インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~   作:さすらいの旅人

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第30話 (第二巻開始)

 俺と一夏は五反田の家におり、一夏の友人の弾(だん)がゲームしている。

 

「で? どうなんだ和哉」

 

「何がだ? ってかお前、一夏と格ゲー中に俺と会話して大丈夫なのか?」

 

 ゲーム観戦してる俺に話しかけるなんて相当余裕なんだな。

 

「大丈夫だ。もう俺の勝ちは見えてるし」

 

「おい弾(だん)、勝負は最後までやってみないと分からないぞ」

 

 弾の台詞に一夏が負けじとコンボ入力している。

 

 一夏とゲームしている五反田(ごたんだ)(だん)は俺や一夏の中学からの友人であり、一夏と同様に中一から知り合っている。そして三年間ずっと俺、一夏、弾、鈴はずっと同じクラスだった。特に弾は俺と非常に馬が合う。その理由は……超鈍感な一夏に振り回されているからと言えば分かる筈だ。

 

「そんな瀕死状態で何言ってるんだか。まぁそんな事よりもだ。お前や一夏のメール見てるだけでも楽園じゃねえか。なにそのヘヴン。招待券ねえの?」

 

「ある訳無いだろうが。第一、国が管理運営してる特殊国立学校のIS学園に、そんな物が配布されると思ってるのか?」

 

「んなこと分かってるよ。一応聞いてみただけだ」

 

 分かってはいても一度は入ってみたいと言って来る弾。まあ男にとってIS学園は羨む所かもしれないが、俺と一夏はとてもそんな風に思えない。

 

「弾、正直言ってキツいぞ。あそこには男が俺と一夏しかいないんだからな」

 

「そうだな。けどまぁ、鈴が転校してきてくれて助かったよ。話し相手本当に少なかったからなぁ」

 

 俺の台詞に一夏が頷きながら鈴に感謝していた。ってか一夏、話し相手はたくさんいるだろうが。お前目当てに話しかけてくる女子がたくさん。

 

「ああ、鈴か。鈴ねえ……念の為に訊くけど和哉、進展は?」

 

「無い。ってか弾、そんなもん訊くまでもないだろうが。一夏だし」

 

「だよなあ。一夏だからなあ」

 

「ってお前等、何で揃って俺を見るんだよ!」

 

 俺と弾の視線に(超鈍感な)一夏が突っ込んでくるが……。 

 

「よっしゃ、また俺の勝ち!」

 

「おわ! きたねえ! 最後ハイパーモードで削り殺すのナシだろ~……」

 

「油断したな、弾」

 

 それでもちゃんとキャラを操作して、弾が操ってるゲームキャラを倒して勝利した。

 

 ちなみに一夏と弾が対戦しているゲームは以前やった『IS/VS』。正式名称は『インフィニット・ストラトス/ヴァースト・スカイ』だ。このゲームは発売月だけで百万本も売れて記録した超名作で、第二回IS世界大会『モンド・グロッソ』のデータを基準にして使われた対戦格闘ゲーム。しかし残念な事にコレには千冬さんのデータは諸事情により入っていない。

 

「やっぱイタリアのテンペスタは強いわ。つうかエグいわ。そう言えば和哉はあんまり使わないよな」

 

「そんなチート気味のキャラはどうも好かなくてな。ってか一夏、たまには別のキャラを使ったらどうだ?」

 

「和哉の言うとおりだぜ一夏。別のキャラ使えよ。イギリスのメイルシュトロームとかよ」

 

「いや、あれすげえ使いづらいし、技弱いし、コンボ微妙だし」

 

 もし此処にセシリアがいたら絶対に激怒するであろう発言をする一夏。後でセシリアに報告でもするか。

 

「和哉、お前後でセシリアに報告するって考えてなかったか?」

 

「まさか」

 

 ちっ。読まれてたか。相変わらず恋愛以外の事に関しては鋭い奴だ。

 

 まぁそんな事は別にどうでもいいとしてだ。確かに一夏の言うとおりイギリスのメイルシュトロームはいささか弱すぎるキャラだ。所謂かなりの玄人向けなキャラと言ってもいい。

 

