インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~ 作:さすらいの旅人
他にも並行して執筆している作品もあるので時間が掛かってしまいました。
それではどうぞ!!
「………………………」
「………………………」
「お前等、いつまで不貞腐ってるんだよ」
千冬さんから私闘禁止宣言をされた一時間後、俺たちは保健室にいる。ベッドの上では打撲の治療を受けて包帯の巻かれた鈴とセシリアが不機嫌ですと言った顔で視線を横に向けていた。
「別に助けてくれなくてよかったのに」
「あのまま続けていれば勝っていましたわ」
「……はぁっ」
鈴とセシリアの台詞に俺は溜息を吐く。だが同時に内心、こんな憎まれ口を言う理由は分かっている。
「お前らなぁ、和哉に助けてもらったのにそんな言い方はないだろうが……。はぁ、でもまあ、怪我がたいしたことなくて安心したぜ」
それは俺達と一緒に保健室にいる一夏がいるからだ。好きな相手に無様なところを見られてしまった為に、こんな意地っ張りな態度になっている。少しは素直な部分を見せれば良いと思うが、プライドが高い鈴とセシリアは絶対にしないだろう。
「こんなの怪我のうちに入らな――いたたたっ!」
「そもそもこうやって横になっていること自体無意味――つううっ!」
(……なぁ和哉、この二人ってバカなんだろうか)
(そんなの訊くまでもないっての)
目で語りかけて来る一夏に俺が呆れながら首を横に振ってると、
「バカってなによバカって! バカ!」
「一夏さんこそ大バカですわ!」
反撃をする鈴とセシリアだった。口で言わずとも分かっていたようだな。それほど一夏の考えてる事は分かりやすいみたいだな。
「何なんだよ、お前ら……」
「それはだな――」
俺が教えようとすると、
「好きな人に格好悪いところを見られたから、恥ずかしいんだよ」
「ん?」
飲み物を買って戻って来たシャルルが言葉を繋いだ。残念な事に一夏は聞き取れておらず、シャルルの方を見て不可解な顔になっている。
だが逆に一夏を除く俺達はバッチリ聞こえており、特に鈴とセシリアは顔を真っ赤にして怒り始めた。
「なななな何を言ってるのか、全っ然っわかんないわね! こここここれだから
「べべっ、別にわたくしはっ! そ、そういう邪推をされるといささか気分を害しますわねっ!」
図星を指されて捲し立てながら更に顔が赤くなりながる鈴とセシリア。ホントにコイツ等は一夏関連となると分かり易いな。見てて面白い位に。
「はい、ウーロン茶と紅茶。とりあえず飲んで落ち着いて、ね?」
「ふ、ふんっ!」
「不本意ですがいただきましょうっ!」
鈴とセシリアはシャルルから渡された飲み物をひったくるように受け取り、ペットボトルの口を開けて早々ごくごくと飲み干す。一夏にバレないよう誤魔化す為か、火照った体を冷やそうとするのか……恐らく両方だな。そして一夏は二人を見て呆れた顔をしながら、俺に話しかける。
「ところで和哉、さっき何か言おうとしてなかったか?」
「「ぶっ!」」
俺に訊こうとする一夏に鈴とセシリアが咽せてゲホゲホと咳をする。そしてすぐに俺を睨んで『余計な事を言うな!』と目で語ってきた。
「スマン。何を言うのか忘れた。まぁそんな事より二人とも、先生からは落ち着いたら帰って良いと言ってたから、暫く此処で休んで――」
忘れたフリをして話題を変える俺は二人に休むように言ってると、
ドドドドドドドッ……!
