インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~ 作:さすらいの旅人
「では、本日から格闘及び射撃を含む実戦訓練を開始する」
「はい!」
セシリアと鈴による出席簿アタックが響いた後、千冬さんの言葉に一組と二組は大きく返事をする。
「くうっ……。何かというとすぐにポンポンと人の頭を……」
「……一夏と和哉のせい一夏と和哉のせい一夏と和哉のせい」
叩かれた箇所が未だに痛いのか、セシリアと鈴は涙目になりながら頭を押さえていた。
それと鈴、自業自得だってのに俺と一夏の所為にするなよ。騒いだお前が悪いんだから。
俺が内心そう考えていると、鈴は前にいる一夏に蹴りをいれてた。千冬さんに注意されたにも拘らず全然懲りてないな。
「今日は戦闘を実演してもらおう。ちょうど活力が溢れんばかりの十代女子もいることだしな。――凰! オルコット!」
「な、なぜわたくしまで!?」
そりゃあ鈴と同じく騒いでいたからな。もうついでに諦めておけセシリア。千冬さんに意見を言ったところで無駄だから。
「専用機持ちはすぐにはじめられるからだ。いいから前に出ろ」
「だからってどうしてわたくしが……」
「一夏と和哉のせいなのになんでアタシが……」
「(なあ和哉。俺どうすれば良いんだ?)」
「(今のアイツ等に何を言っても無駄だから放っておけ)」
セシリアと鈴の不満に一夏が小声で話しかけてくるので、俺は切り捨てるように言う。
「お前らすこしはやる気を出せ。――アイツにいいところを見せられるぞ?」
千冬さんの言葉に二人は、
「やはりここはイギリス代表候補生、わたくしセシリア・オルコットの出番ですわね!」
「まあ、実力の違いを見せるいい機会よね! 専用機持ちの!」
まんまと乗せられてやる気充分になった。
アイツ等って一夏関連の事になるとホントに単純なんだな。
「(千冬姉さっき何て言ったんだ?)」
「(一種の激励をしただけだ)」
「(はあ? 何だそりゃ?)」
お前を使っての激励だよ、一夏。
「それで、相手はどちらに? わたくしは鈴さんとの勝負でも構いませんが」
「ふふん。こっちの台詞。返り討ちよ」
「慌てるなバカども。対戦相手は――」
キィィィィン……。
ん? 何か上から空気を裂く音が聞こえるな……って、おい!
「ああああーっ! ど、どいてください~っ!」
何かこっちに向かって落ちてきているので、取り敢えず俺は疾足を使って避けた瞬間、
ドカーンッ!
上空から落ちてきた飛行物体は一夏に激突した。物の見事に喰らった一夏は数メートル吹っ飛ばされた後、ゴロゴロと地面を転がっていた。それでも白式の展開はしてたから一応無事だ。
けど間一髪だったな。もし反応が遅れてたら、俺も一夏と同じ目に遭って……ん?
「あ、あのう、織斑くん……ひゃんっ!」
うわぁすげぇな一夏の奴。状況が状況とは言え、山田先生を押し倒してる上に胸を鷲掴みしてるよ。
「そ、その、ですね。困ります……こんな場所で……。いえ! 場所だけじゃなくてですね! 私と織斑君は仮にも教師と生徒でですね! ……ああでも、このまま行けば織斑先生が
山田先生も山田先生で何やら妄想してるし。あの人は本当に妄想癖が酷いな。
にしても羨ましいな一夏。事故とは言え山田先生の胸を掴むなんて。このラッキースケベ。
そう思ってると、セシリアと鈴がいつの間にかISを纏って一夏に攻撃しそうな態勢となっていた。
「おい一夏、いつまでも山田先生の胸を掴んでないで早く避難しないと死ぬぞ」
「え――ハッ!?」
俺の声に反応した一夏は殺気を感じて即座に山田先生から体を離した。その直後、一秒前まで一夏の頭があった場所をレーザー光が貫いた。
「ホホホホホ……。残念です。和哉さんが余計な事を言ったせいで外してしまいましたわ……」
うわ怖い。顔は笑ってるけど、額にはハッキリと血管が浮いてるよ。ってかセシリア、本気で一夏を殺す気だったのかよ。早く言って良かった。
次にガシーンと何かが組み合わさる音が聞こえた。今の音は確か鈴の武器である《双天牙月》を連結した音だったな。
鈴もセシリアと同じく一夏を殺す気満々で《双天牙月》を大きく振りかぶって投げた。
「伏せろ一夏!」
「うおっと!」
一夏は俺の言われたとおり仰向けに倒れる。だがそれがいけなかった。
投げた《双天牙月》はブーメランと同じく返ってきていた。不味い! あれじゃ一夏でもかわせない!
