けだからな。多対一とではむしろ邪魔になる」

 

「そんなことはありませんわ! このわたくしが邪魔などと! それにわたくしと和哉さんがいれば必ず――」

 

「では神代と連携訓練はしたか? その時のお前の役割は? ビットをどういう風に使う? 味方の構成は? 敵はどのレベルを想定してある? 連続稼働時間――」

 

「織斑先生、もうそれ以上言わなくても結構ですよ。ってな訳でセシリア、分かったか?」

 

「わ、わかりました! もう結構です!」

 

「ふん。わかればいい」

 

 放っておいたら一時間以上続きそうな千冬さんの指導を俺が止めると、セシリアは両手を揺らして『降参』のポーズを取った。

 

「はぁ……。言い返せない自分が悔しいですわ……」

 

「なら言い返せるように今度連携訓練をしておくか?」

 

「そうしますわ。その時は一夏さんか和哉さんでコンビを組んでの訓練をします。どちらも接近戦ですので、わたくしは遠距離でカバーするという感じで」

 

「その時になったらお手柔らかに」

 

 どっと疲れているセシリアに俺が今後の事を言うと、課題を見つけたかのように言った。

 

「けどわたくしとして一番の希望は一夏さんとコンビを……あら? いつもでしたら篠ノ之さんがここで何か言う筈なんですが……」

 

「!」

 

 きょろきょろと周囲を見回しながら言うセシリアの台詞に俺もすぐに辺りを見回すが、箒の姿がどこにも見えなかった。千冬さんはさっきまでと違う異様に鋭い視線をしているが、箒がいなくなっている事に気がついていない。

 

「あの馬鹿もしや……! 此処を頼むぞセシリア!」

 

「ちょ! ど、どこに行く気ですの和哉さん!」

 

 セシリアの制止を振り切って俺は即座にピットから出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく! あの馬鹿は一体何処に行きやがった!」

 

 箒を探している俺だったが全然見付からなかった。一夏が心配だからもう我慢出来ないと言う気持ちは分かるが、もう少し落ち着いて欲しいもんだ。

 

「多分アイツの事だから一夏達のいる所へ向かっていると思うが……」

 

 見つけたら絶対に説教してやると決意しながら廊下を全速力で走り、アリーナピットへ向かった。

 

「ん? いた!」

 

 その扉を開けて入っていく箒を見たので、すぐに俺も入ろうとするが……。

 

 

ダンッ! ダンッ!

 

 

「おいおい! 何で開かないんだよ!?」

 

 さっきまで開いていた扉が何故か開かなかった。箒は何の問題無く入れたと言うのに。

 

「くそっ……ええい! 開かないなら仕方ない! 後で反省文を書こう!」

 

 そう言って俺は扉を壊そうと、『砕牙』を使おうとした瞬間……。

 

 

バチバチッ!

 

 

「んなっ!?」

 

 いきなり扉が電流を流れた事に俺はすぐに止めた。

 

「な、なんだこの電流は? こんなの扉に付いていない筈だぞ……」

 

 しかも物凄い勢いで電流が流れている。100万ボルト以上は確実だ。触れたりしたら確実に即死する。

 

 ってかさっきから一体何なんだ? 扉は開かないし、壊そうとしたら電流が流れるし。何か俺が入ってはいけないみたいに……ん?

 

「妙だな……何故俺が扉を壊そうとした瞬間に電流が流れた?」

 

 まるで俺の行動を阻んでいるみたいな感じだ。襲撃しているISの仕業か? いや、奴は扉をロックしてるだけだから、電流なんて流しはしない……って今はそんな事を考えている暇は無いな。

 

「非常時だから、これでやるしかないか」

 

 俺は覚悟を決めて左腕の手首に身につけているブレスレットに意識を集中した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 和哉がアリーナのピットの扉の前で手間取ってる時、箒は走ってアリーナ全体を見渡せる位置に立っていた。

 

「一夏ぁっ!」

 

 そしてすぐに大声を上げると、ハイパーセンサーで箒の声を拾った一夏が振り向く。

 

「な、なにしてるんだ、お前……」

 

「ちょ、ちょっと! あの子何考えてるのよ!?」

 

 アリーナのピットに堂々と立っている箒を見て呆然としていた一夏と、箒の行動に呆れていた鈴だったが……。

 

「男なら……男なら、そのくらいの敵に勝てなくてなんとする!」

 

 再び箒が大声を上げると、キーンとハウリングが起こったかのように響く。一夏がハイパーセンサーで数十倍に拡大して箒を見ると、はぁはぁと肩で息をしている。その表情は、怒っているようで焦っているような不思議な様相だった。

 

 当然それを感知したのは一夏と鈴だけじゃなく……。

 

『……………(ギギギッ)』

 

 敵ISも感知して箒を見ていた。まるで箒に興味を持ったかのように、一夏達からセンサーレンズを逸らして、ジッと箒を見ている。

 

「箒、逃げ――」

 

 逃げろと言う一夏だったが、間に合わない事に気付いて突撃姿勢へと移行する。

 

 そして敵ISは砲口の付いた腕を箒に向けているが、箒は逃げようともせずにただ睨み返していた。

 

「鈴、やれ!」

 

「わ、わかったわよ!」

 

 一夏の指示に鈴は両腕を下げて、肩を押し出すような格好で衝撃方を構える。最大出力砲撃を行うために、補佐用の力場展開翼を後部に広がせる。

 

 その間に一夏は、鈴の射線上の前に躍り出る。

 

「ちょっ、ちょっと馬鹿! 何してんのよ!? どきなさいよ!」

 

「いいから撃て!」

 

「だからって……! アンタ死にたいの!?」

 

 そう言って鈴は撃つのを躊躇っていると……。

 

 

バシュッ!

 

 

 一足遅く敵ISが箒に向けてビームを放っていた。

 

「箒ぃぃぃぃぃぃ!!」

 

 ビームはそのまま箒目掛けるのを見て、一夏が即座に体を張って身代わりになろうとしたが既に遅く、遮断シールドが貫通して箒に当たる瞬間……。

 

 

ヒュッ! ダァァァァァンッ!

 

 

 突如箒の目の前から何かが現れ、即座に防御態勢になって箒を守った。

 

「お、お前は……」

 

 守られた箒は呆然と目の前にいる相手を見ている。

 

 その相手は……。

 

「か、和哉か!」

 

「ふうっ、間に合った。あと一歩遅かったら危なかったぞ」

 

 IS『打鉄』を展開した和哉だった。

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