インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~ 作:さすらいの旅人
それではどうぞ!
六月最後の週に入ると、IS学園は月曜から学年別トーナメントで今はてんやわんやとなっている。第一回戦が始まる直前まで、全生徒が雑務や会場の整理、そして来賓の誘導も行っている。
それらが終わった生徒達はすぐに各アリーナの更衣室へと走って、また慌しくなる。男子組である俺や一夏、(女子ではあるが男子と偽っている)シャルルはいつも通り物凄く広い更衣室を悠々と使っているのである。逆に反対側にある更衣室では女子生徒達を収容しているから、かなり窮屈となっているだろう。
「しかし、すごいなこりゃ……」
「来賓者の殆どがお偉いさんばかりだな」
更衣室のモニターから観客席の様子を見る一夏と俺。そこには各国政府関係者、研究所員、企業エージェント、その他諸々のお偉いさん達が一同に会していた。
「三年にはスカウト、二年には一年間の成果の確認にそれぞれ人が来ているからね。一年には今のところ関係ないみたいだけど、それでもトーナメント上位入賞者にはさっそくチェックが入ると思うよ」
「ふーん、ご苦労なことだ」
「一夏、他人事のように言ってるんだろうが、お前は既に各国がチェックしてると思うぞ。ブリュンヒルデの弟と言う事で」
「………それはそれで嫌だな」
興味無さそうな一夏に俺が事実かもしれない予想を言うと、すぐに嫌そうな顔になった。それだけ千冬さんの名は世界に広まっている証拠だからな。
「ってか、和哉はどうなんだ?」
「さあな。俺は一夏と違って有名な人の親族じゃないから、恐らくただISに乗れるだけの珍しい男子程度くらいしか認識してないだろう。ついでに大した実力も無い弱い、とか」
「おいおい、冗談は止してくれよ和哉。代表候補生の鈴とセシリアを倒したお前が弱かったら、俺はそれ以下になっちまうぞ」
「発言には気をつけようね? 僕から見れば和哉は一年の中で抜きん出てるよ」
「いや、俺はあくまで各国のお偉いさんの視点で言ったに過ぎないんだが……」
だからそんな真剣な顔して言わないでくれ。まるで俺が失言したみたいじゃないか。
「それはそうと、やはり鈴とセシリアは不参加か」
「………そうみたいだ」
話題を変えると一夏はすぐに顔を顰めながら頷く。
この前のボーデヴィッヒ戦で、二人のISのダメージが酷かったから辞退せざるを得なかったようだな。普通の生徒ならいざ知らず、あの二人は国家代表候補生であり専用機持ちだから、今回のトーナメントが出れないどころか参加すら出来ないのは立場上として悪くなるだろう。
「自分の力を試せもしないっていうのは、正直辛いだろ」
「やっぱりあの時、二人が何を言おうが加勢すれば良かったな。そうしてたら状況が変わってたかもしれないし」
そうだったら今頃トーナメントに参加していたかもしれない。
とは言え、それはあくまでIFの話に過ぎないから、今更そんな事を言っても意味無い。
俺がそう思っていると、一夏は左手を握り締めていた。多分この前の騒動を思い出しているんだろう。そんな一夏にシャルルがさりげなく重ねた手でほぐしている。
「感情的にならないでね。彼女は、おそらく和哉を除いた一年の中では現時点での最強だと思う」
「ああ、わかってる」
何かこの二人、更に親しくなっている感じだ。まぁ同室だから、今の二人は親友以上恋人未満と言ったところか。尤も、シャルルとしては一夏の恋人になりたいと思っているんだろうな。時折、一夏に恋する乙女のような視線を送ってるし。ま、そんなシャルルに一夏は全く気付いていないけど。
それにしてもこの前は驚いたな。ボーデヴィッヒにペアを組むのを頼む前に、二人がいつの間にか裸を見られても良い関係に発展していたと勘違いして――
「和哉、僕は言った筈だよ? あれは事故だって」
「はいはい、そうでしたね」
ってか、人の考えてる事を読まないで欲しいよ。
「ん? 事故って何の話だ?」
「一夏は気にしなくて良いよ。これは僕と和哉の話だから」
「そ、そっか」
暗に余計な事は聞くなと言うようにするシャルルに少しばかり後ずさる一夏。ひょっとして記憶が欠落してるのか? まぁ忘れているなら別に良いが。
それにしても、あの時は必死に説得するシャルルの話しを聞いてて不謹慎ながらも、恋する乙女の言い訳みたいだと思った。
聞いた話だと、二人がお互いに背を向けて着替えてる最中に起きた事故だと言っていた。何でも、シャルルがズボンを足に引っ掛けて転んでしまった事により、悲鳴をあげようとしたシャルルを一夏が口を塞ごうと飛びかかろうとしたが、一夏の方もズボンをベッドの端に引っ掛かって転んでしまったから、この間の凄い光景になったそうだ。
