インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~   作:さすらいの旅人

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久々に投稿しました。
遅れすぎて本当に申し訳ありません。
ではどうぞ!


第41話

「ったく。一夏の奴、いつまで待たせるんだ……」

 

 食堂前で俺は一夏が来るのを待っていた。本来であれば既に夕食を食べているのだが、いつもの指定時間の30分以上を過ぎてるにも拘らず一夏が来ていない。

 

「全くだ。遅すぎるにも程がある……!」

 

 そして隣には俺と同じく一夏を待っている箒がいた。夕食の指定時間には必ずと言って良い程に箒も同伴して一緒に食べている。その後からはセシリアや鈴も加わり、騒がしい夕食の時間になってる事もあったが。

 

「一夏はどれだけ人を待たせれば気が済む……!」

 

「はあっ……。箒、悪いが席を確保しといてくれないか? 俺は一夏を連れてくる」

 

「ならば私も一緒に行こう」

 

「いや、態々二人で行く必要は無いだろう。それに箒、お前凄く腹が減ってるんだろう? 先に食べてて良いから」

 

「べ、別に私はそんなに――」

 

 

クゥ~~……。

 

 

 どこからか可愛らしい腹の虫が鳴ったのが聞こえた。発生源は言うまでも無く顔を赤らめている箒だ。

 

「『私はそんなに』……何だ?」

 

「……………ゴホンッ! さ、先に頂くとしよう」

 

 俺の問いに箒は恥ずかしくて居た堪れなかったのか、咳払いをしながら逃げるかのように食堂へ向かった。もし立場が逆だったら恐らく俺も箒と同じ事をしてるだろう。

 

「さてと、早速一夏の部屋に行くか」

 

 廊下には丁度人がいない事を確認した俺は、早めに目的地へ着く為に周囲を警戒しながら『疾足』を使った。特に千冬さんに見付からないように警戒しないと面倒な事になるから。

 

「よし到着っと」

 

 『疾足』を使って一夏とシャルルの部屋に到着して右手でノックをしようとすると、

 

『あちちっ。水っ、水っ』

 

『ご、ごめん! 大丈夫?』

 

『ま、まあ、たぶんすぐに冷やしたしヤケドにはならないだろ』

 

 ドアの向こうから一夏とシャルルの話し声が聞こえた。

 

「……あの二人は何してるんだ?」

 

 話し声から察するに一夏が何か熱い物に当たって水で冷やそうとしてるは分かるが、何が起きているのかがさっぱりだ。マナー違反だが盗み聞きさせてもらおう。

 

『すぐに氷もらってくるね!』

 

『ま、待て待て。その格好で外に出るのはマズイだろ。後で自分で取ってくる』

 

『でも――』

 

『それより、その……なんだ。さっきから胸が、な。当たってるんだが……』

 

『!!! …………心配しているのに……一夏のえっち……』

 

『なあっ!?』

 

 何だこの突っ込み所が満載な会話は。一部の女子が聞いたら絶対に舞い上がりそうな展開を予想しそうな……って違う!

 

「はぁっ……どうやら面倒な事になりそうだな」

 

 会話から察するに一夏がシャルルを女子の様に接している雰囲気が伝わるから、俺が考えていた仮定が確定になりつつある。

 

『ふう……。ここまで冷やせば大丈夫だろ。じゃあ、まあ、改めて』

 

『あ、待って一夏』

 

『どうした?』

 

『出来れば和哉を此処に呼んでくれないかな』

 

『和哉を? 何でだ?』

 

『えっと……多分、和哉は僕が女だって事を気付いてるかもしれないから』

 

 どうやら確定事項になってしまったみたいだ。予想してたとは言え、まさかシャルルが本当に女だったとは。これは後々面倒な修羅場展開になりそうだ。

 

『そう言えば和哉のやつ、シャルルに対して何か疑問を抱いてる様子を見せていたな。アイツ普段から鈍感だけど、妙に鋭いところがあるから――』

 

 

ガチャッ!

