インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~ 作:さすらいの旅人
「はぁ~、今日は織斑先生の奴隷かぁ~」
週末の日曜日で天気は快晴。
こう言った日は絶好の修行日和なんだが、千冬さんの買い物に付き合わされると言う罰を受けているので、俺は今千冬さんと一緒に街に繰り出している。
「誰が奴隷だ。人聞きの悪いことをいうな。元はといえば神代が私の許可無くラウラに個人情報を教えようとしたからだろうが」
俺の隣では我等一年一組の担任である織斑千冬先生が不機嫌そうにギロッと睨んで、反論しようがない正論を述べていた。
あの時は織斑先生に嵌められたとは言え、事実である事に変わりないからぐぅの音も出ない。
「まぁまぁ織斑先生。神代くんは別に悪気があって教えたわけじゃないんですから」
そして千冬さんの隣では、副担任である山田先生が千冬さんを宥めている。
さながら千冬さんは鞭で、山田先生が飴と言ったところだ。今の俺は山田先生がちょっとした女神に見える。
そんな山田先生の宥めが甲斐あって、千冬さんはある程度の不機嫌さが無くなっていく。
「……神代、次に同じ事をしたらこんな軽い罰じゃ済まないからな。肝に銘じておくように」
「イエス、マム!」
ゴンッ!
「あだっ!」
「誰が軍人形式の返事をしろといった」
俺の返事が御気に召さなかったのか、千冬さんは俺の頭にチョップを喰らわせた。しかも強めだったから少し痛い。
「イテテテ……。いやぁ、織斑先生からの厳命だと思ってつい……。取り敢えず今後は気を付けます」
「……ならいい。ああそれと――」
まだ何かあるのかと内心思いながら聞き逃さないようにしていた俺は、
「今は就業中ではないから、名前でいい。お前としてはそっちの方がいいだろう?」
「……了解、千冬さん」
一応名前で呼ぶ事にした。
「あ、神代くん。私も先生と呼ぶ必要はありませんから」
「では真耶さんと呼べばよろしいでしょうか?」
「え!? ま、真耶さんって……。だ、ダメですよ神代くん。私たちはまだお互いに名前で呼ぶほど親しい訳では……」
「…………………」
人に振っておきながら、この人は何でこう変な方向に飛躍するんだろう。俺は何かおかしな事を言ったんだろうか?
山田先生が顔を赤らめながら頬に手を当てて妄想してる事に呆れている俺は、一先ず千冬さんに訊く事にした。
「千冬さん、俺はこの人にどう言う返答をすれば良いんでしょうか?」
「放っておけ。行くぞ」
「へーい」
千冬さんの後に続く俺は、未だに妄想中の山田先生を置いて町へ行こうとした。
『って先輩と神代くん! 私を置いて行かないで下さ~い!』
置いて行かれた事に気付いた山田先生はすぐに後を追いかけた。
どうでも良い事だが、取り敢えず俺は山田先生と呼ぶ事にしたのは、また変な妄想をされない為であると付け加えておく。
☆
「千冬さん、荷物持ちされる前に俺の買い物を先に済ませて良いですか? 俺、今度の臨海学校での水着をまだ用意してませんので」
駅前のショッピングモール『レゾナンス』の二階に着いた俺は千冬さんにそう言って、許可を貰おうとした。
因みに此処は中学の頃に一夏や弾、そして鈴とも一緒に放課後に繰り出した事があるからよく知っている。
「ああ、構わん。というか、私たちも水着を買いに此処に来たからな」
「……え? それって……」
別に俺が荷物持ちする必要は無いのでは?
