インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~ 作:さすらいの旅人
ラウラ・ボーデヴィッヒが悲鳴をあげる少し前。
先程まで必死に和哉の『睨み殺し』から解放しようと抵抗していたラウラだったが、目の前の光景を見て呆然とするばかりだった。
(何だ……あの男の戦い方は……?)
軍人であるラウラから見て、和哉の戦い方は型破り同然と言っても良かった。しかしそれは軍人に限った話しでなく、全IS操縦者・関係者から見ても異質とも言える。
(何の兵器も使わずに……あんな、あんな事が……!)
ラウラが和哉の戦いを見て一番に驚いていたのは、和哉が『飛燕脚』を使ってシャルルを吹っ飛ばした事だ。
訓練機の打鉄には衝撃砲などの兵器は一切搭載されていないにも拘らず、それを自らの身体能力だけでやらかした和哉にラウラは言葉を失うばかりであった。
そんな中、和哉が一夏を腕を掴んでジャイアントスイングをしてシャルル目掛けて投げ飛ばした後に、
『すぅぅぅぅ~~~……宮本流奥義……『
ドドドドドドドッ!!
『あああっ!』
『しゃ、シャルルっ!』
(ば、馬鹿げてるにも程がある……! 一体どうやればあんな事が出来ると言うんだ……!)
『乱撃』を使って一夏とシャルルを確実に追い詰めてる和哉に、ラウラは和哉を異質な存在と認識していた。
(まさか……教官が神代和哉を認めているとは……あそこまで強いからなのか……?)
圧勝気味の和哉にラウラはある事を思い出す。
それは以前、千冬が神代を認めていると発言した時のこと。あの時のラウラはまだ和哉を大して強いと認識はしていなかったのだが、トーナメント前の模擬戦、そして今の戦いを見て覆った。それと同時に千冬の発言を思い出し、和哉を見ながら沸々とある感情が芽生え始める。
(織斑一夏だけでなく……神代和哉までもが教官を……)
千冬に優しい表情をさせる一夏には怒りを表していたが、目の前にいる和哉には嫉妬と言う感情が芽生えた。それは言うまでもなく、千冬が和哉を認めたと言う事だ。自分が必死に千冬に認めてもらいたかったのに、それを和哉が横から掻っ攫うかのように千冬を認めさせた事をラウラは許せなかった。
(アレほどの力があるから……教官は私より奴を認めたのか……! 許さん……許さんぞ神代和哉!)
嫉妬の感情が溢れんばかりに和哉を睨むラウラ。だがあくまで睨むだけであって、和哉の『睨み殺し』が未だに効いていて体が動けなかった。
(力が、力が欲しい! アイツを……神代和哉を倒す力を!!)
必死に抵抗しながら力が欲しいと願っているラウラに、
『――願うか……? 汝、力を欲するか……?』
突然頭の中から何かが呟くのを聞こえた。
それを聞いた事にラウラは何の疑問も抱かずにこう答える。
(言うまでもない。力があるのなら、奴を倒す力を得られるのなら、私の全てをくれてやる! だから、力を……比類なき最強を、唯一無二の絶対を――神代和哉を倒す力を私によこせ!!)
◇
「お、おい和哉……ラウラに一体何が……?」
「知るか。んなもんコッチが聞きたい位だ」
ボーデヴィッヒのシュヴァルツェア・レーゲンが激しい電撃が放たれた事に、一夏が俺に尋ねてくるが即座に知らんと返答する。
余りの急展開に俺や一夏も動きを止めて戸惑うばかりで、ボーデヴィッヒを見ながらも自身の目を疑った。何故なら視線の先では、ボーデヴィッヒが……奴のISが変形していた。
否。あれは変形とは言い難かった。ボーデヴィッヒのISの装甲がグニャリと溶けてドロドロになりながら、ボーデヴィッヒの全身を包み込んでいた。そしてそのまま装甲の泥がボーデヴィッヒを飲み込む。
「ISが……ボーデヴィッヒを取り込んでいるのか……?」
「なんだよ、あれは……」
俺と一夏は無意識にそう呟く。特に一夏の台詞は目の前の光景を見ていたであろう全ての人間がそう思う。
「おいシャルル! ISって言うのは、あんな変形が出来る物もあるのか?」
「そ、それはないよ。ISは原則として、変形……出来ない筈だよ」
訳が分からなくなった俺はオープン・チャンネルでシャルルに聞くが、彼女も分からないようだ。シャルルがああ言う返答をするって事は、恐らく国が独自に作ったシステムかもしれない。
そう結論すると、ボーデヴィッヒを包み込んだシュヴァルツェア・レーゲン
それが大地に辿り着いた直後、凄まじい速さで全身を変化、成形していく。
そして目の前に立っているのは、以前見た黒い
特に違うのは見た目だ。それはボーデヴィッヒのボディラインをそのまま表面化した少女の姿であって、必要最低限のアーマーが腕と脚に装着されている。頭部はフルフェイスの兜で覆われて、目の箇所にはラインアイ・センサーが赤い光を漏らしていた。
だがそれは俺にとってどうでも良かった。一番の問題はアレが手に持ってる武器だ。当然その武器に一夏も気付いており、物凄い形相で見ている。その武器は――
「《雪片》……!」
「まさか千冬さんの武器とはな……」
千冬さんがかつて振るった刀だったからだ。それも酷似していると言ってもいい。
「となるとアレは千冬さんのコピーみたいなものか」
「っ!」
俺の台詞に一夏は《雪片弐型》を握り締め、中段に構える。
「――!」
「! 下がれ一夏!」
刹那、黒いISが俺の懐に飛び込んだ。居合いに似た刀を中腰に引いて構え、間合いに入った直後に一閃を放つ。
ガギンッ!