 

 

「お前に鈍感って言われたくねぇよ!」

 

「うおっ!」

 

「何で和哉がもういるの!?」

 

 一夏の聞き捨てならない台詞に俺が思わずドアを開けて突っ込みを入れると、一夏とシャルルが揃ってビックリしていた。

 

 

 

 

 

 

「んで、シャルルが女であるにも拘らず男装をしていた理由は何なんだ? 俺や一夏に近付く為にやったのか?」

 

「それは、その……実家の方からそうしろって言われて……」

 

 部屋に入って数分後、俺が此処に来た理由を二人に話し、今はシャルルから事情を尋ねている。

 

「うん? 実家っていうと、デュノア社の――」

 

「そう。僕の父がそこの社長。その人から直接の命令なんだよ」

 

 一夏が言ってる最中、シャルルはすぐに頷く。

 

「父親からの命令、ねぇ……」

 

「命令って……親だろう? なんでそんな――」

 

「僕はね、二人とも。愛人の子なんだよ」

 

 シャルルの発言に思わず絶句する俺と一夏。ソレは当然だ。普通に世間を知る俺達に、『愛人の子』と言う意味の言葉が知らない訳が無い。

 

「引き取られたのが二年前。ちょうどお母さんが亡くなったときにね、父の部下がやってきたの。それで色々と検査をする過程でIS適正が高いことがわかって、非公式ではあったけれどデュノア社のテストパイロットをやることになってね」

 

 あまり言いたくないであろう話しを健気に喋ってくれるシャルル。その事に俺と一夏は、何も言わず黙って話しを聞く事に専念した。

 

「父にあったのは二回くらい。会話は数回くらいかな。普段は別邸で生活をしているんだけど、一度だけ本邸に呼ばれてね。あのときはひどかったなぁ。本妻の人に殴られたよ。『泥棒猫の娘が!』ってね。参るよね。母さんもちょっとくらい教えてくれたら、あんなに戸惑わなかったのにね」

 

「「…………………」」

 

 あはは、と愛想笑いを繋げるシャルルであったが、その声はちっとも笑っていなかった。俺と一夏は何も返さずに無言である。特に一夏からは怒りを表していた。その証拠に拳をきつく握り締めているから。

 

「それから少し経って、デュノア社は経営危機に陥ったの」

 

「え? だってデュノア社って量産機ISのシェアが世界第三位だろ?」

 

「一夏、それはあくまで量産機に限った話だ」

 

「うん。和哉の言うとおり、結局リヴァイヴは第二世代型なんだよ。ISの開発っていうのはものすごくお金がかかるんだ。ほとんどの企業は国からの支援があってやっと成り立っているところばかりだよ。それで、フランスは欧州連合の統合防衛計画『イグニッション・プラン』から除名されているからね。第三世代型の開発は急務なの。国防のためもあるけど、資本力で負ける国が最初のアドバンテージを取れないと悲惨なことになるんだよ」

 

 そう言えば以前にセシリアが第三世代型の開発に関していくつか言っていたな。

 

 あれは確か訓練中に、

 

『現在、欧州連合では第三次イグニッション・プランの次期主力機の選定中なのですわ。今のところトライアルに参加しているのは我がイギリスのティアーズ(モデル)、ドイツのレーゲン型、それにイタリアのテンペスタⅡ型。今のところ実用化ではイギリスがリードしていますが、まだ難しい状況です。そのための実稼動データを取るために、わたくしがIS学園へと送られましたの』

 

 ってセシリアが軽く説明していたな。恐らくボーデヴィッヒもIS学園に入学したのはセシリアと似た事情だろう。

 

「話しを戻すね。それでデュノア社でも第三世代型を開発していたんだけど、元々遅れに遅れての第二世代型最後発だからね。圧倒的にデータも時間も不足していて、なかなか形にならなかったんだよ。それで、政府からの通達で予算を大幅にカットされたの。そして、次のトライアルで選ばれなかった場合は援助を全面カット、その上でIS開発許可も剥奪するって流れになったの」

 

「なんとなく話はわかったが、それがどうして男装に繋がるんだ?」

 

「成程。注目を浴びる為の宣伝と同時に、男子である俺達……いや、正確には一夏に近付く算段と言ったところか」

 