「はっ!」
ドンッドンッ!
右腕にIS部分展開をして刀で《双天牙月》弾こうと思っていた俺だったが、短く二発の火薬銃の音が響いた。弾丸は的確に《双天牙月》の両端を狙い、一夏を狙っていた軌道を変える。
「………お見事」
そう言った俺は一夏のピンチを救った山田先生を見る。彼女が鈴が投げた《双天牙月》を両手でしっかりと持ち構えていた銃を撃ったからだ。
しかも倒れたままの体勢から状態だけを僅かに起こして射撃を行ったにも拘らずあの命中精度。今までの雰囲気や、ドジなところを見せる山田先生とは全く違い、落ち着き払っている。
「………………」
当然驚いているのは俺だけじゃなく、一夏・セシリア・鈴は勿論、他の女子も唖然としたままだ。
「山田先生はああ見えて元代表候補生だからな。今くらいの射撃は造作もない」
「む、昔のことですよ。それに候補生止まりでしたし」
候補生止まりでも今の射撃を見れば充分凄いと思いますよ。俺がそう思ってると、山田先生の雰囲気がいつもの感じに戻っていた。
まるでさっきまでカッコ良かった山田先生が、急にいつもの可愛らしい山田先生に戻った感じだ。
「さて小娘どもいつまで惚けている。さっさとはじめるぞ」
「え? あの、二対一で……?」
「いや、さすがにそれは……」
「安心しろ、今のお前たちならすぐ負ける。未だ量産機である神代に勝てないお前たちではな」
ちょっとちょっと千冬さん。貴方何勝手に人を引き合いに出すんだよ。セシリアと鈴が瞳に闘志を滾らせてるし。確かセシリアは入学試験の時に山田先生と一度戦って勝ったから、千冬さんに負けると言われて更に力が漲ってるな。
「では、はじめ!」
号令と同時にセシリアと鈴が飛翔すると、山田先生が目で確認してから空中へと躍り出た。
「手加減はしませんわ!」
「さっきのは本気じゃなかったしね!」
「い、行きます!」
言葉とは裏腹に、山田先生の目は先程一夏を助けた時の鋭く冷静な物へとなってる。先制攻撃を仕掛けるセシリアと鈴だったが、それはすぐに回避された。
「さて、今の間に……そうだな。ちょうどいい。デュノア、山田先生が使っているISの解説をしてみせろ」
「あっ、はい」
空中での戦闘を見ながら、千冬さんはシャルルに指示すると説明を始めた。
「山田先生の使用されているISは――」
シャルルの説明を聞きながらも俺は空中の戦闘をジッとみている。
セシリアがビット、鈴が衝撃砲を撃っても山田先生は何の問題無く回避してはシールドエネルギーで防いでいた。その後に山田先生が空かさずに銃で反撃すると、セシリアと鈴はすぐに避ける。
一見、互角な戦いをしてるように見えるが実際は違う。山田先生は二人が避けるのを分かってて銃を撃っている。そうしてる理由は二人を誘導しているからだ。そうされた事により、山田先生の射撃を避けていた二人は物の見事にぶつかる。
「織斑先生、もう終わりそうですよ」
「そのようだな。ああデュノア、いったんそこまででいい」
千冬さんがシャルルに説明を終わらせるように言うと、空中で戦っている山田先生はセシリアと鈴がぶつかった直後にグレネードを投擲する。そして爆発が起こり、煙の中から二つの物体が地面に落下した。
「くっ、うう……。まさかこのわたくしが……」
「あ、アンタねえ……何面白いように回避先読まれてんのよ……」
「り、鈴さんこそ! 無駄にばかすかと衝撃砲を撃つからいけないのですわ!」
「こっちの台詞よ! なんですぐにビットを出すのよ! しかもエネルギー切れるの早いし!」
「ぐぐぐぐっ……!」
「ぎぎぎぎっ……!」
主張していがみ合うセシリアと鈴に俺は呆れた。
「お前等、人の事をああだこうだ言う前に自分のやった事について反省しろ」
「「何ですって!」」
俺の突っ込みに二人は睨んでくるが、
「先ずセシリア。急造とは言え今回は鈴とペアを組んだにも拘らず、援護で使う筈のビットが全く活かされてない。鈴をそっちのけに攻撃してちゃ意味無いだろうが」
「う……」