 当然こんなに弱いキャラとなるとイギリスだけでなく、各国から日本のゲーム会社にかなりの苦情が来たのは言うまでもない。『我が国の代表はこんなに弱くない!』ってな感じの苦情を。

 

 そんな各国からの苦情対応に困ったソフト会社は苦肉の策として、参加二十一ヵ国それぞれの最高性能化されたお国別バージョンを発売するが、何とこれがまた爆発的に売れた。

 

 たかが内部数値を弄っただけなのにも拘らず、そこまでぼろ儲け出来たなんてソフト会社としては予想外だったろうな。ってか各国も自分の国の代表が最高性能で強ければ満足するなんて単純過ぎにも程がある。

 

 まぁ二十一ヵ国のバージョンが出たことにより、世界大会ではどの国のバージョンを使うかで揉めに揉めたみたいだが、結局は中止になったと言う逸話があったりする。どうせ『我が国のバージョンを使うべきだ!』ってどの国もそんな風に主張していたから、収拾が付かなくなって中止になったと思う。自分の国が一番強い印象を与えると言う魂胆が見え見えだったんだろう。

 

「ん? セシリアって誰だ?」

 

 セシリアの事を知らない弾が訊いてくるので……。

 

「ああ、弾は知らないんだったな。セシリアはIS学園に通ってる生徒で俺達のクラスメートだ」

 

「もうついでにソイツは見目麗しい金髪美人なご令嬢であり、もう既に一夏にここをズドンと撃ち抜かれてる(トントン)……って言えば分かるか?」

 

「……………………」

 

 一夏は簡単に教え、俺が少し細かく教えながら自分の左胸を指すと無言になった。

 

「一夏ぁ~~! テメエいつの間に和哉の言った金髪美人を我が物にしてやがんだぁ~~!」

 

「何訳わかんない事を言ってんだよ! ってか和哉! 俺はセシリアの胸を撃った覚えは無いぞ!」

 

 弾は急に一夏の両肩を掴んで怒鳴り、一夏は俺に向かって抗議してくる。

 

「いやいや、お前はちゃんと(セシリアのハートを)撃ち抜いたから」

 

「おい和哉! まさかコイツ、鈴以外の他の女子達にも同じ事をしてるなんて事は無いよな!?」

 

「知りたいか?」

 

「教えろ!」

 

「ってかお前等! 俺を殺人犯みたいな会話するの止めろ!」

 

 全く見当違いな事を言って来る一夏を無視して俺は弾に教えようとするが……。

 

 

ドカンッ!

 

 

「お(にい)! さっきからお昼出来たって言ってんじゃん! さっさと食べに――」

 

 突如部屋のドアが開く音がすると、弾の妹の妹である五反田(ごたんだ)(らん)が蹴り開けて入ってきた。ついでにソイツの歳は弾の一個下で中三。何でも有名私立女子高に通っている優等生だそうだ。

 

 まぁ俺としてはこの子が優等生である事はどうでも良いんだが、少し面倒な物を背負っている。

 

「あ、久しぶり。邪魔してる」

 

「いっ、一夏……さん!?」

 

「君は相変わらず兄に対して不躾なんだな」

 

 一夏だけを見て驚く蘭は俺の台詞は全く聞いていない。何故蘭が俺を無視して一夏だけを見ているのか……それは簡単。蘭は一夏に絶賛片思い中である。

 

 因みに今の蘭の格好はとてもラフな格好である。肩まである髪を後ろでクリップに挟んだだけの状態で、服装もショートパンツにタンクトップという機能性重視の格好だ。

 

 さて、そんなラフな格好で先ほど弾に不躾な態度を取っていた蘭が一夏の前で取る行動は……。

 

「い、いやっ、あのっ、き、来てたんですか……? 全寮制の学園に通っているって聞いてましたけど……」

 

 急に猫を被って淑やかに振る舞った。

 

「ああ、うん。今日はちょっと外出。家の様子見に来たついで和哉と一緒に寄ってみた」

 

「そ、そうですか」

 

 蘭の急変な態度に一夏は何の疑問も抱かず普通に話している。少しは疑問に思えよな、一夏。

 

「それはそうと弾の妹さん、いくら身内だからと言ってもノックはした方が良いと思うんだが?」

 

「そうだぞ蘭。お前なあ、ノックくらいしろよ。恥知らずな女だと思われ――」

 

 俺の指摘に弾が便乗して言うと……。

 

 

ギンッ!