「くっ! どう言うつもりだボーデヴィッヒっ! 俺は味方だぞ!」
「………………」
即座に刀を展開した俺は両手で持って防ぎながら、黒いISに向かって言うが返答は無かった。そして相手はそのまま俺に更に攻撃を仕掛ける。
「ちいっ!」
黒いISの攻撃に俺は一夏を巻き添えにしないように退くと、相手は逃さんと言わんばかりに追撃してくる。
「いい加減にしろボーデヴィッヒ! いくらなんでも度が過ぎてるぞ! これ以上ふざけた事をするなら、いくら俺でも黙っていないぞ!?」
「……………」
ガギンッ! ガガガガッ!
「こ、このっ……!」
問答無用で重い斬撃を仕掛ける黒いISに俺は苛立ちながら刀で防いでの防戦一方だったが、
「聞く気が無いなら……もう遠慮はせん!」
斬撃を避けた直後に刀を仕舞いながら懐に入り、
「『砕牙・零式』!!」
ズドンッ!
黒いISの頭部に『砕牙・零式』を喰らわせると、そのまま吹っ飛んでダアンッ! と、壁に激突して倒れた。
だが黒いISはまるでダメージを負っていないかのように、何の問題ないと言わんばかりに立ち上がる。
「アレ喰らって何とも無いとは……」
『砕牙・零式』をまともに喰らえばIS操縦者の意識を確実に奪うのだが、あの黒いISにはそれが全く見受けられない。
恐らくアレは操縦者の意思とは関係無しに動いているんだろう。敵を倒すまでは動き続ける、と言った感じで。
「面白い。千冬さんの劣化コピーとは言え、少しは楽しませてくれそうだな」
俺が劣化コピーと称すには勿論訳がある。
もしあれが現役時代の千冬さんの身体能力を完全にコピーしてたら、俺はもうとっくにやられていた。確かにアレの一撃はかなり重くて、千冬さんの動きとそっくりだ。しかし、それでも俺が問題なく防げるのだから、アレはあくまで千冬さんの戦闘データを参考にしたイミテーションに過ぎないと結論する。
もうついでに俺は千冬さんと何度も直接手合わせをして実力を肌で感じたから、あんなのが千冬さんの全盛期な訳がない。だから俺はアレを劣化コピーと呼ぶ。
けれど劣化コピーと言えども、千冬さんの戦い方を真似ていて、実力もそれなりにある事に変わりはない。
故に俺は今後千冬さんを倒すの為の練習台になってもらおうと、本気で相手をしようと決めた。それに向こうも何故か執拗に俺を狙っているから、相手せざるを得ない。
「来い。再起不能になるまで相手をしてやる」
そう言って俺は左手から刀を展開して握り締めると同時に右拳もグッと握り、待ち構えるように構えた。
黒いISも俺に呼応するかのように再び居合いの構えを取った後、そのまま突進して攻撃をしようとする。
そして俺も負けじと黒いISに突進しようとするが、
「この野郎ぉぉぉ!! 千冬姉の真似してんじゃねぇぇ~!!」
「なっ!?」
突然横から一夏が黒いISに攻撃を仕掛けようとしていた。その事に俺は即座に動きを止めて、黒いISもターゲットを一夏に変えて迎撃しようとする。
「――!」
「ぐうっ!」
一夏の攻撃も空しく、黒いISはあっと言う間に《雪片弐型》を弾いた。そして相手はそのまま上段の構えと移って、一夏に止めを差そうとする。
ガギンッ!
