インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~   作:さすらいの旅人

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第58話

「ったく。箒のせいで朝食の時間が遅くなってしまった」

 

「……す、すまん」

 

 少し時間が経ち、場所は変わり一年寮食堂。俺が部屋でシャワーを浴びた後に箒が来ていて、何故かラウラと騒いでいて落ち着かせるのに少々時間がかかった。それにより俺と一夏は、少々遅めの朝食を取っている。

 

 席については俺の正面はラウラで、隣には箒。更に箒の正面には一夏が座っている。

 

 ついでにメニューは一夏と箒が和食で、ラウラは洋食。俺は中華でヘルシー野菜チャーハンとワカメスープ。一夏に『朝からよくそんなヘビーな物が食べられるなぁ』と突っ込まれた。そんな一夏からの突っ込みに大して気にしないで食べている最中、一夏は箒とラウラが食べてる料理を見ていた。

 

「ん、欲しいのか?」

 

 一夏の視線に気付いたラウラが自分の口にパンを持って、そのまま一夏に……あ、一夏が驚いた。

 

「ん……。どうした、かじっていいぞ?」

 

「ラウラ、お前のその行動は少々問題だぞ」

 

「? どういう事だ師匠?」

 

 俺の言ってる事が全く分かっていないラウラに、

 

「か、和哉の言うとおりだ! 一夏にそんな食べ方出来るか!それじゃまるっきりキス――」

 

 頷きながら言葉を途中で切って箒がガンッとテーブルを叩いた。箒さん、最後まで言えないからってテーブルを叩いちゃいかんぞ。周りが見てるだろうが。

 

「落ち着け箒。いきなり怒鳴るな」

 

「全くだ。食事のときくらい落ち着いたらどうだ……?」

 

 俺が箒を宥めようとするが、ラウラが余計な事を言った所為で箒の顔がひくひくと口元が引きつり、そりゃもう怖い笑顔となっていた。

 

「ラウラ、お前は少し口を閉じて――」

 

「ふむ。……嫉妬か?」

 

「なっ!?」

 

「自分ができないものだから、羨ましいと」

 

「――俺の話を聞けよ」

 

 再び余計な事を言うラウラに箒が意地を張ろうとする。

 

「だ、だ、だれができないものか! わ、私だって――」

 

「止めんか」

 

 そう言って俺は味噌汁が入ってるお椀に手を伸ばそうとする箒を阻止する為に、箒の額にバチンッと左手でデコピンを喰らわせた。

 

「~~~~!!」

 

「うわっ……」

 

「流石は師匠。アレだけで決めるとは……」

 

 俺のデコピンを喰らって悶えてる箒に、一夏は何故か自分の額を押さえ、ラウラは賞賛していた。

 

「か、和哉!? いきなり何を――」

 

「箒。これ以上騒ぎ立てるんだったら、今夜のデザートであるアップルパイを無しにするぞ?」

 

「……………す、すまなかった」

 

 俺のちょっとした(一年一組専用の)脅しをすると箒は大人しくなって席についた。

 

 当然、この脅しをするだけで一夏(とついでにラウラ)を除く一組生徒全員に有効な手段だ。

 

「ほう。師匠はアップルパイを作れるのか。私も一度食べて――」

 

「あとお前もコレだ」

 

 感心しながら言ってるラウラに俺は箒に続いて、ラウラの額にもバチンッとデコピンを喰らわせた。

 

「~~~~!! し、師匠! 何故私まで……!」

 

「箒に挑発染みた事を言うお前も悪い」

 

 額を押さえながら若干涙目で俺を睨むラウラだったが無視させてもらう。

 

 因みに俺は何度もラウラに師匠と呼ぶのは止めろといっているんだが、本人は敬う相手に師匠と呼ぶのは当然だと断固として呼び方を変えようとしないので、俺はもう諦める事にしている。

 

「し、しかし一夏がおしとやかな女性が好きだと言ってたので、私はこいつにそれを教えようとしただけで……」

 

「!」

 

 ラウラが言い訳に箒が反応したので俺がチラッと見ると、静かな表情でパクパクと朝食を食べ始めた。

 

