インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~   作:さすらいの旅人

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今回は和哉の試合を見たそれぞれの反応と言った話です。

それではどうぞ!


第56話

 対学年別トーナメントで全ての一回戦を終えた後、観戦していた各国の政府関係者達はある事を考えていた。

 

「ふむ……あの後に他の試合を見ると、どうも少しばかり物足りなく感じてしまいますな」

 

「確かに。試合に出ている彼女たちは決して弱くないのですが、あの彼と比べるとなるとどうも……」

 

「何しろ彼は二人の専用機相手に、訓練機の打鉄で圧倒していましたからね。最初は何かの冗談かと思いましたよ」

 

「その彼がまさかあそこまでやるとは……」

 

 政府関係者たちが言っている彼とは言うまでもなく、今回の学年別トーナメントで一番の注目の的となった神代和哉の事についてだ。

 

 和哉との試合を見ていた彼等は、目玉が飛び出ると言う位に驚愕して椅子からずり落ちていた。余りの展開に自分は夢でも見ているのではないかと、自ら頬を抓った者までもいた。それだけ和哉の戦いは信じられない物だったと言う事の証明なのである。和哉本人からすれば中途半端な戦いだったと言うだろうが、彼等から見れば壮絶な戦いと賞賛する。

 

「今回のダークホースは織斑一夏と思っていたんですが」

 

「意外とあっけなくやられていましたね」

 

「ブリュンヒルデの弟もドイツの代表候補生相手には奮闘していましたが、彼相手では荷が重すぎたようですな」

 

「どうやら我々は織斑一夏を意識しすぎたばかりに、彼と言う存在を見逃していましたね」

 

「確か日本の(ことわざ)では……目から鱗が落ちる、でしたね。いやはや、危うく逸材を見逃すところでした」

 

 彼等は和哉に対する評価は高かったが、逆に一夏に対する評価が下落気味になっていた。最初はブリュンヒルデの弟だから和哉と互角な戦いを繰り広げると思って見ていたが、和哉の猛攻に大した反撃も出来ずにやられていたから少々ガッカリしていた。ラウラが暴走を起こす直前までに反撃をしようとしていたが、結局それを見る事が出来なくなったので何とも言えないのだ。だから彼等の今のところの考えとしては、何としても神代和哉を我が国に引き入れようと画策しようとしている。表面上では和やかな会話をしつつも、頭の中では必死にどんな手を使っても勧誘しようと考えていた。

 

 もし、彼等の会話を一夏の姉である織斑千冬が聞いていたら、内心彼等に対して嫌悪感を抱いていただろう。最初は一夏ばかりしか注目していなく、和哉には大して歯牙にもかけていなくてモルモット程度としか見ていなかったと言うのに、それが今や手の平を返したかのような台詞ばかりつらつらと述べているからだ。尤も、それは千冬だけじゃなく和哉も同様に考えるだろう。二人から見れば、我先にと利益を得ようとするハイエナの様に見えるのだから。

 

 だがしかし、この場にいる全員が和哉を賞賛しているとは限らなかった。

 

「………ふんっ。運良くISに乗れた男のどこが良いのやら」

 

「これだから男は……」

 

 政府関係者の彼らが和哉に対して殆どが賞賛している中、そうでもいない者が少数ながらもいる。それは政府関係者の女性高官達。彼女達は和哉を賞賛している彼等に侮蔑の眼差しを送っていた。

 

「織斑一夏はまだ良いとしても、アレの存在を認める訳にはいかないわ」

 

「もしあんなのが世界に進出したら、バカな男共が変に調子に乗るのは確実」

 

「アレが何かをする前に早急に手を打たなければいけないわね」

 

 和哉をアレ呼ばわりする理由は言うまでもないと思うが、彼女達は女尊男卑主義の高官だ。高官の中には女性権利団体の幹部も混じっている。

 