 

 

 おおう、蘭が兄に『睨み殺し』みたいな視線を送ってるよ。俺からすれば大した睨みじゃないが。

 

 そんな蘭に弾はダメージを受けたかのように萎縮していく。お前は相変わらず妹相手に弱いんだな。

 

「……なんで、言わないのよ……」

 

「い、いや、言ってなかったか? そうか、そりゃ悪かった。ハハハ……」

 

「って言うか、俺と一夏は連絡せずに来たから、弾が知らないのも無理はないんだがな。何でもかんでも兄の所為にするのはどうかと思うぞ?」

 

「………………………」

 

 俺の台詞を全く聞いていない蘭はギロリと弾を睨みつけ、そそくさと部屋を出て行こうとする。

 

「あ、あの、よかったら一夏さんもお昼どうぞ。まだ、ですよね?」

 

「あー、うん。いただくよ。ありがとう」

 

「い、いえ……」

 

「おい妹さん、俺も食べるが構わないよな?」

 

「…………どうぞご勝手に」

 

 やっと蘭が俺に口を開いたかと思えば、斬って捨てるような返事をして来る。お熱な一夏以外はどうでもいいってか?

 

 そう考えていると、蘭はぱたんとドアを閉めて静寂が訪れる。

 

「しかし、アレだな。蘭ともかれこれ三年の付き合いになるけど、まだ俺に心を開いてくれないのかねぇ」

 

「「は?」」

 

 一夏の台詞に素っ頓狂な声を発する俺と弾。正直コイツが何を言ってるのかがさっぱり分からなかった。

 

「いや、ほら、だってよそよそしいだろ。今もさっさと部屋から出て行ったし」

 

「「……………………」」

 

 呆れながらはあっと溜息を漏らす俺と弾だったが、弾だけはふうと気を吐く。

 

「……二人揃って何だよ?」

 

「なあ和哉。俺はさあ、一夏はわざとやっているのかと思うときがあるぜ」

 

「それはいつもの事だろ。同時に弾にとっては好都合だと思うが?」

 

「そうだな。俺はこんなに歳の近い弟はいらんし」

 

「? お前等、一体何の話しをしてるんだ? ってか何でいきなり弟が出てくる? わけわからんぞ」

 

 俺と弾の会話に一夏が不可解な顔になって訊いてくるが一切無視だ。コイツに話したところで理解しないのは目に見えてるからな。

 

「まあ、いいや。とりあえず此処で飯食ってから町にでも出るか。一夏や和哉もそっちの方がいいだろ?」

 

「おう、そうだな。昼飯ゴチになる。サンキュ」

 

「良いのか? お前の家は食堂だから金は払うぞ」

 

「なあに気にするな。どうせ売れ残った定食だろう……ってそう言えば和哉は、アレあんまり好きじゃなかったんだっけ?」

 

 弾が思い出したかのように俺に言ってきた。売れ残った定食は恐らくカボチャ煮定食って事か。

 

「あのカボチャは滅茶苦茶甘すぎてご飯と一緒に食えないんだよな。弾には悪いが、俺は『業火野菜炒め』を注文させてもらうよ。勿論ちゃんと金は払う」

 

「おい和哉、食わせてもらえるだけでもありがたいってのにお前は。農家の人へと料理を作った人への感謝を――」

 

 顔を顰めながら俺に説教しようとする一夏だったが……。

 

「ま、確かにアレをご飯と一緒に食うってのは正直俺もちょっとな……。ま、金払うなら別に構わないぜ。ほら一夏、説教はいいから早く行こうぜ」

 

 弾が俺と同じ考えのようで、一夏の説教を中断させて部屋から出ようと促してくる。

 

 そして俺と渋々従う一夏は弾に続いて部屋を出て一階に行き、一度裏口から出て、正面の食堂入り口にと戻る。

 

 内心少し面倒だなって思っていると……。

 