 あのなぁ箒。“おしとやか”を意識しているんだろうが、今更摘まむご飯の量を少なめにしてもそれはどうかと思うんだが。

 

 そう呆れながら見てる俺だったが、箒がこうして大人しくなるだけで理想的な和風美人になるんだよなぁと何度も思った。もし箒に嫉妬深さと怒りっぽさが解消され、心に余裕を持つ事が出来たら間違いなく一夏は箒に惚れると俺は確信を持って言える。しかし哀しい事に、俺がさり気なく箒に助言しても他の一夏ラヴァーズが一夏にアプローチして怒らせてしまうと言うのが現状だった。あ~あ、一体どうすれば良いのやら。

 

「わああっ! ち、遅刻っ……遅刻するっ……!」

 

 箒の事を考えてる最中に突然珍しい声が聞こえた。

 

 その声の主は何とシャルロットで、凄く慌てている状態で食堂へ駆け込み、一番近くに置いてあった余っている定食を手に取っていた。

 

 そんなシャルロットに一夏も意外そうに見ながらも、手招きしてコッチに呼び寄せようとしている。

 

「よ、シャルロット」

 

「珍しいな。お前がそんなに慌てているとは」

 

「あっ、一夏と和哉。お、おはよう」

 

 ん? 俺の気のせいか? シャルロットが妙に一夏を避けていると言うか警戒してると言うか距離を取っている。何か遭ったんだろうか。

 

「どうしたんだ? いつも時間にしっかりしてるシャルロットがこんなに遅いなんて」

 

「う、うん、ちょっと……」

 

「ひょっとして寝坊か?」

 

「そ、そうそう。ちょっと寝坊しちゃって」

 

 一夏の問いは答え辛そうに言ってたのに、俺の問いにはすぐに答えるシャルロット。この違いは一体何だ?

 

 そんな俺の考えを余所に、シャルロットの返答を聞いた一夏が珍しそうな顔をしている。

 

「へぇ、シャルロットでも寝坊なんてするんだな」

 

「う、うん、まあ、ね……。その……二度寝しちゃったから」

 

 二度寝、ねぇ。

 

 その理由が何となく気付いていると、何故か俺の隣に座っているシャルロットが忙しそうに定食を食べている。

 

「デュノア」

 

「う、うん? って和哉、別にファミリーネームで呼ばなくても良いよ。シャルロットで良いから」

 

 学園で女だと判明したから一応苗字で呼ぶ俺に、シャルロットは名前で呼ぶように言ってきた。

 

「そうか。じゃあシャルロット、ちょっと耳を貸してくれ」

 

「?」

 

 一夏達に聞こえないようにシャルロットの耳元に手で覆い、

 

「(一夏とラブラブな夢でも見てて遅れたのか?)」

 

「!!!」

 

 適当にカマをかけた瞬間、シャルロットは茹蛸のように顔が真っ赤になった。分かりやすい奴だ。

 

「き、き、き、君は……な、な、何を言ってるのかな和哉! い、いくら僕でも怒るよ!?」

 

「………そんな顔で言われてもなぁ」

 

 必死に否定して俺に抗議するシャルルだったが、顔を見るだけで肯定してるも同然の反応だ。ホントに一夏はモテるなぁ。

 

「? 和哉。シャルロットに一体何を耳打ちしたんだ?」

 

「それはむぐっ!」

 

「いいい一夏は別に聞かなくて良いから!」

 

 俺が言おうとする直前、シャルロットが手でシュバッと俺の口を塞いだ。

 

「す、凄いなシャルロット。あの和哉を一瞬で……」

 

 シャルロットの不可解な行動を疑問を抱く前に、俺の口をあっと言う間に塞いだ事に感心してる一夏。ってか俺も少し驚いた。

 

「(和哉、一夏に言ったらどうなるか分かってるよね?)」

 

「………………」

 

 怖い笑みで(ささや)くシャルロットに俺は従うしか出来なかったので、首を縦に振ると離してくれた。

 

 やはりシャルロットは意外と怖い一面を持っているな。特に一夏の恋愛に関して。コイツをからかう時には相応の覚悟が必要かもしれない。

 

