インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~ 作:さすらいの旅人
「さてと。勝負も付いたことだし、気絶してる鈴を運んでやるとするか」
倒れている鈴に近寄ろうとする俺だったが……。
「だ、誰が気絶してる……ですって……」
「ほう。アレを喰らってまだ立てるとは」
鈴が双天牙月を杖代わりに使って立ち上がった。
「だが立ち上がったとしても、そんなにフラフラではもう戦えないと思うが?」
「う、うるさい……! あたしはまだ……戦えるわよ……!」
ちょっとでも気を抜けば倒れる痛みだと言うのにも拘らず、鈴は我慢と根性で必死に踏ん張っている。
「止めておけ。いくらお前がまだ戦えると言ったところで、俺の攻撃を避けることは出来まい。ましてや俺がここで加減した『破撃』を喰らったらすぐに気絶するのがオチだ」
「はあっ……はあっ……はあっ……」
「だからもうさっさと降参を――」
「………うるさい」
「ん?」
「うるさい! いい加減にその上から目線で言うのは止めなさいよね!」
俺が降参を勧めている最中に鈴は急に怒鳴ってきた。
「はあっ! はあっ! アンタはいつもそうやって……! 偉そうに言ってんじゃないわよ!」
「偉そうにって……俺は事実を言ったまでなんだが?」
「そう言うところが気に入らないのよ! 自分はいつも正しいみたいなことばかり言って……!」
「別に俺自身のやってる事に全て正しいと思ってはいないが……」
そう言う俺に鈴は内心をぶちまけるかのように更に怒鳴ってくる。
「あたしはね! 前からアンタみたいな男が大ッ嫌いなのよ! 力でモノを言わせるアンタが!」
「………………」
「だからあたしはISを手に入れて大ッ嫌いなアンタをぶちのめすのよ! 今までの恨みを込めてね!」
「………………」
「女のISこそ正義と呼ばれる時代に! アンタみたいな奴は必要ないのよ!」
「………………」
「はあっ……はあっ……さあかかって来なさい和哉! 今度こそアンタをぶちのめしてそれを証明してやるわ!」
鈴は双天牙月を構えようとするが、俺はもう完全にやる気が無くなった。
「……はぁっ。言いたい事はそれだけか?」
「な、なんですって……?」
俺が呆れたような問いをすると鈴は呆然とした顔になる。
「黙って聞いてれば……俺みたいな力で物を言わせる男が嫌い? ISを手に入れて今までの恨みを晴らして俺をぶちのめす? 女のISこそ正義だから俺は必要無い? つくづく身勝手な奴だな」
「な、何が身勝手なのよ……」
「そんな事も分からないのか。どうやらお前は女尊男卑の世界に染まったバカな女の一人と言う事になるな」
「んなっ!」
鈴は必死に痛みに耐えながらも物凄く睨んでくるが、俺は構わずに続ける。
「おまけにISと言う兵器を手に入れた事により、中身が前以上に腐ってるな」
「あ、アンタ……! 言うに事欠いて腐ってるって……!」
俺の発言に鈴は激昂しようとするが……。
「腐ってるだろうが。お前はISを手に入れ、それに物を言わせて俺を脅していたんだからな。お前が言ってた、『力で物を言わせる大嫌いな男』と同じ事をしていたんだぞ?」
「!!!」
更なる発言によって急に黙り始めた。
「それに加えて、お前が学園で仕出かした行動は正直目に余る。自分にとって不都合な時、怒りを表す時、そのどれもが平然とISを使っていた。本に書かれている重要な規則を簡単に破るなんて、専用機を与えられている代表候補生の行動とはとても思えない」
「……………………………」
俺が鈴の過去に仕出かした事を言うと、鈴は言い返してこない。
「ハッキリ言ってお前は、代表候補生の地位を利用して好き勝手やってる我侭なクソガキも同然だ。そんなお前ともうこれ以上やる気は無い。帰らせてもらう」
そう言って俺は鈴に背を向けてアリーナから去ろうとする。
「ま、待ちなさいよ和哉! まだ勝負は……!」
「言った筈だ。これ以上やる気は無いとな。正直お前には失望したぞ、鈴」
鈴が引き止めようとするが俺はもう見向きもせずに戻ろうとしていた。
「まだ動けるんだったら、自国に連絡して代表候補生の地位を返上する事だな。今のお前みたいな我侭なガキには過ぎたる物だ」
「………………分かってるわよ」
「ん?」
戻っている最中に鈴が何か認めた発言をした事に俺は足を止めた。
「そんなことアンタに言われなくても分かってるわよ! 今までアンタに説教されて、あたしの今までやった事に問題がある事くらい自覚してるわよ!」
◇
「何だ? あの二人は一体何を話しているんだ?」
「さあ……? こちらからでは遠くて向こうが何を話しているのかは聞き取れませんわ」
「何か真剣な話しをしているみたいだけどねー」