「やらせるかよっ!」
一夏を守る為に俺はすぐ割って入って、黒いISの斬撃を両手持ちにした刀で防ぐ。縦一直線の斬撃は中々重い一撃だが、さっきと同様に防げないと言うほどではない。因みに今は鍔迫り合い状態だ。
そう思っていると一夏はいつの間にか後方退避していたようだ。恐らく受けきれないと思って緊急回避したんだろう。良い判断だ。
だが退いたと同時に白式が、光と共に一夏の全身から消えてしまっていた。
「んなっ! 白式がっ!」
(そうか。一夏はさっきまで零落白夜を展開してたから、一気にシールドエネルギーが無くなったのか。なら尚更、一夏にはシャルルを連れて避難してもらわなければ……)
黒いISの攻撃を防ぎながら俺はそう考えた。そりゃそうだろう。さっきまで俺と間合いを詰めている以外にも、ボーデヴィッヒのISが変形するまで零落白夜を展開していたんだから。アレは展開してるだけでもシールドエネルギーを消費するから、白式が消えてしまうのは無理もない。
「一夏っ! 白式が使えない以上、コイツは俺に任せて、お前はすぐにシャルルを連れて避難しろ!」
「………がどうした……」
「は?」
「それがどうしたああっ!」
「ちょっ! 何考えてんだお前!?」
何とあろう事か、一夏はISがない状態で握り締めた拳だけで黒いISへと駆けて行った。まるで激情に任せて突撃していくかのように。
「ちっ! あのバカっ……!」
ISを纏っていない状態でコイツに立ち向かっていくなど自殺行為も同然だ。
早まった行動を取る一夏をすぐ止めさせる為、俺は真下に重心をかける黒いISを誘導するかのように体全体を左向きに回転しながら攻撃をいなすと同時に、そのままジャンプして黒いISの顔面に空中回し蹴りを食らわす。
そして相手が怯んだ隙に俺は、
「『
空中で静止したまま『飛燕脚』を両脚で使って二発直撃させると、黒いISは再び吹っ飛んでいった。
因みに『飛燕双脚』と言うのは、片足で『飛燕脚』を使った直後に、もう片方の足で『飛燕脚』を更に当てる派生技の一つだ。
黒いISが吹っ飛んだのを見た俺は、すぐに刀を仕舞って走っている一夏の所へ行って引き止める。
「バカかお前は!? 俺はシャルルを連れて避難しろと言った筈だぞ! 死ぬ気か!?」
「離せ和哉! あいつ、ふざけやがって! ぶっ飛ばしてやる!」
「人の話しを聞けコラ!」
俺が怒鳴っても一夏は聞く耳持たずで、俺から逃れようと必死に暴れている。
一体コイツに何があったんだ? 何故俺の指示を無視してまで、あの黒いISに立ち向かおうとしている?
「どけよ、和哉! 邪魔をするならお前も――」
「っ! いい加減にしろ! このど阿呆!」
一夏の発言に思わず頭に来た俺は右腕に纏っているISを解除し、バキッ! と一夏の頬を加減して殴るが、それでも軽く飛んでしまって横向きに倒れた。
俺が殴って倒れた事により、一夏はさっきまでの怒りが折れたかのように、やっと大人しくなってくれた。
「ったく、お前と来たら……。何がそこまでお前をそうさせる? ひょっとしてあれか? 千冬さんの姿を真似ている黒いISがそんなに気に入らないのか?」
「違う。あいつ……あれは、千冬姉のデータだ。それは千冬姉のものだ。千冬姉だけのものなんだよ。それを……くそっ!」
どうやら一夏は姿形より千冬さんのデータを利用してる事が気に入らなかったようだ。
それと俺によって吹っ飛ばされた黒いISは既に立ち上がっていたが、その位置から微動だにしなかった。恐らく武器か攻撃に反応して行動する自動プログラムみたいな物だろう。刀を仕舞った事によって俺を敵と認識せず、一夏の拳も攻撃と見なされなかったかもしれない。
だがそれでも俺は黒いISを警戒しつつ、一夏にある事を言う事にした。
「一夏、お前……大バカにも程があるぞ」
「何だと!?」
俺の発言に一夏がコッチを睨む。
「強くなる為に憧れている人の戦いを参考にして戦うのは当然だろうが。にも拘らず千冬さん千冬さんって……ホントにお前は呆れるほどのシスコンバカだな」