「だ、大丈夫か和哉?」

 

「問題無い。ところで一夏、お前シャルロットが来た時からジッと何か気になるように見ていたみたいだが?」

 

「え? い、一夏? も、もしかして僕、寝癖でもついてる?」

 

 すぐに寝癖が無いかと確認するようにシャルロットが髪を整えようとすると、

 

「いや、ないぞ。ただ、シャルロットは先月まで男子の服装だったから、改めて女子の格好をしているのを見て新鮮だなぁ、って思ってな」

 

「し、新鮮?」

 

「おう。可愛いと思うぞ」

 

 思った事を言う一夏に再び顔を赤くした。さっきとは違う意味で。

 

 良かったなシャルロット。一夏に可愛いって言われて。

 

「……と、とか言って、夢じゃ男子の服着せたくせに……」

 

 ほほ~う。夢の中の一夏とは、そう言うシチュエーションだったのか。

 

「ん? 夢?」

 

「な、なんでもないっ。なんでもないよっ!?」

 

 一夏は俺と違ってシャルロットの呟きが聞こえていなかったようだ。そんな一夏にシャルロットは手を突き出してブンブンと振って、再び朝食に手を戻した。

 

 と、その時、

 

「いてえっ!」

 

 いきなり一夏が悲鳴をあげたので振り向くと、箒が一夏の足にかかと落としを喰らわせ、ラウラが一夏の頬を抓っていた。

 

「コラコラ二人とも、何をやってる」

 

「おしとやかな女がいいと言った一夏が軽薄なことをつい、な」

 

「私の嫁が少々頂けないことをしたからだ」

 

「………あ、そう」

 

 要するに嫉妬か。

 

(ほれ一夏、ここで二人を褒めないと暫く不機嫌になるぞ?)

 

(え、えーと……)

 

 目で教える俺に、一夏はすぐに考え始めた。

 

 そして、

 

「ふたりともおとなしいと美人だな」

 

 アホと言わんばかりの褒め方をする一夏に、箒とラウラは揃って一夏の足を思いっきり踏んだ。

 

「「一緒にするな」」

 

 わあ怖い。二人とも一夏を超睨んでるよ。今のは一夏が悪いからフォロー出来ないな。

 

 さてと、コントをしている一夏達には悪いが俺はもう教室に行くとするか。

 

 キーンコーンカーンコーン。

 

 あらら、さり気なく一夏達に気付かれないように食堂に出ようとした直後に予鈴が……って、俺だけじゃなく、いつのまにか箒とラウラとシャルロットもいるし。

 

「うわあっ! い、今の予鈴だぞ、急げ!」

 

 一夏だけはまだ席に着いたままで、慌てて立ち上がって漸く俺達がいない事に気付いた。

 

 そんな一夏に俺達は気にせずに食堂から出ようとする。

 

「お、おいお前ら置いていくな! 今日は確か千冬姉――じゃなくて、織斑先生のSHRだぞ!」

 

 それは『遅刻=死』。一年一組の中で出来た恐ろしい式だ。

 

「悪いな一夏。俺はまだ死にたくないんでね」

 

「私も和哉と同じだ」

 

「二人に同じく」

 

「ごめんね、一夏」

 

「薄情者ぉ~!」

 

 俺、箒、ラウラ、シャルロットの台詞に一夏が叫びながら追いかけて来た。

 

 それじゃあ俺は、

 

「そんじゃ皆さん、お先に」

 

 フッ!