アリーナでは一夏、セシリア、布仏は不可解に和哉と鈴を見ており……。
「お、織斑先生、どうしましょう。そろそろ私達の方で止めた方が良いのでは?」
「いや、このままやらせておけ」
「ですが……」
「これは凰の為でもある」
そしてピットで会話を聞いていた真耶が止めようとするも、千冬は敢えて続けさせようとしていた。
◇
「自覚しているなら何故今までの行動を改善しようと思わなかったんだ?」
「最初はやろうと思ったわよ! けど……やろうにもあたしの周りにいる大人は嫌いな連中ばかりで……」
鈴はもう痛みなんかどうでもいい位な状態になって俺に言って来る。
「嫌いだからって、それなりの我慢と謙虚な態度を取る必要があるんだがな……」
「そんなこと言われても……アイツ等の良い様に利用されるのが気に入らなかったのよ! おまけに時々あたしをいやらしい目で見る奴もいるし……!」
「………………………」
権力を使ってセクハラやろうとする上官って本当にいるんだな。
「だからあたしは、そんなゲスな事を考える連中に思い知らせようと今のままであり続けた……アンタにその気持ち分かる!?」
「で、そんな態度を取り続けた結果、学園でついあんな事をしてしまったって訳か」
気持ちは分からなくも無いが……。まぁ鈴も今まで必死に己を守り続けてきたって事か。鈴の奴、意外と理解していたみたいだな。
「そして好きな男である一夏に会う時は綺麗な体のままでいたい、か。随分と健気だなぁ」
「なっ! 何でそこで一夏が出てくるのよ!?」
俺が適当に言うと鈴は図星のように顔を真っ赤にした。分かりやすい奴だ。
「事情は大体分かった。しかしなぁ鈴。お前が学園でやった事は許されない事に変わりは無い」
「……………………」
鈴は俺がピットに戻るのかと思っていたが……。
「故に、お前のひん曲がってる根性は……俺が叩き直してやる」
「!」
俺が再び鈴と向き合って構えた事に驚いた。
「………どうやらやっとその気になってくれたみたいね!」
「ふんっ。だがその前に先ずはお前に勝ってからにするとしよう」
「上等! やれるもんならやってみなさい! 中国代表候補生の凰鈴音を甘く見ないで!」
鈴がフラフラになりながらも構えるが、俺はそんな事お構い無しに一切の油断無く構え続ける。
◇
「? 和哉が急に真剣になって構えてるな」
「それに鈴さんもさっきまでと違って、何か吹っ切れたような感じですわね……」
「一体何があったんだろ~?」
『???』
一夏、セシリア、布仏や他の一組の女子達は益々不可解な顔になっており……。
「織斑先生、凰さんは色々と辛い思いをしていたんですね」
「だが神代の言うとおり、凰が学園でやらかした事は問題である事に変わりは無い。それに関しては神代に任せるとしよう」
「けどそう言うのは本来、生徒ではなく私たち教師がやるべきことですけどね」
「私たちが言うより、神代の方が凰にとって一番の薬だ」
会話を聞いていた真耶と千冬は既に安堵したかのように、最後まで試合を見守っているのであった。
◇
「じゃあ今度はお前を確実に気絶させる為に、コレを使うとしよう……(スッ)」
そう言って俺は『砕牙』を放つ構えを取ると、鈴はジッと見ている。
「………それ、さっきあたしに打った技に似ているような気がするわね」
「ほう。よく気付いたな」
ほんの少しだけしか見てなかったとは言え、この構えを見て気付くとは……流石は代表候補生と言うべきか。
「で、お前は何をする気だ? 衝撃砲か? それとも……」
「あたしは……コレで決める!」
鈴は双天牙月でやる、か。
「良いのか? 衝撃砲を使わなくて。そっちの方が俺を倒せるかもしれないと言うのに」
「アンタが拳でやるってのに、あたしだけそんなセコイの使うわけにはいかないわ。仮に龍咆でアンタを倒しても、あたしのプライドが許さないわ!」
「ふっ……あくまで近接戦でやろうって腹か。ではそんな鈴には敬意を表して、全力で打たせてもらう。覚悟しろ」
「それはコッチの台詞よ!」
俺達はお互いに構えたまま、ジリジリと間合いに入り続けているとアリーナ全体は急に静かになった。
だが……。
ヒュオッ!
「「はあああああ~~~!」」
風の音が合図となって俺と鈴は互いに突進して行く。
「宮本流奥義『砕牙』!」
「でりゃぁあああ!」
ガキィィィィィンッ!!!
俺は『砕牙』を放ち、鈴が渾身の一撃を振るって激しい音をしながら通り過ぎた。
「………鈴、今度こそ俺の勝ちだな」
「………どうやら……そうみたいね……けど和哉、覚えてなさい。次は絶対に……ああっ」
バタンッ!
鈴が何かを言う前に今度こそ本当に倒れて気絶した。
そして……。
ワアアアアアアア~~~~!
