インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~ 作:さすらいの旅人
(ええっと………俺は一体何を忘れていたんだ? 先ずは順を追って思い出そう)
一夏とシャルルがイチャ付いているのを余所に、俺は忘れている何かを必死に思い出している。
確かシャルルの重大な話しを聞く前に、未だに食堂に来ない一夏とシャルルを連れてこようとこの部屋に来て、それを箒に……あっ。
「ってそうだ! 箒だ! アイツの事をすっかり忘れてた!」
「! い、いきなりなんだよ和哉?」
「し、篠ノ之さんがどうしたの?」
思い出して声を荒げる俺に驚きながらこっちを見てくる一夏とシャルル。
「お前等が夕食の時間になっても未だに来なかったから、俺が連れて来るから箒は先に食べてろって言ってな……」
「あ……そ、そう言えば夕食の時間がとっくに過ぎていたんだったな」
「ゴメン……」
俺の台詞に思い出してか二人は申し訳無さそうな顔をする。
「ま、まぁ事情が事情だから仕方ない。シャルルが実は女で、企業の裏話を聞いてしまったら忘れてしまうのは無理も………あれ?」
「どうした?」
俺は言ってる途中からある事に気付くと、一夏が不可解そうに訊いて来る。
「なぁ一夏。ふと思ったんだが、お前どうやってシャルルが女だって分かったんだ?」
「!! あ、いや、それは……そのぅ……」
「~~~~~~」
俺の問いに気まずそうな顔をする一夏と、顔を赤くしてそっぽを向くシャルル。
この反応からしてもしや……。
「……あくまで俺の予想なんだが……。一夏が洗面所に入ってすぐに、バスルームでシャワーを浴びてたシャルルがタイミング良く上がって来たから女だとバレた……ってオチか?」
「「……………………………………………」」
この二人の無言からして、どうやら俺の予想は大当たりの様だ。特にシャルルはもうトマトみたいに真っ赤だし。
一夏ってホントにラッキースケベな展開によく遭遇するんだよなぁ。弾が聞いたら絶対に憤慨するだろう。それと一夏に想いを寄せている箒と鈴とセシリアも、な。
「……な、なぁ和哉。今更なんだがシャルルが女子だって事は誰にも他言しないように――」
「言われなくてもそのつもりだ。シャルルの力になるって言ったのに誰がそんな事するか」
「ありがとう、和哉」
念を押す一夏に俺が即座に答えると、未だに顔が赤いままだがお礼を言うシャルル。と言うか本当に今更……ん?
コンコン
「「!?」」
(チッ。こんな時に……)
「一夏さん、いらっしゃいます? 夕食をまだ取られていないようですけど、体の具合でも悪いのですか?」
突然のノックと呼び声に一夏とシャルルは揃って身を竦ませ、俺は内心舌打ちをする。それとこの声はセシリアだな。
「一夏さん? 入りますわよ?」
おいおいセシリア、相手の了承を得ないで入ろうとするなよ。って無断で入った俺も人の事は言えないか。
それとセシリアがこの部屋に入ったらまずい。今のシャルルの姿を見たら確実に女だとバレてしまう。その直後に烈火の如く怒り狂うセシリアがISを展開して一夏を蜂の巣にしようとするのが容易に想像出来る。
「ど、どうしよう二人とも?」
「と、とりあえず隠れろ」
「落ち着けお前等。取り敢えずシャルル、お前はベッドに入って布団で体を隠せ」
ぼそぼそと小声でやり取りをする俺達。かなり接近していたが、今はそんな事を気にしている場合じゃない。
「ど、どうしてベッドなの? 隠れるならクローゼットが良いんじゃ……?」
「風邪引いてるフリをすれば良いんだ。ほら早く」
「あ、ああっ、そっか!」
「は、早く布団に隠れろシャルル!」
冷静に指示をする俺だったが、シャルルと一夏は慌しく動く。慌て過ぎだっての。
そしてガチャッとドアが開く音が響いた。
「よ、よおセシリア! なんだ? どうした?」
「……何をしていますの? あら? 和哉さんも此処にいたんですの?」
セシリアが不可解な顔をして訊くのは無理もない。何しろベッドに飛び込んだシャルルに上から布団をかける形で一夏が乗っかっている。そんな珍奇な光景に誰もが疑問に思うだろう。
「い、いや、シャルルがなんだか風邪っぽいっていうから、布団をかけてやってたんだ。それだけだぞ、ははは……」
「……。日本では病人の上に覆い被さる治療法でもあるのかしら?」
「いや、単に一夏が風邪を引いてるシャルルを大袈裟に心配した事によってこうなっただけだ」
日本を誤解しかけているセシリアに訂正する俺。と言うかセシリアの言った方法なんてある訳が無い。
「で、俺は二人が夕食の集合時間になっても来るのが遅いので来てみたら、シャルルがこんな状態だって知って……(チラッ)」
「そ、そうなんだよ。とにかくあれだ。シャルルは具合が悪いからしばらく寝るって。夕食はいらないみたいだし、仕方ないから俺と和哉で行こうって話しをしてたんだ」
「そ、そうそう」
目配せをする俺に一夏とシャルルが話しを合わせる。だがなシャルル、もうちょっと具合が悪そうな声を出してくれないか?