「な、なんだ? 何の音だ?」
「まるで地鳴りみたいだな」
廊下から響いている音に一夏が戸惑い、話しをしていた俺はそこへ視線を向けた。
そしてすぐにドカーンッ! と保健室のドアが吹き飛んだ。言っておくが本当に吹き飛んだぞ。テレビでしか見た事の無い光景を、まさか現実で見られるとは。ところで吹き飛んだドアは誰が弁償するんだろうな。
「織斑君!」
「デュノア君!」
入って来た……と言うより、文字通り雪崩れ込んできたのは数十名の女子生徒だった。ベッドが五つあってかなり広い保健室なのにも拘らず、室内はあっと言う間に人で埋め尽くされた。一夏とシャルルを見つけてすぐ一斉に取り囲み、取り合いのように手を伸ばしてきた。一種の軽いホラーみたいに見える光景だな。
言うまでも無いが、女子生徒達は俺を無視して一夏とシャルルの方に集中している。
「な、な、なんだなんだ!?」
「ど、どうしたの、みんな……ちょ、ちょっと落ち着いて」
「「「「これ!」」」」
状況が飲み込めない一夏とシャルルに、バッ! と女子生徒達が出してきたのは学内の緊急告知分が書かれた申込書だった。
「どれどれ」
俺はソレを見る為に移動すると、女子生徒の一人が嫌そうな顔をしているが無視する。
「な、なになに……?」
「『今月開催する学年別トーナメントでは、より実戦的な模擬戦闘を行うため、ふたり組での参加を必須とする。なお、ペアが出来なかった者は抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする。締め切りは』――」
「ああ、そこまででいいから! とにかくっ!」
一夏が申込書に目を通し、受け取ったシャルルが内容を読んでいる最中に女子の一人が話しを切って本題に入ろうとする。そしてまた一斉に伸ばしてくる手に、また軽いホラー発生だ。
「私と組もう、織斑君!」
「私と組んで、デュノア君!」
申込書の内容が分かった俺は女子生徒達の行動に漸く腑に落ちた。コイツ等は一夏orシャルルとペアを組みたいが為にやって来たと言う事が。因みに学年別トーナメントだから、目の前にいる女子生徒達は全員一年生の女子だ。
ハンターみたいな連中だと俺は思いながらも危惧する。それは――
「え、えっと……」
そこで戸惑っているシャルルは実は女子だから、誰かと組むのは非常に不味い。ペア同士の特訓などで万が一にもバレてしまう可能性があるからな。
そう思いながらシャルルの方を見ると、困り果てた顔で俺と一夏を見ていた。そして俺達と視線が合うと、助けを求めているのがわかってしまうと思って、すぐに視線を逸らした。
全く。相変わらず遠慮深い奴だな。
(おい一夏)
(ああ。分かってる)
俺が目で語ると、一夏はコクッと頷く。そしてすぐにわあわあと騒ぐ女子全員に聞こえるように大きな声で宣言する。
「悪いな。俺はシャルルと組むから諦めてくれ!」
しーん………。
女子達のいきなりの沈黙に俺だけでなく一夏も少し戸惑ったが、
「まあ、そういうことなら」
「他の女子と組まれるよりはいいし……」
「男同士っていうのも絵になるし……ごほんごほん」
どうやら納得したようだ。
「何だったら俺と組むか?」
『絶対嫌っ!!』
予想通りと言うべきか、女子全員は俺の誘いに一斉拒否した。
「アンタと組むくらいなら別の相手と組むわよ!」
「調子に乗らないでよね!」
「試合でアンタをギッタギタにするんだから覚悟しておきなさい!」
女子達は各々が俺に嫌みを言いながら、一人また一人と保健室を去る。そして廊下からはバタバタと騒ぎ始めながらペア探しが始まった。
「取り敢えずはコレで良し、と」