「ひょっとして俺と同じく水着だけを買いに来たんですか?」
「ああ」
「山田先生も?」
「え、ええ。まぁ……」
「………でしたら俺いらないでしょ!?」
「そうとも言えるな」
「あ、あはは……」
思わず突っ込みを入れる俺にあっけらかんと言う千冬さんに対し、申し訳無さそうな感じで苦笑する山田先生。。
「じゃあ何で俺を連れて行こうとしたんですか? 罰をやるなら他のにすれば良いんじゃ……?」
「そうでもしないとお前は私と一緒に行こうとはしないと思ってな」
「? 俺が千冬さんと一緒じゃないと何か不味いんですか?」
「別に不味くは無いんだが……」
「もしかして――」
俺は何か感づいたように訊きながら右腕を上げて、
「コレの心配をしてるんでしょうか?」
「あああっ!!」
背後からナイフで突き刺そうと襲い掛かって来る女の攻撃を避けながら、ナイフを持ってる右手首と肩を掴んで一本背負いをかました。同時にナイフは落ちて軽い金属音をたてる。
それを見た山田先生は驚いた顔をしており、千冬さんは驚かずに振り向く。
もうついでに周囲にいた人達が何の騒ぎかと思ってコッチを見ていた。
「何だ。やはり気付いていたか」
「そりゃもう。電車に乗ってる時から殺気が駄々漏れでしたし、一体いつになったら襲い掛かってくるのかと待ちくたびれてました。よっと」
「ぐふっ!」
俺はそう言いながら襲い掛かって来た女に鳩尾を突いて気絶させる。
「か、神代くん! い、いくらなんでもやりすぎですよ!」
「いや、人を殺そうとしてくるこの女の方がやり過ぎだと思いますよ。それにこう言う相手にはそれ相応の報いを受けさせるようにって俺の師匠も言ってましたし」
「だからと言って気絶させるのはどうかと思うぞ、神代」
「尋問するより身元を確認した方が手っ取り早いと思いまして」
呆れたように言う千冬さんに俺は女が所持していたバッグを持ち、千冬さんに渡そうとする。
「予想は付いてますけど、出来れば千冬さんの方で確認してもらえますか? 一応女のバッグですので、男の俺よりは良いかと」
「それもそうだな」
納得した千冬さんは女のバッグを開けて中身を確認すると、
「……やはりこの女は女性権利団体の一員だ」
思った通りの結果だった。
一先ず俺達は買い物をする前に、この女を警察に突き出す事にするのであった。。
◇
「くっ。失敗したか」
「どういうことなの!? あの男があそこまで強いなんて聞いてないわよ!」
和哉達から少し離れた所で野次馬たちと一緒に見ている黒髪と金髪の女性二人が舌打ちしながら悔しそうに見ていた。
もう気付いていると思われるだろうが、彼女たちは和哉にのされた女と同様に女性権利団体のメンバーである。
彼女たち三人は女性権利団体の幹部から連絡があって、神代和哉を暗殺しろとの指令が下っていた。普通は人を殺してしまえば殺人罪となってしまうが、彼女たちは女性権利団体であると同時に女性優遇制度もあるから、和哉に殺されそうになったから正当防衛だと主張すれば無罪になってあっと言う間に釈放される。
「一先ず此処から離れて報告しに行くわ」
「彼女を見捨てる気!?」
「落ち着きなさい。どうせ捕まってもすぐに釈放出来るわ」
彼女の言うとおり、女性権利団体から警察に圧力を掛ければすぐに揉み消して釈放する事が出来る。それだけの権力を持つ者が女性権利団体の中にいるからだ。
それを聞いてさっきまで騒いでいた金髪の女性は一通り落ち着いた表情をする。
「まだチャンスはあるわ。だから一先ず報告しなきゃ」
「そうは言っても、あの男を始末するのはそう簡単に行かないわよ。今回みたいに運良く外出を狙ったところで実行しても、あんな風にやられるのがオチよ?」
「それが無理なら別の手を使うまでよ。男なんて言う単純な醜い生き物を殺す方法なんか……いくらでもあるんだから」
「!」
冷たく凶器の笑みを浮かべる黒髪の女性に、寒気を感じる金髪の女性は彼女が過去に複数の男から酷い目にあわされた事を思い出していた。
今回はちょっとしたオリジナルでした。