「うげ」

 

「ん?」

 

「どうかしたのか?」

 

「…………………」

 

 露骨に嫌そうな声を出す弾に、一夏と俺は後ろから覗く。

 

 そこには俺達の昼食が用意してあるテーブルがあるんだが、先客が無言で立っていた。

 

「なに? 何か問題でもあるの? あるならお兄と和哉さんだけ外で食べてもいいよ」

 

「聞いたか和哉? 今の優しさに溢れた言葉。泣けてきちまうぜ」

 

「ま、それだけ妹さんは一夏と二人で食べたいって言う魂胆が見え見えなのが良く分かるよ」

 

「んなっ! な、何を言ってるんですか和哉さん!」

 

 手で涙を拭う弾を見て俺がちょっとばかり嫌味を言うと、蘭は図星を突かれたかのように顔を真っ赤にした。

 

「いや、別に四人で食べればいいだろ。それより他のお客さんもいるし、さっさと座ろうぜ」

 

「そ、そうよバカ(にい)と和哉さん。さっさと座ったらどうですか?」

 

 一夏の発言に蘭が頷きながら座るように促してきた。さっきと言ってる事が矛盾してるんだが。

 

「へいへい……」

 

「はいはい……」

 

 弾と俺は蘭の台詞に呆れながらテーブルに座った。因みにテーブルには俺、一夏、弾、蘭の並びで座っている。

 

 そんな時、一夏が今更何か気付いたように蘭を見る。

 

「蘭さあ」

 

「は、はひっ?」

 

「着替えたの? どっか出かける予定?」

 

「あっ、いえ、これは、その、ですねっ」

 

 一夏の問いにすぐに答えれずどう言おうかと悩んでいる蘭。

 

 因みに蘭の格好はさっきまでのラフな格好ではない。髪をしゅるりと下ろしたロングストレートで、服装は薄手で半袖のワンピースを纏っている。そしてわずかにフリルの付いた黒いニーソックスだ。

 

 今更着飾ったところで一夏は別に気にしないと思うんだがな。ま、好きな人には綺麗に見せたいと言う恋する乙女の行動なんだろう。

 

「ああ!」

 

 一夏が何か閃いたかのように声を上げて……。

 

「デート?」

 

 

ダンッ!

 

 

「違いますっ!」

 

 見当違いな発言をすると、蘭はテーブルを叩いて即時否定をした。一夏の鈍感は相も変わらずだな。

 

「ご、ごめん」

 

「あ、いえ……。と、とにかく、違います」

 

「違うっつーか、むしろ兄としては違って欲しくもないんだがな。何せお前そんなに気合のむぐっ!」

 

「そこまでにしておけ、弾。妹さんがお前の口をアイアンクローで口封じするつもりだぞ」

 

「!!!」

 

「………ちっ!」

 

 俺が咄嗟に口を塞ぐと弾は即座に黙り、アイアンクローをやろうとした蘭は舌打ちをした。

 

「舌打ちはいけないぞ、妹さん。猫被りの鍍金(めっき)()げかけてるぞ?」

 

「な、何を言ってるんですか和哉さん? 私は猫を被ってなんか……」

 

「ほう。じゃあそう言うんなら一夏に君がその服を着た理由を俺が教えても良いんだな?」

 

「! あ、あなたが言う必要はありません! 言っておきますけど和哉さん、もし喋ったら……!」

 

「何だ? 俺を黙らせようってか? 君程度で俺を黙らせるのは無理だと思うが?」

 

 蘭が俺にアイアンクローをやりそうな雰囲気を出していると……。

 

「何かさ。和哉と蘭って仲良いな」

 

「はい?」

 

「はあ!?」

 

 一夏がまた見当違いな発言をした事に俺は素っ頓狂な声を出し、蘭は物凄く嫌そうな返事をした。おいコラ蘭。一夏に誤解されたくないとは言え、いくらなんでもそれは失礼だと思うんだが?