「誰がシスコンバカだ!」
「けどまぁ、お前が怒る理由としてはそれだけじゃないような気がするんだが……他にもあるのか?」
「………………」
シスコンバカと指摘された事に怒鳴る一夏だったが、別の指摘をされた事に大人しくなった。
一夏はそのまま微動だにしない黒いISを睨みながらこう言う。
「確かに和哉の言うとおり他にもある。あんな、わけわかんねえ力に振り回されてるラウラも気にいらねえ。ISとラウラ、どっちも一発ぶっ叩いてやらねえと気がすまねえ」
「ほう?」
一夏が言った理由に俺は少し感心気味に声を上げる。
確かにボーデヴィッヒが使ってるあの力は、俺から見ても強いとは言えない。ただ単にIS任せだけの力で、操縦者自身の力ではない。
「とにかく、俺はあいつをぶん殴るぞ。そのためにはまず正気に戻してからだ。止めないでくれよ、和哉」
「……まぁお前の理由は分かった。けどな、今のお前に何が出来る? 白式のエネルギーが殆ど無い状態で、一体どうやって戦うつもりだ? 仮に生身で戦いに行った所で、アレに一瞬で殺されるのがオチだぞ」
「ぐっ……」
俺の問いと予測に言い返すことが出来ない一夏。ついでにあの黒いISも恐らくそれほどエネルギーが残っていない筈だ。さっきまで俺がアレに『砕牙・零式』と『飛燕双脚』を直撃させたから、シールドエネルギーがかなり減っている筈だ。あと1~2発叩き込めばアレも止まるだろう。
そう考えていると、突然サイレンが鳴り響き非常事態発令との放送が流れると同時に、状況の鎮圧とトーナメント中止宣言、そして避難勧告もされた。
「聞いただろ一夏? もうお前がやらなくても良いって事だ。ま、俺としては奴と決着を付けたいから続けさせてもらうが。だからお前は――」
「だから、無理に危ない場所へ飛び込む必要はない、か?」
「そう言う事だ。もしお前のISがまだ戦える状態だったら話は別だったが、な」
分かったら早く避難しろと付け加えた俺に一夏は、
「違うぜ和哉。全然違う。俺が『やらなきゃいけない』んじゃないんだよ。これは『俺がやりたいからやる』んだ」
「何だと?」
拒否しただけでなく、まだ続けようとしていた。
「和哉や他の誰かがとか、知るか。大体、ここで引いちまったらそれはもう俺じゃねえよ。織斑一夏じゃない」
「………だがな一夏。さっきも言ったが、ISが使えないままアレに挑んだところで殺されるだけだぞ。それとも、アレを倒す方法が何かあるのか? あったら教えてくれ」
「そ、それは……」
「その顔を見る限りだと無いようだな。戦う意思を見せるのは結構だが、もう少し自分が置かれてる状況を考えてから言え。此処に千冬さんがいたら馬鹿者と言われてるぞ」
「う……」
「ほれ、早くシャルルを連れて避難を――」
ガコンッ!
「――はい?」
一夏に避難を促してると、突然俺が纏ってる打鉄が妙な音を発したと同時に急に動けなくなってしまった。
さっきの音には聞き憶えがある。それはボーデヴィッヒと戦って止めを差そうとした際、右腕が急に動けなくなった時だ。その時も音がしてた。
しかも今度は腕だけじゃなく、IS全体から音がした。それはつまり……俺のISが動けなくなってしまったという事。こんな状況で止まるなんて……そりゃないだろう。
「…………なぁ和哉、今の音は……?」
「………はぁっ。どうやら俺のISがオーバーヒートして、動けなくなっちまった。シールドエネルギーはまだ残ってるんだけどな」
「………………」
呆れ混じった目で俺を見てくる一夏に俺は何とも言えない顔をする。
「……さて一夏、俺達は早くシャルルを連れて避難するぞ」
「和哉、お前……ちょっとかっこ悪いぞ?」
ほっとけ。俺だってまさかこうなるとは思ってなかったんだよ。
「はぁっ……仕方ない。この前シャルルが言ってた荒技をやってみるか」
「荒技?」
「ああ。俺のISのシールドエネルギーを白式に回すって言う荒技を、な」
中途半端な終わり方だと思いますが、どうかご了承下さい。