 女性権利団体は以前まで女性の立場や人権を主張する一団だったが、女性しか使う事が出来ないISと言う兵器の誕生で女尊男卑社会が出来てしまった事により、今や女性の立場と権利を好き勝手に振舞って男性を奴隷のように扱う私利私欲に塗れた傲慢な一団へと成り果ててしまった。例えば欲しい物をタダで手に入れる為に近くにいた見ず知らずの男性に買わせたりとか、勝手な言いがかりをつけて男性から慰謝料を請求した後に職を失わせる等々がある。

 

 普通に考えればそんな横暴な事をする一団は処罰されてもおかしくないのだが、女尊男卑社会となっている為に各国が女性優遇制度を作ったので、今は女性がどんな事をしても許される時代になっている。故にその政策によって、IS操縦者以外の女性達が権力者よりも性質が悪い傲慢な女性へと変貌した。とは言え、女性全てとは限らず、中には良識を持った女性もちゃんといる。

 

「しかし手を打つにしても、アレはIS学園にいるから今は手が出せないのが現状です」

 

「直接手が下せないなら、間接的にやるしかないですね」

 

「では私の方から団長に、アレが試合中に言ってた事を報告しておきましょう。そうすればアレは世界中から敵視されますから」

 

 穏やかに会話をしつつも悪質極まりない事をやろうとしている彼女達だが、ここまでやろうとするには理由がある。

 

 先程の女性高官の一人が和哉を認めないと言っていたが、実際は認めないではなく恐れているのだ。

 

 もし和哉がISを使って世界最強にでもなったら、下落していた男性の立場が一気に急上昇。更には他の男性でもISを使う事が出来ると言う事実が判明でもされれば、女尊男卑社会があっと言う間に崩されるだけでなく、ISの恩恵を利用して今まで好き勝手な事ばかりしていた女性達が叩き出されてしまう。そして今まで築いた地位と名誉も一緒に。

 

 要するに彼女達は、和哉が女性の立場を脅かす危険な存在になってしまうかもしれないから、早めに手を打って消そうと考えているのだ。

 

 人間と言うのは権力を持つと傲慢になってしまうと同時に、その既得権益にしがみつく為にどんな汚い手を使おうとする。今まさに彼女達の行動がその実例。清廉潔白な政治家が彼女達を見たら、実に醜い人間と思うだろう。

 

 しかし結局のところ、和哉を賞賛したり、消そうとする政府関係者全員に言える事は唯一つ。自分達の都合によって和哉を巻き込もうとしているのであった。

 

 

 

 

 

 

「よし、今は誰もいないな」

 

 いきなり場所は変わって、此処はアメリカの軍事基地の一つ。

 

 その拠点の中では一人の女性が何故かコソコソと移動しながら注意深く周囲を見ていた。

 

 彼女の名前はイーリス・コーリング。アメリカの代表操縦者であり、第三世代型IS『ファング・クエイク』を使用している。そしてこの基地の軍属者。

 

 そんな彼女が何であのような行動をしているのかと言うと、とある理由があるからだ。

 

「ナタルには悪いが、やっぱり私は日本に行かせてもらうぜ」

 

 そう言って女性は一刻も早く基地から出ようと突っ走ろうとするが、

 

「どこへ行くのかしら、イーリ?」

 

「げっ!」

 

 目の前に鮮やかな金髪の女性が立ち塞がった事によって出来なくなってしまった。

 

「な、な、何でナタルがいるんだ!? 確かお前、新型ISの確認で格納庫にいた筈じゃ……!?」

 

「イーリが妙に不審な行動を取っていたから少し気になってたのよ。案の定抜け出そうとしたみたいだけど」

 

「うっ!」

 

 イーリスは金髪の女性の台詞に痛い所を突かれたかのような顔になる。

 

 金髪の女性の名前はナターシャ・ファイルス。アメリカのテスト操縦者であり、イーリスと共に軍属している一人。

 

