インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~ 作:さすらいの旅人
六月頭の日曜日。
俺は早朝の六時にIS学園を出て、とある人の家の道場にいた。
「久しぶりじゃのう和哉よ。お主とこんなに長く会ってないのはいつ以来だったか」
「今回が初めてだと思いますよ。いつもはずっと修行していたんですから」
俺と老人がお互いに正座して堅苦しい会話をしていると……。
「何じゃその喋り方は。今まで通り普通に話せ。弟子のお前とそんな風に会話しとったら、他人同士みたいじゃわい」
「ではお言葉に甘えて……ってか竜爺こそ人の事は言えないだろうが。そのいかにも自分は偉いっていう態度をしてるし」
「ほっほっほっほ。どうやらお互い様みたいじゃったのう」
すぐに元の喋り方に戻った。これが俺とこの老人の本来の喋り方である。この人曰く『堅苦しい会話は嫌いじゃ』と言ってフレンドリーに話せと以前から言われているのだ。
で、このいかにも好々爺みたいな老人が俺の師匠である竜爺こと宮本竜三。かつては武術の王、即ち『武王』と言う称号を持っていた過去の超人。本人はもう既に衰えてると言ってるが、俺から見ればとてもそうは思えなかった。俺が全力を出しても師匠の力の一割程度で倒されるのだから。それで衰えてるって言うなら世界の老人に謝れと何度も突っ込んだことか。
まぁそんな事はどうでも良いとしてだ。師匠とはもう十年以上の師弟関係が続いており、今でも師匠を倒すという目標を立てて日々修行をしている。師匠も倒せるものなら倒してみろと言われてるから、俺は何が何でも倒そうと躍起になっている。
「それはそうと和哉よ。お主、暫く見ぬ内に気が緩んでおらぬか?」
「そりゃあ竜爺と毎日組み手をしてた日常が無くなって、ずっとトレーニングばかりしていたからな。けどまぁ時折、担任の千冬さんと組み手をしているけど……」
「違う。ワシが言っておるのは……今話題となっておるISに乗って、研ぎ澄ませていた心が緩んでいるのではないかと訊いておる」
「…………………………」
竜爺の指摘に俺は無言となった。いや、すぐに答えられないと言った方が正しい。
「ワシはISについて大して分からんが、確かアレは操縦者の身の安全が保障されておるんじゃったな。それによってお主はいささか気が緩み始めておる。違うか?」
「………それだけで分かるとは……流石は竜爺だ」
「ふんっ。何年お主の師匠をやってると思っておる。それくらい見抜けなければ師匠失格じゃ」
「そうかい……。ま、大体竜爺のご察しの通り、俺はISに乗るにつれて少しずつ気が緩み始めてるよ。危険な兵器だって事は分かるんだけど、どうもアレには命の危険性と言う物が無くて……」
「やはりのう」
危険性を感じられないと知った竜爺は落胆な表情をする。
過去に生死をかけた戦いをした事のある竜爺としては、以前からISという兵器を快く思っていない。戦争で人を殺す事が出来る危険な兵器である筈なのに、そんな認識もせずに大した覚悟も無く平然と扱っている大半の女性IS操縦者達も竜爺は頭を悩ませていた。
IS操縦者達は真剣に戦っているつもりだろうが、竜爺からすれば遊びでやっているようにしか見えていなかった。その理由はISにシールドエネルギーがあるからだ。シールドエネルギーによって操縦者の命の安全が保障されてるので、自分は絶対に死ぬ事は無いと言う中途半端な覚悟で戦っているからである。
「となれば、お主がこの先ISに乗り続けておると中途半端に堕落してしまうのう」
「堕落って……」
まぁ確かに師匠の言うとおりかもしれない。大して命のリスクの無いISに乗っていると、中途半端な覚悟を持ってしまうし。
「よし! そうならない為に早速修行じゃ!」
「さっきまでISについて話していたのに、何故すぐに修行へ持って行くんだ?」
「知れた事よ。弟子のお主が堕落してしまったら師として見過ごす事は出来んからのう。ほれ、さっさと道着に着替えんかい!」
急かすように言って来る竜爺に……。
「竜爺。アンタがいきなりそんな事を言うって事はさ……ひょっとしてこの二ヶ月ほど俺と修行出来なくて寂しかったのか?」
「さて、どうやら弟子の和哉は本格的な実戦修行をやる必要があるようじゃな。少しでも気を抜いたら命は無いと思うが良い」
俺が適当に言うと、竜爺はいきなり殺気を飛ばしながら凄い事をほざいてきた。
「いくら図星だからってそこまでやるか!?」
無論、普段から師匠の殺気に当てられて慣れている俺としては何でもない。この人は図星を突かれるとすぐに難題な課題を出してくるからな。
「まぁ良いや。学園でぬるま湯に浸かり過ぎていた俺にはコレくらいしないとダメだし」
「ふんっ。分かっておるではないか」
結論付けた俺がすぐ道着に着替えると、師匠は既に中央に立っている。
「さあ来るがよい和哉!」
「行くぞ竜爺!」
そして俺と師匠は実戦的な組み手を始めた。
開始してから一時間後……。
「はああああああ~~~~~!!!」
ガガガッ! パシッ! ドドッ! ガスッ!