「そして鈴、近接戦の武器があるのに衝撃砲ばかり使ってどうする。射撃中心の山田先生相手に近接戦で挑めば、もしかしたら状況が変わってたかもしれないぞ」
「うぐ……」
指摘されると何も言い返せなくなった。
とは言え、ベテランの山田先生相手では今のコイツ等が連携をしても勝てる気がしない。千冬さんもそれを分かった上で二人掛かりで挑ませたからな。
「さて、これで諸君にもIS学園教員の実力は理解できただろう。以後は敬意を持って接するように」
ぱんぱんと手を叩いて言う千冬さん。
成程な。山田先生が普段から生徒達に舐められているから、セシリアと鈴を戦わせて実力差を教えさせたかったんだろう。そうした事により、生徒達は山田先生を見て未だに驚いているし。
「専用機持ちは織斑、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰だな。では九人グループになって実習を行う。各グループリーダーは専用機持ちと神代がやること。いいな? では分かれろ」
千冬さんが言い終わった直後、女子達の大半が一夏とシャルルに詰め寄った。あの二人って本当に人気あるな。別にどうでもいいけど。
「モテる男達は辛いねぇ」
「ねぇかずー、私かずーに教えて貰いたいんだけどいいかな~?」
「別に良いよ。と言うか君は一夏達の所に行かないのか?」
「私はおりむー達よりかずーがいいー」
俺が良いなんて布仏は随分と物好きだな。ま、悪い気はしないけど。
そんな俺と布仏のやり取りを余所に、女子達に囲まれている一夏とシャルルに千冬さんが面倒くさそうに額を指で押さえながら低い声で告げる。
「この馬鹿者どもが……。出席番号順に一人ずつ各グループに入れ! 順番はさっき言った通り。次にもたつくようなら今日はISを背負ってグラウンド百周させるからな!」
千冬さんの鶴の一声により、一夏とシャルルにわらわらと群がっていた女子達は蜘蛛の子を散らすが如く移動し、それぞれの専用機持ちグループ(+俺)は二分とかからず出来上がった。因みに俺の所は布仏を含めた1組の女子だけだ。
「最初からそうしろ。馬鹿者どもが」
溜息を漏らしてる千冬さんに内心頷いてる俺。そんな中、各班の女子はバレないようにぼそぼそとお喋りをしていた。
「……やったぁ。織斑君と同じ班っ。名字のおかげねっ……」
「……うー、セシリアかぁ……。さっきボロ負けしてたし。はぁ……」
「……鳳さん、よろしくね。あとで織斑君のお話聞かせてよっ……」
「……デュノア君! わからないことがあったら何でも聞いてね! ちなみに私はフリーだよ!……」
「……神代君、お手柔らかに頼むね……」
「…………………………」
やはりと言うべきか、唯一お喋りが無いのがシャルルと同じ転校生であるドイツから来たラウラ・ボーデヴィッヒの班だ。
張り詰めた雰囲気と言っても良い。そして人とのコミュニケーションを拒んでいるオーラ。生徒達をまるでつまらないように含む冷たい眼差し。極め付けは一度も開いてない口。
教室で会った時からアイツは初めからああだったからな。おまけに軍人気質だから、生徒達のISに対する認識に怒りを通り越して呆れているんだろう。ボーデヴィッヒとは共感出来る部分があるな。
「ええと、いいですかーみなさん。これから訓練機を一斑一体取りに来てください。数は『打鉄』が四機、『リヴァイヴ』が二機です。好きな方を班で決めてくださいね。あ、速い者勝ちですよー」
お、山田先生が普段の授業とは違ってしっかりしてるな。さっきの模擬戦で自信を取り戻したんだろう。もし眼鏡を外せば『仕事の出来る女』に見えそうだ。
けどまぁ……堂々とした態度を見せるのは良いんだが、十代の乙女には無い豊満な胸までも惜しげなく晒すのはちょっとな。特に山田先生が時折見せる眼鏡を直す癖。それをする事であの大きな胸に自らの肘が触れて、弾力があって柔らかい果実を揺らすのはなぁ……正直、男ゆえについ目が行ってしまう。
「……………む~~~!」
ギュウ~~~~!