「え? 和哉、それって一体……?」

 

 俺が結論を出したにも拘らず、一夏は未だに分かっていなかった。シャルルの説明で大体分かる筈なんだがな。

 

「早い話、シャルルが男子と偽れば俺達と接触しやすく、更には機体と一夏のデータを取れるかもしれないって事だ。因みに本命が一夏で、俺はあくまでついでの一人ってとこだろ」

 

「俺の? そんなの俺より強い和哉のデータの方が良いんじゃないか……?」

 

「向こうから見たら全く無名である俺なんかより一夏を選ぶ。何しろお前は千冬さんの弟だからな。シャルルの国も方もそう思ってるんだろう?」

 

「そう、白式のデータを盗んでこいって言われているんだよ。僕は、あの人にね。そして万が一に盗めなかったら和哉のデータを盗めってね」

 

 あくまでシャルルの話しを聞く限りに過ぎないが、何とも酷い父親だ。いくらシャルルが愛人の子とは言え、自分の娘をここまで一方的に利用するとは。たまたまIS適正があったから、それなりの利用価値がある程度にしか思ってないだろう。

 

 当然、俺や一夏よりもシャルル自身分かっていると思う。でなければ、実の父親に対して他人行儀に話さないからな。父親でなく他人だと区別する為に。

 

 もし家族想いの師匠が聞いたら、絶対にシャルルの父親に対して憤慨するだろうな。

 

「とまあ、そんなところかな。でも一夏と和哉にばれちゃったし、きっと僕は本国に呼び戻されるだろうね。デュノア社は、まあ……つぶれるか他企業の傘下に入るか、どのみち今までのようにはいかないだろうけど、僕にはどうでもいいことかな」

 

「「…………………………」」

 

「ああ、なんだか話したら楽になったよ。聞いてくれてありがとう。それと、今までウソをついていてゴメン」

 

 深々と頭を下げるシャルルに俺は黙って見ていたが、一夏が肩を掴んで顔を上げさせていた。

 

「いいのか、それで」

 

「え……?」

 

「それでいいのか? いいはずないだろ。親が何だっていうんだ。どうして親だからってだけで子供の自由を奪う権利がある。おかしいだろう、そんなものは!」

 

「い、一夏……?」

 

「一夏、少し落ち着け。シャルルが戸惑っているだろうが」

 

 戸惑いと怯えの表情をしてるシャルルに俺が一夏を落ち着かせようとするが、当の本人は全く聞く耳持たずだった。

 

「これが落ち着いていられるか! 親がいなけりゃ子供は生まれない。そりゃそうだろうよ。でも、だからって、親が子供に何をしてもいいなんて、そんな馬鹿なことがあるか! 生き方を選ぶ権利は誰にだってあるはずだ。それを、親なんかに邪魔されるいわれなんて無いはずだ! 和哉だってそう思うだろう!?」

 

 恐らく一夏はシャルルの事でなく自分の事を言ってるのだろう。同時に千冬さんの事を思いながら。そうでなければ一夏がここまで強く言わないから。

 

「………まあ確かにそうだが、取り敢えず落ち着け」

 

「ど、どうしたの? 一夏、変だよ?」

 

「あ、ああ……悪い。つい熱くなってしまって」

 

 シャルルが加わった事により一夏はやっと落ち着いてくれた。

 

「いいけど……本当にどうしたの?」

 

「一夏はシャルルと似たような境遇だからな」

 

「え? それって……」

 

 思わず俺に訊こうとするシャルルだったが、

 

「俺は――俺と千冬姉は両親に捨てられたから」

 

「あ……」

 

 一夏の台詞に申し訳無さそうに顔を伏せる。

 

 これはあくまで一夏から聞いただけに過ぎないが、まだ一夏が物心が付く前に両親に捨てられたらしい。そして姉である千冬さんが一人で育て、迷惑と同時に苦労させてしまったとも言ってた。だから一夏は千冬さんに楽をさせようと家事をしたり、中学の頃にバイトをしていたのだ。

 

「その……ゴメン」

 

「気にしなくていい。俺の家族は千冬姉だけだから、別に親になんて今更会いたいとも思わない。それより、シャルルはこれからどうするんだよ?」

 