 この二人はとても仲が良く、イーリスはナターシャを「ナタル」と呼び、ナターシャはイーリスを『イーリ』と呼んでいる。

 

「全く。国家代表である貴女が脱走犯みたいな真似をして……そんなにIS学園にいる神代和哉って子と戦いたいのかしら?」

 

「しょ、しょうがねぇだろ! だってアイツ、あんなに強えんだぜ! ナタルも見ただろ? アイツが専用機相手に圧倒してたところを!」

 

「そうね。貴女が彼と戦いたい気持ちはよく分かるわよ」

 

「だろ!? それにアイツが使ってた『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』みたいな事を生身でやっただけじゃなく、えっと確か………ヒエンキャクとかランゲキか? あんなスゲェのを見せられて私の血が滾らない訳が無いだろう! あとアイツはこうも言ってたろ! 『世界最強になる』って! あんな挑戦状をぶつけられて黙ってられねぇぜ!」

 

「………はあっ」 

 

 捲し立てるイーリスにナターシャは溜息を吐く。

 

 何故この二人がIS学園で開催されていた学年別トーナメントを知っているのかと言うと、上司から録画された男性IS操縦者の試合を見るようにとの命令があったからだ。最初ナターシャは興味津々であったが、イーリスは余り興味が無かった。イーリスにしてみれば操縦者が男性であろうとも、まだ未熟な学生である事に変わりはないと思っていた。それでも上司からの命令なので仕方なく見る事にして、一夏とラウラの戦いでは『筋はいいが、まだまだだな』と評価を下す。だが和哉がシャルロットに『砕牙・零式』を食らわせるのを見た瞬間、食い入る様にモニターに集中した。そこからは和哉が一夏とシャルロットを圧倒し、更には『疾足』・『飛燕脚』・『乱撃』・『破撃』などの技を使っているのを見てイーリスは武者震いをしながら騒いでいた。その時はナターシャによって宥められていたが、極め付けには和哉が『各国IS操縦者代表全てを打ち倒し、俺は本当の意味での世界最強になる!』と宣言した直後にイーリスは最高潮に燃え上がった。

 

 そして試合を見終えたイーリスは『IS学園に言って神代和哉と戦いに行く!』と言う始末。彼女の行動にナターシャだけでなく上司も呆れたが、そうはさせまいと何とか踏み止まらせた。

 

 しかし今の様に隙を見計らって基地から脱走して日本に行こうとする事が何度もあったので、ナターシャがこうしてイーリスが勝手な行動をしないように目を光らせているという訳である。

 

「頼むナタル! 一生に一度のお願いだ! このまま私を日本に行かせてくれ!」

 

「ダメよ。今回『あの子』の試験稼動には貴女も一緒に行くことが決まってるんだから。彼と試合をする機会はその内あると思うから今は諦めなさい。さ、早くハワイ沖に行く準備をするわよ」

 

「そんなぁ~!」

 

 結局ナターシャに止められて日本に行くことが出来なくなったイーリスであった。

 

 

 

 

 

 

「あ、そういえばさぁちーちゃん、私からもちょっと聞きたいことがあるんだけどさぁ」

 

「何だ? お前がそんな事を言うとは珍しいな」

 

 またいきなり場所が変わって、此処はとある天才の秘密ラボ。

 

 奇妙な部屋の至る所には機械の備品やケーブルがあり、その上を歩いている機械仕掛けのリスがいた。そしてこの部屋の主――箒の実姉であり、ISを開発した天才博士の篠ノ之(しののの)(たばね)もいる。

 

 篠ノ之束の外見を一言で表すならば、『不思議の国のアリス』のアリスだ。理由はブルーのワンピースにエプロンを纏って背中に大きなリボン、そして頭に白ウサギの耳型カチューシャをしているから。

 

 その彼女は現在幼馴染である織斑千冬と電話していて、先程までVTシステムについての話しを終えたので千冬が電話を切ろうとした際、突然束が千冬に尋ねようとしていた。

 