「ご、ごほっごほっ」
………おい、それはいくらなんでもわざとらしいんだが……?
「あ、あら、そうですの? では、わたくしもちょうど夕食はまだですし、ご一緒しましょう。ええ、ええ。珍しい偶然もあったものです。和哉さん、よろしいでしょうか?」
「………別に反対する理由は無いから構わないぞ」
どうやら騙せたみたいで、セシリアは急に態度を変えて俺達と一緒に夕食を取ると言う方向で纏まった。
「ごほごほっ。そ、それじゃあごゆっくり」
「デュノアさん、お大事に。さあ一夏さん、和哉さん、参りましょう」
そう言ってセシリアは一夏の腕を取って体を密着させる。流石イギリス人と言うべきか、日本人が不得手である行為を躊躇せずやるとは。まぁ相手が想い人である一夏だからこそやるんだろう。
そんな二人と一緒に部屋を出て廊下を歩き、食堂に向かう為に階段を下りた直後、大きな叫び声と出会った。、
「なっ、なっ、何をしている!?」
廊下の端からずんずんと早足でやってくる女子生徒。誰であるかはもう分かっている。相手は箒だから。
「あら、箒さん。これからわたくしたち一緒に夕食ですね」
一緒に、とかなり強調するセシリア。まぁ俺はその後から二人っきりにさせようとさり気なくいなくなるのがお約束。
「それと腕を組むのとどう関係がある!?」
「あら、殿方がレディをエスコートするのは当然のことです」
どっちかと言うとセシリアが一夏をエスコートしているんだがな。けど今の箒はそんなこと関係無く一夏と俺を睨んでくる。
「一夏っ、お前もお前だ! 私が食堂で待っていたというのに、どういうことだ!? それに和哉! 私に『すぐ一夏を連れて来る』と言っておきながらお前という奴は!」
「どういうも何も……」
「それについては本当に申し訳無い。シャルルが風邪を引いたから一夏と一緒に少し看病をしててな」
一応適当な言い訳をする俺だが、それでも箒をほったらかしにした事に変わりは無い。いずれ箒には詫びとして一夏と二人っきりにする展開を作るとしよう。
「ともかく、わたくしたちはこれから夕食ですので失礼しますわね」
「ま、待て! それなら私も同席しよう。ちょうどこれから夕食だったのでな」
これから夕食って……。おいおい箒、お前もう飯食った筈じゃなかったか?
「あらあら箒さん、一日四食は体重を加速させますわよ? 和哉さんもそう思いません?」
「え、えっと……」
「ふん、心配は無用だ。私はその分運動でカロリーを消費しているからな」
運動で思い出したんだが箒、そろそろ剣道部に顔を出した方が良いと思うぞ。放課後の訓練に付き合うのは別に良いが、あまり剣道部を疎かにしないように。
「それに、実家からこれを送ってもらった。今日もあとで居合の修練をするから何も問題はない」
そう言って箒が見せたのは――何と日本刀だった。
「おい箒、それって真剣か?」
「うむ。名は
その名前は確か師匠の家にあった書物で読んだ事があるな。明動陽――女剣士を伴侶とした事から、それまでの刀剣作りの一切を捨て、飛騨山中へと移り住み、そこで『女のための刀』を作り続けた――だったな。
そして『女が男を倒す』。それは柔よく剛を制すの精神に近く、刀匠としての生涯をテーマをかけた。言うまでも無く、その発端は妻との出会いによるもの。とまあ、俺が憶えてるのはこの程度だ。あんまり剣の事については詳しくない。
けれど箒が持ってる日本刀の刀身は細く長く、その鞘も普通の日本刀より長い。一見、あんな長刀では居合に向かないと思うが、それでも居合に適している刀なのだろう。
しかしまぁ、一高校生が帯刀しているのは物騒だな。いくら此処がIS学園で、法律上でも国際上でも『どこの国でもない土地』とは言え、普通に考えて危険だと思うんだが。
「で、では、行くとするか」
箒はそう言いながら一夏の隣に経って腕を絡めた。あれはセシリアに対抗してるんだろう。
「……箒さん、何をしてらっしゃるのかしら?」
「男がレディをエスコートするのが当然なのだろう?」
「いや、たかが寮の食堂に行くだけでエスコートするのはどうかと――」
ギロッ!