「……何してるんだ、布仏さん?」
いきなり布仏に左の頬を抓られてる俺。
「かずーがまやまやに大していやらしい目で見てたからー」
「そんな目をした憶えは無いが?」
「誤魔化しても無駄だよー。私には分かるんだからー」
「はいはい、悪かったよ。悪かったからもう放してくれないか?」
適当に言ったところで布仏が納得しないと思って妥協する俺だった。下手な事を言うと却って不味いかもしれないから。
布仏が頬を抓ってる手を放すと、近くにいた女子達がヒソヒソと話していた。
「何かあの二人、痴話喧嘩してるわね……」
「神代君にあんな事出来るのって、未だに本音だけよ」
「ほっぺを抓られてる神代君は全然怒る様子を見せないで謝ってるし」
「やっぱり神代君と本音って実は付き合ってるんじゃないのかって私思うんだけど……」
「だよねぇ~。同じ部屋にいる内に、お互い惹かれ合って結ばれたってやつかな?」
女子達が何か訳の分からん事を言ってるが、取り敢えず無視してさっさと始めるとしよう。さっき山田先生が速い者勝ちだって言ってたから、『リヴァイヴ』にするか。
そして『リヴァイブ』を借りた俺は布仏達のいる所へ戻る。
「さて、今からこのISを一人ずつ――」
『各班長は訓練機の装着を手伝ってあげてください。全員にやってもらうので、設定でフィッティングとパーソナライズは切ってあります。とりあえず午前中は動かすところまでやってくださいね』
言ってる最中にISのオープン・チャネルで山田先生が連絡してきた。取り敢えず装着の手伝いと起動に、歩行をやれば良いみたいだな。ではそうするか。
「――俺が装着の手伝いをして起動した後に歩行をする。良いな?」
『は~い』
「よし、じゃあ先ずは……」
女子達の返事を聞いてすぐに一人の女子を当てようとすると、
『はいはいはーいっ! 出席番号一番! 相川清香! ハンドボール部! 趣味はスポーツ観戦とジョギングだよ!』
『お、おう。ていうかなぜ自己紹介を……』
『よろしくお願いしますっ!』
一夏の班で、相川が自己紹介をして腰を折って深く礼をしながら右手を差し出してた。その事に一夏が戸惑っている。
『ああっ、ずるい!』
『私も!』
『第一印象から決めてました!』
相川の行動に、一夏の班にいる女子達も同様に頭を下げたまま右手を突き出していた。
更には、
『『『お願いしますっ!』』』
シャルルの班でも女子達がお辞儀と握手待ちの手を並べていた。
『え、えっと……?』
シャルルも一夏と同様に状況が飲み込めておらずに戸惑う一方である。
「………アイツ等は一体何やってるんだ?」
「あれは二人に第一印象を決めてるんだよー」
俺が呆れたように言ってると、布仏が説明するように言った。
「そうだよ神代君。あれは女の子にとって必要な事なのよ」
「でも良いなぁ~。私も織斑君やデュノア君にああしたかったな~」
「見てて羨ましい~」
「ほう? じゃあシャルル班の所にいるあのお方の前でもそんな事が言えるのか?」
「「「え?」」」
シャルル班にいる女子達の方に視線を向けると、
スパーン!
『『『いったああっっ!』』』
千冬さんに頭を叩かれ、見事なハモり悲鳴をあげていた。一列に並んでいるからさぞかし叩き易かっただろうな。
『やる気があってなによりだ。それならば私が直接見てやろう。最初は誰だ?』
『あ、いえ、その……』
『わ、私たちはデュノア君でいいかな~……なんて』
『せ、先生のお手を煩わせるわけには……』
『なに、遠慮するな。将来有望なやつらには相応のレベルの訓練が必要だろう。……ああ、出席番号順ではじめるか』
『『『ひぃっ』』』
死刑宣告に近い千冬さんの発言に、シャルル班女子は完全に恐怖していた。
「で、あれを見て羨ましいと思えるのか?」
「「「…………………」」」
俺が訊くと何とも言えない顔で無言になる布仏を除く俺の班の女子達。
「さ、早く始めよう神代君」
「そうそう。始めないと織斑先生がコッチに来ちゃうね」
「いつでも準備万端だよ、神代君」
「そうだな。それじゃあ先ずは――」
すぐに頭を切り替えた女子達は巻き添えを喰らわないよう、早く練習を始めるよう催促してきたので、俺はすぐに一人の女子を当ててISの装着の手伝いをした。