俺は正直言って滅茶苦茶呆れた。シャルルは男の制服に慣れていないから良いとしても、一夏の方は狙ってやったとしか思えない。一夏本人にとっては本当に転んでしまったんだろうが、もしコレを弾にでも話したら、『テメーは一体何処のギャルゲー主人公だ一夏ぁ! 羨ましすぎるぞ!』と言って激怒するに違いない。
「さて、こっちの準備はできたぞ」
「僕も大丈夫だよ」
「同じく」
一夏、シャルル、俺はISスーツへの着替えは済んでいる。一夏と俺はIS装着前の最終チェックをし、シャルルは男装用スーツの確認を終えた。
因みにシャルルのスーツはボディラインの肉付きを男のそれに見せる仕組みだそうだ。ISスーツって色々と便利な物だな。
「そろそろ対戦表が決まるはずだよね」
どう言う理由かは知らんが、突然のペア対戦への変更をされてから従来まで使用してたシステムが機能しなかったみたいだ。 本来であれば前日に出来ていたはずの対戦表が、今朝から生徒達が作っていた手作りの抽選クジで決める事になった。
「一年の部、Aブロック一回戦一組目なんて運がいいよな」
「同感だ」
「え? 二人ともどうして?」
一夏と俺の台詞にシャルルが何故かと尋ねると、一夏が先に答える。
「待ち時間に色々考えなくても済むだろ。こういうのは勢いが肝心だ。出たとこ勝負、思い切りのよさで行きたいだろ」
「ふふっ、そうかもね。僕だったら一番最初に手の内を晒すことになるから、ちょっと考えがマイナスに入っていたかも」
視野が広いシャルルらしい考えだ。確かに相手が先に手の内を見たら対策を立てられて逆に不利になる事もある。
それとは逆に一夏の方は単純だと思われるだろうが、別にそれはそれで間違っていない。下手に考えすぎて警戒して挑んだら、大して力を出せないまま負けると言うオチになる。
二人の考え方は正反対で意見がかち合うと思いきや、実はそうでもない。寧ろ馬が合っている。と言うより、シャルルが一夏に合わせていると言った方が正しい。
「和哉も一夏と同じ理由なの?」
「いいや。いつまでも俺に下らない事をするバカ女共に鬱憤を晴らす」
「………えっとぉ。一夏はともかく、和哉はちょっと……」
俺の理由にシャルルは若干呆れ気味。
「おまけにあの連中は未だに俺が鈴やセシリアをマグレで倒したと勘違いしてるから、体に叩き込ませてやる」
「………お前と当たった対戦相手に俺は同情すべきか、自業自得と言うべきか……はぁっ」
哀れみと呆れが混じった台詞を言う一夏に、俺は気にせずモニターを見ていると、さっきまで観客席が映っていた画面が切り替わった。
「あ、対戦相手が決まったみたい」
画面が変わった事にシャルルも気付き、一夏も食い入る様に見つめると、
「「――え?」」
「ほう、これはこれは」
出てきた文字を見て、一夏とシャルルは同時にぽかんとした声をあげ、俺は少し驚きながら声を上げた。
一回戦で俺・ボーデヴィッヒペアと戦う相手は、目の前にいる一夏とシャルルだったからだ。
◇
「…………………ふんっ」
「…………………………」
此処は和哉達が使っているのとは反対の更衣室。人口密度が高い中、そこには気に食わなさそうに見るラウラ・ボーデヴィッヒと、驚愕して言葉を失っている篠ノ之箒がいる。
(和哉がラウラとペアだと? 一体どう言う事だ? ラウラ自身も文句ありそうな感じだが……)
箒は一先ず落ち着こうとまぶたを閉じて、必死に考えようとする。
ペア参加変更が決まった日、和哉に『ペアになってくれ』と誘われたが、和哉の足手纏いになってしまうと言う理由があったので辞退した。自分としては組みたい相手は一夏と決めていたから、どう言って一夏を誘うかと考えていた。
そしてペアを組んでくれと頼むために部屋を訪れるが、当の本人から「もうシャルルと組んじまったぞ」という返事をされてあっさりと撃沈。
こうなったら和哉と組もうかとヤケになっていたが、和哉からの誘いを断った手前上、それを実行する事が出来なかった。一度言った事を取り消してお願いするなど、箒の武士道精神が許せないから、どうしたものかと考えている内に締め切り当日になってしまい、ペアが抽選で決まってしまった。
因みに箒が組むペアは余所のクラスの女子であった。だがそのペアは和哉を嫌っている女子の一人だから、もし和哉と戦う事になったら敗北は決まったと結論する。
(本当は優勝したかったが……。だがどの道、和哉が出場する以上それは望めない。ならばこの際、今の私が和哉とどこまで戦えるかを試すとしよう)
こんな事なら確実に優勝する為に和哉と組めば良かったと後悔するが、仮に優勝した所であの朴念仁と呼ばれる一夏が本当に付き合ってくれるかどうかも怪しいと冷静になって考え始める。