「和哉、何もあんな事を言わなくても」
「別に構わんさ。元々俺はクラス以外の女子達に嫌われてるから何の問題は無い」
「けどだからって……」
「あ、あの、二人とも」
「和哉っ!」
「和哉さんっ!」
俺が一夏と話している最中にシャルルが声をかけようとしたが、それを上回る勢いで鈴とセシリアがベッドから飛び出してきた。
「あたしと組んで!」
「いえ、クラスメイトとしてここはわたくしと!」
………これは予想外だ。てっきり一夏と組むと思っていた二人がまさか俺と組もうとは。
「一応訊くが、何で俺となんだ? 一夏とは組みたくないのか?」
念の為に訊くと、
「だって一夏より和哉の方が強いし」
「確実に優勝するのでしたら、和哉さんと組むのは当然ですわ」
「…………どうせ俺は……」
アッサリと理由を言う二人に一夏はズ~ンと落ち込んだ。そんな一夏の様子にシャルルが慰めている。
しかし意外だな。コイツ等がそんな事を言うとは。優勝する為に俺と組もうとするなんてな。それだけ一夏と恋人同士になりたいって事か。ってか俺と組んだからって確実に優勝出来るって保障は無いぞ。
「ダメですよ」
ん? 誰かが保健室に入って来たなと思えば山田先生だったか。一夏は山田先生にいきなり声を掛けられてビックリしており、鈴とセシリアも一夏と同様に驚いて目をぱちくりとさせていた。
「おふたりのISの状態をさっき確認しましたけど、ダメージレベルがCを超えています。当分は修復に専念しないと、後々重大な欠陥が生じさせますよ。ISを休ませる意味でも、トーナメント参加は許可できません」
「だそうだよ、お二人さん。ここは退いておかないと不味いぞ?」
山田先生の説得に俺が後押しするかのように言うと、
「うっ、ぐっ……! わ、わかりました……」
「不本意ですが……非常に、非常にっ! 不本意ですが! トーナメント参加は辞退します」
あっさりと引き下がった。
二人の意外な返答にさっきまで落ち込んでいた一夏が不思議そうな顔をしている。
「わかってくれて先生嬉しいです。ISに無理をさせるとそのツケはいつか自分が支払うことになりますからね。肝心なところでチャンスを失うのは、とても残念なことです。あなたたちにはそうなってほしくありません」
「はい……」
「わかっていますわ……」
鈴とセシリアの顔を見るに納得は出来ないが、トーナメントに参加出来ない事は理解してるみたいだな。
確か損傷が酷い状態でISを動かした場合に後々の悪影響を及ぼすと言う注意事項があったな。アレは確か……。
「一夏、IS基礎理論の蓄積経験についての注意事項第三だよ」
そうそう、それそれ……ってなんだ。シャルルは一夏に言ったのか。当の本人は思い出せないような感じだが。
「……『ISは戦闘経験を含むすべての経験を蓄積することで、より進化した状態へと自らを移行させる。その蓄積経験には損傷時の稼動も含まれ、ISのダメージがレベルCを超えた状態で起動させると、その不完全な状態での特殊エネルギーバイパスを構築してしまうため、それらは逆に平常時での稼動に悪影響を及ぼすことがある』」
「おお、それだ! さすがはシャルル!」
少し呆れながらすらすらと説明するシャルルに一夏はやっと思い出したようだ。
あ、そう言えばボーデヴィッヒに止めを刺そうとする直前に打鉄の右腕が動けなくなってたな。ちょっと訊いてみるか。
「ところで山田先生、打鉄に何か異常はありましたか?」
尋ねる俺に山田先生はすぐに答えようとする。
「こちらで確認しましたが、特に問題はなく正常です。トーナメントには参加出来ます」
正常? どう言う事だ。あの時は完全に動けなかった筈だぞ。それが何故……?