「どうって……時間の問題じゃないかな。フランス政府もことの真相を知ったら黙っていないだろうし、僕は代表候補生をおろされて、よくて牢屋とかじゃないかな」

 

「それでいいのか?」

 

「父親からの命令とは言え、シャルルにも訴える権利があると思うが?」

 

「良いも悪いもないよ。そもそも僕には選ぶ権利がないから、仕方がないよ」

 

 一夏と俺の問いにシャルルが痛々しそうな微笑を見せながら答えた。それには絶望さえ通り越して何かも諦めている。そんなシャルルに俺と一夏は顔を顰めると同時に腹が立った。何も出来ない自分に。

 

「……だったら、ここにいろ」

 

「え?」

 

「おい一夏、それってつまり……」

 

「特記事項第二一、本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする」

 

 思ったとおり、一夏はIS学園の特記事項を利用してシャルルを踏み止まらせようとした。けど凄いな。さっきまで熱くなってたのに、あの長い特記事項を落ち着いてスラスラと言えるとは。

 

「――つまり、この学園にいれば、すくなくとも三年間は大丈夫だろ? それだけ時間あれば、なんとかなる方法だって見つけられる。別に急ぐ必要だってないだろ」

 

 確かにそうかもしれないが、あくまでそれは一時的な物に過ぎない。もし何も方法が無く三年経ったらアウト。それでシャルルの人生が終わってしまうとは言わないが、好ましくない事態になるのは確かだ。

 

 本当なら一夏に『そんなその場しのぎ程度じゃダメだろう』と言いたいところだが、シャルルが考えを改めるのであれば敢えて言わないでおこう。

 

「一夏」

 

「ん? なんだ?」

 

「よく覚えられたね。特記事項って五十五個もあるのに」

 

「……勤勉なんだよ、俺は」

 

「その割にはISについてだと全くと言うほどにダメダメだがな」

 

「おい和哉! お前なぁ!」

 

「ふふっ」

 

 俺に食って掛かろうとする一夏に、シャルルが笑った。さっきまでの痛々しい笑みではなく、屈託の無い十五歳の女子その物だ。

 

(やっと本当の笑みが見れたな……ん?)

 

 シャルルの笑みを見て俺は安堵してると、一夏が若干顔を赤らめていた。

 

「(どうした一夏? もしかしてシャルルに見惚れたか?)」

 

「(んなっ! そ、そんなわけないだろうが!)」

 

「(ふ~ん)」

 

「? どうしたの二人とも?」

 

 目で会話をする俺と一夏にシャルルが不可解な顔をしながら訊いて来ると、一夏が何でもないように言った。

 

「い、いや、何でもないから気にするな。と、とにかく決めるのはシャルルなんだから、考えてみてくれ」

 

「何かあればすぐ俺や一夏に言ってくれ。力になるから」

 

「うん。そうするよ」

 

 さて、取り敢えずシャルルが考えを改めたから良いが、これからどうするべきかだな。

 

 いくらIS操縦者だからと言って、学生である俺や一夏だけでは国に対抗するだけの権力なんて一切無い。となると、ここは一度師匠に相談してみるか。色々な事に顔が広い師匠なら何か良い方法を提示してくれるかもしれない。

 

「と、とりあえず、なんだ。シャルル、一回離れてくれ」

 

「?」

 

「いや、その、胸元が……」

 

「い、一夏、胸ばっかり気にしてるけど……見たいの?」

 

「な、なに?」

 

「……………………」

 

「……………………」

 

 俺が考えてる最中に一夏は無自覚にシャルルとイチャ付いていた。シャルル自身も満更でも無さそうに。

 

(うわぁ。シャルルは完全に恋する乙女になってるし……こりゃもう完全に修羅場展開になる確率100%だな)

 

 後々の事を考えてる俺だったが、更に面倒で巻き添えを食う事になる展開を予測する俺。

 

(あれ? そう言えば俺、何か忘れているような気が……)




次回はなるべく早めに投稿しようと考えていますが、やる事ありすぎて投稿出来ない状態で大変です。
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