「あれはいったい何なのかな?」

 

「主語を言え。あれじゃ分からん」

 

「あ、ごめんごめん。あれっていうとねぇ~……え~っと、何て名前だったかな~? 確かいっくんと一緒にIS学園に入学した男子で――」

 

「……神代和哉のことか」

 

「そうそう、それそれ。いやーその男の子なんだけどさー」

 

 本当についさっき思い出したかのように言う束。これは冗談ではなく本当だ。何故なら彼女は興味対象である者しか名前を覚えておらず、それ以外は全く眼中に無いから。

 

 自分の生徒である和哉をあれ扱いする束の発言に千冬は内心不快に思っていたが、束がああ言う人間だと分かっていたので敢えて何も追求しなかった。

 

「なんなのあれ? この前のリーグマッチの時なんか箒ちゃんに偉そうに説教しちゃってさー。私思わず消しちゃおうかなーって思ってたんだよね」

 

「……あの件については篠ノ之の判断ミスだ。私が神代の立場なら同じ事をしている」

 

 あとそれと、と千冬は付け加えて、

 

「扉に電流を流したのはお前の仕業だな?」

 

「ああ、あれね。箒ちゃんの邪魔をしないように仕掛けたつもりだったんだけど、まさかぶち破るとは流石の束さんも予想外だったよ」

 

 電流について尋ねると束はアッサリと白状した。

 

 その事に千冬は思わず怒鳴ろうとしたが、そんな事をしても無駄であると落ち着かせながら更に追求しようとする。

 

「ならば今回の学年別トーナメントで、神代が使っていたISを停止させたのもお前か?」

 

「いいや、あれは私じゃないよ。でも私としてもあれがいっくんの見せ場を邪魔しようとしてたから本当は停止させるつもりだったけど、打鉄自体があれに付いていけなくてオーバーヒートしちゃったよ。言っとくけど嘘じゃないよ。ちーちゃんに嘘を吐く理由はないからね」

 

「……そうか」

 

 束が大抵自分に嘘を吐くことがないのは分かっていたので、千冬は彼女の言ってる事は本当だと結論した。

 

「でもまぁー、あれがあんなにやれるなんて思いもしなかったよ。正直言ってあれはちょっとウザいね。この先、いっくんや箒ちゃんの邪魔をするんだったら消そうかと思ってるんだけどー」

 

「止めておくんだな。そんな事をしたら、いくら私でも黙ってはいないぞ」

 

「うわっ。ちーちゃんマジ声? 私ちょっとこわーい」

 

「それともう一つ言っておく。神代はお前が思っているほど柔じゃない。奴を甘く見てると手痛いしっぺがえしを食うことになる。それだけは覚えておけ」

 

「ちょっとちーちゃん、もしかして私を舐めてない? この天才博士の束さんがあれにやられると思ってる? だとしたら心外だなー」

 

「好きに受け取れ。もう聞く事が無いなら切らせてもらう。じゃあな」

 

 千冬がそう言った直後にプツッと電話が切れた。名残惜しそうに携帯電話を眺めている束だったが、二秒後にはケロッとしてそれを放り出した。

 

「う~ん、まさかちーちゃんにあんな事を言われるなんてねぇ。ちーちゃんがあそこまで言うって事は、神代和哉って子に相当入れ込んでるのかな?」

 

 束の独り言に千冬が聞いてたら速攻で『断じて違う!』と否定しているだろう。

 

 だが束にとっては千冬があそこまで和哉を評価している事に凄く気になっていた。小学生時代から千冬の事を理解している束からすれば当然だ。気にならない訳がない。

 

 故に、

 

「久しぶりにちーちゃん達に会いに行くついでに見ておこーか」

 

 物のついでとして会おうと決めたのであった。




各国政府関係者、アメリカ代表のイーリス、そして篠ノ之束の反応でした。
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