「私から見て、恐らく打鉄が神代君の動きに付いていけなかったと思いますね。何しろ神代君は……その……」
「つまり俺が普通のIS操縦者ではあり得ない戦い方をしてたからによって、打鉄の右腕が動かなくなったと解釈して良いんですか?」
「………ま、まぁそんなところです」
どう言おうかと悩んでいる山田先生に俺が結論を言うと、間がありながらも言い辛そうに返答する。
「確かに、俺たちから見て和哉はすげぇ無茶苦茶な戦い方をしてたなぁ」
「僕としては、どうしてあんな事が出来るのかが逆に訊きたいくらいだよ」
「ほんとにアンタは色々な意味でクラッシャーよ。あたしたちが持ってたISの認識をことごとく壊しているんだから」
「まったくですわ」
「………悪かったな。どうせ俺は歩く非常識だよ」
一夏達の言葉に俺は少しヤケクソ気味に言い返す。と言うか非常識な人は俺の師匠だぞ。あの人は色々と規格外な存在だからな。一度お前らに会わせてやりたいよ。そうしたらまた色々持ってた常識が壊されるから。
とまぁ、そんな事はどうでも良いとしてだ。打鉄の右腕が動けなくなった原因が分かった以上、ある程度加減しないといけないようだ。もしまた試合の最中に全力でやったら、また打鉄のどこかが動けなくなってしまう。けどだからと言って、打鉄を気遣いながら試合をするのは難しいな。それで負けたら話しにならないし。何か良い方法は無いだろうか。
失礼な事を言ってた一夏達を余所に俺は今後の事を考えていると、
「あ、そうだ和哉。ちょっと訊いても良いか?」
「ん? 何をだ?」
突然一夏が何か思い出したかのように尋ねてきた。
「何だって和哉はラウラとバトルすることになったんだ? それに鈴とセシリアも」
「ああ、それね」
「え、いや、それは……」
「ま、まあ、なんと言いますか……女のプライドを侮辱されたから、ですわね」
一夏の問いに俺が二人に視線を向けると、とても言いにくそうな様子を見せた。
「俺がアリーナで鈴とセシリアと話してる最中に、ボーデヴィッヒがいきなり割り込んで『私と戦え』だなんて言ってきてな」
「そ、そうなのよ!」
「あまりの無礼な態度に注意したのですが、向こうは聞く耳もたずでしたので戦わざるを得なかったんですの! おほほほほ!」
本当だったら教えたいところだが、そんな事をしたら二人に何をされるか分からないから一夏の事を省いて教える。そして鈴とセシリアは俺の説明に頷きながら誤魔化す。
「ああ、そう言えばラウラは千冬姉に和哉と戦ってみるといいって言われてたな。けどセシリアが言った女のプライドに何か関係あるのか?」
「え、えっと……」
納得していた一夏だったが、それでも鈴とセシリアが戦う事に不可解な様子だった。まぁ確かにそれで二人が戦う理由にはならないな。
「ああ。もしかして一夏のことを――」
「あああっ! デュノアは一言多いわねえ!」
「そ、そうですわ! まったくです! おほほほほ!」
本当の理由が分かって言おうとするシャルルを、二人が凄い勢いで取り押さえた。二人によって口を覆われたシャルルは苦しそうにもがいている。
「こらこら、やめろって。シャルルが困ってるだろうが。それにさっきからケガ人のくせに体を動かしすぎだぞ。ほれ」
そう言って一夏は鈴とセシリアの肩を指でつつくと、
「「ぴぐっ!」」
痛みが走った二人は変な言葉かつ甲高い声を上げて、その場で凍りついた。
「………………」
「………………」
「はぁっ。今のはお前が悪いぞ」
「あ……すまん。そんなに痛いとは思わなかった。悪い」
鈴とセシリアの沈黙と恨みがましい視線と俺の指摘に、一夏はすぐに謝った。
「い、い、いちかぁ……あんたねぇ……」
「あ、あと、で……おぼえてらっしゃい……」
あ~らら。この様子だと、もし元気だったら一夏に躊躇い無く鉄拳を振舞っているな。恐らく3倍……いや、コイツ等の場合だとそれ以上の仕返しをすると思う。まぁ流石にそんな事になったら俺が止めさせてもらうがな。