「どうした和哉よ? はようワシに一撃を当ててみせい」
俺の猛攻に師匠は簡単に防いでいた。それも片手だけで往なしている。俺と師匠の実力の差がまだまだあり過ぎる証拠だ。
「言われなくても当ててやるよ! はあっ!」
「むっ? 拳の威力とスピードが多少上がっておるようじゃの。やるではないか」
「褒められても当たらなきゃ意味が無いっての! でりゃあっ!」
拳を受け止めて褒める師匠に俺はどうでも良いように返して、回し蹴りをやる。だが師匠はヒョイッと後方へジャンプして避けながら距離を取った。
「ほっほっほっほ。師匠が褒めたと言うのにお主は誇らんのか?」
「よく言うよ。もしここで喜んだら、『その程度で満足するようではワシはまだまだ倒せんぞ』って言うつもりなんだろ?」
「何じゃ、バレておったか。ほっほっほっほ」
「……………………………」
笑い飛ばす師匠に俺はちょっとばかしムカッと来たので……、
「コォォォォォ……はあっ!」
「むっ!」
ドンッ! ズズズズズ………
『破撃』を使うと師匠は即座に防御して腕に当たると凄い音がしながら、その衝撃によって師匠の身体が後ろへと引いていった。
「ちっ……。やっぱり今の俺程度の『破撃』じゃ竜爺にはまだ程遠いか」
「いやいや、そんな事は無いぞ和哉。まだ本気ではないとは言え、このワシを後ろへと引かせたのじゃ。前より威力が上がっておるぞ」
師匠は笑みを浮かべながら嬉しそうに、楽しそうに言って来る。あれは本心で言ってると言うのが分かった。
「それはどうも……」
「では今度はワシも動くとするかの」
「確か俺が竜爺に一撃を当てなければ反撃しないと言ってなかったか?」
「ワシを後ろに引かせた時点で充分じゃよ。ほれ、とっとと気を張らんか。でないと……すぐに終わってしまうぞ」
「!!!」
竜爺が途中から声を低くして言うと、雰囲気が突然変わった。竜爺の全身からはとてつもない殺気が溢れていた。その事に俺はすぐ全身に渇を入れるかのように気を張って構える。
「そうじゃ。それでよいぞ和哉」
「………………この殺気、前より一段階上がっているのは俺の気のせいか?」
「ほっほっほ。な~に、それだけお主の実力が上がったと言う証拠じゃよ」
「……そうかい」
この殺気はあと何段階上がるのかと少し気になったが、取り敢えず今は目の前の事に集中しないとな。さもないと師匠の言うとおり、本当にすぐに終わってしまう。
「では……行くぞ和哉よ!」
「上等!」
俺がそう言った途端に師匠は一瞬で俺の懐に入り、即座に防御するがすぐにまた攻撃してくるのであった。
◇
「よし。今日はここまでにしておこうか」
「はあっ! はあっ! はあっ! はあっ! ひ、久々に竜爺と修行してめっちゃ疲れた……!」
昼頃。
修行を終えた俺は道場の大の字になって仰向けで倒れ、痛みに耐えながらも激しく息切れしていた。逆に師匠は立ったままで、まだまだ余裕な感じで大して息を切らしていない。
普通は立場が逆だろうと思われるだろうが、これが俺と師匠の体力の差なのだ。十年弟子をやってる俺なんかより、師匠は長年にわたって武術をやり続けているので並の人間の三倍以上ある。
因みに師匠の全盛期は今の倍以上はあったそうだ。もう完全に人間離れしてて超人、もしくは化け物と言った方が良い。
「って竜爺。今日はここまでって言うけど、午後は無いのか?」
「うむ。午後からはちょっと用事が……」
竜爺が言ってる途中に……。
ガラッ!
「竜お爺ちゃ~ん! 遊びに来たよ~!」
突然、道場の出入り口の戸が開いて私服姿でツインテールの女の子が入って来た。
「おお、待ってたぞ」
「あれ? 綾ちゃんじゃないか」
師匠が入って来た女の子を歓迎し、俺は女の子に向かって綾と呼ぶ。
あの子は竜爺の孫娘である
「あ、和哉お兄ちゃんも来てたんだ」
俺に気付いた綾ちゃんは近づいてくるので、ムクッと起き上がる。
「久しぶりだね。会うのは三ヶ月振りかな?」
「そうだね。綾ちゃんは元気そうで何よりだ」
「うん! 元気がアタシの取り柄だから」
立っている綾ちゃんに俺は見上げながら言う。実はこの子、小学六年生にも拘らず身長が凄く高い。それも女子高生並みに。本人はそれを凄く気にしているので敢えて口に出さない。
「でも和哉お兄ちゃんってアタシと会う度に凄く疲れているよね」
「そりゃまぁ綾ちゃんが来る前に竜爺と修行をしてるからな。ついさっきまで竜爺と組み手してたし。って竜爺、午後の用事って綾ちゃんと何処かへ行くつもりなのかい?」
「まぁの。今日は久々に孫娘と一緒にショッピングや映画鑑賞をしようと思ってな」
「ふ~ん」
そう言えば時折修行が休みの時に師匠は必ず綾ちゃんと一緒に遊ぶ時間を作っていたんだったな。で、今日は偶々その日だったって事か。
ならそんな師匠の為にさっさと退散するとしますか。師匠にとって孫娘と一緒に過ごす時間は何より大切な物だからな。
「それじゃあ俺もそろそろ帰る支度をしますか」
「何じゃ。昼飯は食っていかんのか?」
「いや、今日は友人と一緒にメシを食う約束をしているんで。あ、でもその代わり風呂貸して。それとさ……」
そして俺は帰る前に師匠の家の風呂を使い、ある事を頼んでから帰った。
その後に一夏と会い、一緒に友人の五反田の家に向かうのであった。