 

『んなっ! 汚いぞ和哉!』

 

『師匠! 弟子の私を見捨てるのか!?』

 

『和哉! ソレを使うなら前みたいに僕を運んで欲しかったよ!』

 

『和哉テメェ! お前だけは俺を見捨てないと信じてたのに!』

 

 高速移動法である『疾足』を使った俺に、後ろから俺に文句を言って来る箒たちだったが無視させて頂く。

 

「おはよう」

 

「あ、かずーおはよう」

 

『うわっ!』

 

 教室に着いて突然現れた俺に、本音を除く一組の生徒全員が驚いた声を出した。

 

「かずー珍しいねー。いつもはやく来てるのにー」

 

「ちょっと訳あってな」

 

 本音と軽く話しながら席に着くと、

 

「到着っ!」

 

 ISの脚のスラスターと背部推進ウイングだけを部分展開したシャルルと、シャルルに手を握られている一夏が教室に入ったが、

 

「おう、ご苦労なことだ」

 

 残念な事に、もう既に千冬さんが教室にいたから二人は遅刻となってしまった。

 

 あ~らら、二人して顔が青褪めちゃってるよ。

 

 そんな二人に千冬さんはIS学園が出来た理由を述べながら、いつもながらいい音がする出席簿アタックを喰らわせた。

 

「デュノア、敷地内でも許可されていないIS展開は禁止されている。意味はわかるな?」

 

「は、はい……。すみませんでした……」

 

 千冬さんからの説教にションボリと謝っているシャルロット。同時にシャルロットの行動に誰もが唖然としていた。

 

 優等生のシャルロットが規律違反をした事が衝撃的だから、そりゃ誰でもそうなる。

 

 あ。箒とラウラが一夏とシャルロットが怒られている後ろをすり抜けて着席してる。

 

「デュノアと織斑は放課後教室を掃除しておけ。二回目は反省文提出と特別教育室での生活をさせるのでそのつもりでな」

 

「「はい……」」

 

 一夏とシャルロットは揃って意気消沈しながら席に着いた。にしてもこの教室の掃除とは何気に酷い罰だな。此処は広いから、二人だけでは凄く時間が掛かる。

 

 それは流石に気の毒だから、見捨てた詫びとして後で千冬さんに内緒で俺も手伝うとしよう。

 

「言っておくが神代、二人の為に手伝おうだなんて考えるなよ? それでは意味が無いからな」

 

 ちっ、読まれてたか。流石は千冬さんだ。

 

 そう思っているとキーンコーンカーンコーンとチャイムが鳴って、SHRが始める。

 

「確か今日は通常授業の日だったな。IS学園生とはいえお前たちも扱いは高校生だ。赤点など取ってくれるなよ」

 

 IS学園と言うと、ISについての授業しかやらないと思うだろうが、ちゃんと一般教科もある。もし期末テストで赤点を取ってしまったら最後、夏休みは連日補習となってしまう。それだけは嫌だ。

 

「あとそれと、来週から始まる校外特別実習期間だが、全員忘れ物などするなよ」

 

「あ、織斑先生。持ち物についてですけど、俺の修行道具とか持って行っても良いですか?」

 

「持ち運びが可能なら構わん」

 

 俺の質問に問題なく答える千冬さんに、一夏達クラスメイトは俺を呆れたように見ていたが無視だ。修行は俺の日課の一つだからな。

 

「さて、校外特別実習期間は三日間だが学園を離れる事になる。自由時間では羽目を外し過ぎないように」

 

 千冬さんが言う校外実習とは臨海学校のことだ。三日間である初日は丸々自由時間であり、そこは海。言うまでも無く女子達がテンション上がりっぱなしだ。それも先週から。

 

 因みに俺は水着が無いので、今週末に千冬さんに付き合わされる買い物で買う予定だ。一夏に教えたら面倒な事になると思うから、敢えて黙っておく。

 

「ではSHRを終わる。お前ら、今日もしっかりと勉学に励むように」

 

「あの、織斑先生。山田先生がいないんですけど、今日はお休みですか?」

 

 クラスメイトである鷹月(たかつき)静寐(しずね)が尤もな質問をする。それは誰もが気になっていたから。

 

「山田先生は校外実習の現地視察に行っているので今日は不在だ。なので山田先生の仕事は私が今日一日代わりに担当する………本当は私が現地視察をしたかったが(ボソッ)」

 

 え? それってつまり、各国が俺に対するクレームを千冬さんが代わりにやるって事? うわぁ。山田先生ある意味ラッキーかも。

 

 そう考えながら笑みを浮かべてる俺に千冬さんが少しばかり俺を睨んでいたので、さり気なく謝る事にした。

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