 

「食わねえんなら下げるぞガキども」

 

「く、食います食います」

 

 突然現れたのは五反田食堂の大将にして弾と蘭の祖父である、五反田(ごたんだ)(げん)さんだった。八十過ぎてもなお現役で食堂を経営してるって凄い人だよ。

 

 この人は長袖の調理服を肩まで捲くり上げ、剥き出しになっている腕は筋肉隆々。中華鍋を一度に二つ振るその両の豪腕は、熱気に焼けて年中浅黒い。師匠も筋肉はあるが、この人と違って絞り込まれた筋肉だから対照的だ。

 

 因みに一夏は何度も厳さんの拳骨を喰らっており、一夏曰く『千冬姉に勝るとも劣らない威力』だそうだ。俺の場合は拳骨を喰らう直前に防いでいるから一夏の言う痛みを味わった事はない。

 

 それともうついでに厳さんは師匠とは古くからの知り合いでもあるらしい。まぁ取り敢えず今は昼飯を頂くとしよう。

 

「いただきます」

 

「いただきます」

 

「いただきます……」

 

「いただきますっと」

 

 一夏、蘭、弾、俺の順番で言うと……。

 

「おう。食え」

 

 厳さんは満足気に頷いて台所に行くと次の料理を始める。そこでは俺が注文した二重の意味で五反田食堂鉄板メニュー『業火野菜炒め』の注文が他にも入ったらしく、あっと言う間に野菜を包丁で軽やかに切っている音が響く。

 

 そしてジュウジュウと野菜を炒める音をバックに、俺達は食事の合間に雑談を始める。

 

 何故そうしなければいけないのかと言うと、食べ物を噛みながら喋ってる最中に中華鍋が飛んでくるからだ。マナー違反をする相手が客でも身内でも厳さんは容赦無いのだ。

 

「でよう一夏。鈴と、えーと、誰だっけ? ファースト幼なじみ? と再会したって?」

 

「ああ、箒な」

 

「ホウキ……? 誰ですか?」

 

「ん? 俺のファースト幼なじみ」

 

「ちなみにセカンドは鈴な」

 

「ああ、あの……」

 

 俺は会話に入らずに業火野菜炒めを食べながら一夏達の会話を聞いている。蘭を見ると、鈴の話になった途端にほんの僅かに表情が硬くなる。蘭は鈴が一夏の事が好きなのを知っているからな。言うなれば二人は恋のライバル同士みたいなもんだ。

 

「そうそう、その箒と同じ部屋なんだよ。まあもうすぐで和哉と――」

 

 

がたたっ!

 

 

「お、同じ部屋!?」

 

 箒と相部屋だと知った蘭は取り乱して立ち上がる。後ろではワンテンポ送れて椅子が床に転がった。

 

「ど、どうした? 落ち着け」

 

「そうだぞ落ち着け」

 

「ま、今の蘭に落ち着けって言っても無駄だと思うがな」

 

 

ギンッ!

 

 

 おおっ。今度は弾だけじゃなくて俺も睨まれた。弾は小さくなるが、俺はその程度で全然怯えない。

 

 マナー違反をしている蘭に台所から何かが飛んでもおかしくない筈なのだが、厳さんは蘭の行動を咎めなかった。あの人は蘭には甘いからな。もし俺達が蘭と同じような事をしたら高速のおたまが飛んでくる。同じ孫娘を持つ師匠も綾ちゃんには甘いが厳さん並みじゃない。

 

「い、一夏、さん? 同じ部屋っていうのは、つまり、寝食をともに……?」

 

 取り乱している蘭は古い言い回しをしながら一夏に尋ねる。本人からすれば遠回しに訊いているんだろうけど。

 

「まあ、そうなるかな。でもそろそろ和哉と一緒の部屋になるって言ってたし」

 

「余りにも遅すぎる対応だったがな」

 

 ふむふむ。業火野菜炒めについてるタレは本当にご飯と合うな。 

 

「い、一ヵ月半以上同せ――同居していたんですか!?」

 

「ん、そうなるな」

 

 一夏が答えると蘭はくらっとした直後……。

 

「和哉さん! あなたがいながら今まで何をしていたんですか!?」

 

「んなもん知るか。文句を言いたければ千冬さんに言ってくれ。君が千冬さんの決めた事に文句が言えるのか?」

 

「ぐっ……!」

 