「――はぁっ。はいはい、分かったよ」
俺の突っ込みの最中に箒が強く睨んでくるので、溜息を吐きながら好きにするようにした。
因みに一夏の左腕にはセシリア、右腕には箒が取っている。男の俺から見れば両手に花状態だ。一夏本人は全く気付いていないが。
「ああっ、いいなぁ……」
「両手に花ってやつね」
「幼なじみってずるい」
「専用機持ちってずるい」
ハハハ、一夏狙いの女子達が箒とセシリアに羨ましそうな視線を向けてるよ。それに加えて二人は羨望の眼差しを心地よさそうにしている。
「両手に花状態だな、一夏。もし此処に弾がいたら嫉妬に駆られてお前を殺しそうな雰囲気を出すだろうな」
「何でだよ。てかこの状態、凄く歩きづらいいっ!」
一夏が行ってる最中に、一夏の両腕を抓る箒とセシリア。あ~らら。
「この状況で他に言うことがないのか……」
「自らの幸福を自覚しないものは犬にも劣りますわね」
「(なあ和哉、イギリスでは左右から同時につねられることを幸福って言うのか? 俺にはそういう趣味はないんだが)」
「(そんなこと俺に訊かれても知らん)」
2人の台詞に一夏が目で語りかけてきたので、俺は首を横に振る。
悪いけど一夏、そこは自分で考えてくれ。女子に好かれている事に縁の無い俺に訊いても答えられないから。
「あ、かず~。ここにいた~!」
ギュッ!
「ん?」
突然、聞き覚えのある声が俺の背中に抱き付いて来た。その事に一夏達は何故か目を見開いている。
「やっぱり本音か。いきなりどうした?」
抱き付いて来た相手が本音だと分かっていたので、俺は特に抵抗せず首だけ動かして本音の方に顔を向ける。
「どうしたじゃないよ~。今日はアップルパイを作る約束なのに、かずーが全然部屋に戻ってこないから探したんだよ~」
「あ、そう言えば……」
確か今日は夕食後にアップルパイを作って本音に食べさせる日だったな。いかんいかん、箒だけでなく本音の事もすっかり忘れてた。
「スマンスマン。夕食を食べた後で作るから一先ず離れてくれないか?」
「そう言ってもまた忘れそうな気がするから、アップルパイを作るまではかずーを見張る~」
背中に抱き付いていた本音は一応離れたが、今度は左腕に引っ付いてきた。
「俺はそんなに信用無いのか? ってか本音、離れろと言った筈だが……」
「気にしない気にしない~。さあ早くご飯を食べてアップルパイを作って~」
「はいはい、仰せのままに……ん? どうしたお前等?」
言っても離れない本音に俺が妥協すると、一夏達が生暖かい目でこっちを見ている。
「あ、いや、その……和哉とのほほんさんを見てると……」
「そ、それになんか……妙な雰囲気と言うか……」
「あ、あなたたちって実は付き合っていらっしゃるとか?」
「えへへ~。かず~、私たち付き合ってるんだって~」
「んな訳無いだろう。俺と本音はただの友達だ」
「ぶ~」
勘違いをしてる一夏達に即座に訂正する俺に本音が頬を膨らませる。
「なに膨れっ面になってるんだ?」
「……ふ~んだ」
今度はそっぽを向く本音。相変わらず訳の分からん奴だ。
まぁこの後は、
ナデナデ
「……はう~♪」
頭を撫でてやれば一通り落ち着くからな。本音って時折面白いんだよな。
「もっと頭を撫でて~♪」
「っておい、猫みたいに甘えてくるなっての」
「だってかずーに頭を撫でられると気持ちいいんだもん~♪」
「お前なぁ……早く食堂に行くんじゃなかったのか? 済まないな三人とも、本音が……あれ?」
一夏達に謝ろうとする俺だったが、いつの間にかいなくなっていた。アイツ等何処に行った?
「おりむー達ならもう食堂に向かったよ~」
「何?」
本音の台詞に俺が食堂の方角を見ると、颯爽と食堂へと向かっている一夏達がいた。
その後、俺は本音を連れて食堂で夕食を食べ、食堂のキッチンでアップルパイを作り、部屋で本音にアップルパイを食わせて満足させた。
最後は本音を出して少しイチャ付かせて頂きました。