完全に試合が終わるとアリーナ全体が響くのであった。
◇
翌日。
「なぁ和哉。昨日の戦いの最中に鈴と一体何を話していたんだ?」
「和哉さん、よろしければ話して頂きたいのですが」
朝の教室では一夏、セシリアが執拗に昨日の話しについて俺を問い詰めていた。布仏や他の女子達は遠巻きにコッチを見ている。
因みに箒は未だに懲罰部屋で過ごして、本日は欠席と言う形になっている。
「悪いがノーコメントだ」
「いや、それはないだろう。あの戦いの後、鈴が俺にこの間の事について急に謝ってきたんだぞ」
一夏が言うこの間とはクラス対抗戦前に一悶着を起こしてた事についてだ。少しは自分の非を認めるようになって来たみたいだな。
「あの鈴が謝るなんて、俺思わず驚きすぎて目が点になったんだぞ……それに何か……急に可愛くなった気が」
「ほう? それはそれは――」
鈴を若干意識してる一夏に少し感心してると……。
「和哉さん! 一体どう言う事ですの!? キッチリ説明して下さい!」
「ちょ! ちょっと待てセシリア! お…落ち着けって!」
セシリアが俺の肩を掴んでガクンガクンと揺さぶってきた。
「(どうしてくれますの!? あなたのせいで一夏さんが鈴さんを意識してるじゃありませんか!)」
「(お、俺にそんな事を言われても……!)」
小声で話しながら怒鳴ってくるセシリアに俺は困惑する。ってかセシリア。アンタ随分と器用な事が出来るんだな。
「(これでもし一夏さんが鈴さんと付き合ってしまったら、どう責任を取ってくれますの!?)」
「(危惧してる暇があるなら、セシリアがさっさと一夏に告白すれば良いだろうが!)」
「(そ、それは……その……)」
「二人とも、さっきから小声で何話してるんだ?」
「! い、いいえ! 何でもありませんわ一夏さん。お、おほほほほほ」
一夏が俺とセシリアの会話が気になって突っ込むが、セシリアが何事も無かったかのように振舞っている。お前なぁ。
と、そんな時……。
「和哉~!」
「ん?」
俺を呼ぶ声が聞こえたので振り向くと、教室の出入り口に鈴がいた。
アイツ、昨日俺に負けたってのに随分と元気そうだな。
「朝っぱらから何の用だ、鈴? ってか俺に声をかけるなんて珍しいな」
「今日の放課後にあたしとまた勝負しなさい!」
「………何でだよ」
鈴の宣戦布告に俺は少し呆れる。
「お前なぁ……昨日俺に負けたばかりなのにまた勝負するって……」
「アンタに勝つまで何度でも挑み続けるわ! あたしが負けず嫌いだって事はアンタも知ってる筈よ!」
「………そう言えばそうだったな」
確か以前に格闘ゲームをした時に俺が勝つと、鈴が『もう一回!』と言って何度も挑み続けてたな。
「悪いが今日は遠慮させてもらう。今日の放課後には一夏達と訓練する事になってるからな」
「そうですわ鈴さん! 今日はお引き取り下さい!」
俺が断るとセシリアも便乗してくる。会話中に割り込まないで欲しいんだが。
「そう。それじゃあ……あたしもその訓練に参加して良いかしら?」
「「……は?」」
「んなっ!?」
てっきり勝負を優先しろと言って来ると思っていた俺と一夏だったが、鈴の予想外な発言に素っ頓狂な声を出した。加えてセシリアも信じられないように見ている。
「何を言ってますの! 鈴さんは和哉さんとの勝負に負けてコーチする必要が無い筈です! それなのに――」
「別にそんなつもりは無いわ。あたしはただ単に訓練に参加するって言ってるだけ。一夏にコーチをするなんて一言も言って無いわよ」
「ぐっ……! た、確かにそうですわね……」
「で、どうなの和哉? あたしも参加して良いの?」
「そ、それは別に構わないぞ。こっちとしても近接戦が得意なお前がいてくれたら好都合だし」
「そう。じゃあ放課後にまた顔を出すわね。一夏、訓練の時は一緒に頑張ろうね」
「お、おう」
あっさりと言って去る鈴に一夏は戸惑いながらも返事をした。
「………なぁ和哉、鈴ってあんなにあっさりした奴だったか?」
以前とは違う鈴に一夏は俺に訊いて来る。
確かに今までの鈴は人の話しを聞かずに勝手に約束を取り決める奴だったから、一夏が戸惑うのは無理もない。
「案外アイツも色々と反省したんじゃないかと思うぞ」
「反省って……となるとお前、昨日の戦いで鈴に――」
「か~ず~や~さ~ん~!」
一夏が言ってる最中、セシリアが物凄く恐い顔になっていた。凄いな。俺も少しばかりびびったぞ。
「あなたと言う人は~!」
「お、落ち着けセシリア!」
完全に怒ってるセシリアが殴ろうとしてきたので、俺は咄嗟に掴んで必死に落ち着かせようとするのであった。
やばい。ストックがもう品切れ状態になり掛けて来た……(汗)