 俺に怒鳴ろうとしたが、予め用意した返答に言い返すことが出来なくなった。

 

 反撃出来なくなった蘭は次に汗をダラダラ流している弾に標的を変える。

 

「……お兄。後で話し合いましょう……」

 

「お、俺、このあと一夏と和哉と一緒にでかけるから……。ハハハ……」

 

「では夜に」

 

 有無を言わせぬ口調だった。俺に八つ当たりが出来なくなったからといって、兄で鬱憤を晴らすとは。

 

「……。決めました」

 

 蘭が何か決断した事に俺は何か嫌な予感がした。

 

「私、来年IS学園を受験します」

 

 ………この子、正気か?

 

 

がたたっ!

 

 

「お、お前、何言って――」

 

 蘭の発言に弾が立ち上がると……。

 

 

ビュッ―――――ガン!

 

 

 台所からおたまが飛んできて、弾の顔面に見事直撃した。厳さん、アンタ同じ孫でも贔屓しすぎだと思うんだが。

 

「え? 受験するって……なんで? 蘭の学校ってエスカレーター式で大学まで出れて、しかも超ネームバリューのあるところだろ?」

 

「大丈夫です。私の成績なら余裕です」 

 

「IS学園は推薦ないぞ……」

 

「弾、大丈夫か?」

 

 よろよろと立ち上がる弾に気遣う俺。弾は体力が低いけど復活が早いと言う隠れた特徴を持っている。と言っても、あまり意味の無い性能だが。

 

「お兄と違って、私は筆記で余裕です」

 

「いや、でも……な、なあ、一夏! 和哉! あそこって実技あるよな!?」

 

「ん? ああまるな。IS起動試験っていうのがあって適性がまったくないやつはそれで落とされるらしい」

 

「ついでにその試験はそのまま簡単な稼働状況を見て、それを元に入学時点でのランキングを作成するらしいぞ」

 

 弾の問いに一夏と俺が答える。一夏が試験管の時は山田先生らしく。俺の時は……確か試験管の先生は俺にワンサイドゲームで負けて自信喪失した上に、辞表を出してIS学園を去って行ったと言ってたような気が……まぁいいか。何かあの試験官は女尊男卑に染まってた人だったしな。

 

「……………」

 

 無言でポケットからなにやら紙を取り出す蘭に、それを受け取って開く弾は……。

 

「げえっ!?」

 

 見た瞬間に不味いと言うような声を出した。

 

「弾、それには何て書いてあるんだ?」

 

「IS簡易適正試験……判定A……」

 

「おいおい……」

 

「問題はすでに解決済みです」

 

 書かれている紙を読む弾に俺が呆れると、蘭が得意そうに言って来る。

 

「それって希望者が受けれるやつだっけ? たしか政府がIS操縦者を募集する一環でやってるっていう」

 

「はい。タダです」

 

 思い出したかのように言う一夏に、蘭がそう答える。

 

 タダはいい。タダであればあるほどいい。何て言って頷いているのは台所にいる厳さん。

 

 本当、蘭に甘いんだなこの人……ってか厳さん。アンタは本当にそれで良いのか?

 

「で、ですので」

 

 こほんと咳払いをして、戻したばかりのイスにちょこんと座る蘭。

 

「い、一夏さんにはぜひ先輩としてご指導を……」

 

 まさかこの子、そんな事の為にIS学園に入学する気なのか? 他にも一夏と一緒にいたいが為でもあるが、俺から言わせれば蘭の考えてる事はハッキリ言って馬鹿げてる。人殺しの兵器を使おうとする事に蘭は何の躊躇いも無いのか?

 

「ああ、いいぜ。受かったらな」 

 

 後の事を全く考えていない一夏は安請け合いをする。一夏、お前なぁ。

 

「や、約束しましたよ!? 絶対、絶対ですからね!」

 

「お、おう」

 

 安請け合いをした一夏に蘭は食いついて念を押すと、一夏はこくこくと二回頷く。その事に弾は物凄く反応した。

 

「妹さん、君は自分が何をやろうとしているのか分かっているのか?」

 

「か、和哉の言うとおりだぞ蘭! お前何勝手に学校変えることを決めてんだよ! なあ母さん」

 

「あら、いいじゃない別に。一夏くん、蘭のことよろしくね」

 

「あ、はい」

 

 今度は母親かよ。確かこの人は五反田食堂の自称看板娘、五反田(れん)さんだったな。実年齢は秘密だそうで、本人曰く『二八から年をとってないの』だそうだ。ニコニコ笑顔により、愛嬌があると実質以上に人を美しく見せている。

 

 ってかこの人も蘭のやろうとする事をまるっきり理解していないようだな。

 

「はい、じゃねえ!」

 

 一夏の返事に弾が怒鳴る。弾だけが良く分かっているみたいだな。

 

「ああもう、親父はいねえし! いいのか、じーちゃん!」

 

「蘭が自分で決めたんだ。どうこう言う筋合いじゃねえわな」

 

「いやだって――」

 

「なんだ弾、お前文句があるのか?」

 

「……ないです」

 

 あらら、厳さんの威圧に弾が負けてしまったな。

 

 仕方ない。此処は俺が敢えて嫌われ役を演じ、蘭にはIS学園に入学しないよう阻止するか。

 

「俺は文句ありますね」

 

「ああ? なんか言ったかボウズ? お前も蘭のやる事にケチを付けるのか?」

 

 俺の台詞に厳さんは声を低くしながら訊いてきた。

 

「ケチとかそう言う問題じゃありません。と言うか俺としては妹さんがIS学園に入学する事を反対しない貴方達に呆れています」

 

「んなっ!」

 

「お、おい和哉……お前何を」

 

 事実を言う俺に蘭が物凄い反応をして、一夏が急に心配そうに俺を見てくるが無視だ。

 

「妹さん、君は自分が何をやろうとしている事が全く分かっていない。IS学園に入学するのは止めておくんだな」

 

「な、何であなたにそんな事を言われなきゃいけないんですか!?」

 

 俺が言った直後に蘭が怒鳴ると……。

 

「ちょ、ちょっと和哉くん、どうして君は蘭の決めたことを否定するの?」

 

「おいボウズ。テメエ俺に喧嘩売ってるのか?」

 

 蓮さんが咎めるように言い、厳さんは今すぐに俺を殴りそうな雰囲気を出していた。

 

「貴方達が蘭がIS学園に入学した後の事を全く考えていないからですよ。それと厳さん、俺は弾と違ってその程度の脅しでは屈しませんから無駄ですよ」

 

「んだとテメエ!」

 

「あ、あなたって人は……! 私だけじゃなくお母さんやお爺ちゃんまで……!」

 

 もう堪忍袋が切れそうな厳さんと蘭は俺に掴みかかろうとしている。

 

「止めなさい、蘭。それにお義父さんも」

 

 そんな二人の行動をお見通しと言うか、蓮さんが即座に止めた。

 

「お母さん! 何で止めるのよ!」

 

「蓮さん、アンタは娘の蘭にあんな事言われて何とも――」

 

「お義父さん、話は最後まで聞いて下さい。和哉くんが私たちにあんな風に言うって事は何か理由がある筈です。そうでしょ? 和哉くん」

 

「ええ、まぁ」

 

「だそうですよ、お義父さん。ここは一先ず和哉くんの話しを聞いてからにしませんか? 蘭、あなたもよ」

 

「「………………………」」

 

 有無を言わせない口調で言う連さんに、蘭と厳さんが押し黙った。流石の厳さんも蓮さんには逆らえないみたいだな。

 

「では聞かせて貰いましょうか、和哉くん」

 

「分かりました。けどその前に……」

 

 話しを聞こうとする蓮さんに俺は一夏と弾を見て……。

 

「お前等、悪いが一切口出しはしないでくれよ。話してる最中に割って入られたら困るからな」

 

「わ、分かった……」

 

「ああ。蘭が考えを改めさせてくれるなら、俺は何も言わねえよ」

 

 念を押すと一夏は取り敢えず頷き、弾は即座に頷く。

 

「では始めますか。俺が何故貴方達に向かってあんな事を言ったのかを」

 

 そして俺は蘭のIS学園入学拒否についての理由を話し始めた。

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